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うちの隊長はチクリに行きます

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 王家主催の夜会深夜を通り越して明け方近くまで開催される為に城の周囲の警備の為にシーヴォラ隊は朝まで任務となる。
 だけど、そのまま朝から仕事と言うわけにはいかないのでアレクから既に明け方近くになるが休んで昼から顔を出すように提案されて、視線で人が殺せるのではないかと言う嫉妬の中心にいて神経をすり減らしたラグナーはそれをありがたく受け入れるのだった。
 隊舎で休もうとしたものの、妙に疲れ果てた為に森の匂いのする家に帰ってヴォーグに甘えさせてもらいたいなと思って、隊舎待機のノラスとシルビオに声をかけて一度家に帰る事にした。
 冬の真っ只中の明け方は凍えるように寒く、だけどきっとぬくぬくと寝ているだろうヴォーグをこの冷え切った指先で起こして温めてもらおうと思えば……
 起こすのは悪くは思う物の代えられない魅力だった。
 寒さを誤魔化すように小走りで駆けて行けば朝早いパン屋は既に起きていて煙突から美味しそうな匂いを街中に広めていた。
 そんな誘惑を耐えてアパートの前に立ち、玄関を見て眉をひそめる。
 何時もなら明かりの消えている時間帯と言うのにはめ殺しの窓からは明かりが零れていた。
 こんな時間とは言え来客かとそーっとドアを潜れば部屋の中から何か言い争うまでもないが、あまり雰囲気の良くない声が響いていた。
 キッチンの閉ざされた扉の為に会話は判らないもあまりに穏やかじゃない声はついに悲鳴が響いた。

「もういいからほっといてくれ!」

 泣き声にも似た怒りを含むヴォーグの声と共に強く机を叩く音が聞こえれば俺は閉ざされていた扉を音を立てる様にして大きく開け放った。
 瞬間二人が振り返りヴォーグは立ち上がったまま目を大きく瞠って俺を見て、静かに座ったままの来客はまったく予想外で俺も眉をひそめた。
 それよりもあまりに無表情の、まるで死んでいるのではないかと言うような色と感情のない瞳のヴォーグを俺の背に隠して

「宮廷騎士団ヒューバート・ブルフォード殿とお見受けしますが、このような時間だというのに穏やかではないですね」
「シーヴォラ隊長、今宵の主役がもう帰宅とは……」
「事前の準備など忙しかったので先に休ませてもらっただけです。
 それよりもブルフォード殿こそ宮廷騎士がこのような時間帯に護衛も付けずにこのような下町の下級士官の家にお見えになるとは……」

 若き未婚の侯爵家当主としてあまりよろしくないのでは?

 あえて口に出さずに忠告をする。

「なに、先日のアルホルンの折りの話しがヒートアップしただけだ」
「少々度を超えているようにお見受けしましたが?」

 言い返せば彼は俺を無視して外套を手にしてヴォーグを一瞥し

「だからと言ってこんなのは俺は反対だという事を覚えておいてほしい。
 お前は常に正しくなくてはならないのだから」

 そう言って外套を羽織りながらまだ薄暗い街中を人目に触れないように去って行ってしまった。
 疲れた様に座るヴォーグに手を伸ばそうとするも、来客だというのに茶の一杯も出した様子のない小さなテーブルを見て、俺は黙って暖かなハーブティーを入れてヴォーグの前に置いた。
 見よう見まねで覚えた俺好みの茶で悪いがと二人分用意し、ヴォーグの目の前に座る。
 どこか虚ろな視線はそれからしばらくして茶がある事に気付いたというようにゆっくりと視線を上げてヴォーグは俺を見上げるも何か口を開きかけてギュッと口を閉ざすのだった。

