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うちの隊長は意外と近くにいる事を知りません

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 アルホルンから戻ってきてからの恋人ごっこ。
 いや、書類上結婚していた相手だったのだしごっこでもなんでもない。
 だけどあんなにも心躍る日々を迎える事が出来るなんてと今も懐かしく思っていれば

「楽しそうだったな」
「何だ、居たのかフレッド」
「そろそろ起きる頃だろうと思って食事を誘いに来た」
「起きてなかったらどうするつもりだったんだよ」
「時間的にも起こそうと思ってた」

 話をする合間にも部屋には食事が運ばれてきてテーブルの上に並んでいく。
 その合間にベットの上で着替えれていればテーブルを準備する侍女達は俺をすごい目で睨んでいた。
 何でお前がここに居るのだと……
 まぁ、場所が場所だしと今だベットに座っている俺と部屋の主でもある人物にこれからと向かい合って侍女達に給仕をしてもらいながら食事を始めるとなれば当然か。
    考えながらも着席をする。

「何も手放さなくてもよかったのではないのか?」
「いずれ切り離さなくちゃいけないのならいつでも一緒だよ」
「お前は判ってないな」

 なにを?と言いながらも周囲に待機する侍女は表情にこそ出さない物の視線は俺の存在が忌まわしいかのように睨んでいて、そちらを一瞥して目の前に座る男に

「ここで働くには程度が低いな」

 邪魔だと言えば向かいの男は顎をしゃくって外へ出るように指示を出した。
 侍女達は途端に顔を青ざめて何か言いたげに口を開けようとするも先に護衛に追い出されるように強制的に部屋を辞する事になったが護衛まではさすがに部屋から出ては行かなかった。
 まぁ、目の前に座る男がそれなりに地位ある男になっていた事には驚いたが、傍らにいる護衛の者達は俺達の関係を知っていて俺がこの部屋にいる理由も俺が横柄な態度でいる事も全て納得してくれていた為に神経に触るざらりとした視線は感じず、寧ろ監視される事は義務だよなと彼らの仕事ぶりを心の中で褒めておくことにした。
 それが彼らの仕事なのでわざわざ口に出して誉める事でもないが。

「それにしても久しぶりにここにきてみれば随分変わったな」
「それなりに居心地良くするために手を入れてみたのだが気に入らないか」
「まぁ、それなりに悪くないが、及第点だな。
 一部が妙に謎の結託があって怖いけど、良くここまで改革をしたな」

 昔は権力を笠に着た者達が私物化していたと思ったが今は統率のとれた敬われるべき宮廷騎士団と言えようか。

「いずれ欲しいと言われた時にと思って使いやすいように躾はして置いた」
「いらないよ」

 なんて物をよこす気だと思うも反射的に断ってしまう。

「いらないのか?」
「手続する分だけ無駄だ」
「そうか?」

 お前ならいい指揮者となるだろうという物騒な声にかぶせるかのようにわざと音を立ててスープをすすればみっともないと眉間を寄せる顔を見ながら食事を続けた。

「それで今日の予定は?」
「王都内はお前に任せる。
 俺は近隣の森を回ってくる。
 夜には帰宅するつもりだ」
「了解した。
 だが、一人で本当に大丈夫か?」
「人がいる方が加減をしないといけないから面倒だ。
 それに数が異常だからな。他人に構う余裕がないからいない方が楽だ」

 サラダを口へと運びながらついて来るなよと言えば目の前の男は笑い

「お前は相変わらず優しいな」
「どこからそんな言葉に至ったのか不明だが俺が優しいと思うのはそれは先生達の教育の賜物だ」
「それを言われると耳が痛い」

 言いながらも食事は進む。
 味のないざらざらと砂をかむような食事。
 ついこの間までは楽しく温かく、そして優しかった時間だったはずなのにと水で喉の奥に押し込みながら食事を続けるのはもう拷問にも等しい。
 これならまだ一人でいる方が平和だと目の前の男がグラスに何度目かの水を注いでくれていた。

「所で宮廷騎士団に居るのはお前の差し金か?」
「一応まだ貴方の大切な人だと思っているので可能な限り目の届く所に置いておこうかと思って」
「人質かと思った」
「さすがにそれはないのではと思うのだが……
 そんなにも私には信頼がないのだろうか?」

 真摯な眼差しで俺を見る一回りも年上の男に俺は笑みをこぼす。

「そんな物がまだ残っているのならどこにあるのか教えてもらいたい」

 うぐっと息をのむ音に再び食事に集中するもなかなか食事が進む気配はやってこない。

「だけどもう少しの間だけ一度ぐらいは信頼を預けておく。
 もう俺を失望させないでくれ」
「信頼を頂けるならどこまでも。
 今度こそすべてをかけて貴方に尽くす」
「どこまでも付いてくると言うのならのなら」

 言葉とは裏腹に全く信じてない言葉を投げて俺は食べかけの食事を終えた。
 もういいのかと言う視線に背を向けて

「とりあえず信じておくよ」

 立ち上がり、ベットの向こう側の本棚をスライドさせれば現われた隠し階段を使って部屋を出る。
 微かに魔石の光る薄暗い階段をどんどんと降りて行けば今度は幾重にも枝分かれした長い廊下があり、何度か曲がって一本の道を進んだ先には鉄の扉があった。
 その扉の先には使われていない部屋があり、申し訳程度に掃除がされた形跡があったが窓から見上げる城の城壁にいつもながら関心をする。
 よくもまあ、こんなものを作ったなと。
 かつて叩きこまれた隠し通路を駆使すれば誰にも会う事もなく出入りの出来る便利な道は今では姿をくらませている俺には便利な物で……

 「早く森に行きたいな……」

 雑踏の賑わいの中、どこにでもいる旅人のようにマントのフードを眼深くかぶって城から遠ざかるのだった。







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