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うちの隊長はデートに出かけてレベルアップしたようです
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俺も身長に伸び悩んでジレンマを覚えた時期もあったが今はそれをカバーできる物があると自負しているので別に今更悩んだ事はない。
だけどこののっぽの身長を見て少し羨ましく思うも、見上げれば見下ろす視線がそれほどいやではない事に最近気づいてどうも居心地が悪い気がするのは黙っておくことにしている懸案の一つだ。
「まぁ、お前の成長を喜んでもらえたようで何よりだ」
「はい。親元で育った時よりも長い間俺の面倒見てくれたので感謝は尽きないですね」
「結構長い間世話になってたんだなって言うか家族と仲は?」
「あー、普通だと思います。
喧嘩もするし一緒に演劇なんかも見に行きますので」
「ハイソな生活だな」
「婚約者がどうのこうのなんて言う家なら普通ですよ。
もっとも、家長の言葉には絶対的な空気だから逃げ出したんですけどね」
「お前も苦労するな」
「まぁ、自分で自分を養える程度にはなったので弟には迷惑をかけっぱなしだけどこのまま雲隠れできれば幸せですね」
「俺の知らない世界だけどとりあえずがんばっとけ」
「はい」
言いながら腰の鞄から取り出したキノコに付いたゴミを取り除いていた。
「なんか苔みたいなキノコだな?」
「はい。二日酔いに効くんですよ」
「お前は何て言う薬を作るつもりだ……」
「ギルドの知人からの依頼で前に試作で渡した二日酔いの薬をくれってさ。
普通のポーションからすると確かにこっちの方が安いけどこれの採取があんな崖の中腹に生える奴だから難易度が高いのです。
最も調合とか魔法薬じゃなくって、これにお湯を入れてお湯を飲むだけって言うお手軽な酔い止めだから意外と需要がありまして」
「ぜひ俺の分も欲しいな」
「ラグナーは少しお酒の量を減らしましょう」
「くっ、総てヴォーグの家の酒が美味いのが原因だと言うのに!!」
「バカなこと言ってないで少しは身体を大切にしてください」
呆れた顔で言いながら総て掃除し終えて片づける。
「で、次は何を採るんだ?」
「この近辺では木の皮ですね」
「は?」
思わず木の皮?なんて思えばヴォーグが足を進めた先について行く。
拠点からあまり遠くない場所はやはり岩場でその隙間から縫うように生えた細い木に手を当てる。
「この木の皮を干した物を煮詰めて濃縮した物を冷やして直接目を洗うようにして使います。
時々目脂がこびりついて開く事が出来ないって言う人いるでしょ?」
「ああ、孤児院とかスラムとか……」
言って口を閉ざしてしまう。
ヴォーグは一体どういった人に薬を売っているのかと。
「綺麗な水で目脂を洗い落してから薬が目を直接洗うように流します。
一日5度ほど、目脂が出なくなるまで続けます」
言いながら樹皮の表面を斬り付けて表面の皮をはいでいた。
よく見ればそれは周囲の木も剥がされており、一本の木の表面をぐるりとはぎ取った所でその作業を終えていた。
「良いのかそれだけで?」
案に俺もいるから手伝うぞと言えば
「木の再生能力で剥けた場所も何年かすればまた薬の素材として使えるようになります。
ですが、それまでは木も弱ってしまっているので剥ぐ事は出来ません。
なので一回の採取の時一本までと決めておかなくては継続的に薬の提供が出来なくなります。
見ての通り木の不足は感じられないと思いますが、この木が薬になると知ると誰もがこの木の皮をこぞって剥ぎに来るでしょう。
俺みたいな採取専門の冒険者だとちゃんと後々の事も考えてセーブしますが、討伐専門の人達、特に低ランクでカツカツの冒険者だとこういった生態系の事を考えずに、根こそぎ持っていきます。
この木の実はリズリーと言うリスの魔物の好物です。
どこかの国だったかまでは覚えてませんがこの木の皮を根こそぎ剥いで木が弱ってしまい、実をつけるどころか花を咲かす事も出来なくなるまで弱ってしまった為に木の実を食べる事が出来なかったリズリーは他の場所に餌場を求めました。
