上 下
34 / 308

うちの隊長は再度討伐に向かうようですがその前にしっかりとケアもほどこします

しおりを挟む
「すまない、ありがとうと言おう」

 俺達の訪問に半腰で立ち上がったギルドの顔ぶれは俺達が取り戻した彼女達の亡骸に容赦ない悔し涙を零しながら鳴き声を上げていた。

「ギルドの職員のサラと申します。
 この度は行方が不明となっていたギルド所属の冒険者の亡骸を、法に沿った処置を済ませての回収をして下さってありがとうございました」

 深々と頭を下げる背後で哀しみからか「人殺し!」と暴言を言う声もある。
 ホルガー達が俺達との間に立ってくれていたが、サラと言う職員は部下だろう同じギルドの職員に視線だけでその男を下げろと指示を出せば、それだけで意図を組んだ職員は黙ってその冒険者を下がらせていた。
 女性の身でありながらそれなりの地位にいる事がうかがい知れる。

「国の法によって粘菌によって犯された遺体は一度焼く事になっております。
 粘菌は死滅したと思いますが王都に持ち帰るのならもう一度確認、必要があれば再度の処置をお願いします」

 異様な形に膨らんだ腹はそれでも形が残っており、幸せとはかけ離れた姿に何が起きていたか一目で理解したサラは涙をこらえながらも耐えて

「承りました。
 身元の件に関しては照会の後に騎士団本部へと報告をいたします」
「お願いします。では」
「ありがとうございました」

 化粧などで取り繕う事も出来ないほどの疲労を浮かべた彼女にこの一件は同じ女性として辛い物もあっただろう。
 だけどそれを仕事として割り切る姿の逞しさに敬服する。
 追加で彼女に二、三連絡をした後にギルドを離れたその足で騎士団本部へと向かえばグロス副団長が待っていた。
 他にも俺達の帰還を待っていた隊長達に俺は今回の戦闘の話しをすれば拠点のテント内の誰もが口を閉ざしていた。

「やはり魔族が居ましたか」

 重苦しい空気の中、その空間を壊すようにグロス副団長が森の地図に戦闘した区域にサキュバスとインキュバスの名前をかいていた。

「どちらにしてもこの辺りに女性を向わせるのは禁止しましょう。
 各隊長女性騎士に連絡する事を、そしてシーヴォラ隊長はギルドには?」
「遺体引き渡しの折りに連絡済みです」

 言えば満足そうにうなずき、

「シーヴォラ隊は戦闘で疲れてますが一刻の休憩の後にもう一度北側へお願いします。
 女性騎士を向わす事が出来ないのでカントラ隊の一小隊をお預けしましょう。
 代わりにランダー小隊を医療班に混ぜます。
 双方よろしいでしょうか?」
「「了解しました」」

 そう言ってランダーをカントラ隊長に紹介し、カントラ隊長もアトラ小隊を紹介してくれた。
 穏やかなカントラ医療班と言う事で摩擦はないだろうが……

「カントラ隊長、そのアトラ小隊をお貸しいただいてもよろしいので?」
「かまわんよ。我が隊一の医療部隊だ。
 ここで我が儘に付き合わすよりもシーヴォラ隊の最前線でフォローさせる方がよっぽど有意義な活動になる。
 アトラにもそろそろ後方支援以外の仕事もさせたい」

 最も戦闘に関しては点でダメだがと笑うも

「うちは隊を編成し直さないとだめですね。
 レドフォードには王都に戻ってシルビオ小隊長に物資の輸送を、そしてレーン小隊に遠征の準備して一緒に来いと連絡だ」
「隊長、俺はまだ……」
「顔色が悪い。隊長命令だ、この森を離れろ」

 俺の言葉にカントラ隊長もアトラ小隊長も大体の事を理解してくれてその方が良いと言ってくれる。
 この森で何があったかさっき理解したばかりだが、心の傷は目に見える傷よりずっと重傷な事をレドフォードはまだ甘く見ている。

「これからの相手はサキュバスとインキュバスと言う魔族相手だ。
 お前にこれ以上辛い思いを今させるのは無理だ。酷すぎる」

 これからの相手が魔族な事を告げれば今のままではお前が壊れてしまうと言う事を伝えれる。
 
「だけど俺は隊長に……」
「お前の剣は確かに受け取った。
 そのお前にはこれからも俺の剣として共にあって欲しいと思っているからこそ俺はお前に休息の期間が必要だと判断した。
 俺の剣であるならばこそ王都で俺の次の命令を待っていて欲しい」

  ランダーを始めカントラ隊長アトラ小隊が背後で見ている。
 戦力外宣言をされて周りの目もかまわずに泣き崩れるレドフォードに俺は視線を一度空へと向けてから一度だけアレクに視線を送った後に目線をレドフォードと同じになる様に膝をついて離脱命令とこの場でまだ食いしばりたいとする相反する思いから涙で濡れるその顔に手を添える。
 突然に触れた手と同じ視線の瞳に驚きのまま顔を上げた視線と目を合わせて俺は俺を利用する。
 無駄に男女かまわず虜にするこの顔は非常に利用価値があるらしいから。
 
