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うちの隊長は伴侶の話しを聞きながらワインも楽しみだしました

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 一気に慌ただしくなったその合間を縫って俺は応接間の一室に、ヴァルターは新人を倉庫に連れて行き、それからしばらくの後に二人でこの応接間に戻ってきた。
 新人は何処か凝縮しきったような顔で俺にぺこりと挨拶をするように頭を下げるのを冒険者らしくないなと思いながら目礼しておけば

「ヴォーグ・ミューラだったな。
    こいつはホルガー・ハリ。
 うちの稼ぎ頭【暁の大牙】のリーダーだ」

 へーと言う好奇心隠さない顔に思わず苦笑してしまえば

「お前はさっきの一件でたぶん誰も近場のお山に草取りに着いて行ってもらえないだろうから、今後は出来るだけこいつらに頼むようにする事。
 これは俺からもホルガーに頼んでいるから拒否するような事があれば直接俺に言ってくれ」
「まぁ、お互い都合がつく状態って言うのを前提にやって行こうや」

 手を差し出せば人の好い顔をしたヴォーグと言う男は手を握り返して丁寧にお願いしますと返事をくれた。
 無防備だなあと不安になるもそこで扉がノックされた。
 現れたのは買取の主任と改めて紹介されたベッツ。
 
「とりあえず新人ならいろいろと入用だろうから魔物の方だけでも計算してきた。
 詳細は後で渡すが、魔物の総数89体〆て金貨350枚だ。
 本当なら買取カウンターで金の受け渡しするんだが、これだけの金額だからここで渡させてもらう。
 魔草の方はまだ仕分けが出来てないから明日にでももう一度来てくれ」
「よろしくお願いします」

 その話を聞いて俺は耳を疑った。
 俺達でさえ三ケタ届けばラッキーな上に五等分なのだ。
 三倍の上に独り占めと言う光景は思わず涎が出そうになる。
 目の前の新人はそれを一瞬で収納スキルで片づけ

「あと、買い取りチームからの要望でこれからはカウンターで受け付けをしたら直接倉庫で出してもらいたいが?」
「出すのは何所で出しても同じなので問題ありません」

 ならそうしましょうと取り決めをして

「ではマスターにも後ほど詳細をお渡しします」

 失礼しますとドアが閉まった瞬間駆け足で倉庫へと戻って行く気配を見送る。
 暫くの間、その魔物の総数と山積みの金貨の余韻に俺もマスターも沈黙したままだったが

「ヴォーグだったな。
 お前住処は決まったか?」

 唐突にヴァルターが質問を始めた。

「今はまだ宿の方にいますが、これだけあればどこか住めるアパートでも探します」
「だったら俺が紹介状を書こう。
 こう見えてもそこそこ有名人だと自負しているからな。
 ああ、後で不動産屋を紹介する」
「ありがとうございます。
 出来れば共同ではなく一軒家がいいですね。
 我が儘言えば吹き抜けのある部屋があれば最高です」
「男なのに家にこだわるんだな?」
「はい。
 魔草、薬草を乾かすのに吹き抜けがあると吊るす事が出来るのでなかなか都合がいいのですよ」
「ほう、まるで緑の魔法使いだな」
「一応目指してはいます」

 これだけの魔物を刈っておいて緑の魔法使いを目指しているとは耳を疑うも

「だったら出来た薬も買い取るから遠慮なく売ってくれ」
「判りました。よろしくお願いします」

 キランと目を輝かせているくらいなのだから相当できると見たのだろう。
 正直俺も金貨350枚はのどから手が出るほど羨ましく、恩恵が貰えるのなら犬になっても構わないと思った。

「そっちの話もまとまったみたいだし、今度はうちのメンバーの紹介を兼ねて一泊二日ぐらいでどこか草取りに行こうか」

 その内容に三人で吹き出して笑ってしまうも

「ではとりあえず家が決まったらまた連絡しますけど……」
「まぁ、当面はうちのギルドで銀貨一枚で連絡を受け付けているから受付の奴らの小銭稼ぎに付き合ってくれ」
「判りました」
「じゃあ、これから不動産屋に案内する。
 ホルガーも帰っていいぞ」

 用は終わったと言って先に返らされるも、倉庫に足を運んで様子を見に行けば、いくつもの魔草の山に俺はベッツの横に立ってこの光景を眺めた。

「なかなか絶景だな……」
「ああ、ホルガーさんか。
 まぁ、俺達の腕の見せ所ってところかな」

 言いつつももう数を数える声は呪文で誰もが一心不乱に仕分けに没頭していた。
 そして倉庫の一角にある小部屋にある肉の腑分けの場所を覗き見る様にベッツが指示をするから一緒に見に行けば

