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うちの隊長は名誉と不名誉が同等と言う厚さに居た堪れないようです

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 ラグナーの一言で宮廷騎士を沈黙に叩き付けた後会議は静かに始まった。
 なかなか盛り上がらない会議の中ブルフォードの後ろで補佐役をしていた彼の叔父でもあるロイーズ・ディノワール伯(お目付け役)が会議を仕切っていた。
 誰も反論がないのか深々と進んでいるのか進んでいないのかわからない物の、ほぼ全員が同じ意見なのか討論する事もなく会議は進んでいた。
 すぐ横道にそれるシーヴォラ隊とは違い次々に議決していく内容にこれが会議と言う物かと感心しながら耳を傾けていた。

「出現が不明な以上王都を八等分してそれぞれ二名ずつ外周区画内周区画に配置。
 すぐ動けるように待機する。
 残りの半数は陛下、王宮内にて護衛、残りは休息とし、三時間ごとに時計回りで交代する。
 なお、シーヴォラ隊からの今回の作戦はシーヴォラ隊長とクラウゼ副隊長、レドフォード小隊長の三名を宮廷騎士クラスと扱い、残りの者には連絡係、警邏の報告を上げてもらうが、そちらの代表は?」
「レーン小隊長が適任かと」
「レーン殿か。彼も長い事小隊長勤めだったな」
「私を含めて上司に恵まれなかったので」

 室内に小さな笑い声が響いた。
 
「彼の経歴は確か隊長が三人代わっていたな。
 最初は殉職で次が事故死で君か」
「最初の隊長は私が初めて配属された先の隊長でしたのでいろいろ思い出深いです」
「ああ、彼は私と学友でとんでもない新人が入ってきたと君の事をよく話していたよ」

 エルヴェ・ゴルディーニと名乗った騎士は手を上げ

「その折レーン殿に何とか手懐けてもらったときいてます。
 彼の指導力は噂でも聞くので、この状況でも大丈夫かと思います」
「へぇ、ゴルディーニに言わせるのに何であまり名前を聞かなかったのかな?」

 思いのほかレーンの評価が宮廷騎士の中で高くて少し嬉しく思ってしまうも別の騎士の呟きに

「それはそこの方の功績の方が目まぐるしいからですよ」

 さっと視線を逸らせてしまったアレクとラグナーのコンビに室内はまた失笑が広がる。

「まぁ、アルホルンの件でシーヴォラ隊長の経歴は調べ直したが、陛下が気に入るわけだ」

 何でこんな所に本を出すのかと言うような分厚い報告書の束と同時に出来上がった始末書の束をゴルディーニは会議のテーブルの真ん中にポンと置かれて誰もがまたありえんなと失笑。

「報告書と始末書が同じ厚さと言うのは中々見ないなぁ」
「宮廷騎士としては忌々しき経歴だが?」
「ちなみにこの報告書と始末書を纏められたのは陛下です。
 任務の報告と始末書が常に併せて提出されているので見比べて読んでいくとその時の景色が見えてくるとおっしゃって、以来ラグナー殿のファンとなってます」
「……」

 仕事の報告書を見てもらえるというのはとても名誉な事なのだが、同時に始末書も見られていて、何があったか空想して楽しむという言葉にはさすがにアレクにどういう事だと机の下で足を小突いてしまうもアレクは知るかというように思いっきり足を踏み返してきた。
 再度の沈黙の中、ブルフォードは咳払いを一つして

 「それはまた今度の時に楽しませてもらうとして、以上で会議を終了する」
 
 合図に全員が席を立って一斉に行動に出た。
 俺達にはゴルディーニ殿が付いて指導に着くと言ってくれた。
 なにぶん初めてなので俺達は三人で動く事になったが慣れたら宮廷騎士と組んでもらうとも言われているので、緊張は止まらない。
 隊舎に向かう間にも小隊長達の特徴を説明しながら今回の任務は休憩が一番最後になる為に体で覚える時間もしっかりとある。
 そして六時間の休息を貰えることになるも城に戻ったり報告で実質五時間だ。

「とにかくスピードと判断力、そして決断力が必要になる。
 誰に指示するわけでもなく誰の指示を貰う事もなく一人で総てを判断しなくてはいけない。
 まぁ、一人で騎士団の総てをすると思ってくれればいい。
 宮廷騎士とは言え訓練を積む者だが、ブルフォードですらようやく訓練が終わりに近づいてるという所であの体たらく。
 ディノワール殿も苦労なされる」

