うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は無事アルホルンに到着したようです

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 団長の命令が下りて朝を迎える前に城を出て、昼前にはアルホルン領の唯一人の住まう領主の庭の一角に作られた作戦本部に辿り着いた。
 副団長が俺達と同行していた為に最初はシーヴォラ隊の出現に胡散臭げな顔をしていた奴らも口を閉ざして俺達を迎え入れてくれた。

「グロス副団長殿、これは一体……」
「城の方でちょっとトラブルがありましてね、団長が両者に罰を与えた所です。
 シーヴォラ隊は昨日の午後から準備をして今日の午後にここに辿り着くように、そしてトラブルを起こした者達には独房行きという、まぁ反乱と言われたとしても当然の事をした為の処置ですね。
  シーヴォラ隊長はスマートに対処できなかったからという理由でここで討伐の参加をさせる事になりました」
「昨日の今日で……」

 信じられんと先に来ていた他隊の隊長達は何とも言い難い視線をシーヴォラ隊に目を向ける。
 本来ならどこかで一晩野営して辿り着く距離だ。
 単騎で馬を走らせ続ければ可能かもしれないが……
 それを何台にもつながる馬車をもろともせずに隊列を組んでやって来たのだ。
 シーヴォラ隊おかしいだろうと誰もが心の中で突っ込むのは常識とプライドのせいだといってもおかしくない。
 最もアルホルン領に入ってからは馬の為にもスピードを落として並足で着た為にそろっていただけの話しだが、それでも荷物を運ぶ馬車まで遅れずについて来れたのはシーヴォラ隊の普段の訓練のたまものだろうか。

「グロス副団長、野営地はこちらでよろしいので?」
「ああ、シーヴォラ隊長貴方はやはりお若い。
 なかなかの強行軍こんなにも余裕持って到着するとはさすがと言うべきか……」

 十歳以上年上の副団長はさすがに疲れたという顔を隠しきれなかったが、それも含めてレーン小隊長には居残ってもらったのだ。
 団長の懐刀が付いてくる以上下手な真似は出来ないし、ラグナーからヴォーグを奪った(?)相手に優しくする理由は当然ない。

「シーヴォラ隊の野営地はこちらで結構です。
 ですが後ほど団長が見えるのであまり広く場所を取らないでください。
 あと森よりにはギルドからの派遣された冒険者達が拠点を構えてます。
 後ほど挨拶に伺うので同行をお願いします」

 ざわりと空気が揺れる。
 ついに団長の直属の部隊が来るのかというか、王都でもそこまで事態が深刻化してるのかという事が現場にも伝わり緊張が走る。

「ですから、シーヴォラ隊は野営地が出来次第すぐにこの近辺の討伐をお願いします」
「承りました」

 疲れも見せずにピシリと騎士の礼をもって任務を受け取れば、それを聞いていたレドフォードがすぐに部下達に役割を振った。

「あと、あまり食糧事情が良くないので可能な限り現地で得る様にしてください。
 既に食糧問題は騎士団の懐をかなり痛めてる問題なのでご協力お願いします」

 それはかまわないが、チラリと周囲を見回せばあからさまに視線がそらされた。
 先発隊の散財ぶりがよくわかると言った物か。

「副団長、ひょっとしてこの為のてこ入れでしたか?」
「それを含めてのてこ入れですよ」

 のほほんと笑う人の良さそうな顔の副団長だが、それでも団長の代理を務めるほどの頭脳と剣と魔力の持ち主だ。
 家の格式だけで副団長となっていると噂されたり、純粋な実力だけなら団長を超えるとさえ噂もされている。
 実力は知らないが、ひょっとしたらその腕前が見れるのではと期待半面、団長自らのお出ましに不安は拭えない。
 
