うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は伴侶の些細な話しにほっこりとしているようです

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 しかしその頃になるとワイン造りばかりで家の事を顧みない父を見捨てて出て行った息子夫婦はたった一人の孫を連れて俯き加減でゴマをするかのように戻ってきた。
 出て行った時の身なりからは想像が付かないほど落ちぶれていた姿にオーナーもその妻も驚いていたが、ヴォーグは彼らを受け入れる事に拒否を示すように進言した。
 ギルド長も立ち会っての面会でもあり、ギルド長もヴォーグの進言に驚きはしたが

「借金を押し付けられるのが嫌で両親を見捨てて行った人を、シャトーが甦ったと噂を聞きつけて、生活がままならなくなって自ら借金を抱えて戻ってきた人にどんな信頼を置けばいいのでしょうか?
 そしてあの借金の返済に汗を流してくれたのは彼らではなくこの屋敷に務める全ての人です。
 息子夫婦を受け入れるという事は彼らの働きを無下にするという事にもなります。
 なんせ、息子夫婦はそれでもオーナーの家族なのですから、我が身ばかり可愛い彼らに頭を下げさせるのは違うと俺は思うのです」

 そう言ってヴォーグはギルド副長に家を出た息子夫婦の事を調べさせて監視しておいた暮らしぶりの調査書を家令に読み上げさせたのだ。
 生活ぶりは耳を疑うような涙を誘う物だった。
 食事に困った孫は他人の家のゴミを漁った食事を日課とし、妻はとあるお屋敷に務めてお屋敷の主の夜の奉仕役に身を落していた。
 そして息子はギャンブルから借金取りに追われ、足の骨を折られてまともに歩けない状態になって仕事もクビになり、深酒で体調を壊して痩せこけた顔は昔の面影はどこにもない。
 両親にこそ知られたくはないだろう家を出た後の落ちぶれぶりに両親は涙を零し、黙ってこの様子を見守っていた家令、執事、侍女長は苦しげな顔をする。
 彼らの身の上に対してではない。
 親を捨てて行ったのに今更戻って来るとはどういうつもりなのだろうかと。
 このようなトラブルを招くしかない者達をブロムクヴィストの家人として招き入れてもいい物がと悩んでいた。
 だけど城を、代々受け継いだ葡萄畑を手放さなくてはいけなった所まで追い詰められた主は過酷なまでの決断を下せるようになっていた。

「まだ物事が判ってない孫だけなら迎え入れよう。
 そしてお前達はすでに亡くなった者だとして取り扱う。
 幸いな事にお前達の借金と当面の資金位は渡せるから、二度と顔を見せるのではない」

 それだけを言って立ち去って行ったのだ。
 子供は暴力でもふられていたのかまだじっとしていられない5歳ぐらいの子供だというのにこの部屋に通されてから椅子に座ったまま俯いて身動きすらしない様子に誰もが視線をそらせていた。
 そっと息を潜める様に、誰の視界にも入らないようにじっとしている子供の姿はあまりに痛々しい姿だったが、子供が金蔓となるのが判れば息子夫婦はこぞって子供達を抱きしめて私達を離れ離れにしないでくれと喚くのだった。
 あまりに呆れた様子に残された妻は息子夫婦に平手打ちをして黙らせ

「孫は私達が立派に育てます。
 大切な子供をこんな姿にさせて、七歳を迎えようとするのにこのような小さい姿のままほったらかしするような者はいくら私の息子でももう家族ではありません!」

 栄養不足の子供は他の子供達と比べようのないほど成長が遅れていた姿に誰もが息を飲んだ。
 母親の泣きながらの決別の意志はさすがに息子に堪えたのだろう。
 涙を流して泣きわめく妻を引きずるように屋敷を後にした息子夫婦に約束通りの金を渡して縁を切った夫婦に気まずい空気だけが暫くの間取り残されていた。
 
 それから月日は流れ

 親に怯えて暮していた孫の姿を久し振りに見た。
 厩舎の責任者と共に他の子供達と馬のエサやりをしている間に産まれたばかりの仔馬に懐かれてぺろぺろと顔を舐められていたのだ。
 最初こそ身動きが取れずに固まっていたが、厩舎の責任者が

「この気難しい馬の子供に懐かれるなんてぼっちゃんは幸せだな」

 意味は分かってないかもしれない。
 だけど仔馬が懐いた事で母馬にも懐かれ、ひっきりなしに甘えてくる様子は子供でも理解したようで擽ったそうに声を上げて笑っていた。

「ああ、あのお孫さんも楽しそうに暮らせているならほっとしましたよ」

 たまたまヴォーグが見ていた事をオーナー夫妻に報告すれば、『初めて笑ってくれた』と知った夫婦は涙を流して喜んでいたのをヴォーグはそっと視線をそらして二人の感情が落ち着くのを待つのだった。










「ラグナー、副隊長おかえりなさい」

 クラウゼ家の執務室に仕事から戻ってきたアレクシスとラグナーの姿を見てヴォーグは帰宅の挨拶をするのだった。
 毎度の事なので誰も口を挟まないし、寧ろ家庭的な事とは縁遠い伯爵家の中での庶民的な挨拶は微笑ましくクラウゼ家の当主の目には映るのだった。

「ああ、ヴォーグもお疲れ。
 エーンルート侯にシャトーに大変だったな」

 ラグナーも執事が紅茶を用意するのを待ちながら机の上に広げられた書類に目を走らせるもふと顔を上げ

「何か楽しそうな顔をして何かいい事でもあったか?」

 ふとした違和感を感じたのかラグナーの問いに良く気付きましたねとヴォーグは少しだけ目を瞠り

「そうですね。
 シャトーの方で微笑ましい事がありました」
「ブロムクヴィストの方で何かあったのか?」

 二人が帰ってきた為に少し休憩にしようと言うようなクラウゼ伯の質問に

「ブロムクヴィスト家のお孫の話しは前にしたかと思います」

 育児放棄と言う虐待の言葉はあえて出さずに思い出してもらえば誰もが顔を歪めるのを見て

「最近ようやく外に出る様になり、使用人の子供達と遊ぶようになったそうです。
 今日は厩で馬に餌を上げている時に仔馬に懐かれて笑っておりました」

 そんな些細な事が何だとアレクシスは首を傾げていれば

「お孫さんがシャトーに戻られて初めて笑ったそうです」

 ヴォーグの言葉に誰もが目を瞠り、そして嬉しそうに誰もが口角を上げた所でエドヴァルドは腰を上げた。

「折角良い話を聞いたのだ。
 頭の痛い話をする前に気分のいいまま食事にしよう。
 アルヴェロ、せっかく紅茶を入れてもらって悪いがすぐに食事にしようと料理長に連絡をしてくれ」
「承りました」

 慇懃に頭を下げて去って行くも、その顔もどこか他人の家のことながら嬉しそうな色を出していて……

「感情を出しているようでは家令に昇格するにはまだまだ修行が必要だな」
「申し訳ありません。ですがアレクシス様が30歳を迎える頃には一人前にさせましょう」

 私もこう見えても結構な歳なのでと普段から柔和な笑みを浮かべているだけに今の話しでも大した変化の見られなかったハイラはまさに家令の鑑だった。
 







 
 

 





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