結果的には近くの村を餌場と決めたリズリーは何百と言う単位で村から食べれる物を食べつくして行きました。
もともと貧困の村なのでしたが、備蓄はもちろん春になったら撒くはずの種も食べ、こいつらは雑食でもあるので寝ている子供達や、身体の悪い老人達も食べて行きました。
慌てて近隣の村に救援を求めに行ってリズリーの皮は高値なので冒険者もこぞって集まりましたが、その時は総てのエサを食べつくしたリズリーが次の餌場を求めて移動した後でした。
家じゅうに縄張りと歯を研いだあとが残り、あれだけの数のリズリーのおびただしい排泄物からは異臭と虫も湧いて、村に残ってともらいをしていた村の男達は井戸の水を飲んで病を発症しあっけなく亡くなりました。
冬の畑に実る作物どころか、飼っていた馬や牛までもすべて食べられた後で誰もが言葉を失ったと言います。
なのでこの木は慎重に取り扱わなくてはいけないのです。
麓の村もリズリー達の行動範囲内です。
好物のこの木の実が実る間は村には降りてこないので大丈夫ですよ」
「いや、すごい話と言うか……
木の実が生らない間はどうしてるんだ?」
「ちゃんと季節ごとに実る好物の木の実があります。
その木の実を求めて移動するので大丈夫ですよ。
あと、リズリーは見つけたら駆除をしなくてはいけません。
依頼書が無くてもギルドに持っていけば買い取ってくれます」
「ヴォーグから聞く話はそう言った話が多いな……」
「先生やギルドでいろいろ教えてくれた人がこういった怖い話をたくさん知ってましてね。
勉強でいろいろ覚えてみました」
木の皮を持ち運びしやすいように畳ながら疲れた様に苦笑するヴォーグはもっと聞きます?なんて言うが俺は遠慮しておいた。
「じゃあ採取する物事にそう言った逸話を知ってると言う事か?」
「教訓も兼ねて大体と言うかほぼ全部ありますね。
最も恐ろしいのが先生がその半分以上を体験したってのが耳を疑いますよ」
はははと笑うヴォーグはそれでも情報は貴重なので本にしてまとめてありますと言う。
本として保存できる量と本にしてしまったその根性が恐ろしいと身を振るわしながら今度その本を貸してくれと怖いもの見たさに約束をするのだった。
それからはヴォーグの話を聞きながら採取を黙々と手伝う。
夜の間はテントと魔物除けの結界を張って暖かな寝袋でホットワインを飲みながら寝て、朝を迎えた頃にはヴォーグは既に起きていて俺の為に朝食を作ってくれていた。
魔物除けの結界付近には魔物の爪痕とか残っていた事を確認しながら、結界が魔物を入れなかったその万能さに感心するも、何故かその結界が青い紐で出来ていたのは意味が判らなかった。
その後はもう帰路の道だけだった。
時折見つけた野草や魔草を見付けたり、出くわした魔物を倒したりとピクニックとしては血なまぐさかったが充実した時間を過ごして馬を預けていた村へ戻り昼食を食べて王都へと戻るのだった。
「そんなキャンプのお土産だ」
ヴォーグと捕まえたスノーラビットをばらした物を晒しで包んだ状態の物を見せれば室内は途端に沈黙に落ちた。
スノーラビット
名前の涼しさとは別に全長150ゼール、体重150グルムと超重量級のウサギ型魔物だ。
寒い地域を好み、草食、そしてその体重の重さにほとんど動く事はなく見た目通りの大食漢の姿だ。
親子での群れの行動の為スノーラビットが通った後には根こそぎ植物は無くなると言われている。
性格は温厚、攻撃行動は周囲を広範囲で凍らせたり些細な物だがその立派な毛皮と皮下脂肪の為に周囲を凍らせたて冷を取ると言う習性のある厄介者。
「王都近くの山に行くとおっしゃってたのに一体どこまで行って来たんですか……」
アレクの聞いても良いのか聞きたくないのかと言いたげな質問には一応そこで取ってきたんだよと言い
「ヴォーグが滝で水浴びをして涼んでいたこいつを見つけたらしくて仕留めてきた。
とりあえず今日の昼食には間に合うと思うからぜひ食べてくれ」
「ヴォーグがですか?」
「正しく言えばヴォーグが囮役をして俺が仕留めただな。
こいつら群れで行動する習性があるだろ?
