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うちの隊長は元伴侶の正体にこれでも驚いているつもりです

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 深い青を基調とした騎士服はそのままに、あれだけ動いた黒のブーツは薄っすらと埃をかぶった色 にそまっていた。
 短く切った髪型はいつの間にか肩ほどまで伸びていて……

 揺らり……

 まるで髪が意志でもあるかのように揺らめいていたが、それはまだまだ伸びる髪によるものだった。
 髪がこんなにも早く伸びるなんてと言うか、平民が良く持つ色の茶色の髪はまるで枯れ枝のように広がっていて……

「何だ、あれどうなってる?」

 ルーツの驚きの声にレドフォードもブルフォードも

「あれ、ヴォーグだよな?」
「お前、俺はこんな話聞いてないぞ……」

 同じ服を着ているのに別人の姿に変わっていて隠せない驚きは動揺となって言葉に出ていて……
 振り返らない背中にようやくヴォーグの緊張が俺達まで伝わってきた。
 ちろりと団長を見れば焦心した顔で「人前で、馬鹿者が……」と呟いている辺りこれがヴォーグの一番の秘密だったのだろう。
 その姿を俺に知られたくなかった。
 団長と王以外驚いている辺り宮廷騎士達も知らなかったらしい。
 驚きのままヴォーグを見る目はただただ見知らぬモノを見る瞳。
 胸が痛んだ。
 五歳の頃に判明してそれより孤独と言った団長の言葉。
 公爵家の子供として生まれたのならそれは大事に大切に愛されて育って来たのだろう。
 それこそ戦い何て知らないというように大事に大事に守られて来たはずなのに……
 精霊と言っていたがそんな奇異な物なのか?!と思わず喉から悲鳴がでそうになるも

「ヴォーグ!それはないわっ!!!」

 ランダーの悲鳴だった。
 顔色は青く、そして手足は震えていた。
 ヴォーグの肩が震えた。
 あの夜を思い出す泣きながら眠る幼子のような姿を。
 言葉よりも手が出てランダーの口を塞ぐ様にするも振り払われ

「その枝毛だけはありえないわ!
 どんなお手入れをすればそうなるのよ!」

 彼女は理解できない状況に震えながらも、それでもこの場を無視して声を張り上げる。
 
「ちょっとそこで待ってなさい!
 ちゃんと手入れしてあげるから!それともリボンで纏めた方が良いの?!
 可愛く縛ってあげるわよ!」

 小さなポケットから何を詰めているのかと言うくらいリボンやブラシを取り出していた。
 寧ろ良く入ったなと言う感心すらする量だが

「ランダー違うでしょ!」

 イリスティーナも声を上げる。

「あれは枝毛じゃなくって枝よ!
 ほら、葉っぱも生えて来たわ!
 そのうち可愛いお花も咲くかもしれないのよ!」
「そうじゃない」

 何故か団長がつっこんでいた……

 あまりの動揺からの暴走ぶりにレドフォードのツッコミもアレクのストッパーも完全止まっている状態の中良く思考が働いているなと感心する俺もランダーの意味不明な言葉に頭の中が真っ白になっていたが……

「そ、そうよね。
 切ったり縛ったりするよりも側に置いておけば観葉植物として目に優しいわ……」
「い、癒し系?なんか納得……か?」

 きっと俺も含めて自分が何を言ってるのか判ってないのだろうランダーの言葉に俺達は何に驚いていたのかもう過去の出来事だった……

「とりあえずヴォーグ、こっちに戻ってらっしゃい!
 その頭じゃ戦い難いでしょ?!」

 イリスティーナがランダーのリボンを取り上げて振りながら言うも少しだけ振りかえった顔は申し訳なさそうに泣き出しそうな顔で無理やり笑みを作り

「大丈夫です。
 髪を伸ばしていた時期もあったので慣れてます」
「そう?髪止めもあるから必要になったら言うのよ?!」

 ランダーはリボン以外にも髪止めを集めてイリスティーナと待機をしていた。
 さすがに魔族を柱に縫い付けている状態でこれ以上二人に付き合いきれないと顔を魔族に向ける。
 だけど魔族は魔法で柱にぶつけられた揚句に肩を剣で砕かれたにもかかわらず不気味な笑い声を響かせ

「精霊、その姿から木の精霊なのだろう。
 だが戦う為の爪や牙もなく、お前を守り、代わりに戦う妖精も居ない。
 それでも私に勝てると思っているのか?」

 ヘヴェデスは血まみれの半身なんて気にしないというようにヴォーグを蹴って距離を稼いだ。
 蹴られた瞬間その剣でヘヴェデスの左腕を切り落とすも、ヘヴェデスはその手を切口に当てて治してしまったのだ……

「うわぁ、ずるい……」

 ルーツが俺達の意見を代弁するもヴォーグは動揺の欠片も見せずに剣を構え直す。

「何度切っても同じだぞ」

 つまらなさそうにヘヴェデスは言うがヴォーグは無言のまま斬り付けて行く。
 炎の魔法で目くらましをしたかと思えばいつの間にかあった姿はそこにはなく、まったく見当違いの方向からヘヴェデスを斬り付けていた。
 何とか反応できたヘヴェデスと一度だけ剣を交えて水の魔法で気を反らせて離脱する。
 この水で視界の埃が落ち着くも足場としては悪くはなった。
 だけど気にせずにまた炎の魔法で天井の一角を崩せば窓が大きくなり夜の街が一望する事になった。
 明かりは玉座周りにしかなく薄暗い室内すら気にしないというヴォーグは剣を当てては離脱するという、まるで何かを狙っているような戦法には当然ヘヴェデスも気付いていて

「何をするつもりか知らんがそんな攻撃で私を落せると思ってるのか!
 何をたくらんでいるのか知らんが貴様がその気ならお前の宝を潰す!」

 イライラとしたヘヴェデスの攻撃は荒っぽさが目立つ物の、魔族としての本性を現して総ての能力が解放されたかのように攻撃の度に周囲に衝撃波が広がり、ヴォーグが広げた窓だった場所からも壁の残骸や柱の残骸が外へと飛び散っていた。
 宣言した通り結界越しの俺に何度も攻撃が来るもヴォーグはそれを見事防いでその度に魔族から距離を取るも、防御ばかりのヴォーグの顔には見るからに疲れが出てきていた。
 俺達は無様にもあまりの衝撃に俺達もいつまでも立ってる事が出来なく、身体を低くして結界越しだというのに吹き飛ばされそうになるのを堪えて見ていれば

「これで最後だ!」

 パリン……

 涼やかな音が目の前で響いた。
 薄い薄いガラスが砕けるようなそんな澄んだ音。
 もちろん目の前にはガラス何て何もなくて。
 つい先ほどまで何かに阻まれて届かなかった刃が目の前まで迫っていた。
 絶対安全だなんて何時の間に信じていたのだろう。
 避ける事を忘れた体は動く事も忘れ、ただただ迫りくる切っ先を眺めていた。















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