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うちの隊長は副隊長が飛び出さないか心配なので珍しくストッパー役をしております
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城から城北部へと向かい、スラムを通って外壁に向かって歩く。
途中予想外の雨に打たれて食堂で雨宿りするもそこから西側へ向かって歩いて西側から来た宮廷騎士と落ち合って報告を兼ねた世間話をしてから城方面へと向かう。
途中住宅街を抜けたり商店街を抜けたり。
裏通りに視線を向けたり不審者を探してみたりとする間にボヤ騒ぎの騒ぎを聞きつけて駆けつけるも既に鎮火された後。
盥や鍋を持って駆け付けた住民の逞しさに感心しつつ、小さな子供は大人達に向かって
「俺見た事のないおっさんが火を点けたのを見たんだ!」
冷めく子供に大人ははいはいと言うように子供の頭を撫でて怖かったねと慰めていた。
そんな様子を眺めながら足を進める。
城からこちら側に向かって来る宮廷騎士と合流する為に穴熊の塒と言う食堂兼宿屋にむかへば既に向こうは到着しており、そこには何故かノラスまで一緒に居た。
「何があった?」
聞きながらも紅茶を頼めば既に二人は話が通っているのか気まずそうな顔で上の部屋へと案内された。
「うちが襲われた?」
呆然とするアレクに落ち着けと言って肩をおさえながら強引に椅子に座らせた。
「被害は?」
思わず硬くなってしまう自分の声を他人の声を聞くようにノラスに問えば
「何も。
それどころか不埒者どもを全員捕縛して騎士団に渡されました」
頭痛そうに、ありえないとテーブルに肘をつい立てで顔を覆っての報告に俺はもちろんアレクもレドフォードもゴルディーニも「ん?」と言うように首をかしげた。
ノラスと一緒に待っていた宮廷騎士の男エルマー・リンドグレーンは俺達にお茶を飲むようにと促してから
「私もノラス殿から話を聞いたばかりなのですが、クラウゼ邸に賊が侵入して捕縛したという報告が一報だったようです。
ちょうど雨が降った頃、凄い雷が聞こえたと思います。
それがクラウゼ邸での戦闘時間だったようです。
庭師が元冒険者でかの『雷華の花車』でしたか?
希少な雷属性を持つ冒険者が居たと記憶してます」
「ああ、ソフィアだ。
元Aクラスの冒険者で、被害が大きいから街中ではあまり戦えないと言っていたが……」
「ええ、噂には聞いていましたが彼女は雷を呼べると言う話は本当だったのですね」
あまり戦闘風景を見た事のない彼らの戦いはこんなにも派手な物なのかと驚いていたが……
「では、父上や母上は……」
「御無事です」
血の気を失せたような顔色の震える指先にノラスは大丈夫と力強く頷いた。
「今はイリスティーナが副隊長の代理で現場検証に立ち会ってます。
何でもガラス張りのサロンの部屋ではお茶会が開催されているから気付かれないようになんてリクエストがあって……まぁ、副隊長の家は広いからかちあう事がないから気付かれないと思うけど」
それもどうなんだと思うが
「捕縛した人数は24名。全員冒険者崩れのチンピラです。
今団長の所が尋問してますが、やはりバイロン・レッグの逆恨みが原因です。
人数は不明との事ですが今もあちこちでボヤ騒ぎが起きてますので本当に一角を捕まえた程度なのでしょう。
そして庭師の方々も無傷で、現場検証に立ち会ってくれました」
「だから茶会など止めておけばよかったものの……」
こんな時に茶会だなんて非常識だと言ってはいたものの、それは止めさせてくれない周囲が問題で、被害がなかった以上お付き合いの方針を変えるしかないのだろうと本日の招待客の名前をアレクはブツブツと呪文のように吐き出せば
「副隊長、お耳に入れておきたい事が……」
「なにか?」
呪文を止めたアレクは頭が痛そうな顔でノラスを見て
「あの場に飛び入り参加でエーンルート侯の奥方と前ブルフォード侯の奥方もお見えでした」
「あああ……家に近づかなくって正解だったな……」
「義理の兄弟になるというのに逃げるのはどうかなあ」
にやにやとゴルディーニは笑うあたりエーンルート家の三女を養子にする話は既に貴族社会に知られ渡っているのだろう。
