うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長はやっぱり少し位はいちゃいちゃしたいようです

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 やたらと立派な不動産屋は貴族相手の洒落たレストランのような作りだった。
 いかにも貴族相手に物件を取り扱ってますというような外観に

「ホルガー、よくこんな店に入れたな」
「まぁ、勢いの怖さが良く判るだろ?」

 自慢にもならない事に誰ともなく溜息を零して店に入ればすぐに執事のような男が俺達を個室に案内してくれた。

「これはハリ様。
 本日はどのようなご用件でしょう」

 恭しく頭を下げた男に

「先日の手付金を用意した」

 思わず硬くなる声だけど執事はニコリといい顔をして

「すぐに担当をお呼びします」

 去って行く姿を見送ればすぐに侍女がやってきてお茶を用意してくれた。
 侍女が頭を下げて去ったのを見計らって

「一応念の為に……」

 ヴォーグは紅茶に『解毒』の魔法をかけた。
 ホルガーとトゥロはまさかと思うも魔法に反応があり驚きに息を呑み込んだ。

「思考を邪魔する程度だとは思うがこんな物を仕込んでくれたんだ。
 平民相手に何をやってもいいだろうって印象はもう拭えないよ」

 そう言って一口飲んだ後「大丈夫」と言った呟きにホルガーもトゥロもヴォーグの図太さに身を震わせるのだった。
 それからしばらくもしないうちに身なりと恰幅の良い男が現れて俺達を一人一人ゆっくりと確認する様に見て
 
「これはこれはハリ様いらっしゃいませ。
 本日は手付金をお持ちいただいてありがとうございます」

 すぐ横で先ほどの受付の執事がワゴンを引いてやってきた。
 そこにはいろいろな書類が乗せられていて、銀色のトレーも置かれてあった。

「本日は【暁の大牙】の皆様もご一緒ですか?」

 にこやかな顔は驚きも何もなく、商売用の顔だと判断すればここに来る間に事前にホルガー達に約束した通りこれからの対応は俺がすると言って俺がまず名前を名乗る事にした。

「彼は【暁の大牙】の方ですが、俺はヴォーグ・ミューラといいます。
 彼らのあの屋敷の購入に当たり出資者の一人として今回の契約についていろいろ説明を聞きたく参りました」

 そこまで言えば

「そうでしたか。
 あまりに購入を早く進めていたようなのですが、出資者がいらしたとは……」

 さすがに第三者が入って来るとは想定外だったのか視線が一瞬泳ぐのを見て、この契約はこの男の暴走だと理解した。
 金を支払ってもらえればこいつの成績になるし、契約が違反してもいこの短期間に損は何も出ない。
 そもそも数年も空き家となっている誰も手を付けれないような事故物件に、いや、他に購入者もいただろうもこの男のエサになっていた可能性に机の下で手を強く握りしめてしまう。

「お名前をお聞きしても?」
「ジムゾン・オックスです。お見知りおきを」

 笑顔の中にも噴き出す汗にポケットから取り出したハンカチが大活躍していた。

「とりあえず手付金の金貨千枚を確認お願いします」

 その数字に隣に立っていた執事はぎょっとした顔でオックスを見ていた。
 手付金にしてはどう考えても多すぎる金額に口をぽかんと開けたままオックスを見つめる執事を見て俺は色々な可能性を模索する中、執事の驚きが消える前に目の前で千枚の金貨を机の上にドンと置いた。
 
「悪いね。
 普通なら白金貨で用意するのがスマートだと思うんだけど、何分五日間という短い期間に急いでしまったからね。
 君、手伝ってもらえるかな?」

 そう言って俺達はその金貨に手を出す事無く執事一人に金貨を数えさせた。
 時間はかかったものの無事金貨を数え終えた所で俺は満足げに頷き

「では受領書を一筆おねがいします」

 金貨の山でワゴンが山積みな為に、同僚にもう一台ワゴンを持ってきてもらっていた。
 もちろんその同僚の方も金貨の山に驚きは隠せないようで、オックスの汗がまた更に激しく噴き出していた。
 受領書を書き込む前に俺はその受領書を拝借して内容を読み上げホルガーに間違いないか、そして二人の執事とオックスにも間違いないか丁寧に聞いてから戻しサインを書き込もうとした所でするりとその書類を取り上げそのペンを止めさせた。
 室内の一人を除いて全員が首をかしげるのを見てから俺は受領書を睨みつけて