上手くおびき寄せて来た所を俺がバッサリと切り落としたんだよ」
「貴方一人でスノーラビットを?
スノーラビットは騎士団でも一部隊を使っての討伐対象じゃないですか……」
なんて無茶をと言うアレクの驚く視線に俺はそっと視線を反らした。
「二人しかいないんだから役割を決めればそうなるだろ」
そこで俺は少しだけふてくされる。
前回の採取もだがヴォーグによって身体強化された俺は一人でスノーラビットをすぱすぱと斬る事になって正直ヴォーグの身体強化が怖くなっていた。
どれだけ手ごわい相手か知っているだけにあっさりと切り落とした首の肉や骨の感触がまったく手に残らず顔を顰めるしか出来なかった。
さらに一体目を切り落とした所で不意打ちのように表れた二体目の攻撃に俺は身動きが取れなくなってしまった所をどこからか現れたヴォーグによってお姫様のように抱かれて無事危機を脱すると言う騎士団隊長としてあるまじき失態を犯した。
別にヴォーグが俺の想像以上に鍛えてある事に驚いたとか、意外と着やせしているとか、さっそうと現れて助けてくれた事とか、その時の二体目を俺を助けたと同時に仕留めていた手腕とかあまりの驚きの情報に俺はただただ呆然として……そんな俺を抱きしめて「もう大丈夫です」何て優しい声で慰められた事はなるべく考えないようにしているのに昨日一晩ずっとそればかり頭の中をループしていて、出かける前に変に刷り込まれてしまった声と言葉が止めとなって顔が熱くなって悶えていたのは誰にも言えない秘密だ。
「因みにヴォーグは?」
「今食堂にスノーラビットを卸している所だ」
律儀なやつめと溜息を吐けば
「やったー、今日も特別メニューだ」
「俺逆立ちしても一生食べれない物をこの間からアホほど食べてる気がするー」
「もうヴォーグのせいでまた体重が増えちゃうー」
「ヴォーグのせいでお食事に誘われても楽しく無くなって来ちゃうー」
「ああ、死んだ親父おふくろにも食べさせてあげたかった……」
「副たいちょー質問でーす!」
「所でスノーラビットって美味しいんですかー?」
「俺も食べた事ないからどうだろうか……」
昼食に並ぶと予想されるスノーラビットはさすがにあの場では食べなかったがアレクの家でも出る事のない食材だったのかと静かに驚いている中ヴォーグが食堂経由で隊舎にやって来た。
「おはようございます」
何時もの通り挨拶をしてやってきたヴォーグを捕まえて
「スノーラビット楽しみにしている」
「ああ、隊長からお聞きしましたか?
さすがに食べきれないので副隊長のご実家の方にも届けるようにお願いしてきました」
「いつも済まないと言うか本当にどこまで採取しに行ったんだ……」
「事前にお話ししておいたと思いますが郊外の山ですよ?