「まずは飲め。
 顔色が悪いし身体も冷えてる。
 飲んだらベッドに行こう。
 少し寝た方が良い」

 伸ばした手で指を絡めもう片方の手で少し眺めの前髪をかき分けておでこにキスを落す。
 もう怖いモノはない、そう言い聞かせるように髪を何度か撫でれば、震えるような指先がカップに伸びて、ゆっくりと時間をかけて何とか半分ほど飲みきった頃には茶はすっかりと冷めきっていた。
 カップを置いた手を掬い取って二階へと導けば、力ない足取りでも確かに付いてきてくれて、俺達はそのままベットへともぐりこんだ。
 隊服が皺になるのもお構いなしに俺は疲れ果てているヴォーグの頭を抱きしめながらあやし続ければ朝を迎えた頃にようやくヴォーグは眠りに就くのだった。

 俺もいつの間にか転寝をしていたが、気が付けば城に戻らなくてはいけない時間。
 あまり眠りの深くないヴォーグより早く起きる事に新鮮さを覚えるも寝ていても顔色はまだあまりよくなかった。
 氷のように冷たかった指先は辛うじて人の温かさを取り戻していたが、それでも体調の悪さは見て取れて一枚のメモ書きを置いておいた。

 今日の午後からの仕事は休むように、と……
 意味ありげな視線でグロス副団長から教えてもらったヴォーグのスケジュールはこんな意味合いで与えられた物ではなかっただろうと溜息を零すもこうやって寄り添えた事には感謝するしかない。
 すぐ横で動けばいくらなんでも気付いているだろうヴォーグの耳元に寄り添い

「連絡は入れておくから、今日は何も考えずに過ごすんだ」

 何があったかは知らない。
 想像はつく物の、何であそこまで熱心に語り合う理由がどこにあるのか俺は知らない。
 ましてや俺の留守を狙ってくるような奴に遠慮する理由はない。
 予想通り皺だらけになってしまった隊服を身に纏うもシャツだけは着替えた。
 隊服は隊舎に戻れば着替えがあるからそこまで気にする必要もない。
 そっと階段を下りて家の鍵を閉めて城へと向かうも、ヴォーグで擦り切れた神経を癒すつもりだったのにとんだところに出くわしてしまうも間に合ったか判らないがとりあえず弱弱しくも握り返してくれた手が俺を頼ってくれたようで嬉しかった。
 守っているつもりでいつも守られていたのは俺ばかりで、騎士団の隊長なのに何もやってやれない歯がゆさの中でやっと何か一つヴォーグを守れた気がした。
 そんな小さな出来事に満足を覚えるも、もっと早く二人の間に入る事が出来ればと後悔だけは積もって行く間に城へと着き、自隊の自室で着替え終わる頃アレクがやってきて顔を顰めていた。

「何があった……」

 きっと予想していたような顔をしてなかったからなのだろう。
 俺はどう話そうかと悩むも結局この件には黙ったままアレクについて来いと団長室へと向かった。
 何も言わず黙ったままついてきたアレクを廊下に置いて

「ラグナー・シーヴォラです。取次ぎを」

 扉越しでも話は聞こえる為に衛兵と共に待機する事になったアレクにここで待てと言い残して団長室へと入って行った。





 そこにはすでに来客があった。 
 見知った顔のエーンルート侯だった。
 宰相がこんな所にと驚くも

「シーヴォラ隊長、昨日は早々に任務にお戻りになられてゆっくり話も出来なく妻も残念がっておりました。
 改めましておめでとう」
「ありがとうございます」

 ゆったりとしたソファに身を埋めながらにこやかに話をする、でも圧倒する貫禄はさすがだというしかないだろう。
 
「所で今日はどのような話を?」

 俺が来るとろくな話を持ってこないと団長はエーンルート侯に告げ口するも

「いえ、今日はヴォーグの体調が悪いようで今日と明日少し休ませてもらえばと願い出に」
「おや、珍しい。
 腹でも出して風邪でも引きましたか?」

 まるで小さな子供を相手にくすくすと笑うエーンルート侯であったが、ここに来た瞬間からずっと表情の硬い俺に団長が気付いてか

「何があった?
 話してみろ」

 少し驚いた顔のエーンルート侯や部屋の傍らで書類を書く補佐の人達の視線を視界の外で感じるも、団長は俺が話をするまで退出を許さないのだろうとそれも考えてここに来たから遠慮なく口を開いた。

