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うちの隊長は城内で捕り物劇を始めるそうです

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 噂と言う物は真実と全く違う方向へと変化して広まって行く物だというのは知っていたが、噂の当人となるとなかなかどうして胃の痛い話になるという体験をヴォーグはしていた。
 先日の副隊長の家のコルッカ事件を機に仕事の時間を調整する事になった俺は三交代制の朝時間からの時間を規定としてもらったのだ。 
 特別視するにもほどがある。
 文官は夜中に残られてもなんの役に立たない為に二交代制なのだが、隊長の補佐役として免除してもらった結果剣を突きつけてでも結婚したい相手を職場に連れて来て浮気をしないか監視しているという耳を疑うような噂が瞬く間に城中に広まったのだ。
 最初の頃はそんな俺を一目見ようと見物客が来たのだが、生憎隊長の隣に立っても遜色のない副隊長のような美しさの欠片もない平凡の顔立ちの為に何やらみなさんほっとして帰って行くという何だか泣きたくなるような心境にさすがのシーヴォラ隊の皆様も同情してくれるようになり、この状況を打開しようと一つの作戦が決行される事になった。

 ヴォーグを誰にも見せたくない……なる噂を流されたおかげで新たに続いた噂に俺は今理不尽な状況に追い込まれていた。



「ねえ新人君、君ただの一般公募の事務員出身ごときの文官なのに何でかなー?
 なーんでラグナー隊長と言う私達女性騎士総て抜け駆けしない、プライベートの話しをしない、私生活に踏み込まないという誓約書に血の血判を押しているくらいの尊い人を勝手に独占しておいてなーんで今日も朝からクラウゼ副隊長の馬車で二人一緒に登城しているのー?
 あんたの性癖をとやかく聞くつもりはないけどー」
「まさか我々のクラウゼ副隊長に鞍替えしたとか言わないよな?」

 書類を保管庫に保存しに行こうとした折りに複数なんて言うのもおこがましいくらいの女性騎士の皆様に書類を奪われた挙句ビリビリに破られて昼から拉致られて今現在太陽の傾きから言えば夕刻と言う時間まで用具室に連れ込まれている間の数時間ほど尋問を受けています……
 ちなみに胸倉は掴みか上げられたりしますが暴力は受けてません。
 身長差が申し訳ないくらい迫力の効果を打ち消していて本当に頑張ってくれてるのに申し訳ない光景になってます。
 というかお二方の親衛隊があるなんて知りませんでした。
 非公認だそうですが有名らしいです。
 何でも二人一緒にいるのを目撃したら皆様に報告らしいです、って何なんだこれはと悩むもかかわりたくないのでこれ以上知りたくありません。
 ちなみに公認ファンクラブはシーヴォラ隊の皆様だそうです……なにそれ初耳です……
 そもそも何でこんな状況になったのかと思い出せばレーン小隊のお二方も同行していたはずなのに彼女達が現れた時何で胸を張って敬礼しているのかなあと不思議に思っていたら目の前にずらりと並ぶ女性方の迫力にやっと理解できて……仕方がないので諦めたのは一瞬だった。
 いやはや、さすが騎士様。
 女性とは思えない腕力と握力で一瞬で無人の用具室に引きずり込まれたのを通りすがりの男性の騎士様も顔を青ざめて見ないふりをして走って去って行ってしまうほどの逃げっぷりに一応助けを求めてみたけど、この過ぎ去った時間を考えれば彼らは二度と戻って来るはずもないだろう。
 だから夕方まで誰も探しに来てもくれないし、城内だけど広いから見つかるわけないよなーなんて一人自問自答。
 シーヴォラ隊の人が探しに来てくれる事を願っているけど今だ来ないという事はこの場所が見つかってないのかただ上手く誤魔化されてまだ知られてないかのどちらか。後者かなーなんて思うも最近毎晩晩酌に来る隊長に知られるまでがリミットかなと考えておく。
 時折部屋の外から声が聞こえる通りすがりの人は他の隊の人だし助けてくれないだろうなーとは思ったけど、予想が当ったら当ったで涙が出るなんて何だろうなこの気持ちと視界の下できゃんきゃんと喚く女性騎士の対応をどうしようか、最悪背後の壁を壊して脱出しようかと考えていればとたんに廊下が騒がしくなった。