「これは感心しませんね」

 受領書を全員に見せる様にして『解除』の魔法をかけた。
 ちょっとした家なら部屋の鍵代わりに使う汎用性の高い魔法の一つ。
 誰でも知る呪文を唱えて受領書の変化する様を全員に見せれば

「オックス様!
 これは一体どういった事です!」
「これは、これは何と言う不正を!!!」
「いや、俺は、俺は何も知らん!」

 二人の執事の悲鳴に少ししてから駆けつけてきた他の執事とオックスよりも身なりの良い男にオックスは尻餅をついて壁際まで後ずさっていた。

「一体何事!
 お客様がご来店中に大きい声を出して……」
「私な何も知らん!何か間違いがあったんだ!」

 身なりの良い男に最初から対応していた執事は他の執事と部屋の外で待機する私設兵の見守る中説明をしていた。
 もちろん「まったくでたらめだ」とオックスが喚く為に私設兵に取り押さえられるも口はなお喚き散らかされていた。
 だけど執事によってオーナーに手渡された『解除』された受領書には一つ桁の違う数字が書き込まれていて……
 青ざめたのは一番身なりのいいオーナーで、それから伝染する様に全員の顔色が真っ青になっていた。

「お、お前と言う奴は……!!!」
「私は知らない!私は薄汚いギルド風情に嵌められたんだ!」
 
 なお喚くオックスに真っ青から真っ赤に変化したオーナーの顔は私設兵に地下牢へと繋げと命令するも

「まだお話を聞かなくてはならいのでもう少し待っていただけましょうか?
 拘束はさせてもらいますが」

 聞けばオーナーの二つ返事にオックスは顔を青から白へと変化させていた。


「オーナーでよろしいでしょうか?
 まずは我々のこの契約書を見てもらってから話をさせてもらいたいとおもいます」

 そう言ってオーナーは誰もの耳に届く用に声を上げて読み上げればどんどん顔を真っ赤にしていき、そして聞いていた執事、私兵は顔を真っ青にさせていて……

 読み終える頃にはオーナーは真っ白になっていた……
 
「とりあえずですが、この屋敷の本当の金額をまずお教えください」

 聞けば執事が一人走り出し、物件の資料を持って来た。
 そこには金貨八千枚とかなりの上乗せの金額に俺は首をかしげる。 

「これはどういう事でしょう?」
 
 金貨五千枚も上乗せされれば嫌でも聞くしかない状況に上乗せした本人はすでにまともにしゃべる事が出来ない状態になっていた。

「まさか、貴族相手の不動産屋が数字を読めないなんて思えないし?」

 この店の教育の低さを指摘する。

「そしてこの契約の内容……
 国の法とも随分かけ離れてますね?」

 あまりに奴隷目的の内容、と言うかこの国では奴隷を売る事は一応禁止されている。
 奴隷の存在自体は問題では無い為に他国から、そして犯罪者を購入してもらう事は認められている為に在って無いような奴隷禁止法だが、こう言った跡に残るような方法は奴隷を扱う奴らは誰もしない。

「それに、読み書きできない相手に文書を読み上げる当人が内容と全く違う事を言われたらどうしようもないじゃないですか」
「そうですね。それはこちらの手落ちでして……」

 しどろもどろのオーナーにヴォーグはにっこりと笑い

「では正しく契約書の書き換えをしていただきましょうか。
 もちろんこの場の皆様の目の前で。
 そうそう、証拠はないのですが先ほどこちらにお茶を運んでいただいた侍女も何やら知っているようなのでお連れしていただいてもよろしいでしょうか?
 ああ、安心してください。
 この店に対してすでに信頼はないのですが、こちらのハリ様はあのお屋敷を手に入れる事が夢なので購入する意思は変りませんよ?」