「まるで告げ口のようで心苦しいのですが……」

 心苦しいなど全く思ってないけど一応そう断って昨夜の一件を話すのだった。
 


「ふむ、ブルフォード殿にも困ったものですねぇ」

 真っ先に俺の話しに返したのはエーンルート侯だった。
 
「ああ、ブルフォード侯とは彼がまだおむつをしている頃からの付き合いでね。
 規律の厳しい家で育ったせいか少しばかり正義感が強いのが玉に瑕なのだよ。
 自分の正義を他人に押し付ける悪い癖も昔からあってね、それがどれだけ相手に苦痛か今まで散々教え説いてきたというのに未だに理解できないとは……
 侯爵を継いだというのに何とも情けない話だ」

 言いながらも周囲を見回して

「貴方達も親から受け継ぐ爵位の意味をはき違えてはいけませんよ。
 貴方達が爵位を受け継ぐにふさわしいからではなく、素晴らしき爵位を繋いでいくにふさわしく教育されて育った来た事を信じて託していくのです。
 間違っても自分が正しく素晴らしいから爵位を受け継いだなんて勘違いしてはいけませんよ」

 と、貴族の子息へと教育的一言が飛び出して

「それは団長殿もそうですよ。
 もういい加減いいお年なのだからどなたかお嫁を頂いて受け継ぐべき子供の教育を始めなくては、後々大変な事になりますよ?
 お嫁を頂かないのであれば早々に弟君に爵位を渡して甥御殿の教育に取り掛かりなさい」

 苦虫を潰す団長の顔を見て笑いながら席を立った。

「さて、私も仕事に戻る前に旧知の親友の息子殿に一度会わなくてはいけませんねぇ」

 さてさて、あの子はどうやって責任を取るつもりでしょう?と呟きながら俺の肩に手を置く。

「今日と明日は休みを頂いてヴォーグ殿の側に居てお上げなさい。
 独身の団長殿には理解出来ないでしょうが、伴侶を持つ身ならば伴侶を最優先しなくてはいけません。
 最もこう言う事は全く理解できない独身の団長殿かもしれませんが……
 自分の表彰式の準備を当の本人にさせる気の利かなさに独身で居る方が平和かもしれませんねぇ……」

 じろりとそのような事をさせてしまった団長室の面々の顔ぶれを睨みつけ

「十分に今日と明日ぐらい休みを頂いてもいいぐらいの働きをしているのです。
 私から陛下の方にもお願いしておきますので後の事はクラウゼ殿にお任せしておきなさい。
 ああ、貴方の所にいるレドフォードでしたか?
 あの方もアルホルンから戻って来て以来書類仕事もいい仕事をしています。
 彼にもそろそろもう一つ上の仕事を任せてみるのもいいと思いますよ?」

 では、と挨拶をして去って行った宰相の言葉の後は長い事沈黙がこの部屋を支配して

「シーヴォラ隊長、今日と明日の休暇を認める。 
 詳細は宰相の計らいの通りクラウゼ副隊長と詰めてからの休暇とするように」
「ありがとうございます」

 そう言って俺は退出を許してもらい、そして部屋を出た所でいきなりの休暇に動揺して隊舎に戻る道すがらどうしてこういう事になったのか頭を抱えるも、今まで働いても働いても仕事が減らないどころか増えて行って休みがない事が普通だった為に突然の休暇と言う任務にこれはどうするべきかと悩んでしまう俺をアレクは呆れた視線で見守ってくれていた。
 隊舎でレドフォードを呼んでとあの鬼の団長がと三人で何が起きたのか考えるよりも先に

「隊長はとりあえずすぐに走ってでも家に帰りましょう」

 何故かレドフォードの残念な子を見る目での説得に俺は動揺しながらも言われたとおり走って帰るのだった。

 そしてその指摘が正しかったというように、まだベットで眠っていたヴォーグは何の夢を見ているのか知らないが涙を流していて……

 その理由を教えてもらえない涙に何もしてあげれない俺は胸が苦しくてそっと手を繋いで寄り添うぐらいしか出来なかった。






























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