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うちの隊長は貴族年鑑の請求書の金額にびっくりしてます

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 シーヴォラ隊の隊舎は沈黙に陥っていた。
 少し前にもこんな事合ったなと思い出しながらも誰もそれは何だっけと口に出せずにいた。
 理由は簡単。
 ラグナーとアレクが宮廷騎士のエルヴェ・ゴルディーニと共に戻ってきたうえに作戦期間中は宮廷騎士の直下に入ると言われたのだから。
 団長の直属の部下がやって来た時以上の沈黙だった。
 しかもレドフォードに至ってはシーヴォラ隊に配属される前に受け賜ったラグナーと同じく一代限りの騎士爵しかもたない子爵家の四男だ。
 どこをどうしたら宮廷騎士の一員として行動する事になったのかとそればかりで一人頭をパンクさせていた。
 どうやらアルホルン討伐戦のあの一件の騎士達の中に上位貴族の娘が居たらしく、行方も知れずどうなっていると不安だった所に唯一持ち帰る事が出来た焼けた金属製の徽章バッチにその名前があったと言った。
 亡骸を連れて帰る事も出来ない状態の中でもどういった状態だったか想像は容易く、森の中で使命を終えた報告に悔む家族に死亡通知を通達した使者はしばらくの間泣き崩れる家族を見守ったのちに

「娘を助けて下さってありがとう」

 と言葉を預かるのだった。
 誇りある貴族の言葉でレドフォードは少しずつ癒されて行ったのだが……
 
「その娘は私の親戚筋の人でね、その方がレドフォード殿をひどく買っておられて是非とも一度体験させてほしいと願われたのですよ」

 ゴルディーニの親戚筋は先日偶然にも居合わせたヴェナブルズとは別の公爵家で……
 血縁上宮廷騎士団の一員にはなれなくても体験する事でいつかは隊長になれる道を与える事で感謝を示すようだ。

「最近貴族年鑑が手放せないな」

 ぽつりとつぶやくアレクはすぐに最新の貴族年鑑をシーヴォラ隊の名前で取り寄せ、改めて顔と名前を一致させるのだった。



「そんなわけで、この作戦の間は宮廷騎士の助力となる様に動く事になった。
 レーン小隊長はシーヴォラ隊を預けるのでいつもの通り采配を振るってもらいたい」

 まるで常日頃からレーンにシーヴォラ隊を任しているような、でも実質その事が多い事から飛び出したラグナーの指示にゴルディーニは何か聞いてはならない言葉を聞いたような気がしたが沈黙を通して黙って会議の流れを聞いていた。
 もちろんラグナーもしまったと思うも既に言ってしまった言葉の後の為に誰もがしまったという顔を隠して素知らぬ顔をするのだった。
 出来た隊員である。
 
「レドフォードは私達と共に宮廷騎士と共に動く事になるからレドフォード隊員はマリンに預け、けが人が出た隊に補充する様に」
「承りました」

 マリンも正直連絡係が足りなく助かったというもそう言ってられるのもいつまで持つかと黙って考えながら

「予測ではこの五日間が山場とされている。
 五日後の新月の日が一番魔族の力が大きくなると聞いているから、それまで我々を混乱に陥れる卑怯な妨害を一つでも多く阻止しろ」

 言いながら宮廷側の騎士との連絡の取り方と必要な情報を集める様にと指示を出せば、すぐに気付かれないように騎士服から私服に着替え、マークになるシーヴォラ隊の徽章に描かれた獣の部分だけのバッチを襟元や胸元につけて先発隊としてランダー、ルーツ、ノラスの部隊が街に潜り込んだ。
 ちなみに書かれている獣はリグバードと言う鳥でアルホルンなんかでよく囀っている虫を食べる鳥だ。
 虫を食べるのがお似合いだという事から徽章に描かれたという逸話があったりもするが、実物を見ると随分とかわいらしくて悪くないと思っているのは胸の中だけの話しだ。
 
「半数は交代で通常通り警邏に出る様に。
 隊舎をマリンとレーン、レドフォード達で回してもらうのは大変だが各自緊急事態だ。
 マリン、隊舎を昼夜問わず解放して休める時は休ませるように。
 会議室も休憩所に使っても構わんが、隊長室の施錠だけは忘れるな。
 隊舎内ならそこらへんで寝ても多少は目は瞑ってやるから、食堂の人達に迷惑だけはかえないように」
「食堂の人ですか?」

 思わずと言うようにゴルディーニは聞き直してしまうも

「シーヴォラ隊の下級騎士達はここで一日の食事を済ませる者が多いので、ここに居着く事で食事時間のルールを守らない者が出て食堂の人達がボイコットしない為の再確認です」
「それは再確認しなくてはいけない物なのだろうか……」

 首を傾ける宮廷騎士に

「宮廷騎士の皆様には想像が付かないと思いますが、下級騎士の給料で自分の家庭はもちろん互いの家族も支えなくてはいけない者が少なくなく、結果ここで自身を養わなくてはいけませんので」
「互いの両親もなんて……
 足りるのだろうかと聞いても……?」

 給料を知ってるだけにどうすれば三家族も支える事が出来るのだろうかと顔を青ざめるゴルディーニに

「その為の危険手当と深夜手当です。
 シーヴォラ隊の腕の見せ所ですよ。
 親達も全く働いてないわけではないので兄弟の教育費にわずかながら渡す程度だと聞いてます」

 と説明を付け加えればほっとしたような顔になったゴルディーニに誰もが顔を反らせた。

 その説明を真に受けるのか?と……

 こんな金銭感覚で国が運営されていたのかと逆に感心してしまうも、今回のこの任務にも特別手当を付けなくてはと言うゴルディーニの一言に誰もが黙っているのだった。









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