「あの新人一体何者だ?
 この魔物の山のほとんどに刃物の傷はなかったぞ。
 しかも瞬間に凍らせてくれたから肉や内臓にダメージはゼロだ」

 言いながら凍ったレバーを貰って薄くスライスして俺へと渡してくれた。
 ベッツと解体している職員も一緒に口へと運び一緒にシャリシャリとした食感からとろっと溶けて行く食感を楽しみながら、生臭さのない新鮮なレバーに唸ってしまう。

「レストランに卸すには十分なレベルだし……」

 言いながらこの作業場から出て別の解体作業をしている場所へと向かった。
 そこでは主に魔物の皮をはいでいて……

「ちゃんと毛皮が素材になるのは毛皮にダメージを作らず、体内の内部だけ凍らしてくれた。
 もちろん中身はさっきと同じレベルでだ。
 あの新人一体どんな所で修行してきた奴だ?
 魔物の価値を知り尽くしているし、確実に魔物を金になる状態で寄越してくれた。
 挙句に見ろよ。
 魔草もちゃんと分類して排出してくれたから後はただ束ねるだけ。
 要望の多い魔草はもちろん希少な奴も見付けてくれたみたいだ」

 楽しそうに束を作り上げる職員は

「普段ならめんどくさくって仕分けが嫌になるけど、束ねるだけの状態だから楽でいいわ」

 などと言いながらくっちゃべっていた。
 そんな光景を見ながら俺へと面と向かって

「話聞いてたけどあの新人と同行するんだろ?
 だったらこれぐらいのレベルで討伐してこい。
 そうしたら無駄が出ずに買い取り価格を高くしてやる。
 魔物の報酬はただの討伐報酬だけではなく、そこから得られる利益を見込んでの内容だ。
 いろいろ色を付けてほしければこれぐらいのクオリティをあいつから盗んで来い」

 言いながら数少ない剣の斬り付けた後の残る魔物を見せてくれた。
 剣は喉元から突き刺すようにして首の太い血管だけを切る様に、価値のある角を折らない様、すぐに千切れるしっぽもひび割れやすい蹄も総て綺麗に残してあった。
 この殺し方なら苦しんで死んだだろうと思うも、血が流れてなかったから気付かなかったが腹部がまっすぐに切られた痕があった。

「こいつはこの姿の敷物を趣味の悪い貴族が好んで買う魔物だが、ほぼ無傷で渡す事が出来る。
 この技術を盗んでこい」

 縦真一文字に腹部を切られて根こそぎ臓器の無くなった姿に思わず唸る。
 俺達なら魔法でその体を痛めて、矢で牽制し、そして剣で切り刻んでいくという戦闘スタイルでは無理な仕上がりにどうやって仕留めただけが頭の中で想像を繰り返していた。
 俺が考え込んだのをわかるとベッツはナイフを持って皮剥ぎに参加していた。

 それからふらりふらりというように歩けばいつの間にか俺が借りているアパートに戻っていた。
 メンバーはまだみんな別々に住んでいて連絡はすぐには取れない。
 だけどあれだけの収入があればとつい考えてしまう。
 今使っている剣よりもワンランク上の武器と防具をそろえる事が出来る。
 魔物を攻略するイメージはあるから、それに耐えれる武器を手に入れる事が出来る。
 そうすれば小さいながらも俺達の家を持つ事が出来てAクラスに全員上がる事が出来れば一流パーティーだ。 
 
 夢がふくらむ。

 今でこそアパートを借りられるようになったけど、まだ全員が一部屋に三段のベットを二台入れて住んでいた駆け出しの頃を。
共同トイレ、キッチン、バスはない。
 寝るだけに戻って夢を語らっていたあの貧しくも懐かしく、ひもじくも温かった時間。
 今のレベルで足踏みをするようになってからなんとなくぎすぎすした時間も多くなり、笑う事も少なくなってきた。
 だけど、俺の我が儘で今の顔ぶれのままAクラス入りを目指していて、駆け足の時からずっと一緒だったあいつらと夢をかなえる事が俺の夢で。

 立ち上がってどうやって戻ってきたか判らない部屋から飛び出した。
 街を全力で駆け抜けて一件の立派な屋敷を見上げる。
 広い手入れの忘れられた庭と水色の屋根のいかにも貴族が住んでいた屋敷。
 売家と書かれた看板に書かれた住所を見てからまた走り……
 
 俺はみんなに黙って【暁の大牙】名義で売買契約を交わした。
 とても今のままでは返済不可能な金額だが、ギルド所属とそこそこ名の売れている俺達と言う信頼で目玉が飛び出してそのまま何処かへと言ってしまうのではないかと言う金額の書類にサインをした。
 もう後には引きさがる事が出来ない。
 とりあえず震える手で契約書を持って帰るのだった。



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