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うちの隊長は現実に打ちのめされそうです
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それはゆるりと、そして突然だった。
下半身が麻痺をしたかのように力がなく、そして全身の力がないと言う様に気だるげな中で俺は自分の状況を唐突に理解した。
目の前の人物の頭から抱きしめられ抱きしめ返していて、喘ぐように俺の首筋に唇を這わしながら抱かれている事を理解して全身の血の気が下がった。
何で?
誰と?
思考が追いつかないが、どうやらこの相手といたしている状況であり、最悪なのがどう考えても無理強いはされてない、むしろ喜んでいると言う事だ。
しかも俺の意志に反して気持ちよさそうに首に腕を回して相手をかき寄せて気持ち良く啼いていた。
どうして?
何時から?
パニックになって相手を突き飛ばしたいも、全身がそれを拒絶するどころか相手に合わせて自ら腰を動かしてる始末……
一瞬思い浮かんだ相手が脳裏をかすめて、唇をぎゅっと噛む。
男を知るこの体は何年使ってなくってもしっかりと男を覚えていて、それどころか娼婦のように足を広げ男を求めて喜んでいる体に吐き気すら覚えた。
裏切り
失望
すべて自分自身への言葉。
初めてと言っても良いくらいに恋した人(片思い中)を裏切る行為という絶望に俺は簡単に引き込まれてしまった。
目を瞑り現実を逃避する。
それでも快楽に溺れる体は確かに喜んでいて……深く突き上げられて、喜びに満たされ満足する様に痙攣する身体に俺はいつの間にか涙を流していた……
「ラグナー、大丈夫ですか?」
そっと指が目元をぬぐった。
聞き慣れた声に俺と深くつながってる相手を理解して心臓が喜びに飛び跳ねる。
「ヴォーグ……」
声がかすれてまともな音にならない。
暗がりの中でも眉間にしわを寄せる顔を見ながら驚きで思考が、目の前の人物が理解できても存在がここにいる事が信じられなかった。
「何で……」
気まずそうな顔が視線を反らしてゆっくりと体が離れて行った。
だけど、そのわずかな感触にぶるりと体の芯から再び喜びに震える。
「水です。飲んでください」
視線をそらされた顔で勧められるまま飲むと言うか、ゆっくりと飲ませてもらい、口の中に僅かにポーションの味がした。
「だいぶ効果が切れて来ましたね。
所で、覚えてますか?」
何のと、あまり働いてない思考に記憶を探りに行けば、インキュバスとの口づけから始まった……
「あいつ、もっと切り刻んでおくんだった……」
ヴォーグも飲んでいた水を乾き切った喉にと譲ってもらい、ゆっくりと飲んでいる間にヴォーグがこの部屋の異臭を消し、そして汚れきった体と寝具を魔法で一瞬で何事もなかったように綺麗にしてくれた。
そしてポーション入りの水は体に残るうっ血の後も消して行って、本当に何か起きる前の状態に戻っていて……
ヴォーグは総てを無かった事にしたかったのだろうかと心の中で少しでも喜んでいた自身を嘲笑った。
そんなわけないのだ、と一瞬でも甘い夢を見て現実に項垂れた……
ヴォーグは簡単に身なりを整えて冷えるだろうからとシャツを肩にかけてくれたりと俺の世話をしてくて瞬く間に寝起きのような状況にまで戻してくれた揚句に収納魔法から取り出した軽食を俺の目の前に並べてくれた。
あまりにもいつもと同じようにしようとしてくれるヴォーグには腹を立てつつもそれは八つ当たりだと無理やり呑み込む代わりに形ばかりの感謝をして
「悪いが途中からあまり意識がない。
アレクに連れて帰ってもらった所までは覚えてるんだが……
お前は何時こっちに?」
何とか動揺を誤魔化そうと話を振って目の前に置かれたパンを齧る。
俺がよく通うパン屋の味で、生地の中にドライフルーツの刻んだものがふんだんに練り込まれている物だった。
ヴォーグの好きな小腹がすいた時によく食べていた奴だなと、なんとなく既に今迄みたいな関係ではなくなりつつある状況を認めないように俺は普段美味しいと感じるパンから一切の味を覚えないままかじっていた。
「到着はラグナー隊がこちらの拠点に戻る少し前ぐらいだと思います。
