うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は星を譲ったようです

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 殺気立っている。

 レドフォードはそう言ったがそんな可愛らしい物ではなかった。
 森に入った瞬間から常に複数の殺意を向けられ、常に殺意と共に舐めまわすような餓えた視線を持つ魔物に監視されるという環境の中、焼き払われた草の上を踏みしめながら森の奥へと進む。
 焦げた臭いにもかかわらず森はどこか水を含んだ草の匂いを覚えながらもここは戦場だと意識を変える。
 
「ランダー、もうここでは人間の常識は通じないと思っておけ。
 冒険者のあのホルガー・ハリにも注意されたが、女を苗床にする系統の魔物が発生していると言っていた。
 だがお前は騎士だから俺は連れて行くが、残りたい者が居るのなら引き返すように伝えろ」
「それには及びません。
 我らランダー小隊そのような囮に使えるのならこの身を使って足止めをして見せましょう。
 たとえその結果身体を乗っ取られることになれば魔物として処理して頂いてかまいません」

 きっぱりと言い切るその潔さに誰もが言葉を失うも、ランダー率いる女性小隊は顔色一つ変えずに火の魔法を使って隊が進む道幅を広げながら菌糸で出来上がったフェアリーサークルを焼き切って行く。

「その言葉背中を預けるお前を信じるぞ」

 隊舎でならすぐに腕をからめ胸を押し付けてベットの中でもお供しますとさらりと言うランダーだが今は一歩後ろを着いて来る幅を維持しながら無言で頷く返事を気配で読み取るのだった。



 それから一時間ほど菌糸で洗脳された魔物といくつか戦闘に入った。
 足場はすぐにランダー達が焼き切ってくれて、血中に流れる菌糸のせいで剣も戦闘後は焼き切らなくては行けなく直ぐに武器はダメになって行く。
 金属と熱の相性の悪さはどうしようもない。

「限がないと言うか、レドフォード達の物資が不安になるな」
「はい、武器がこんなにも使い捨てにしなくてはいけないとは、副団長の小言が怖いですね」
「戻り次第マリンに支援物資の要請だ。
 ランダーも魔法薬の制限がある以上魔法は効率よくやって行け。
 後でアレクと待機しているルーツと交代で森に入ってもらうつもりだがあっちにはランダー小隊程の魔法の使い手はいない」

 言いながらも道を広げる様に森を炎で焼いて行く。

「可動範囲を広げる様に、焼いた場所以外に足を置くな!
 既にフェアリーサークルの中だ!粘菌に絡め取られるぞ!
 マッシュキングがどこから襲ってくるか判らない注意しろ!」

 声を荒げて注意を促せば前方で戦闘の音が聞こえてきた。
 俺はランダーと一つ頷いて

「全員これから戦闘区域に入る!
 戦闘準備!」

 一斉に剣や杖を構えて駆け出す合図となった。
 戦闘区域を広げる様に先ほどよりも容赦なく森を焼き始めまだ生い茂るはっぱを地面事焼き尽くして行く。
 先発隊のレドフォード小隊が残してくれた道をランダーの剣士隊と共に駆けつければそこには菌糸によって剣を腐食させられて切れ味のない剣で戦う事で苦戦するレドフォード小隊の姿があった。

「遅くなった!状況は?!」
「隊長注意を!
 マッシュキングは既にサキュバスによって操られてます!」
「ホルガーの言うとおりになったか!」
「レド!位置は?!」

 ランダーの声にレドフォードは

「キングの後方に隠れてます!
 キングのフェアリーサークルの最も濃い場所に守られてます!
 あとインキュバスの姿も確認しました!
 ランダーの小隊を拠点に戻してください!」
「判った!ランダー拠点に戻れ!」
「私はっ!!」
「魔族の子供を孕むつもりか!!
 すでに冒険者の女も操られて身ごもっているのも何人かいた!
 頼むから戻ってくれ!!」

 レドフォードの叫びにようやく焼け焦げた草むらの中に女性冒険者の亡骸が複数あり、どれもこれも腹の膨れた特徴と無事死を迎えた喜びが死に顔となっていた。
 そしてレドフォードの手や剣、そして隊服にはおびただしいほどの返り血で染まりかえっていた。

「ゴブリンの事故よりも被害は酷くなるんだ!」
「それでも私は隊長に剣を捧げた!
 身を穢されたなら死して自分の処理位はする!」
「マッシュキングの菌糸で脳が侵される。
 抵抗は無駄なんだ!」

