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うちの隊長は……ごめんなさい。書きかけがアップされてたので訂正しました。

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 金属音の響く剣戟がどれだけくりかえされただろうか。
 あまりの早い攻防に固唾を呑み込みながら団長が凌いでいるのを眺めてた。
 あの速さに反応で来て防御に徹し切れてるのは凄いと思った。
 だけどそこまで。
 あの魔族は面白そうにどこまで耐えれるというように笑みを浮かべながら少しずつスピードを上げていた。
 先ほどから宮廷騎士が支援魔法を掛けるもそれも魔族が妨害する。
 自身でもかけようとしているが邪魔されてかけられずにいる。
 そしてそろそろ最初かけていた魔法が途切れるという時間。
 焦りが見えたと思った瞬間利き手じゃない腕から血が噴出していた。
 うめき声すらあげず転がりながら距離を取る間に怪我を直して支援魔法を自分にかけ直すのはその痛みすら噛みしめながら立ち上がる僅かな瞬間を上手い!と思うも、それは先ほどアレクが俺をフォローしたタイミングと同じ。
 未だに寝転んだまま治療を受けている俺はチロリとその姿勢のままアレクを見上げれば、俺と同じような事を考えていたのか冷や汗を流しながら喉を鳴らして息を飲んでいた。
 声をかけようとするも、先ほどより早い攻撃に受け切れずにどんどん血を流して行く。
 楽しそうに、いたぶる様に。
 団長の剣の技術の高さに俺達はもちろん宮廷騎士達の驚きの声は聞こえていたが、その唯一の騎士服が血まみれになるにつれてその声もなくなり、応援する声もいつの間にか無くなって行った。
 いたぶられ呻く声が増えて行く中絶望だけが広がる。

 団長の次は?

 どうなるだろうかと誰もが後ずさる様に壁に寄っていた。
 だけど俺は団長の動きから目が離せないで居た。
 時折俺達に希望を持たせるかのように攻撃をする魔族に向かう剣の型はヴォーグを思い出す動き。
 思わずと言うように体を起こしてその戦いの光景を見ていればだいぶ体の痛みも引いていた。
 ただ、流れた血の量だけはどんな魔法でもどんな薬でもすぐに増やす事は出来なくくらりとめまいを覚えるも、アレクに支えられてその光景を見ていた。
 遊ばれるように切られては全く手の届かない攻撃をさせられて疲労が積る様子は見て取れるほど。
 もうすぐ四十だっただろうか、になるという年齢は歴代の団長の中で群を抜いて若い年齢だが、それでも息をのむほどの剣技には納得するしかない技術の高さで……

 体が勝手に動いた。
 団長を助ける為、ではなく、その動きに引き込まれるかのように駆け出していた。

「ラグナー!」

 アレクの声が後ろから追いかけるも届いたのは体力上昇と俊足の支援魔法。
 抗議するかのようにブルフォードの怒鳴り声が聞こえるが、思わず笑みを浮かべてしまう。
 いつもはノラスとシルビオを俺の手足の代わりに使っていたのに今回は俺が団長の手足だ。
 あいつの、ヴォーグの動きを知っていて、それを真似する団長になんとなく腹が立つ物のその隙を埋める様に攻撃を合わせる。
 ヘヴェデスだったか魔族の顔が少しだけ驚いたように、そして笑う。
 その程度で勝てるのかと言うような挑発には乗らないように深呼吸して団長が剣を振り下ろした軌跡を一呼吸おいてなぞる様に俺も振り下ろす。
 さすがに驚いたのかヘヴェデスは初めて避ける様に下がるが、その足に合わせる様に団長は追撃して剣を交え、剣を構えた脇の隙間から突くように攻撃をすればわずかな感触があった。

「調子に乗るな!」

 漆黒の螺旋のようにねじれた歪な角の出現と怒気だけで俺も団長も吹き飛ばされてしまったが、さすが団長。
 吹き飛ばされ転がった慣性を生かして立ち上がる背後で俺は無様に潰れていた。
 さすがに血を流し過ぎたかと思うも

「シーヴォラ、お前は下がってろ」

 団長の指示のわずかの合間に背後の宮廷騎士から次々に回復と補助効果を持つ魔法をかけてもらって最初の状態にもどってまたヘヴェデスに向かって駆け出していた。
 あまりのタフさに宮廷騎士を含めてバケモノだなと感心してしまう中、眩暈も収まり立ち上がってもう一度団長の背中を追いかける様に駆けだしていた。
 
「シーヴォラの奴狂ってる……」

 ブルフォードが何気に失礼な事を言っていたがまた団長の攻撃に混ざる様に剣を振るう。
 じろりと睨まれるも邪魔しないように、そしてこの至近距離からの支援魔法は外れる事無く途切れそうになる効果を再度付け直すという……
 魔法が苦手だがあいつのキャンプに付いて行った時に散々やらされた為に練度が上昇して詠唱破棄して使えるようになったのはさすがに魔族さんもびっくりのようだった。

「お前は厄介だな」

 どちらに言った言葉か理解する前に突如団長の背に守られた俺はヘヴェデスの振り下ろす剣によって目の前の男の血を浴びる事になった。
 こんな時だというのに頭が真っ白になるも、目の前の男は崩れ落ちる事無く剣を構え直して尚も壁になろうとするかのように立つ姿にヘヴェデスが笑えば俺達二人は魔族の持つ剣が真っ赤に輝く様子に息をのむ。

 そうだ。
 何を対等だと思っていたのだろうか。
 魔に生きる魔族がまだ魔を操っても居なかった事を。

 血の気が引くように身動きが取れなくなる中振り下ろす剣の軌跡に恐怖した俺はただ目の前の男の大きな背を見上げていて……

「すまない、守れなかった……」
「誇れ、私に魔法を使わせた事を」

 相手も見えず、振り向きもせずに二人が言った言葉は誰への言葉だろうか。
 何の意味だろうかと恐怖の真っただ中にいるのにその言葉を拾い上げて冷静になろうとする自分は身動きもとれずただ見上げていて二度目の剣が振りおろされる血のように真っ赤な軌跡を眺めていて……

 森の匂いが立ち込めた。
 なんだか懐かしいなと何処か喜ぶ心が自分の運命を受け入れるように目を瞑ろうとした瞬間

「ふざけるなっ!!!
 なに勝手に諦めてるっ!!!」

 懐かしい声に涙が溢れそうになるもそれより早く横を通り過ぎた影の背中をみまもっていた。














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