ラグナーもそれからあまり時間差もなく戻ってきました。
安心してください。
クラウゼ副隊長の報告では戦闘後からあとは皆さんみんな無事拠点へと戻られてます」
「そうか……」
朦朧とした意識の中で何かアレクから聞いて居た覚えがあったが、みんな無事……と聞いて少しだけ安心した。
「他の方も処方してますので、そろそろ皆さん正気に戻られるでしょう」
「さすが緑の魔法使い。頼りになる」
「ありがとうございます。
ただ、俺は団長と宮廷騎士の方他数名と同行してきました」
「ヴォーグと一緒だなんて、あいつら随分楽して羨ましい……」
「俺はあくまでも文官と言う立場なので多少の無茶はしましたが安全な道のりで来ましたよ」
「知ってるか?無茶と安全は同居しないんだよ。
アレクに良く言われてるからこれは確かな言葉だ」
「そうだ。クラウゼ副隊長に隊長権限を委譲している事は覚えてますか?」
「辛うじて」
「でしたら明日の……すでに今日ですね。
団長が率いる部隊の本体が到着するまで休憩時間を頂いた事は?」
「それは初耳だ」
「あと、ランダー小隊長がテントの前で見張りをしてます」
「そうか。とりあえず状況を聞いてくる」
と言って起きるも、魔法の薬で癒されたと言っても体に残る違和感はぬぐえない。
パンを齧ったとはいえ腹は減ってるし、眠いし、なんとなく後ろがまだむず痒い感触が残っている。
と言うか、立ち上がって中の物が溢れだしてきて、一瞬身動きを止めた俺にヴォーグは真っ青な顔をして「すみません!」と謝って来た。
ああ、うん。
表面的な掃除しか出来ない魔法じゃこの処理は出来ないからね……
俺は真っ青な顔のヴォーグを見て苦笑を浮かべつつも心の中はズタズタだった。
インキュバスのせいとは言え彼に俺の相手を多分無理やりさせてしまったという罪悪感と、快感の為だけの彼の心の供わない行為の結果、今はヴォーグの顔を見るのも辛い。
とりあえずまだ出てくるだろうモノの為に服は着れないなとシーツをかぶったままもそもそと動きながらテント入口の重なってる布の隙間からランダーを探せば、彼女は厳しい顔のまま周囲を警戒していた。
まるで周囲は敵だらけという顔で厳しい顔をしていたが
「ランダー」
呼べば彼女はすぐに破顔して涙を目元に浮かべ鼻血を吹き出していた。
「隊長御無事で?!」
「それはお前の事だ。
まぁ、俺の方はいろいろ無事と言うか大事故と言うか……」
「とにかく犬にかまれたと思いましょう!
ああ、隊長、なんてなまめかしい姿……
まだ効果が続いているみたいな様子なので奥に引っ込んでください!
今なら私が隊長を襲えます!襲います!襲っても良いですか!!!」
「お前な、とりあえず鼻血をふてくれ……」
頭をぐいぐいと押されながらもランダーらしい妙な言葉に思わず笑みさえ浮かんでしまうが
「悪いがアレクを呼んでほしい」
「副隊長ならすぐ側に」
そのまま手を振れば数秒もしないうちにテントの隙間からひょことアレクが顔が見えた。
ほんとすぐ側にいたらしい。
「ラグナーもう大丈夫か?」
「俺は、まあ何とか。
どちらかと言えばヴォーグの方が無事じゃないかも」
ちらりと背後を伺えばベットに座り頭を抱えている様子に唇をかむ。
たとえ一時とは言えインキュバスの呪いでいたした仲だが、雰囲気に飲まれたとはいえ完全に逆レイプだ。
俺の伴侶とは言えども逃げているとはいえ一応婚約者の居る身。
不貞の証拠とされてしまうのだろうかと不安だ。
「あれは自業自得なのでラグナーが気に病む事はありません」
「お前あいつに限って辛辣だよな」
二人の間に何があったんだと思うも
「それよりも本体と合流するまで休憩と聞いたがそのまま隊長職移譲したままでも問題ないか?」
「はい。我々も朝まで休憩を頂いてます。
ラグナーも少しまだ顔色が悪い……から休んでください」
「ああ、すまん。
ヴォーグはどうすれば?」
「一緒に休ませろとの通達です。
彼も団長達と共に休みなく馬で掛けてきたと言うので休むように言われてます」
「そうか……」
ピクリとも動かない背後の気配に俺はこのまま一緒にいて良いのかと思って
「アレク、悪いんだがお前のテントに……」
「自分の失敗ぐらい自分で何とかしてください。
それにどんな形であれ……」
念願が叶ったんでしょ?
