上 下
90 / 308

うちの隊長は突然の乱入者が居た事を知りません

しおりを挟む
「マイヤお疲れ。
 ミュリエルできるようになったじゃん」
「ヴォーグに助けてもらった命、ヴォーグが教えてくれた物を一つでも取りこぼしてたまる物ですか」

 二人で視線を交わせば思わず片手を上げてやったねとハイタッチ。
 やっと発動出来た魔法の嬉しさにくすくすと笑みが零れ落ちて喜びのまま抱き合っていれば

「おいおい、まだ戦闘は終わってないぞ?」

 声をかけてきたのはユハでもトゥロでもなく

「魔族……」

 まだ生きていたのかと思って凝視してしまうも

「恐ろしい人間だな。
 まさか精霊魔法を使う人間がまだいるとは思わなかったぞ」
「精霊魔法?」

 その言葉は聞いた事が無くマイヤは眉をひそめるも

「精霊の名前を力に変えた魔法だ。
 聞いた事のない名前だがこの威力。
 お前は厄介だな」

 殺しておくかというドバリーも満身創痍だ。
 だけど少しずつ体がの傷が減って行く。
 癒されていくと言うよりも修復されていく、そんな治り方は酷くゆっくりで、でも確かに治って行く。

「くそ、思ったよりダメージが重いか。
 だがシュヴェアはともかくジクストゥスをやった奴が目の前に居て倒さずにはいられるか?!」

 爛れた肌の手で剣を振りかざしてホルガーに襲い掛かろうとした所で急に方向を変更しマイヤへと向かって走り出した。

「クソッ!」

 ホルガーは慌てて追いかける。
   受け止めようとした分だけ出遅れた。
 マイヤが急いで待機させていた魔法を放つもそんな物ではびくともしないという様に笑うドバリーは瞬く間に距離を詰め

「マイヤ離れろ!」

 距離を取るように逃げる魔法使いならではの足の遅いマイヤとドバリーの間にユハが弓を構えて矢に魔力を乗せて乱射する。
 時間を稼ぐ様に魔族が嫌うという光属性を乗せた矢を放つにもかかわらず既に命は要らないというように矢で貫かれても気にしないドバリーは横から突進してきたテレサも逆に一撃で振り払い、マイヤの前にまずはと言うようにユハに剣を振り下ろした。

 とっさに弓で防御するもこんなもので渾身の一撃かのように振り下ろされた自身の角の槍に勝てるはずはなく、ホルガーが短剣を投げてドバリーの背に刺さるも痛みすら無視をして振り下ろす様をユハは震える足に逃げろと命令しても叶わず、ただちらりと側に助けに来ていたトゥロを、涙でぼやける視界で何かを口に出しそうになった言葉を呑み込んで、同時に目も閉ざしてその瞬間を待つのだった……








 ぐらり






 世界が回った。





 
 ふわり






 体から何の柵もなくなった。







 焼け焦げた臭いは記憶から洩ららす物か。
 頬を撫でる冷たい風と、森の匂い。
 







 ああ、一緒に過ごした時間の中でやっぱり森の中が一番楽しかったな……










 不意にこみ上げる思い出に感情とは別に心の中は恐ろしくなだらかだった。
 あんなさよならだけは勘弁だよなともう一度会いたかった顔を思い浮かべ思いは届かなくとも

「ヴォーグ、やっぱり愛してる……」

 言葉になっただろうか。
 最後に呟いた音を遠くで聞きながら誰かがこの言葉を届けてくれればいいやと満足気に笑って……









「ユハ、衝撃が来るから我慢してね」

 思いがけない声に思わず眉間を寄せる。
 聞き覚えのある声に思わず瞠いた目で見た世界は光に溢れていた。

「え、何で、ヴォーぐぅぉおおおおおっっっ?!」

 舌をかまなかったのが不思議だった。
 我慢してねと言われて目を開けば街中の上空から急降下中からの着地。
   浮遊感の謎は今解けた。
 気が付けばヴォーグに抱きかかえられて、今も夢のようにお姫様抱っこをされている。
   かなり無理やりな着地だったのにもかかわらず俺を落す事もなく二人分の衝撃をヴォーグが相殺してくれていた。

 「大丈夫だった?」
 
 ほっとした声をすぐ側から聞かれれば直ぐに両腕でヴォーグの頭を抱きしめて

「会いたかった!!!」

 こんな時だと言うのに驚くヴォーグを他所に地面に押し倒してキスをした。
 二度、三度と深くキスをして首筋に溢れる涙の顔を押し付ける。

「ヴォーグ?!」
「ほんとにお前!!!」

 ホルガーは勿論テレサもマイヤもトゥロもみんな集まってヴォーグの側に集まってその再会を喜ぶ。
 もちろんホルガー達が集まったぐらいではユハの手はヴォーグから外されないが。

「おいおい、お前一体何なんだよ。
 せっかくめんどくさい精霊魔法使いを殺そうとしたのによぉ」

 ドバリーは突然の乱入者にご立腹と言うように両手に自前の角の槍を持ってゆっくりと距離を詰めて来ればさすがにユハもヴォーグを解放し、マイヤも魔法を新たにいくつか待機させて全員が剣を構えユハも弓をつがえる。

「やはりこの匂い魔族か。
 マイヤに教えた精霊魔法が発動したから急いで来れば何時の間に王都に紛れ込んでいたか……」

 ヴォーグが剣を取り出して構えるが

「悪いがこいつは俺達に譲ってくれ」

 ホルガーが一歩前に出る。

「どうやらあいつにとって俺は因縁の相手らしくてよ……」

 決着を付けないとバケモノを生む事になる、ほんの数刻もしない前に学んだばかりの事。

「ここは俺達に任せてくれ」

 その一言にヴォーグはすっと身を引いてマイヤが引いた境界線の内側ギリギリまで下がれば、その足がとまった瞬間ホルガーとドバリーは吠えながら剣と角の槍を交差させていた。

 二合、三合打ち合わせる。
 剣技だけ見れば互角と言う所だろうか。
 だけどドバリーには圧倒する魔力があり、代わりにホルガーには暁の大牙と言う仲間があった。
 恐ろしく魔力を消費する精霊魔法にマイヤの魔力はもう一度発動させるだけの魔力は残されてない。
 ユハも立て続けに放ち続けた魔法の矢に随分と消耗していた。
 全力で駆け続けていたトゥロもテレサも疲労は溜り、一度大量に血を流しているホルガーも全力とは言えなかった。
 そう言うドバリーも精霊魔法の影響は酷く、怪我の治りが遅く、動くたびに魔族の血液と言うか暗い色の体液があふれ出ている。
 戦いを続けられるほど体力はお互い残されているわけではなく、気力だけの戦いの結末はあっけなくついた。
 マイヤのなけなしの魔力で発動させた閃光の魔法の直撃を喰らったドバリーから隙をもらったユハの弓によって角の槍が折られ、再度矢をつがえようとしたユハの手には魔力を限界を超えて練り上げようとした事からの暴発は手から血が噴出していた。
 もう一方の角は角を折られた動揺の隙にテレサが風の魔法を纏い、トゥロの支援で最大脚力を貰ってもう片方の角を折り、着地をしくじって顔面から転んでいた。
 当然その瞬間を逃さないホルガーが大剣でドバリーの魔石を確実に貫いて、貫かれた自分の体を見たドバリーは

「見事」

 それだけを言い残して塵となって魔王の元へと還って行くのだった。


 


 




しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...