 迷惑料としての値引きと口止め料としても当然ですよねと視線で訴えるヴォーグにオーナーは冷や汗を垂らしながら契約書に数字から書き込んでいた。

「金貨五千枚ですね。
 このような事故物件として取り扱われた屋敷なので半額ほどを要望したいのですが……
 あの立地であの敷地面積でも土地代だけでもこれだけはしましょうか。
    数年の空き家として家屋の価値は既にないものですしね。
 ハリ様も納得いただけますか?」

 聞けばまるで何が起きてるか判らないという顔で頷く様子に俺は呆れながら溜息を零し

「では一応せっかくかき集めたので金貨千枚を手付金で。
 残り金貨四千枚の支払期限は十年計画を、そして前倒しも良い事を記入お願いします。
 返済不可の折りは建物の差し押さえで、そして差引分の金額を要求でいいですよね?
 奴隷契約はこの国の法では一応禁止されてますので」

 最後に力強く言えばオーナーは当然という顔で書類に書き込んで書類を作り上げていた。
 そして改めて交わした契約書はほぼ金額以外ヴォーグの希望通りの物が出来て

「ハリ様、これでこのお屋敷で枕を高くしてお休みになれますよ」
「ああ、ヴォーグにも面倒を掛けた」

 恙無く契約も終わり、俺達はほっとするも向こうはまだ修羅場の真っ最中。
 どうやらすぐ隣での公開尋問ではこのオックスと言う輩はギャンブルに嵌ってこうやって家を買う時に二重書類を作ってだまし取っていたという。
 しかも先程のメイドはオックスの姪と言う事でここで働きだしたと言われていたが、いわゆる借金奴隷でオックスのかつての客で借金の返済が出来ずに買い取った奴隷だという。
 色白の線の細い愛らしい顔立ちの若い娘がどういう対応をさせられてきたかは考えるまでもない。
 クズもここまで行くと一度殺した所では気が済まないとトゥロは言うが、それでも俺達に安堵の空気が広がる中、オーナー自ら契約書を作り、今日の日付と手付金と差し引いた残金の金額が書かれてある書類をお互い所持し、大切に収納スキルで片づけた所でホルガーは言った。

「そういや、鍵っていつ受け渡しをするんだ?」

 室内が再び凍りついたのは言うまでもなかった……






 ラグナーはいくらなんでもそれはないというツッコミを何度心の中で入れただろうか。
 前半のヴォーグの初めての冒険者登録に何度お前可愛いなって言う言葉が口から飛び出すのを我慢したという悶絶タイムから中盤の楽しい草刈キャンプからの【暁の大牙】の拠点の詐欺と言う、出会ってほんのひと月の間に起きたのはこれだけではきっと済まないのだろう。
 と言うか、こいつ一回の草刈りでこんなにも稼いでいるのかよと思わず白い目を向け、らちびちびとカップを傾けながら冷めかけたホットワインをすするも既にあの屋敷への返済は終わった話に誰もが今では笑い話だと言う内容は笑い話になってよかったなと言う物だろう。
 顔を青ざめてホルガー達の帰りを待っていただろうテレサ達の事を考えれば俺だって顔を青くするしかないし、あれから一年もしないうちに返済した借金の為にどれだけヴォーグが活躍したかも想像に容易いし、それに付き合わされる内容も数度の体験だけで想像が付くし、たった数年でBクラスからSクラスになったホルガーのランクを考えればどれだけ無茶をして来たか……ついに考えるのを放棄した。

「まぁ、って言うかおかげでSクラスにもなれたし、こいつのめちゃくちゃな収納スキルのおかげで俺達が一緒に草刈に行くのにギルドから月一にしてくれって規制がかかったし、ああ、後いくつかチームを解散させてきたな」