耳打ちする吐息にぶるりと体が反応したのか、その言葉の内容を思い出して震えたのかわからないが思わず腹の底がカッと熱くなってしまう。
「とにかく彼の面倒は貴方がしてください。時間も十分にあります。
団長の方には私の方から正気には戻りましたがもう少し時間が必要だと伝えておきます」
丁寧にテント越しにランダーに見張りを続けるように言ってぴしゃりとテントの入り口を閉ざされた。
断音の魔法がかかっているのかとたんに全く外の音が聞こえなくなった室内の居心地の悪さを打破するべく
「ヴォーグ、悪いが何か温かい物はあるか?」
少し体が冷えたと言えば、彼は項垂れた顔をぱっとあげて、人の良さそうな笑みを浮かべて
「すぐに用意します」
言いながら暖かな紅茶を入れてくれた。
だけど、その切り替えの早さに彼の人の良さそうな顔が作られた笑顔だという事を理解してしまった。
何かが瓦解する様に次々に崩れて行くのを感じる。
普段よく見るその人の良さそうな笑顔の下はどうなってるのか今更ながら恐怖を覚える。
だけどヴォーグは気にせずに紅茶を差し出しながら眉尻をへにゃっと下げた。
「そんな顔で睨まないでください。
隊長が男とのああいう事を嫌っている事は副隊長からも説明を受けて知ってますし、ああいう事になってしまった結果に申し訳なくも思っています」
耳としっぽがあればこれほどないという位にへこたれているのだろう。
「事故で済ますにはシャレにならない時間も過ぎてます。
おおよそ一刻ほどですから……」
つまりその間ずっとヤリっぱなしだったという事だろう。
さすがにシャレにならないというか
「よく体力持ったな……」
「インキュバスの呪いはそうやって精力はもちろん体力をしぼりとって殺して行く物なのでひたすら体を酷使して気が付いたらぽっくり逝くようになってます」
「やっぱりもっと切り刻むべきだった……」
紅茶を片手にベットの片隅に座りながらもヴォーグは俺でイってくれたと言う事実に暗い喜びが沸き上がる。
「なので、本来の対処としては縛りつけて一昼夜放置するか、薬を体内に取り込むかの二択になりまして、厄介なのは解毒などいった魔法が一切効かないのが特徴です」
「ああ、身を持って体験した……」
思わず自嘲気味に笑ってしまった。
下半身が麻痺をしたかのように力がなく、そして全身の力がないと言う様に気だるげな中で俺は自分の状況を唐突に理解した。
目の前の人物の頭から抱きしめられ抱きしめ返していて、喘ぐように俺の首筋に唇を這わしながら抱かれている事を理解して全身の血の気が下がった。
何で?
誰と?
思考が追いつかないが、どうやらこの相手といたしている状況であり、最悪なのがどう考えても無理強いはされてない、むしろ喜んでいると言う事だ。
しかも俺の意志に反して気持ちよさそうに首に腕を回して相手をかき寄せて気持ち良く啼いていた。
どうして?
何時から?
パニックになって相手を突き飛ばしたいも、全身がそれを拒絶するどころか相手に合わせて自ら腰を動かしてる始末……
一瞬思い浮かんだ相手が脳裏をかすめて、唇をぎゅっと噛む。
男を知るこの体は何年使ってなくってもしっかりと男を覚えていて、それどころか娼婦のように足を広げ男を求めて喜んでいる体に吐き気すら覚えた。
裏切り
失望
すべて自分自身への言葉。
初めてと言っても良いくらいに恋した人(片思い中)を裏切る行為という絶望に俺は簡単に引き込まれてしまった。
目を瞑り現実を逃避する。
それでも快楽に溺れる体は確かに喜んでいて……深く突き上げられて、喜びに満たされ満足する様に痙攣する身体に俺はいつの間にか涙を流していた……
「ラグナー、大丈夫ですか?」
そっと指が目元をぬぐった。
聞き慣れた声に俺と深くつながってる相手を理解して心臓が喜びに飛び跳ねる。
「ヴォーグ……」
声がかすれてまともな音にならない。
暗がりの中でも眉間にしわを寄せる顔を見ながら驚きで思考が、目の前の人物が理解できても存在がここにいる事が信じられなかった。
「何で……」
気まずそうな顔が視線を反らしてゆっくりと体が離れて行った。
だけど、そのわずかな感触にぶるりと体の芯から再び喜びに震える。
「水です。飲んでください」
視線をそらされた顔で勧められるまま飲むと言うか、ゆっくりと飲ませてもらい、口の中に僅かにポーションの味がした。