スノーラビットの生息地ではありませんがあの辺りは時々川に流されてきたスノーラビットが時々います。
あいつらは一匹が流されると群れ単位で追いかけてくるから厄介なんですよね。
この近辺なら標高の高い寒い場所を好んで過ごしているのですが、谷に落ちて川に流されてやってくるのが居て、流されたら流されたで食べ物がいっぱいの場所に辿り着くのだからちょっと目を離した隙に増殖する厄介者ですよ。
ほんの二か月ほど足を運ばなかっただけで住み着いた揚句に子供も生まれててあの程度の被害で済んでよかったです」
「あの程度……というか、よく無事だったな」
「はい。スノーラビットの討伐はよく観察する機会があったので。
隊長が頑張ってくれて本当に助かりました」
「ああ、俺もまさかあんなに大量のスノーラビットに追いかけられるとは思わなかったぞ」
表情はなく死んだ目をしたラグナーにこれ以上声を掛けるまいとヴォーグへと向いて
「さて、今日は少し難しい話があるんだが早速別室で打ち合わせをさせてもらっても良いだろうか」
「はい。あ、もう始業時間ですね。
では失礼します」
一言そう断ってアレクはヴォーグと一緒に個室と言う安全地帯に潜り込み、昼の休み時間まで一度も顔を出さずに一緒にこもっていれば、だんだんと機嫌を損ねて行くラグナーのせいでドア一枚隔てた室内はまるで真冬のように空気が凍り、誰もが姿勢正しくと言うか凍っているかのようにぎこちなく動き出す動作からそっと視線を反らしたまま時間を過ごしていればやっと迎えた昼休みの時間。
ドアから出てきたヴォーグの人の好い顔で
「では隊長、仕留めたばかりですがスノーラビットの最後の退治に行きましょう!」
シチューにしてくれるって言ってましたから楽しみですねと言って食堂にラグナーを誘って出て行った二人の背後をほっとしながら見送り
「ヴォーグは中々の大物だな」
「副隊長は逃げたくせに……」
「悪いな、これもあいつと7年付き合った経験だ」
ラグナーの不機嫌さもスノーラビットのシチューを食べた所でご機嫌となり、更に今夜はヴォーグの家でスノーラビットの肉をグリルして食べようと提案されてさらにご機嫌になっている我らが隊長に俺達は見えない聞こえない知らないと言う様にして初めて食べるスノーラビットの白身の肉なのに全く淡白な感じやパサパサとした食感はなく、寧ろ脂身の臭さも無ければジューシーな嫌みのない甘ささえ覚える脂身も美味しく食べる事が出来、今日はまっすぐ家に帰ろう、さっさと家に帰ろうとうちに届けられているはずのスノーラビットを思ってアレクシスは心に誓うのだった。
だけどこののっぽの身長を見て少し羨ましく思うも、見上げれば見下ろす視線がそれほどいやではない事に最近気づいてどうも居心地が悪い気がするのは黙っておくことにしている懸案の一つだ。
「まぁ、お前の成長を喜んでもらえたようで何よりだ」
「はい。親元で育った時よりも長い間俺の面倒見てくれたので感謝は尽きないですね」
「結構長い間世話になってたんだなって言うか家族と仲は?」
「あー、普通だと思います。
喧嘩もするし一緒に演劇なんかも見に行きますので」
「ハイソな生活だな」
「婚約者がどうのこうのなんて言う家なら普通ですよ。
もっとも、家長の言葉には絶対的な空気だから逃げ出したんですけどね」
「お前も苦労するな」
「まぁ、自分で自分を養える程度にはなったので弟には迷惑をかけっぱなしだけどこのまま雲隠れできれば幸せですね」
「俺の知らない世界だけどとりあえずがんばっとけ」
「はい」
言いながら腰の鞄から取り出したキノコに付いたゴミを取り除いていた。
「なんか苔みたいなキノコだな?」
「はい。二日酔いに効くんですよ」
「お前は何て言う薬を作るつもりだ……」
「ギルドの知人からの依頼で前に試作で渡した二日酔いの薬をくれってさ。
普通のポーションからすると確かにこっちの方が安いけどこれの採取があんな崖の中腹に生える奴だから難易度が高いのです。
最も調合とか魔法薬じゃなくって、これにお湯を入れてお湯を飲むだけって言うお手軽な酔い止めだから意外と需要がありまして」
「ぜひ俺の分も欲しいな」
「ラグナーは少しお酒の量を減らしましょう」
「くっ、総てヴォーグの家の酒が美味いのが原因だと言うのに!!」
「バカなこと言ってないで少しは身体を大切にしてください」