父がまだ当主の間は彼女もまだ十代と言う事で自宅から学業に励んでもらう事になっているが、まぁ……就職先と考えれば問題はないだろう。
「そんなわけだが、だからと言ってお前を仕事から外すわけにはいかん。
今の立場は宮廷騎士だ。
宮廷騎士なら親の死に目にも会えないと思え」
「いえ、無事と判れば後ほど帰宅して確認しますので」
ほっとしつつもまだ震える指先で紅茶を飲みながら
「ノラス、レーンに連絡を。
スラムでも冒険者崩れが目立っていると言っていた。
そしてクラウゼ家の冒険者崩れ……
あまり頼りたくはないが、ホルガーに手紙を。
たぶん掴まらないからギルドに今から手紙を書くから渡してもらうように依頼してくれ」
言いながら手紙を書けばそれを咎める視線が二人分。
「我らの情報を流すのは感心しませんな?」
「まぁ、手数が欲しいのと、あいつもSランクとなればいろいろ恨みを買ってるだろうから何か情報が引き出せるなら大した事ではないと思いますが?」
言いながらも文面は一言と短い。
『冒険者崩れが多いが?』
たったそれだけの必要な言葉の手紙。
主語も無ければ述語もない手紙とは到底思えない一文に
「感心しないなと言ったばかりだがシーヴォラ殿……
手紙としてそれはいかがな物だろうか」
逆にそれだけの文面と言うのは感心しないとダメ出しを貰うも
「別に宮廷内の連絡の手紙でもないのです。
必要最低限、無駄なあいさつ文に時間はかける必要はないし、そう言った事を美徳とする者はいませんので」
二つ折りにしてノラスに渡すも、もう一つぐらいお折りましょうと四つ折りにされた。
「では私は先に失礼します。
任務終了後には隊舎に顔を出してくださいとレーン小隊長からお願いされてますのでよろしくお願いします」
「ああ、どのみち顔は出すつもりだ。
ただアレクは家に帰らせるからって先に伝えておいてくれ」
「了解しました。では」
敬礼をして部屋を辞したノラスにゴルディーニもリンドグレーンも窓から見送りながら
「彼も貴方と同じ平民出自ですか」
「思ったよりも素直で素行が良いですね」
最低限小隊長と言う立場は正しい物であると理解してくれたらしい。
だけどだ。
ノラスとシルビオをコンビで戦場に放り込むと討伐数競争に走る為にシーヴォラ隊では血まみれ兄弟何て仇名を付けられてしまっている。
とりあえずこの事は黙っておこうと意外に好評化されたノラスの将来の為にラグナーはこっそりとアレクにノラス達の事は黙っているようにとサインを送るのだった。
途中予想外の雨に打たれて食堂で雨宿りするもそこから西側へ向かって歩いて西側から来た宮廷騎士と落ち合って報告を兼ねた世間話をしてから城方面へと向かう。
途中住宅街を抜けたり商店街を抜けたり。
裏通りに視線を向けたり不審者を探してみたりとする間にボヤ騒ぎの騒ぎを聞きつけて駆けつけるも既に鎮火された後。
盥や鍋を持って駆け付けた住民の逞しさに感心しつつ、小さな子供は大人達に向かって
「俺見た事のないおっさんが火を点けたのを見たんだ!」
冷めく子供に大人ははいはいと言うように子供の頭を撫でて怖かったねと慰めていた。
そんな様子を眺めながら足を進める。
城からこちら側に向かって来る宮廷騎士と合流する為に穴熊の塒と言う食堂兼宿屋にむかへば既に向こうは到着しており、そこには何故かノラスまで一緒に居た。
「何があった?」
聞きながらも紅茶を頼めば既に二人は話が通っているのか気まずそうな顔で上の部屋へと案内された。
「うちが襲われた?」
呆然とするアレクに落ち着けと言って肩をおさえながら強引に椅子に座らせた。
「被害は?」
思わず硬くなってしまう自分の声を他人の声を聞くようにノラスに問えば
「何も。
それどころか不埒者どもを全員捕縛して騎士団に渡されました」
頭痛そうに、ありえないとテーブルに肘をつい立てで顔を覆っての報告に俺はもちろんアレクもレドフォードもゴルディーニも「ん?」と言うように首をかしげた。
ノラスと一緒に待っていた宮廷騎士の男エルマー・リンドグレーンは俺達にお茶を飲むようにと促してから
「私もノラス殿から話を聞いたばかりなのですが、クラウゼ邸に賊が侵入して捕縛したという報告が一報だったようです。
ちょうど雨が降った頃、凄い雷が聞こえたと思います。
それがクラウゼ邸での戦闘時間だったようです。
庭師が元冒険者でかの『雷華の花車』でしたか?