「だいぶ効果が切れて来ましたね。
所で、覚えてますか?」
何のと、あまり働いてない思考に記憶を探りに行けば、インキュバスとの口づけから始まった……
「あいつ、もっと切り刻んでおくんだった……」
ヴォーグも飲んでいた水を乾き切った喉にと譲ってもらい、ゆっくりと飲んでいる間にヴォーグがこの部屋の異臭を消し、そして汚れきった体と寝具を魔法で一瞬で何事もなかったように綺麗にしてくれた。
そしてポーション入りの水は体に残るうっ血の後も消して行って、本当に何か起きる前の状態に戻っていて……
ヴォーグは総てを無かった事にしたかったのだろうかと心の中で少しでも喜んでいた自身を嘲笑った。
そんなわけないのだ、と一瞬でも甘い夢を見て現実に項垂れた……
ヴォーグは簡単に身なりを整えて冷えるだろうからとシャツを肩にかけてくれたりと俺の世話をしてくて瞬く間に寝起きのような状況にまで戻してくれた揚句に収納魔法から取り出した軽食を俺の目の前に並べてくれた。
あまりにもいつもと同じようにしようとしてくれるヴォーグには腹を立てつつもそれは八つ当たりだと無理やり呑み込む代わりに形ばかりの感謝をして
「悪いが途中からあまり意識がない。
アレクに連れて帰ってもらった所までは覚えてるんだが……
お前は何時こっちに?」
何とか動揺を誤魔化そうと話を振って目の前に置かれたパンを齧る。
俺がよく通うパン屋の味で、生地の中にドライフルーツの刻んだものがふんだんに練り込まれている物だった。
ヴォーグの好きな小腹がすいた時によく食べていた奴だなと、なんとなく既に今迄みたいな関係ではなくなりつつある状況を認めないように俺は普段美味しいと感じるパンから一切の味を覚えないままかじっていた。
「到着はラグナー隊がこちらの拠点に戻る少し前ぐらいだと思います。
ラグナーもそれからあまり時間差もなく戻ってきました。
安心してください。
クラウゼ副隊長の報告では戦闘後からあとは皆さんみんな無事拠点へと戻られてます」
「そうか……」
朦朧とした意識の中で何かアレクから聞いて居た覚えがあったが、みんな無事……と聞いて少しだけ安心した。
「他の方も処方してますので、そろそろ皆さん正気に戻られるでしょう」
「さすが緑の魔法使い。頼りになる」
「ありがとうございます。
ただ、俺は団長と宮廷騎士の方他数名と同行してきました」
「ヴォーグと一緒だなんて、あいつら随分楽して羨ましい……」
「俺はあくまでも文官と言う立場なので多少の無茶はしましたが安全な道のりで来ましたよ」
「知ってるか?無茶と安全は同居しないんだよ。
アレクに良く言われてるからこれは確かな言葉だ」
「そうだ。クラウゼ副隊長に隊長権限を委譲している事は覚えてますか?」
「辛うじて」
「でしたら明日の……すでに今日ですね。
団長が率いる部隊の本体が到着するまで休憩時間を頂いた事は?」
「それは初耳だ」
「あと、ランダー小隊長がテントの前で見張りをしてます」
「そうか。とりあえず状況を聞いてくる」
と言って起きるも、魔法の薬で癒されたと言っても体に残る違和感はぬぐえない。
パンを齧ったとはいえ腹は減ってるし、眠いし、なんとなく後ろがまだむず痒い感触が残っている。
と言うか、立ち上がって中の物が溢れだしてきて、一瞬身動きを止めた俺にヴォーグは真っ青な顔をして「すみません!」と謝って来た。
ああ、うん。
表面的な掃除しか出来ない魔法じゃこの処理は出来ないからね……
俺は真っ青な顔のヴォーグを見て苦笑を浮かべつつも心の中はズタズタだった。
インキュバスのせいとは言え彼に俺の相手を多分無理やりさせてしまったという罪悪感と、快感の為だけの彼の心の供わない行為の結果、今はヴォーグの顔を見るのも辛い。
とりあえずまだ出てくるだろうモノの為に服は着れないなとシーツをかぶったままもそもそと動きながらテント入口の重なってる布の隙間からランダーを探せば、彼女は厳しい顔のまま周囲を警戒していた。
まるで周囲は敵だらけという顔で厳しい顔をしていたが
「ランダー」
呼べば彼女はすぐに破顔して涙を目元に浮かべ鼻血を吹き出していた。
「隊長御無事で?!」
「それはお前の事だ。
まぁ、俺の方はいろいろ無事と言うか大事故と言うか……」
「とにかく犬にかまれたと思いましょう!