呆れた顔で言いながら総て掃除し終えて片づける。
「で、次は何を採るんだ?」
「この近辺では木の皮ですね」
「は?」
思わず木の皮?なんて思えばヴォーグが足を進めた先について行く。
拠点からあまり遠くない場所はやはり岩場でその隙間から縫うように生えた細い木に手を当てる。
「この木の皮を干した物を煮詰めて濃縮した物を冷やして直接目を洗うようにして使います。
時々目脂がこびりついて開く事が出来ないって言う人いるでしょ?」
「ああ、孤児院とかスラムとか……」
言って口を閉ざしてしまう。
ヴォーグは一体どういった人に薬を売っているのかと。
「綺麗な水で目脂を洗い落してから薬が目を直接洗うように流します。
一日5度ほど、目脂が出なくなるまで続けます」
言いながら樹皮の表面を斬り付けて表面の皮をはいでいた。
よく見ればそれは周囲の木も剥がされており、一本の木の表面をぐるりとはぎ取った所でその作業を終えていた。
「良いのかそれだけで?」
案に俺もいるから手伝うぞと言えば
「木の再生能力で剥けた場所も何年かすればまた薬の素材として使えるようになります。
ですが、それまでは木も弱ってしまっているので剥ぐ事は出来ません。
なので一回の採取の時一本までと決めておかなくては継続的に薬の提供が出来なくなります。
見ての通り木の不足は感じられないと思いますが、この木が薬になると知ると誰もがこの木の皮をこぞって剥ぎに来るでしょう。
俺みたいな採取専門の冒険者だとちゃんと後々の事も考えてセーブしますが、討伐専門の人達、特に低ランクでカツカツの冒険者だとこういった生態系の事を考えずに、根こそぎ持っていきます。
この木の実はリズリーと言うリスの魔物の好物です。
どこかの国だったかまでは覚えてませんがこの木の皮を根こそぎ剥いで木が弱ってしまい、実をつけるどころか花を咲かす事も出来なくなるまで弱ってしまった為に木の実を食べる事が出来なかったリズリーは他の場所に餌場を求めました。
結果的には近くの村を餌場と決めたリズリーは何百と言う単位で村から食べれる物を食べつくして行きました。
もともと貧困の村なのでしたが、備蓄はもちろん春になったら撒くはずの種も食べ、こいつらは雑食でもあるので寝ている子供達や、身体の悪い老人達も食べて行きました。
慌てて近隣の村に救援を求めに行ってリズリーの皮は高値なので冒険者もこぞって集まりましたが、その時は総てのエサを食べつくしたリズリーが次の餌場を求めて移動した後でした。
家じゅうに縄張りと歯を研いだあとが残り、あれだけの数のリズリーのおびただしい排泄物からは異臭と虫も湧いて、村に残ってともらいをしていた村の男達は井戸の水を飲んで病を発症しあっけなく亡くなりました。
冬の畑に実る作物どころか、飼っていた馬や牛までもすべて食べられた後で誰もが言葉を失ったと言います。
なのでこの木は慎重に取り扱わなくてはいけないのです。
麓の村もリズリー達の行動範囲内です。
好物のこの木の実が実る間は村には降りてこないので大丈夫ですよ」
「いや、すごい話と言うか……
木の実が生らない間はどうしてるんだ?」
「ちゃんと季節ごとに実る好物の木の実があります。
その木の実を求めて移動するので大丈夫ですよ。
あと、リズリーは見つけたら駆除をしなくてはいけません。
依頼書が無くてもギルドに持っていけば買い取ってくれます」
「ヴォーグから聞く話はそう言った話が多いな……」
「先生やギルドでいろいろ教えてくれた人がこういった怖い話をたくさん知ってましてね。
勉強でいろいろ覚えてみました」
木の皮を持ち運びしやすいように畳ながら疲れた様に苦笑するヴォーグはもっと聞きます?なんて言うが俺は遠慮しておいた。
「じゃあ採取する物事にそう言った逸話を知ってると言う事か?」
「教訓も兼ねて大体と言うかほぼ全部ありますね。
最も恐ろしいのが先生がその半分以上を体験したってのが耳を疑いますよ」
はははと笑うヴォーグはそれでも情報は貴重なので本にしてまとめてありますと言う。
本として保存できる量と本にしてしまったその根性が恐ろしいと身を振るわしながら今度その本を貸してくれと怖いもの見たさに約束をするのだった。
それからはヴォーグの話を聞きながら採取を黙々と手伝う。
