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うちの隊長は物語の中に居たようです

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 目の前に赤が散った。
 同時に突き飛ばされて床に身体を打ちつけた痛みも走った。

「ラグナー!」

 ヴォーグの悲鳴が届くも、俺の身を挺してかばったのはまたしても

「団長、何で……」
「すまない、怪我を……」

 言われて頬に痛みを覚えたものの、それとは比べようのない位の血を吹き出し骨まで見えている腕を痛みから抱きしめていた。

「こっちは大丈夫だ!
 シーヴォラは陛下の玉座まで行け!」
「何で!団長こそ……」
「宮廷騎士!何をしてるっ!!!」

 叫び声に応えるかのようにブルフォードが雄たけびを上げながら魔族からの追撃から守る様に団長との間に入るも

「邪魔だ」

 その一言でまた血しぶきが飛んだ。

「ヒューバートっ!」

 悲鳴は吐きだした血に埋もれてしまった。
 ヴォーグが急いで魔法を幾つも放ち、魔族を玉座から遠ざける攻撃を見て改めて団長とブルフォードが血塗られた姿で横たわる姿に恐怖を覚え、俺ではとても争うえる相手じゃない事を今更ながら理解してしまった。

「フレッド!ヒューブ!」

    取り乱した様に戻ってきたヴォーグは取り出した薬を何瓶も振り掛け、無理やりにでも口に流し込んでいけば少しだけ回復したのかゆっくりと目を開いたブルフォードの口元は笑っていて

「ようやく昔のように名前を呼んでくれたな。
    二十年ぶりか?」
「昔の話し何てしている場合じゃないだろ!」

 アレクがヴォーグから薬を受け取って宮廷騎士達と治療を始めれば傷が塞がったばかりの団長に

「フレッドはさっきも血を流したばかりだ!
 これ以上血を流すな!」
「申し訳ありません。
 シーヴォラに傷が……」

 団長の言葉に俺は目を瞠るもヴォーグは呻くように

「お前にはまだ彼を守ってもらいたいからこれ以上傷を増やすな」

 何か言い難そうに、そして困惑を浮かべながらも絞り出したかの様な吐き出した言葉に団長は笑みを浮かべ

「精霊アルホルンの息子でありバックストロムの剣の継承者でもある貴方の従者としてこの身は命を捧げ破てるまで喜んで尽しましょう」

 そんな騎士の誓。
 そして彼の正体。

 この国に伝わる伝説の継承者がヴォーグの正体だと言う姿に誰もが驚く。

「命なんていらない!」
「だが、もう貴方が泣く顔は見たくない」

 言えば、今にも泣きだしそうなヴォーグは口を噛みしめて涙をこらえる。

「バックストロムの剣の従者としては弱すぎる事ぐらい判っている。
 力の欠片にもなれなく守る盾にすらならないこの身なれど、せめてかつての様に笑って暮らす事の出来る様に、あの笑顔を取り戻す事こそ私の役目だと思っている」

 二度も大量の血を流した男は抜身の剣を杖代わりに凛と立ち上がる。
 俺と魔族の間に立って五歳だったヴォーグが期待に押しつぶされて投げ出した物を代わりに守ろうとするかのような姿にヴォーグは唇を噛みしめて

「だったらもう何も言うな。
 こんな戦い直ぐに終わらせる。
    そこで見ていろ」

 行ってくると言って剣を振り払えば、舞い上がった髪が翼のように広がった。
 そのままヘヴェデスへと走ればふわりと揺れる髪から幾つもの葉が舞い落ちる。
 すぐ手元に落ちた葉っぱをラグナーは拾い上げてよくよく見ればそれはとても身近な所で見る葉っぱだった。

「アルフォニアの木の葉?」
「よく似てますが、微妙に違いますね……」

 アレクが手元を覗き込んで

「アルフォニアの葉はもう少しトゲトゲとした丸い形ですが、これは……」
「これは今はもう見なくなったアルフォニアの原種の葉だ。
 王宮の庭の木も既に枯れて久しいというのに……」
 
 王の言葉には懐かしいという言葉が響いていた。

「原種には強い魔物除けの波動を放っていて、歴代のバックストロムの剣が作り出した苗を頂いてこの国の結界の要としている」

 呟くような言葉にこんなにも身近な木がそんな大切な役目をしていたなんてと驚く合間にも戦いはなお激しくなっていた。













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