 よく見れば亡骸の血は火にあぶられてるにも関わらず固まってはなく、今死んだばかりの状況に今更気づけば腹を裂くように切られた太刀筋をしたのは誰かなんて問う事は出来ない。
 煤と灰によって浮き上がる涙の痕に俺はここで二手に分かれる事を、魔力量の多さだけで彼女達を連れて来た失態に舌打ちする。
 忠告は受けていた。
 ただ予想よりも事態は早く進んでいただけ。
 予測しきれず彼女達を連れて来る選択は失敗だった。
 だけど拠点の保持もしなくてはこの状況から戻った時の応対が出来ない事のリスクも避けたくて……

「ランダー小隊長命令だ!
 レドフォード小隊の女性陣と合流の後拠点に帰還! 
 帰還後ルーツ小隊の派遣を要請だ!」
「承りました……」

 選択は命を優先だった。
 やりきれないと言うような悔しそうな声と共に俺の声が森に響けばレドフォード小隊の女性も混ざってきたばかりの道を、俺達に背中を見せないように去って行く。

「応援に来て人数を減らしてすまない」
「いえ、少しでも多い戦力で離脱できて少し気が楽になりました」
「すまない。そして彼女達をありがとう」

 負担になる事は言えない言葉を選びながらマッシュキングが操る菌糸を跳ね除けて少しでもマッシュキングに近づこうと剣に炎を纏わせながら焼き切って行く。
 剣にも負担がかかるだろう。
 魔剣なので通常の剣よりは魔法に耐性があれど、それでも金属と言う物質である以上負担はとてつもない。

「今日はマッシュキングを倒して帰還する!」

 武器のストックが手持ちにない事に舌打ちをする。
 
「レドフォード武器は持ちそうか?!」
「まだ、大丈夫!」

 マッシュキングが操るホーンウルフやラージベアーなど、とにかく身動き取れないようにと切断をしていく。
 その度に血管を侵して全身に菌糸が広がる様が目に飛び込んできた。
 既に死んでどれだけだろうか、溢れる事のない血の代わりに菌糸が飛び散るのを防ぐ様に炎を纏う剣がその切口を切るのと同時に焼き切って塞ぐ。
 ギルドの連中もこんな戦いをずっとしなくてはならいのでは堪らんなと、やがてとりまきの無くなってきたマッシュキングをレドフォードと挟み打ちをするようにして対面する。
 
「悪いが滅んでもらう!」

 俺の掛け声と同時にレドフォードも駆けだす。
 粘菌を吐き出して俺を仕留め操ろうとするマッシュキングの足場は既にやけ切った場所。
 操る事の出来ない粘菌も俺を仕留めようとするトラップの菌糸もない。
 魔力切れを起こしかけているレドフォードの顔色も悪いがそれでも最後まで、彼が止めを刺した彼女達への思いもあるのだろう。
 本来戦闘から外すべきだが、最後は彼の手によって決着を付けさせてたい。
 俺は今まで以上に火力を上げて炎を剣に纏わせて火花が舞うように振り回せば、火がそんなにも嫌なのかと聞きたいくらい露骨な顔をして逃げようとするマッシュキングの胴体を輪切りに斬る。
 逃げ出そうとする足の部分はそこで切り別れてごろりと無残にもその巨体が転がった。
 切断面が悔しい事に焼かれたキノコの匂いがして不覚にもうまそうだなと思ってしまうも、そんな不純な思考を吹き飛ばすようにレドフォードの雄たけびが森に木霊する。

「おおおおおお―――――っっっ!!!」

 泣いているのではないかと思われる慟哭にも似た叫び声を見守るかのようにレドフォードがマッシュキングの中心にある核に向かって炎を纏わせる剣で叩きつければ砕ける核の音と共にしおしおとマッシュキングは萎れて行く。
そして炎が迸る剣の炎を消すようにひとつ大きく払えば炎も消えて、レドフォードは膝から崩れ落ちる様に倒れてしまった。

「だいじょうぶか?」

 他の魔物への警戒は部下に任せ、レドフォードへと声を掛ける。

「ありがとうございます……」

 泣いているのか鼻水をすする男の顔は見ないように視線を反らせる。
 残りの菌糸が増殖しないように森を焼き続ける様にとの指示の様子を見守りながら木の枝を切りながら木への汚染ぶりも確認する。
 まだ日が浅いせいか木は汚染されておらず、改めてこの古い森の木々の逞しさに感心するのだった。

「女達は燃やしたのちに遺体を回収する。
 これは法に乗っ取った処置だ。
 これまでお前が背負う事はない」
「はい」
「少し休憩しろ。あとは引き継ごう」
「ありがとうございます」

 レドフォードと同じように心が疲れ果てた者達を見つけ出して水を渡して休むように言う。
 そして暫くの後にやって来たルーツ小隊に残りの菌糸を燃やすように指示をして、焼いた女達の遺体に布を掛けてこの場で作ったそりに乗せてギルドの拠点へと戻るのだった。







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