夜の間はテントと魔物除けの結界を張って暖かな寝袋でホットワインを飲みながら寝て、朝を迎えた頃にはヴォーグは既に起きていて俺の為に朝食を作ってくれていた。
魔物除けの結界付近には魔物の爪痕とか残っていた事を確認しながら、結界が魔物を入れなかったその万能さに感心するも、何故かその結界が青い紐で出来ていたのは意味が判らなかった。
その後はもう帰路の道だけだった。
時折見つけた野草や魔草を見付けたり、出くわした魔物を倒したりとピクニックとしては血なまぐさかったが充実した時間を過ごして馬を預けていた村へ戻り昼食を食べて王都へと戻るのだった。
「そんなキャンプのお土産だ」
ヴォーグと捕まえたスノーラビットをばらした物を晒しで包んだ状態の物を見せれば室内は途端に沈黙に落ちた。
スノーラビット
名前の涼しさとは別に全長150ゼール、体重150グルムと超重量級のウサギ型魔物だ。
寒い地域を好み、草食、そしてその体重の重さにほとんど動く事はなく見た目通りの大食漢の姿だ。
親子での群れの行動の為スノーラビットが通った後には根こそぎ植物は無くなると言われている。
性格は温厚、攻撃行動は周囲を広範囲で凍らせたり些細な物だがその立派な毛皮と皮下脂肪の為に周囲を凍らせたて冷を取ると言う習性のある厄介者。
「王都近くの山に行くとおっしゃってたのに一体どこまで行って来たんですか……」
アレクの聞いても良いのか聞きたくないのかと言いたげな質問には一応そこで取ってきたんだよと言い
「ヴォーグが滝で水浴びをして涼んでいたこいつを見つけたらしくて仕留めてきた。
とりあえず今日の昼食には間に合うと思うからぜひ食べてくれ」
「ヴォーグがですか?」
「正しく言えばヴォーグが囮役をして俺が仕留めただな。
こいつら群れで行動する習性があるだろ?
上手くおびき寄せて来た所を俺がバッサリと切り落としたんだよ」
「貴方一人でスノーラビットを?
スノーラビットは騎士団でも一部隊を使っての討伐対象じゃないですか……」
なんて無茶をと言うアレクの驚く視線に俺はそっと視線を反らした。
「二人しかいないんだから役割を決めればそうなるだろ」
そこで俺は少しだけふてくされる。
前回の採取もだがヴォーグによって身体強化された俺は一人でスノーラビットをすぱすぱと斬る事になって正直ヴォーグの身体強化が怖くなっていた。
どれだけ手ごわい相手か知っているだけにあっさりと切り落とした首の肉や骨の感触がまったく手に残らず顔を顰めるしか出来なかった。
さらに一体目を切り落とした所で不意打ちのように表れた二体目の攻撃に俺は身動きが取れなくなってしまった所をどこからか現れたヴォーグによってお姫様のように抱かれて無事危機を脱すると言う騎士団隊長としてあるまじき失態を犯した。
別にヴォーグが俺の想像以上に鍛えてある事に驚いたとか、意外と着やせしているとか、さっそうと現れて助けてくれた事とか、その時の二体目を俺を助けたと同時に仕留めていた手腕とかあまりの驚きの情報に俺はただただ呆然として……そんな俺を抱きしめて「もう大丈夫です」何て優しい声で慰められた事はなるべく考えないようにしているのに昨日一晩ずっとそればかり頭の中をループしていて、出かける前に変に刷り込まれてしまった声と言葉が止めとなって顔が熱くなって悶えていたのは誰にも言えない秘密だ。
「因みにヴォーグは?」
「今食堂にスノーラビットを卸している所だ」
律儀なやつめと溜息を吐けば
「やったー、今日も特別メニューだ」
「俺逆立ちしても一生食べれない物をこの間からアホほど食べてる気がするー」
「もうヴォーグのせいでまた体重が増えちゃうー」
「ヴォーグのせいでお食事に誘われても楽しく無くなって来ちゃうー」
「ああ、死んだ親父おふくろにも食べさせてあげたかった……」
「副たいちょー質問でーす!」
「所でスノーラビットって美味しいんですかー?」
「俺も食べた事ないからどうだろうか……」
昼食に並ぶと予想されるスノーラビットはさすがにあの場では食べなかったがアレクの家でも出る事のない食材だったのかと静かに驚いている中ヴォーグが食堂経由で隊舎にやって来た。
「おはようございます」
何時もの通り挨拶をしてやってきたヴォーグを捕まえて
「スノーラビット楽しみにしている」
「ああ、隊長からお聞きしましたか?
