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うちの隊長は隣室の不穏の言葉をまだ知らない幸せ者です

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 隊長が室内に入った所で視線でドアを閉めろとの指示に従えば全員に席に着けと言う。
  なんとも気まずい空気が流れる中

「多分先ほどの警邏の話しだと思うが、あれはお前達の完全な勘違いだという事をまずは理解しろ」

 こめかみに青筋を立てる姿こそ一番美しいと思える隊長に

「えー、だったら隊長はヴォーグに愛人がいる事が許せるのですか?」

 貴族なら子供を残す為ならばそれは避けて通れない事だが、あくまでも貴族はラグナーであり、ヴォーグはただの伴侶でしかないのだ。
 貴族の特権を利用できる平民でしかないのだから愛人が居るとなれば単なる浮気でしかない。

「あれは愛人じゃなくって、多分変装だ。
 遠目だから確信があるわけじゃないが、あの背格好には心当たりがある。
 何で女装までしてるのかは判らないが、少なくとも今あいつは任務に出かけて王都に居ない事になってるのだから、何か予想外の事があってヴォーグを頼ってるって事ぐらいは想像ができている」

 隊長は何かを考えるように腕を組んで難しい顔をしていた。

「ラグナー、それでさっきからずっと難しい顔をしてたのか?
 けどずいぶん具体的な事を言う割には肝心の所は誤魔化すのかよ?」

 レーンの言葉にラグナーはアレクを見上げ

「まぁ、あれはヴォーグの友人関係を考えれば大体想像はつくと思う。
 その中の一人だと思ってもらっても間違いないだろう」

 言いながら俺達の顔を見て

「先日ヴォーグからギルドの話しを聞いた。
 ヴォーグが所属するギルドではないが、最近妙に動きのおかしいギルドがあると」

 だから何だと言う様に誰もが首をかしげていた。

「どうもそのギルドは元々零細ギルドで活動も活発ではない所だったのだが、ギルド長が変わった所から様子も一転したという。
 例えばその日暮らしの冒険者を集めたり、冒険者登録の出来ない子供をダンジョンに連れてポーターをさせながら教育させていたり、怪我で引退した冒険者に鍛冶屋や薬屋をさせたりしていると」
「へー、何か良心的じゃないですか?」

 思わず感心してしまえば誰もがその通りと頷いていた。

「まぁ、ここまでの話しを聞けば確かにそうなんだが、その顔触れを見て素直に頷けないというのがヴォーグが所属するギルド長の言葉だ。
 そこの新たに着いたギルド長自体が曰く付きの冒険者らしい。
 仲間をダンジョンに見捨てる事はいつもの事だし、怪我して連れ帰るのがめんどな冒険者を殺して帰って来る事もザラだったという。
 女性トラブルも派手で、下っ端の使い捨ては当たり前らしい」

 その内容に誰もが眉間にしわを寄せていた。

「結局の所掴まって何年か牢の中に居たそうだが、半年前ほど釈放されたらしい。
 それからここまで短期間によくぞ資金があったなと言う不思議な疑問が出てきたんだ」
「ですが、ヴォーグの様子を見る限りそれくらい冒険者なら普通じゃないのですか?」

 イリスティーナの疑問に隊長は首を横に振って

「あいつの依頼は正直言うといつも俺が付いて行く事がやっとの内容だ。
 もちろん俺達を置いてあいつは一人でうろうろした内容はあのホルガーでさえぶっ倒れた物だ。
 だから、あいつを冒険者の標準とするのは止めろ。
 他の冒険者が聞いたら可哀想だし、この間ついて行った草刈りでワイバーンの群れを一人で仕留めてきたあいつに正直騎士団の存在さえ疑問になった」

 死んだ目で

「ワイバーンの肉って美味しいですよっていい笑顔で捌きだした時正直ヴォーグの家の肉事情本気で聞かないって心に決めたからな」

 その恩恵を頂くアレクも窓から見える空に浮かぶ雲に視線を投げ、ヴォーグの家で食事にありついた経験のあるレドフォードはあの時食べた肉は一体何だったんだとブツブツと自分だけの世界に沈んでいくのだった。

「まぁ、話はそれたがヴォーグ程稼ぐような奴がそこらへんに、ましてや牢屋に入れられて半年ほどの男があるわけがない。
 つまり、誰か他に資金源が居るって事になり、それを調べている者がいる、それを補助する者が居たってだけの話しだ」

 それからゆっくりと俺達の顔を見て

「この事は口外するなよ。質問も一切受け付けん。
 したらすぐに団長室行だ」
「団長室行って何で……」

 思わずと言うように呻くマリンに

「どうやらこの一件は先日の帳簿の書き換えの事件にも絡んでいるらしい。
 件のギルドの手持ちの武器がどうやら騎士団の剣に酷似していると、ヴォーグがどこからか入手してきた」

 それって……

「宮廷騎士団の奴らが動いているから俺達は知らないふりをして警戒しとけと言う事だ。
 だから、今朝の警邏の一件はその事だと判断するし、ギルドと騎士団が連携取れない関係の以上、ヴォーグがその連絡係ではないが世間話の提供役なあいつを目立たせる行動はするな」

 ただでさえ色んな事で目立っているのだからと呟きながら背もたれに全身を預けていた。
 
「やっぱりアルホルンの一件はまずいよなー。
 完全にヴォーグの存在が噂で広まっただろうしなー」

 目立ってるよなー何てぶつくさ言いながら俺達の顔を見て

「あ、悪い。各自仕事に戻る様に」

 それだけを言い残して副隊長を隣室に呼んで籠ってしまうのだった。
 と言うかだ。

「なぁ、ヴォーグって一体何者だ?
 ワイバーンの群れを一人で仕留めるなんて普通じゃないぞ?」

 レドフォードは呻くように口にした言葉にレーン小隊長が席を立ち

「その事も含めて口にするな。
 そして考えるな。
 お前らの好奇心を俺は嫌いではないが、世の中首を突っ込んではいけない世界がすぐそばにあるっていう事も覚えて置け」

 言いながら午後の訓練に行ってくると少し早目に席を立ったレーン小隊に続くように俺も席を立つが

「ルーツ悪いが午後の警備を変わって欲しい。
 マリン会議室を借りるから鍵をくれ」
「ああ、別に構わないが……」
「うちの奴らと少し勉強会をするだけだ」
「了解、時間はルーツの警備の時間が終わるまでな。
 その後ルーツのとこが警備の時間だから入れ替えるって事で構わないよな?」
「了解、すまんな」

 そうやって仕事に戻るも未だイリスティーナとランダーは何やらブツブツと言っていた。

「ワイバーンの肉相手じゃ私達に勝ち目はないわ。
 もういっその事隊長の愛人枠に収まる道を探しましょう」
「ええ、伯爵となられたのだから妾でもいいわ。
 隊長は本当に食べ物に弱いんだから、私達の家では到底手を出せない物をポンポン与えてるあいつに喧嘩売るよりも一緒にエロい顔でご飯を食べる隊長を眺める方が得策ね。
 あの顔を眺める事が出来るなら私ヴォーグに負けても悔しくないわ」
「もう、ほんっとよね!
 何で冒険者の金持ち癖に一般採用で事務員になるのよ。
 あの肉コネで上級士官だって簡単だったはずなのに」

「お前らいい加減に黙れ!!」

 ただでさえ胃がきりきりとするのに女の本音トークには男として軽く女性不信になるしかない会話に鍵を貰って隊の奴らを連れてさっさと逃げる事にしたレドフォードの精神面の回復の道のりはまだまだ遠そうだった。
 
 
















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