「まずい!見つかった!」
「何でここがばれたのよ!撤しゅ……!」
「させるわけがないだろう……
 ヴォーグ回収に来たぞ!」
「隊長お世話掛けます!」
「ヴォーグ・シーヴォラ補佐官の監禁および重要書類紛失の疑いでこの場にいる者全員懲罰房行きだ。
 連れて行け!
 レドフォード小隊長は各隊の隊長に報告の連絡と抗議に行け!
 俺は今から団長の所に行くからクラウゼ副隊長ついて来い!
 マリン小隊長はヴォーグをいつもの奥の書類部屋に連れて行き保護!ヴォーグは待機だ!
 そして補佐官と同行していたレーン小隊の二人には与えられた任務を遂行できないというのなら無期限の謹慎、レーン小隊は隊舎で待機を言い渡すっ!」

 あまりの重い処分に捕まえられた女性騎士達は息をのみ、隊長と同行していたレーン小隊長が何か言いたそうだったが俺が今抱えている問題の重要さを薄々感づいている為にぐっと唇を噛みしめて堪えていた。
 城内で起きたこの一件は瞬く間に噂が広がるよりも見物客が押し寄せる結果に隊の半数近くを引き連れて現れたシーヴォラ隊長は運がいいのか悪いのか通りかかった副団長に俺を連れてそのまま団長に説明に行く事になった。

「俺ただの文官の事務員なのに、勤めて半年もしてないのに……
 せっかく安全安定の職に付けたと思ったのにもうクビか……」
 
 思わずぼやいてしまったが副団長は朗らかに笑いながら

「貴方は被害者です。
 怪我が無くてよかったが、寧ろこんな騒動に発展させてしまったシーヴォラ隊長にこそ非がある。
 もっと上手くやれなかったのか?」
「申し訳ありません。いい加減何とかこの状況を打破する為にと一芝居討ちましたが予想以上に騒動が大きかった事を見抜けず深くお詫びします」

 さすがにこの規模は想定外だと肩を竦めながら

「毎朝見ている顔とは言えもっと自分の容姿に気をつけなさい。
 ただでさえ猛獣のような女性騎士が多いというのに早々に結婚するから騒動になるのですよ。
 団長を見て見なさい。
 あれでも二十年ほど前は貴方に負けないくらいの女性の視線を一身に集めた美男子でしたが騒動を嫌って結婚を諦めたのですよ。
 ええ、何度後ろから襲撃しようかよく同級生達と相談した物です」

 からからと笑う副団長の団長話しに美形も大変ですねと心の中で同情しておいた。

 副団長による団長の過去話を幾つか聞きた頃には廊下にカーペットが引かれるような立派な一角へとやってきていた。
 廊下の突き当たり、廊下の幅いっぱいに開く立派な扉を前にしてふと思い出す。

「そういや俺先日侯爵様のお屋敷に行った時に初めて知ったんだけど、何年か前に団長が交代してたのですよね?」
「ああ、あれは久しぶりに笑わせてもらった」
「交代して5年以上にもなるのにまだ知らない奴がいるとは……
 仮にも騎士団の一員なのに情けない」
「あはは……笑い話じゃないですが、結局の所今の団長って誰ですか?
 あの時も名前聞いてなくって……」
「ヴォーグ殿は、今頃まさかそんな事をここで聞くのですか?」
「書類のサインが達筆すぎて読めなくて」
「それは面と向かって団長に抗議しても良い懸案ですねぇ」

 あっけにとられる一同と、衛兵のなんて事をと言う視線を受けつつも既に開きだした扉を今更閉める事が出来なくて、扉の正面に机を配置するという無防備な団長室の室内の模様に俺は名も知らない団長と正面からお会いする事になった。





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