うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は最大の安らぎを得たようですが

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「ルード!
 意識を保て!」

 知らない名前を腹の底から叫ぶ声に思わず足を止めてしまえば、目の前で崩れる様に倒れるヴォーグを抱きとめた団長が声を張り上げていた。

「陛下!このような時ですが失礼します!
 陛下は念の為朝まで玉座で待機、ゴルディーニは半数を選出をして警護を!
 残りの宮廷騎士はまだ魔物が居るはずだから警戒と王都内に侵入した奴らの駆除!
 ブルフォード、ディノワールはギルドと共に謀反をした者達を捕縛!
 グロスには団長代理をさせて隊の半数を魔物に当てろ!レドフォード連絡に行け!」

 言うが早いかヴォーグを抱え直した団長は玉座の裏へと向かおうとするも

「シーヴォラはついて来い。
 クラウゼは隊長代理だ。
 魔物の氾濫の可能性があるから討伐の参加に行け!」

 人一人抱えているというのに全速力で玉座裏の通路を駆けて行く姿の指示にアレクに隊長バッチを渡して追いかけて行った。
 幾つもの角を曲がり、後宮にも近い場所を抜ければ一つの独立した離宮へとたどり着いた。
 見張りは居なく華やかさこそないが、造りは贅沢な素材が使われている事がラグナーでも判った。
 団長はその離宮の扉に迷いなく手をかけて扉を開けた。
 長い事使われてないのか知らないが埃っぽい匂いがするも、足を踏み入れた瞬間灯が一斉に灯ったと同時に埃っぽい匂いが消えた。
 外観からは判らないくらいの贅をつくし豪奢で荘厳な室内を思わず見回してしまう中、団長は優美な弧を描く階段を上って行き、俺は慌てて付いて行った。
 迷いなく一番広そうなドアの扉を開ければその先には団長室の机よりも重厚な机や応接セット、背表紙を見るだけで頭の痛くなりそうな本が並べられた本棚とさらに奥に続く部屋にはシャトー・ブロムクヴィストに泊まった部屋よりも豪華な部屋が用意されていて、縦よりも横に長いベットにヴォーグの体は横たえられるのだった。
 ここに来る間中大声で意識を保て、眠るななどと声を張り上げた甲斐もなくすっかり眠りに就いてしまっていたヴォーグは大人しく眠りに就いていた。

「ここは一体……」

 思わず呟き落ちた声に

「ここは精霊アルホルンの子であり、バックストロムの剣でもあるルードの為に用意された離宮だ」
「ルード……」
「ルードヴォーグ・フォン・ヴェナブルズ。
 公表は一切されてないがヴェナブルズ公爵家現当主であり、お前がヴォーグと呼んで居る者の本当の名前だ」

 ヴォーグの正体、そして身分に俺はなんて言えば全くわからなかった。

「とりあえず着替えさせてくれ。
 ルードが大切にしている騎士服に皺が寄るからな。
 お前も楽にしていいぞ」

 クローゼットから取り出した簡素なシャツとズボンを取り出してくれたが、それも一目で上等な物だと理解する。
 アレクの家で用意させた服よりももっと上等で、公爵家当主と言う身分になれば当然か?なんてまとまらない思考のまま服を脱がせた。
 ブーツを脱がせ、美しい宝石が飾る黄金のバックルのベルトを外してズボンを脱がす。
 金の飾りのロープを一つ一つ外し、外側から判らないように隠されているボタンを外す。
 中に来ていたシャツもあれだけの戦闘の後だというのに美しい光沢を放ち、それさえ脱がせば見覚えのある肉体が静かに胸を上下させていた。
 そっと耳を寄せる。
 とくん、とくん……
 規則正しい音と浅い呼吸が繰り返される。
 眠っている事を理解すればほっとしてその胸に頭を押し付けてしまう。

「お前はびっくりさせすぎだろ……」

 きっと聞こえてはないだろう。
 だけど文句を言わずにはいられない。

「ヴェナブルズ公爵家の当主ってなんだよ……
 そんな身分が家出して冒険者してるってどんだけ……なんだよ」

 くつくつと笑う。
 
「お前の怪しい所はそう言った知識からある事は理解したが、バックストロムの剣はさすがに想像が追いつかなかったぞ」

 今もドキドキしてしまう。
 胸に頭を乗せて文句を言う相手が精霊アルホルンが息子に与えた力を継承する物だという事は、街で売られている本ではなく士官学校時代に学んだ物語の物。
 数十年から数百年に一度魔王クウォールッツが復活する時に必ず誕生すると言われるこの国、いや、この土地の守護者となるバックストロムの剣。
 精霊の絶大な力を受け継いで生まれるという話を眉唾物で聞いていたが……

 まさか生きた物語がヴォーグだとはさすがに思わなかった。
 
 規則正しい心音を聞きながら瞼を閉じる。
 汗ばんだ肌の匂いに思わず首筋に顔を寄せてしまう。
 血流が響いて

「生きてる……」

 こんなにも寄りそっているにもかかわらず目を開ける事のない様子によほど疲れているのだろうと思わず目を閉じてしまえば遠くから何かが聞こえた。
 だけどそれはぼんやりと曖昧な物で。
 背中を押されれば素直に従い体を横たえた。

「あったかい……」

 ちゃんと声になっただろうか。
 何やら溜息が聞こえてきたが、それは重くなった瞼のせいで気のせいにする事にした。












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