さすがに食べきれないので副隊長のご実家の方にも届けるようにお願いしてきました」
「いつも済まないと言うか本当にどこまで採取しに行ったんだ……」
「事前にお話ししておいたと思いますが郊外の山ですよ?
スノーラビットの生息地ではありませんがあの辺りは時々川に流されてきたスノーラビットが時々います。
あいつらは一匹が流されると群れ単位で追いかけてくるから厄介なんですよね。
この近辺なら標高の高い寒い場所を好んで過ごしているのですが、谷に落ちて川に流されてやってくるのが居て、流されたら流されたで食べ物がいっぱいの場所に辿り着くのだからちょっと目を離した隙に増殖する厄介者ですよ。
ほんの二か月ほど足を運ばなかっただけで住み着いた揚句に子供も生まれててあの程度の被害で済んでよかったです」
「あの程度……というか、よく無事だったな」
「はい。スノーラビットの討伐はよく観察する機会があったので。
隊長が頑張ってくれて本当に助かりました」
「ああ、俺もまさかあんなに大量のスノーラビットに追いかけられるとは思わなかったぞ」
表情はなく死んだ目をしたラグナーにこれ以上声を掛けるまいとヴォーグへと向いて
「さて、今日は少し難しい話があるんだが早速別室で打ち合わせをさせてもらっても良いだろうか」
「はい。あ、もう始業時間ですね。
では失礼します」
一言そう断ってアレクはヴォーグと一緒に個室と言う安全地帯に潜り込み、昼の休み時間まで一度も顔を出さずに一緒にこもっていれば、だんだんと機嫌を損ねて行くラグナーのせいでドア一枚隔てた室内はまるで真冬のように空気が凍り、誰もが姿勢正しくと言うか凍っているかのようにぎこちなく動き出す動作からそっと視線を反らしたまま時間を過ごしていればやっと迎えた昼休みの時間。
ドアから出てきたヴォーグの人の好い顔で
「では隊長、仕留めたばかりですがスノーラビットの最後の退治に行きましょう!」
シチューにしてくれるって言ってましたから楽しみですねと言って食堂にラグナーを誘って出て行った二人の背後をほっとしながら見送り
「ヴォーグは中々の大物だな」
「副隊長は逃げたくせに……」
「悪いな、これもあいつと7年付き合った経験だ」
ラグナーの不機嫌さもスノーラビットのシチューを食べた所でご機嫌となり、更に今夜はヴォーグの家でスノーラビットの肉をグリルして食べようと提案されてさらにご機嫌になっている我らが隊長に俺達は見えない聞こえない知らないと言う様にして初めて食べるスノーラビットの白身の肉なのに全く淡白な感じやパサパサとした食感はなく、寧ろ脂身の臭さも無ければジューシーな嫌みのない甘ささえ覚える脂身も美味しく食べる事が出来、今日はまっすぐ家に帰ろう、さっさと家に帰ろうとうちに届けられているはずのスノーラビットを思ってアレクシスは心に誓うのだった。
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