うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長一行は突如降り出した雨と雷に近場の食堂で時間を潰しています。

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 外は冷たい空気が流れるものの、暖かなサンルームのサロンではバラの香りに包まれ笑い声が絶えなかった。
 それを壁一枚隔てた隣の部屋の中でふくよかな男の姿と熊のような男が並んで深刻な顔を隠しきれなかった。
 それを見守っていた者達は初めて見るその表情に言葉を失い顔を青くする中

「既に俺達は防衛と迎撃の態勢に入っている。
 少し賑やかになるが、出来れば屋敷の中に居てほしい」
「いえ、逃げる方が得策では……」
「塵尻になる方が俺達も守りきれない。
 困難な敵ではないから出来れば一か所にまとまってもらえる方がホーリーも戦いやすくて助かる」
「で、では旦那様、庭師の防衛と迎撃許可を。
 そして我ら使用人も……」
「いや、ハイラは茶会を優先し、万が一の為に執事達を茶会に全員投入してくれ。
 万が一の事があれば奥方を命に代えて逃すように。
 クラウゼ騎士隊は屋敷の防御を、こんな時だから鎧は許可できないがすまないと」

 ふーと顔を真っ青にして采配を振るう当主は一気にやつれたようにも見えた。

「まさか我が家にも魔の手が伸びるとは……」

 貴族に限らず虐殺事件は貴族社会では知らない物がないほど恐怖に陥れ、我が家は大丈夫と願う者ほど領地へと帰らず王都に残っていた。
 社交シーズンと寒い地域は雪の為に帰る事が出来ずというのもあるが……

 いくら暢気だと言ってもこんな時にガーデンパーティーと言う茶会をする暢気な家はクラウゼ家な物だろう。

「アレクシスにも反対されていたというのに……」

 ましてや今は侯爵家の奥方が二人もいる。
 いくら断っても断りきれなかったのも落ち度だが押しかけて来た者達も責任はあると思うと言えるほど優しくはない貴族社会だが。
 止まらぬ冷や汗が流れるままに

「旦那様、もう少しドンと構えて下せぇ。
 旦那様が動揺すると使用人全員が動揺する。
 ホーリーを信じて旦那様も茶会を楽しんでくれ。
 まぁ、外は少し賑やかになるから家の中に入ってくれるといいんだが……」

 大きな体を申し訳ないというように小さくするも

「では、我ら騎士隊は屋敷の防御で?」
「ああ、まだ敷地内に侵入されたところだから。
 俺達で捕獲はしている」
「だが、君が居なくて大丈夫なのか?」

 庭師のリーダーでもあるカレヴァにクラウゼ家の騎士隊の男が疑問を抱けば

「俺は戦闘要員ではないからな。
 ホーリーが指揮を執っているから間違いないだろう。
 寧ろ邪魔だからアイーダの面倒を見れと屋敷に使いを出された」
「一応探査を全員にかけて置いたしバフ効果も可能な限り付与してきた」

 言いながらエリオの腕の中で昼寝をするアイーダを見守りながら窓から林の方へ視線を向け

「戦闘はまだまだ続いているが半数は捕獲したな。
 他の残りも大したものが居ない小物ばかりだし、防衛ラインを越えた奴らはいない」
「判るのですか?」

 ハイラが驚いたという顔を浮かべていれば

「ヴォーグの奴に散々鍛えられたので。
 この家の敷地内は総て手に取るようにわかる」
 
 驚きに目を見開くハイラを他所に窓を開けて

「『強化』『持久力』『魔力強化』」

 窓の外に向けて手を付きだし、その太い腕でも主張する腕輪が輝きを放つ。

「魔法の媒体……」

 杖でもなく腕輪のタイプは珍しく、しかもこの熊のような巨体でバッファーとは一瞬言葉を失うも、いくつもの魔法は少しのラグを置いて鳥の形となって飛び去って行ってしまった。