「レドフォード、悪いがこの周辺の地形と魔物の状況の把握を簡単に調べて来てくれ」

 拠点づくりは副団長殿の物も含まれて、俺達から遅れて出発しているという団長達の野営地作りもする事になるのだろう。
 忙しくて討伐どころじゃないなと思ったからこそレドフォードに討伐と言う言葉を使わずに魔物の討伐実績だけでも作らせに行かせた。
 ランダーの美しさは騎士団でも上位に位置し、居るだけで場が華やかにもなるしいざこざも不思議と無くなる。
 同じ隊なので中身を知っていると貧乏男爵の娘さんは街娘のごとく小気味良い啖呵も切るし、剣と魔術の腕っぷしは小隊長を任せていられるくらいの豪腕さも持っている。
 ほそっこいのに男顔負けの剣技は俺も良く練習相手になってもらっている。
 そんなランダーを手元に置くのは当然で、ランダーも当然という顔で俺の補佐をするように一緒に行動をしてくれていた。
 
「思ったよりも空気が悪いな」

 率直な意見はその一言だった。
 救護テントの中には収容できずにあふれかえる怪我人。
 持って来たばかりの薬も副団長経由で譲ってくれと乞われ、治癒魔法を使える面子は既に救護テント周辺で駆けずり回り、食料がすでに半分を切っているという耳を疑う状況だった。
 物資は総て多めに持って来たはずなのに瞬く間に減って行く様子に副団長に間に入ってもらう。
 恨めしそうな目で睨まれてしまうもレドフォードを探索に出してる上に馬を休ませて物資を取りに行かせる合間に総て無くなりそうなペースにランダーに対応をさせる。

「団長がこちらに到着するまで辛抱してください」

 副団長に言わせるのだからいかにこの場の空気が悪いとかいう以前に副団長団長が出てこなくてはいけない状況に天を仰ぐ。
 
「城の方が……なのに」

 あえて濁した言葉に副団長はふーと息を吐き出し

「少なくとも今回の貴方の行動が牽制に回るか、チャンスととらえるか我々も判断に戸惑う所なんですよ」

 ヴォーグの一件の事だろう。
 それでも俺達をこちらに寄越した事と言い、宮廷騎士団の全員招集と言い団長も終結に向けて本腰を入れたという事か。

「って言うか宮廷騎士団全員って、ここにいる奴らが全員でかかっても勝てそうもない気がする」
「だから宮廷騎士団なのですよ。
 貴方の名前もクラウゼ副隊長も候補の一人ですから是非とも名を挙げて頑張ってください」
「山ほどいる候補の一人って言われても現実味がないなぁ」
「まぁ、何所かよいお家の養子に迎えられれば現実味が増しますよ」
「独り立ちして結婚している時点の伴侶を伴っての養子を迎えようという奇特な家があれば紹介してほしいね」
「ははは、まずないですね」

 その言葉に肩を竦めれば副団長も項を掻きながら

「貴方が立場の為に男性とも結婚が出来ると判っていれば我が家でお迎えしようかと考えてましたのに」
「は?」

 周囲の人達も動作が止まって副団長を見つめていた。

「貴方が結婚どころか女っ気もないので団長が養子に迎えようかという話を上げたのですが、あなたになら子供が居ても女達が群がるのは変らないので意味がないですよと言えばだったら妻に迎えようと言い出すから……
 そんな事なら私が妻にでも養子にでも迎えますとストップをかけてきました」

 はははと笑いながら俺を見て

「そうしたらあのクソ団長なんて言ったと思います?
 そんな残飯処理みたいな事をさせてさすがのシーヴォラとて可哀想だって言うんですよ。
 失礼しますね!」
「あの……
 気を遣わせてすみません」
「いえ、さっさとクラウゼ家の養子にならない貴方の責任とは思ってませんから。
 さすがにクラウゼ家と言えども貴方が早々に隊長になるとは思ってなかったようで、惜しい人材を逃したようですけどね」
「あああ、その、すみません」

 なんて言えばいいのか判らなくて謝っておけば副団長は笑いながら俺を案内しながらギルドの野営地へと案内してくれた。





 


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