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うちの隊長は少なくなった隊員に寂しく思っています

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 ぐっすりと寝た俺はしばらくの間ヴォーグの顔を見ていたが団長に目が覚めたら連絡を入れると約束をさせられていつものシーヴォラ隊の服に着替えて隊舎へと戻った。
 隊舎にはマリン、イリスティーナ、レーンとランダーが居た。
 俺が戻った事に喜んだ四人とその他大勢の部下に迎え入れられたがランダーの顔を見て思わず

「お前の一言が大変な事になったぞ」

 とりあえずあの場に居た二人とレーンとマリンに今朝がたの話しをすれば

「バックストロムの剣が神々しい枝毛って事になってるぞ。
 お前どうするつもりだ……」

 腹を抱えて笑うイリスティーナとマリンだったがさすがに耐えて見せたレーンと想像外の展開に逃げ出そうとするランダーを捕まえて留守の間の話しを聞きながらこの四人にヴォーグの事を伝えておいた。
 本名とか公表こそされてないけどヴェナブルズ公爵家の現当主だとかバックストロムの剣とか、簡単に幼少期の事とか。
 団長との仲の悪さや国王への暴言、そして彼が生まれながら持つ称号の地位など改めて五人でヴォーグの事を考えて

「騎士団から追放……なんてありませんよね?」

 色々とやらかしてきた覚えのあるランダーは音を立てて息を呑み込むも

「ヴォーグの人となりじゃ死ぬまで使い続ける方だと思う。
 その結果があの冒険者達じゃないのか?」

 唸りながらレーンが想像するも俺もそちらに一票入れたい物の

「だけど今回裏で魔物の氾濫が準備されていたらしいんだが、そのほとんどをヴォーグが撃退して来たって話もあったぐらいだから、俺達はお役御免って言う方向性じゃないか?」
「何言ってるんですか?
 隊長はヴォーグの奥さんの座に返り咲くに決まってるでしょ?
 隊長の付属ではなく隊長が付属になる番でしょ?」

 イリスティーナは永久就職ですねと言う物の、果してヴォーグの奴が結婚どうこうの選択をするのかと、四人には多くは語らなかったヴォーグの過去に家庭を持つという選択ができるのかと考えてしまう。
 それに聞いた話の所までは家族仲は良かったが、その後は家出をするほど仲たがいをした話を聞いてない事を思い出す物の、今更また団長が話をしてくれるのかと思うもしてくれそうもないし、当人に聞きだすには残酷すぎる話だ。
 黙り込んでしまった俺に周囲は視線で何があったと視線を彷徨わせるが

「所でシーヴォラ隊の隊舎の被害状況の報告に入ります」

 マリンが沈黙に陥った場を壊すように報告を始めた。
 ありがたい事に隊舎は城から遠い場所の為にほぼ被害はなかった。
 ラグナーの指示で薬や備品を多く囲い込んだおかげでアレクが万全の態勢で魔物の討伐に出かけている事にほっとする事も出来た。
 どの隊も不十分な装備のまま出かける事になって被害は次々に上がっているという。
 当然城内の破壊された部分の多さや玉座の間近辺は当分使い物にならない事が判明した。
 
「玉座の間ではうちの隊もかなり被害が出たからな……」

 マリンがすぐにリストアップされた物を見せてくれたが総勢一六名の犠牲者、更に脱出時の落下物による死者も含めて二四名にも上る数字に黙とうをささげるように目を瞑る。

「その上怪我人による戦闘不能状態の隊員も同等の数字ほどいて、隊の半数しか動ける奴はいませんが、それはどの隊も似たような物です。
 寧ろ他隊の方が多い位です」

 よくよく隣室を見れば閑散としていて、文官までも狩り出されているという状況に今もう一度魔族が出たらどうするのだと不安は尽きない。

「とりあえずアレク達が戻って来たら交代で出るぞ」
「副隊長と隊長が別行動って、不安しかありません」
「だからレーン小隊長を置いて行ってくれたんだろう?」
「クラウゼとレドのコンビもそろそろ育てて行かないといけないからな。
 やっと隊長一人副隊長二人と言う理想的な状況になったし、クラウゼがいつ家にどもされても安心な環境になったな。
 つぎはルーツを育てる番だが……」
「個人的にはノラを推したいですね。
 貴族組がそろい過ぎるから、シルでもいいけどあいつバカだからノラでしょう?」
「ランダー、お前の説明は良く判るがこの間の試験でお前もノラより点数低かった事を思い出せよ」
「ううう……前日隊長と呑みに行って二日酔いしなければあんなミスしなかったのばっかりだったのに」
「隊長職は試験は別の日だからな」

 前日なのにほいほいついて来る方が悪いのだろうと言っておく。

「だって副隊長も行くってなったらついて行く以外の選択在ります?!」
「あるに決まってるでしょ……」
 
 さすがにその日は辞退したイリスティーナは余裕で平均点を取っていたが、それでもノラよりは低い結果に来年は頑張ると気合を入れていた。
 しばらく続いたノラショックはシーヴォラ隊に向上心を植え付けたが、基本脳筋部隊なので既に半数以上はどうでもよくなっていた。

「それはともあれマリン。
 不在の間の書類を回せ」
「珍しい。お前がやる気だなんてな?」

 誉めるレーンにラグナーは顔を歪めて

「団長からいろいろ薬を飲まされたり好きなだけ寝させてもらったけど、それでも血を流し過ぎてふらふらしてるから大人しくしようと思ってるだけだ」
「大丈夫か?」
「団長程じゃないさ。
 あの人多分俺より血を流している癖に寝てる気配がない。
 来客をあしらったりヴォーグの世話してたり、ああ、書類が置いてあったから仕事もしていると思うし副団長も居た所ヴォーグの側からずっと指示を出してるんだと思う」
「相変わらずバケモノだな……」

 俺達よりももっと団長の事を知るレーンは団長よりも年上の、十以上年の離れた兄がいた為に入隊の事から話を聞いて知っているという。

「団長が首席卒業で入隊して来て以来隊長になるまで毎年御前試合は優勝していたが、勉強の方も常時満点に近くて間違えた理由はスペルミス位でよ。
 噂で剣を捧げた人がいるとは聞いた事があったが……」
「ロマンティックな話なら根掘り葉掘り聞きたいとこだけど……」
「ヴォーグとの主従関係を取り戻す為だなんて、ヴォーグだってもう立派な大人なんだからもっと自分の事を考えたらいいのに」

 呆れるランダーもイリスティーナも過保護ねぇと呆れかえれば俺だってそうだと頷く。

「まぁ、たいちょーもヴォーグと再婚してももれなくだんちょーも付いて来るって考えた方が良いですよ?」

 ウンザリと言う様にランダーは机に突っ伏して呻くが別に団長にそこまでアレルギー反応のない俺は全く気にしてない。

「どのみちだ」

 俺はマリンから受け取った書類を手にして立ち上がり

「ヴォーグは正しくはルードヴォーグ・フォン・ヴェナブルズ公爵家当主でバックストロムの剣だ。
 不敬はないよう対応する様に。さすがに宮廷騎士からも見逃してはもらえないから変に絡まれている所を見たら絶対に救助して保護をするよう、各隊全員に通達だ」









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