「ここからでも支援魔法は届くので?」

 どこにいるか判らないのにと思うも

「魔法を教えてもらった時固定概念にとらわれるなと言っていた。
 どうやって、どうすれば届くのかより明確に想像できれば距離は関係ないとあいつは言った。
 どこにいるか判らないなら探査の魔法で居場所が判ればいいし、うちの奴らなら魔力の波動で誰かが判る。
 あいつは魔法を鳥の姿に変えて飛ばしていたのをよく見てたから、イメージはすぐに固まった。
 でもあいつほどではないけどな」

言いながら魔法が成功したのか小さく「良し」と呟きながら拳を作るのだった。

「旦那様、これからホーリーが少し派手にやります。
 暫くの間屋敷の中に入っていてください」
「それは……大丈夫なのか?」

 
何かが吹き飛んできたりしたらガラスで大丈夫なのかと思うも突如空が暗くなった。

「今日は晴天の予定でしたのに?」

 ハイラが空を見上げながら天気が悪くなったからお客様をお屋敷の中にと案内するように指示を出す合間に突風が吹き、雨が降り出したと思えば叩き付けるような雨となりゴロゴロと空まで鳴り出した。

「さあ、旦那様方も明かりをつけて少し奥に行きましょう」

 言いながら手を引っ張って奥のソファへと座らせた直後

 何かの爆発のような音だと思った。

「うわぁああっ!!!」

 思わずと言うよ言うに飛び上がってしまえばそんな爆発音が次々に起きた。
 隣室からの悲鳴すら聞こえない大きな音に

「な、何なんだ?!」

 両耳を押さえて震えるクラウゼ伯はすっかりソファの上で縮こまってしまったがカレヴァは窓際で空を見上げ

「アイーダ、母さんが魔法を使ってるぞ。
 どうだ、美しいだろ。
 こんな美しい雷の花は母さんしか咲かせる事が出来ないんだぞ」

 いつの間にかお昼寝から目を覚ましていたアイーダはまだ眠いのか父親の腕の中で安心しきったように体を預け、でもその雷が母親の物だと判るのか手を伸ばして「あうー、んまー」なる意味の分からない言葉で懸命に語りかけているのを見ながら光よりも早く伝わる音の正体を知る。
 見上げれば幾筋の稲妻がこの広い大空を縦横無尽に走り、一本の木のごとく天と地を繋ぐ。
 眩しく、そして恐ろしく。
 驚異の自然現象は心臓をすくみ上げさせる産声と共に祝福するかのような光の花が咲き乱れた。

「ああ、戦闘はおわったようだ。
 全員縛らせよう。
 ここの騎士団に迎えを行かせてくれ。
 全員の両の手でも回収しきれんし逃がすつもりもない。
 ハイラ、騎士団に連絡して迎えに来てもらえ」

 連れて行くのは簡単だが、回収に来てもらう方があいつらの心証はいくらでも悪くできるからなとこの家に私設騎士隊があれど、彼らには見張る程度にするようにと言う指示は捕まえた者達をより凶悪犯だと言う心証にするためだと言えば、ハイラはなるほどと言いながら直ぐに騎士団に向えと一人の執事に指示を出すのだった。

「さあ旦那様は奥様方が雷の音で怯えているでしょうから慰めに行ってあげてください」
「そうですね。
 旦那様、ここは私でもう大丈夫かと思いますのでどうぞサロンへ」

 言われるも心臓に手を添えてなだめるようにしながらも、足元が頼りなくとも確かに妻の元へと向かうその後ろ姿にハイラもカレヴァもこっそりと笑う。

「後ほどヴォーグ殿に感謝をしなくてはいけませんね」
「何を?」

 どこまでもぶっきらぼうな男は何所までも言葉が少なめで、でも不思議と楽しいと思える会話にハイラは笑う。

「貴方方と出会わせてくれた縁にですよ」

 いつの間にか雲は千切れ千切れとなって眩しい青空が顔を出していた。
 眩しい日の光を見上げるながら今度ヴォーグが屋敷に来た折には何か御馳走をしなくてはいけませんねと言うも、

「でも今夜は茶会の成功も兼ねてお祝いをいたしましょう」
「肉がいいな」
「ヴォーグ殿がお持ちしたお肉も使いましょう」

 と声を弾ませる声はまだヴォーグが姿をくらませた事を知らなかった。













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