 ホルガーが星を見上げる様に雲がかっている空を見上げっぱなしの視線に誰もが視線を逸らせた。
 今更何をして来たか聞く気にもならん。

「俺達もついでと言わんばかりにAクラスまで上げられたし?」
「読み書き計算も今更だけど覚えれたし」
「とりあえず憧れの武器も購入できる余裕もできたし」
「テレサはギルドからそろそろSクラスに挑戦しないかってお願い来てるし?」
「さっさとランクを上げてくれ。俺は魔法が最近楽しいからそっちの腕を上げたいし」

 楽しそうに笑う五人にふと思った。

「そういやお前のクラスって今どこなんだ?」
「俺ですか?
 俺はDクラスです」

 別名どうでもいいクラスって言われてますってほんのり頬を赤らめているのは酔っぱらっているからだろうと思うもホルガー達はさっと俺から視線を逸らせた。

「って言うか別名とかあるんだ?」
「まあね。一応そのクラスが判りやすいようにって新人達に世間からどう見られているか目安を教える時にわかりやすく説明するのに引用してるよ」

 ユハがホルガーを指さして

「Sクラスは凄い奴のクラス、俺達Aクラスはギルドのエースクラスとか、まあ誉言葉で尊敬させる様に教えている。
 ちなみにBクラスは、ぼさっとしてるなとか、Cクラスはちゃんとしろとか葉っぱを掛ける感じだな。
 後は戦力にならないどうでもいいDクラス、クラスが上がったからって調子に乗るのもいい加減にしろよなEクラス。まぁ、戦力としては役に立たないから引っ込んで確実に経験を積めって言う厳しいお言葉だ。
 そして一番最初のFクラス。
 あまりないんだがFクラスからも落ちたゴミっていう事でGクラスもある。
 今はいないが、Gクラスに降格するぐらいならやめる方がましだからな」

 そんな説明に俺はヴォーグを見て

「こいつの場合何て詐欺だ?」
「兎の皮をかぶった狼って詐欺だ」
「いやいや、兎って言うガラでもないだろ?」
「そもそも狼なんて可愛いもんでもないだろ」
「あはは、皆さん好き放題言ってくれますね」
「いやならSクラスに推薦してもいいか?」
「好き放題言ってください」

 長距離任務、長時間任務と言った時間に拘束されたくないというヴォーグの主張にやれやれと頭を振るうも

「まぁ、そんなこんなで俺達はヴォーグに鍛え上げられて金も名誉も手に入れる事が出来た。
 まぁ、あの後何度死んだ方がましってぐらいに鍛え上げてくれたこいつから何度逃げ出そうとして掴まって失敗したか……」

 クククと笑うホルガーに俺はヴォーグに白い目を向ける。
 何も逃げ出すまで追い詰めるなんてと思うもヴォーグもやり過ぎたのを理解してか俺と視線を合わせない用にそっぽを向いたままで、おもむろに何かを取り出したと思えばミルクたっぷりのホットチョコレートにブランデーを垂らした物を作りだしていた。
 もちろんそれにテレサも飛びつくのを予測してかテレサと何故かユハとトゥロにも渡して

「じゃあ交代の時間なのであとよろしくお願いします」

 ホルガーの話しの間に夜食は用意され、時間も過ぎて火の周りから立ち上がって逃げる様にヴォーグは

「テントに先に行きますね?」

 と言ってテントに潜り込むさまを見てからホルガーが俺にどうするというニヤニヤとした目を向けるから少し逡巡するも

「じゃあ、俺も出発まで少し寝てくる」
「ほんとに寝るだけ?」

 マイヤの問いにニヤニヤとする五人組。
 背中を向けながら

「俺は気にするほど神経が細くないが、ヴォーグはそうじゃないだろ」
「あら」

 楽しそうなマイヤの声を聞きながらテントに潜り、ヴォーグの隣に並べた寝袋に身体をもぐらせれば

「何もいちいち答える事はないのですよ?」
 
 馬鹿正直に付き合う事はない事ぐらい言われなくても判っているが

「でもまあ、これぐらいは大目に見ろ」

 少し体を乗り出せば、少し視線を彷徨わせながらも同じように寝袋から体を乗り出してきてちゅっと小さな音と共に唇を重ねるのだった。








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