ああ、隊長、なんてなまめかしい姿……
まだ効果が続いているみたいな様子なので奥に引っ込んでください!
今なら私が隊長を襲えます!襲います!襲っても良いですか!!!」
「お前な、とりあえず鼻血をふてくれ……」
頭をぐいぐいと押されながらもランダーらしい妙な言葉に思わず笑みさえ浮かんでしまうが
「悪いがアレクを呼んでほしい」
「副隊長ならすぐ側に」
そのまま手を振れば数秒もしないうちにテントの隙間からひょことアレクが顔が見えた。
ほんとすぐ側にいたらしい。
「ラグナーもう大丈夫か?」
「俺は、まあ何とか。
どちらかと言えばヴォーグの方が無事じゃないかも」
ちらりと背後を伺えばベットに座り頭を抱えている様子に唇をかむ。
たとえ一時とは言えインキュバスの呪いでいたした仲だが、雰囲気に飲まれたとはいえ完全に逆レイプだ。
俺の伴侶とは言えども逃げているとはいえ一応婚約者の居る身。
不貞の証拠とされてしまうのだろうかと不安だ。
「あれは自業自得なのでラグナーが気に病む事はありません」
「お前あいつに限って辛辣だよな」
二人の間に何があったんだと思うも
「それよりも本体と合流するまで休憩と聞いたがそのまま隊長職移譲したままでも問題ないか?」
「はい。我々も朝まで休憩を頂いてます。
ラグナーも少しまだ顔色が悪い……から休んでください」
「ああ、すまん。
ヴォーグはどうすれば?」
「一緒に休ませろとの通達です。
彼も団長達と共に休みなく馬で掛けてきたと言うので休むように言われてます」
「そうか……」
ピクリとも動かない背後の気配に俺はこのまま一緒にいて良いのかと思って
「アレク、悪いんだがお前のテントに……」
「自分の失敗ぐらい自分で何とかしてください。
それにどんな形であれ……」
念願が叶ったんでしょ?
耳打ちする吐息にぶるりと体が反応したのか、その言葉の内容を思い出して震えたのかわからないが思わず腹の底がカッと熱くなってしまう。
「とにかく彼の面倒は貴方がしてください。時間も十分にあります。
団長の方には私の方から正気には戻りましたがもう少し時間が必要だと伝えておきます」
丁寧にテント越しにランダーに見張りを続けるように言ってぴしゃりとテントの入り口を閉ざされた。
断音の魔法がかかっているのかとたんに全く外の音が聞こえなくなった室内の居心地の悪さを打破するべく
「ヴォーグ、悪いが何か温かい物はあるか?」
少し体が冷えたと言えば、彼は項垂れた顔をぱっとあげて、人の良さそうな笑みを浮かべて
「すぐに用意します」
言いながら暖かな紅茶を入れてくれた。
だけど、その切り替えの早さに彼の人の良さそうな顔が作られた笑顔だという事を理解してしまった。
何かが瓦解する様に次々に崩れて行くのを感じる。
普段よく見るその人の良さそうな笑顔の下はどうなってるのか今更ながら恐怖を覚える。
だけどヴォーグは気にせずに紅茶を差し出しながら眉尻をへにゃっと下げた。
「そんな顔で睨まないでください。
隊長が男とのああいう事を嫌っている事は副隊長からも説明を受けて知ってますし、ああいう事になってしまった結果に申し訳なくも思っています」
耳としっぽがあればこれほどないという位にへこたれているのだろう。
「事故で済ますにはシャレにならない時間も過ぎてます。
おおよそ一刻ほどですから……」
つまりその間ずっとヤリっぱなしだったという事だろう。
さすがにシャレにならないというか
「よく体力持ったな……」
「インキュバスの呪いはそうやって精力はもちろん体力をしぼりとって殺して行く物なのでひたすら体を酷使して気が付いたらぽっくり逝くようになってます」
「やっぱりもっと切り刻むべきだった……」
紅茶を片手にベットの片隅に座りながらもヴォーグは俺でイってくれたと言う事実に暗い喜びが沸き上がる。
「なので、本来の対処としては縛りつけて一昼夜放置するか、薬を体内に取り込むかの二択になりまして、厄介なのは解毒などいった魔法が一切効かないのが特徴です」
「ああ、身を持って体験した……」
思わず自嘲気味に笑ってしまった。
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