 目尻にそっと唇を押し付ける。
 片方片方丁寧に。
 そしておでことおでこをくっ付けて目を伏せれば鼻先がレドフォードの鼻先をかすめた。
 瞼の向こう側でレドフォードの涙が止まった瞳が俺をこれとなく驚きのまま凝視しているのを何処か面白く感じれば自然に笑みが浮かぶ。

「アナには今までアレクの代わりに散々俺の我が儘を受けてもらってきた。
 俺を支えて来てくれた大切な仲間だけど、アレクやエイノとは違う甘えをお前に求めて来てしまった。
 二人とは違うあかるい無遠慮さに馬鹿な事も言わせてもらえるお前の存在は俺の中ではかけがえがない存在なんだ。
 これからも俺の剣としてお前にはずっと側にいてほしい。
 だから今はこれからの俺の為にも一度王都に戻って俺の為に王都で戦ってほしい」

 何度も鼻先がかすめるその距離でまるで内緒話でもするかのような囁く声で伝え、そして話し終えた後くっつけていたおでこに唇を押し付けて立ち上がれば想像通りの涙の止まった瞳から最後の一滴が零れ落ち、どこか照れたような真っ赤な顔が俺を見上げていた。

「隊長、サービスしすぎですよ」
「まぁ、これから王都まで休みなしで走ってもらわないといけないからな」

 差し出した手で、確かな力を持って握り返す手を俺は引っ張り上げる。
 勢いよく立ちあがったレドフォードにもう心配はないと言えば嘘になる。
 だけど取り繕えるぐらいは回復した。
 隊服の袖で涙の痕を拭うようにごしごしと、顔が赤くなる位こすり付けて

「レドフォード隊、王都待機のシルビオ小隊長に物資の輸送を、そしてレーン小隊の出動を要請します」
「悪いな、来たばかりで働きづめばかりか休ませてやる事も出来ない挙句にとんぼ返りをさせて」
「大丈夫です。
 シーヴォラ隊ではよくある事ですし、恨みはヴォーグに言います」
「何故にヴォーグに……」
「単なる八つ当たりです。
 なので隊長がいつも自慢しているワインとヴォーグの晩飯の味見をしてきます」
「……」

 わけのわからない八つ当たりにさすがに言葉を失ってしまうも

「あれだけ美味い物食べているのを聞かされて見せつけられてきたんだからそれぐらい食べても構わないでしょ!」
「って言うか、俺が居ないのはあいつも知ってるぞ?」
「本人の分があるでしょう!」
「ああ、まあ、うん。
 好きにしてくれ」

 何をしたいのかわからないから勝手にさせれば、レドフォードは機嫌の良い顔をして小隊の部下達に王都帰還命令を出していた。
 その様子を見守っていたカントラ隊長と真っ赤な顔のアトラ小隊長も

「私にはまねのできない方法ですね」

 言いたい事は判る。
 俺だってこんな方法は取りたくなかったのだが……

「使える部下の為なら俺は手段を選ばん。
 餌が俺であろうとレドフォードがチョロすぎるのがわかっていてもだ」

 疲れたと言う様に溜息を零すもカントラ隊長は笑いながら

「それでも最悪を防げてます。お見事」
「こんな方法うちの隊以外にはやってやらんがな」

 そこらでやられたらこっちが困りますよとアレクがぼやいていたが無視をしておく。

「それよりもアトラ小隊長、我々は食事をした後装備を見直してからの出発になります。
 半刻後には出ますのでそれまでに準備をお願いします」
「早いですね」
「常に我々に求められている事ですので」

 言えばそれを見ていたグロス副団長が

「カントラ隊長、部下はこのように扱うのですよ」

 苦い物をかみしめたかのような顔のカントラ隊長は短く切りそろえた髪を後ろへと撫でつけて

「俺には王都から一晩で移動させて休みなく探索させた挙句の討伐の後に王都まで休みなしで帰れ何て命令はさすがに出せん……」
「それでもやってもらわなくてはいけません。
 魔族が出た以上座っていられる時間はありませんよ」

 そんな合間にもランダーが部下に作らせていた食事を食べて俺達は武器と薬品の見直しと改めてサキュバス、インキュバスの戦闘を想定した隊を編成し直すのだった。




―――そして半刻後



「本当に準備ができるのですね……」
「します。それがシーヴォラ隊です。
 ではカントラ隊長、ランダー達をよろしくお願いします」
「はい、お預かりします。
 アトラも良くシーヴォラ隊の戦闘で最前線の様子を学んできなさい」
「了解しました」

「シーヴォラ隊北の森の魔族討伐に向けて出立!」

 俺の合図にすぐ隣をアレク、反対にアトラを置いて煤煙る森へと足を運ぶのだった。
 











 


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

処理中です...