希少な雷属性を持つ冒険者が居たと記憶してます」
「ああ、ソフィアだ。
元Aクラスの冒険者で、被害が大きいから街中ではあまり戦えないと言っていたが……」
「ええ、噂には聞いていましたが彼女は雷を呼べると言う話は本当だったのですね」
あまり戦闘風景を見た事のない彼らの戦いはこんなにも派手な物なのかと驚いていたが……
「では、父上や母上は……」
「御無事です」
血の気を失せたような顔色の震える指先にノラスは大丈夫と力強く頷いた。
「今はイリスティーナが副隊長の代理で現場検証に立ち会ってます。
何でもガラス張りのサロンの部屋ではお茶会が開催されているから気付かれないようになんてリクエストがあって……まぁ、副隊長の家は広いからかちあう事がないから気付かれないと思うけど」
それもどうなんだと思うが
「捕縛した人数は24名。全員冒険者崩れのチンピラです。
今団長の所が尋問してますが、やはりバイロン・レッグの逆恨みが原因です。
人数は不明との事ですが今もあちこちでボヤ騒ぎが起きてますので本当に一角を捕まえた程度なのでしょう。
そして庭師の方々も無傷で、現場検証に立ち会ってくれました」
「だから茶会など止めておけばよかったものの……」
こんな時に茶会だなんて非常識だと言ってはいたものの、それは止めさせてくれない周囲が問題で、被害がなかった以上お付き合いの方針を変えるしかないのだろうと本日の招待客の名前をアレクはブツブツと呪文のように吐き出せば
「副隊長、お耳に入れておきたい事が……」
「なにか?」
呪文を止めたアレクは頭が痛そうな顔でノラスを見て
「あの場に飛び入り参加でエーンルート侯の奥方と前ブルフォード侯の奥方もお見えでした」
「あああ……家に近づかなくって正解だったな……」
「義理の兄弟になるというのに逃げるのはどうかなあ」
にやにやとゴルディーニは笑うあたりエーンルート家の三女を養子にする話は既に貴族社会に知られ渡っているのだろう。
父がまだ当主の間は彼女もまだ十代と言う事で自宅から学業に励んでもらう事になっているが、まぁ……就職先と考えれば問題はないだろう。
「そんなわけだが、だからと言ってお前を仕事から外すわけにはいかん。
今の立場は宮廷騎士だ。
宮廷騎士なら親の死に目にも会えないと思え」
「いえ、無事と判れば後ほど帰宅して確認しますので」
ほっとしつつもまだ震える指先で紅茶を飲みながら
「ノラス、レーンに連絡を。
スラムでも冒険者崩れが目立っていると言っていた。
そしてクラウゼ家の冒険者崩れ……
あまり頼りたくはないが、ホルガーに手紙を。
たぶん掴まらないからギルドに今から手紙を書くから渡してもらうように依頼してくれ」
言いながら手紙を書けばそれを咎める視線が二人分。
「我らの情報を流すのは感心しませんな?」
「まぁ、手数が欲しいのと、あいつもSランクとなればいろいろ恨みを買ってるだろうから何か情報が引き出せるなら大した事ではないと思いますが?」
言いながらも文面は一言と短い。
『冒険者崩れが多いが?』
たったそれだけの必要な言葉の手紙。
主語も無ければ述語もない手紙とは到底思えない一文に
「感心しないなと言ったばかりだがシーヴォラ殿……
手紙としてそれはいかがな物だろうか」
逆にそれだけの文面と言うのは感心しないとダメ出しを貰うも
「別に宮廷内の連絡の手紙でもないのです。
必要最低限、無駄なあいさつ文に時間はかける必要はないし、そう言った事を美徳とする者はいませんので」
二つ折りにしてノラスに渡すも、もう一つぐらいお折りましょうと四つ折りにされた。
「では私は先に失礼します。
任務終了後には隊舎に顔を出してくださいとレーン小隊長からお願いされてますのでよろしくお願いします」
「ああ、どのみち顔は出すつもりだ。
ただアレクは家に帰らせるからって先に伝えておいてくれ」
「了解しました。では」
敬礼をして部屋を辞したノラスにゴルディーニもリンドグレーンも窓から見送りながら
「彼も貴方と同じ平民出自ですか」
「思ったよりも素直で素行が良いですね」
最低限小隊長と言う立場は正しい物であると理解してくれたらしい。
だけどだ。
ノラスとシルビオをコンビで戦場に放り込むと討伐数競争に走る為にシーヴォラ隊では血まみれ兄弟何て仇名を付けられてしまっている。
とりあえずこの事は黙っておこうと意外に好評化されたノラスの将来の為にラグナーはこっそりとアレクにノラス達の事は黙っているようにとサインを送るのだった。
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