 くつくつ笑う割にはふと引っかかりを覚えて

「訓練が終わってないのに……我々の一般的な見解だとブルフォード殿が宮廷騎士団の筆頭騎士だと思いましたが?」

 聞けば

「まぁ、訓練の一環で今一番色んな所に顔を出しているから筆頭騎士のように思われているだけだ。
 もちろん団長が腕でもすべて筆頭騎士だが、団長にも事情があってなかなか動けないからな。
 だったら代わりに目を引く者がなるべきだと判断してブルフォード殿が訓練の名の下筆頭騎士として立ってもらっている」
「つまり、侯爵家当主なのに宮廷騎士とは言え騎士の身分と言う事でしょうか?」
「さすがクラウゼ家次期当主。
 お家に血を残さなくてはならない当主が剣を持って戦うなんて本来ならあってはいけない。
 故に騎士団には爵位の持つ家の二男三男が身を立てる為にもと言う意味合いも込めて多いのだが……
 当主となれば国も保護しなくてはいけないからな」
「保護だなんて、守るべきは王家なのでは?」

 間違ってないよな?と思いながらもアレクを見ればそうだと頷くが

「こういう言い方はクラウゼ家には失礼かもしれないが、王家こそ守るべき血筋にあたるが、それを守る、古くから王家を守る家柄も守るべき血筋に当る。
 なんせ今いる宮廷騎士団は過去に王家からその貴き血を分けて戴いた家柄だからな」

 あまりに偏った選出だと思ったらそう言った意味があったのかと、宮廷騎士団を目指して挫折した物が多いというのにそれは何だと心の中で吠えてしまうが

「もちろん意味もある。
 寧ろ王家に、いや、国に首輪を付けられている状態と思ってもらえるのが正しい見解だが、判らないだろうから好きに思ってもらっても構わない」

 意味が解らないと困惑していれば王宮にある宮廷騎士の区画から騎士団の隊舎のある区画に移る僅かな誰もが通れる通路に出た。
 身分ある者のみ通れる、そしてこの巨大な王宮で働く者達が急ぎ足で通り抜けて行く合間を口を閉ざして抜けようとすれば

「父上!」

 まだ幼いと言っても良い若い男が父親と待ち合わせをしていたのか駆け寄っていた。
 あまり王宮では見ない年齢に目立っていた若者は父親によく似たアレクと同じ黒い髪と瞳の透き通った白い肌の若者だった。
 大きな瞳と頬はまだふっくらとしていて何不自由なく育ったのだろう可愛いという言葉が似合ういずれは何所の令嬢に奪い合いされる事になるだろう若者は従者を連れて父親に大きなカバンを渡していた。

「当面の着替えと指示のあった書類です」
「すまないな。
 こういう時でなければお前にも見学させたかったのだが」
「父上、お気持ちだけで十分です」

 子を思う父親と父親を慕う息子と言う光景は血で血を荒らそう貴族社会の中では眩しくて思わずと言うように眺めてしまえば

「ああ、ヴェナブルズ公の当主とご子息ですね」

 ゴルディーニ殿は説明と言う作業のように感情も乗せずの言葉に

「ヴェナブルズと言えば筆頭公爵家でしたね」
「と言う事はあの方が次の公爵様か」

 まだあんなに若いのかと眺めていれば

「確かヴェナブルズ公にはもう一人、確か私より一つか二つ年上の長男が居たと思いましたが……」

 アレクが記憶を絞り出すように言えばゴルディーニ殿はそうだと頷き

「遊学に出てなかなか戻ってこないようでな。
 我が国の社交界にも全く顔を出さずヴェナブルズ公も頭を痛めてらっしゃる」
「それは……
 変わった御仁で」

 公爵家の跡取り息子、しかもこの国に四家ある家の筆頭公爵家と言えば王家に次ぐ権力を持てるというのに他の貴族と顔合わせどころか横の繋がりを作ろうとしないのは

「それは貴族としてまずいんじゃないのか?」

 ラグナーでもわかる貴族の横の繋がりはその子供にも受け継がれていく為に確固たる結束が必要な事を。
 その結束からはじき出されれば社交界に顔も出せず、国の行く末の話しすら聞けず、それは騎士団の中でも顕著に表れ……

 普段は明るく振舞うランダーやイリスティーナは親や跡取りの兄達がいろいろしでかした為に結果まともな結婚の話しすら来なく、あの美貌でありながら金しかない老いた貴族の側室にしかなれないのだ。
 そんな親兄弟の為に社交界に顔も出せるはずもなく、それならいっそ騎士となって社交界に出ない理由を作ればいいと今に至る。
 
「まずいも何も、それはヴェナブルズ公のお家の出来事。
 今年社交界デビューした弟君の手腕が当面の見どころでしょうか」

 言いながら短い挨拶と共に別れて行った親子を見送りながらも俺達は隊舎のある一般の方は進入禁止の騎士団の区画へと入るのだった。









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