うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は軽く酔っぱらっているようです

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 ヴォーグにはあれから隊長室の隣にある個室で仕事をしてもらうようになった。
 取り扱う書類の重要度もさる事ながら、あまりに何度も執務室での居眠りに隣室のソファなら体を横たえれる事も出来ると言う更なるブラック仕様に誰もがそっと視線を反らせたが、やっぱり一番はその身の安全性を兼ねての対応だ。

「とはいえたいちょー、結婚相手なら私でも問題ないですよ?」

 ランダーは酒場に今行ける小隊長をかき集めてラグナーとアレクを拘束する様に良く足を運ぶ店になだれ込んだのだ。
 冒険者がたむろする安酒の酒場ではなく、綺麗なお姉さんやかっこよいお兄さんが隣に座ってサービスでお酌をする上流階級用の社交場なのだが、それでも格の低い気軽な所を選んでいた。
 雑多な物音と、カードゲームを楽しむ声が響く室内で

「ランダーは婚約者がいるだろう」

 呆れて零れる溜息にランダーは笑い

「隊長の為にだったら婚約破棄しても構わない相手なんだから気を使わなくってよかったのに」

 ぐびぐびと室温の温度のエールを飲むさまは堂に入った物だ。

「だけど隊長、私達本当に呆れているんですよ?
 なんであんな平凡な相手を選んだのか。
 特徴のない地味な見た目はもちろん一般採用程度の能力、キラーウルフ討伐程度の技量。
 性格も大人しめだし、お願いはちょろいくらい何でも聞いてくれそうだし、お友達になる分には問題ないけど結婚相手としては平凡以上にはなれないわよ?」

 色鮮やかなワインにそっと口付けるイリスティーナに周囲の男達の視線は釘づけだ。

「まぁ、しいて言えば俺達の失態をこれ以上広めないための対策だと思ってもらえば充分だろ」

 何を言ってると言う様にラグナーはナッツを口へと放り込む。

「で、アレクシスはどう思うのよ。ホンネ言ってみなさいよ」

 何故か女性陣二人に睨まれるも、赤ワインを一口飲んで

「確かに凡庸……には見えるが、書類の処理の早さは早々にああもなれない。
 ギルドで事務の手伝いもしていたと言ってはいたが、そう言った書類に見慣れた身分と言う方が納得する。
 となると、キラーウルフ程度の技量もあくまでも自己申告だから、信頼は出来んな」

 チラリとラグナーを見るアレクシスの冷たい視線に肩を竦めて

「どうやらいい所の坊っちゃんだったらしい。
 どうして家を飛び出して来たのかは弟の婚約者の問題だけじゃないだろうと思っている。
 寧ろすでに亡くなっているらしいが緑の魔女と知り合いになると言う時点であいつの身元は平凡凡庸何て真実は見当たらない。
 緑の魔女と認定されるにはそれだけの由緒ある家柄って言う条件があるからな。
 魔力が……俺が神経尖らして探ってみても何も引っかからないが、緑の魔女と知り合いと言う事を考えれば俺より上だと踏んでいる。
 つまり俺如きではあいつの魔力は計れないと言う事だ。
 そうなるとその魔力を従えるに当り相当訓練は積んでいるはず。
 例えばだ。
 剣だけではキラーウルフがやっとだとしても、魔法を使ってならと考えればぞっとするな。
 まぁ、たんに俺が考えすぎかというのもあるが」
「ラグナーの感は時々薄ら寒いほどいい感をしてるからヴォーグがわざわざギルド経由で素性を消してお前を仕留めに来た暗殺者と言うのは行きすぎかもしれないが、最悪はシーヴォラ隊解散だと思っておこう」
「アレクの考えは甘いのかおっかないのか」

 くつくつ笑いながらナッツを食べ終え最後にエールを仰いだラグナーは自分が飲んだ分より少し多めに銀貨を置いて

「悪いが先に帰らせてもらう」
「送ります!」

 ランダーが腕をからめて来ようとするもすり抜けて

「悪いが約束があるんだ」
「おや、ヴォーグの所へ?確か午後から明日いっぱいは休みだったはずですね」
「ま、素性を探りに行ってくる」

 アレクの眉間がきゅっと狭まるのを見て過保護だなと飽きれるも、それよりも早く雑多な店内から脱出してエールよりも少し冷ややかな空気の夜の街を歩いた。



 陽気な笑い声が通りを続く酒場から溢れだし、陽気に道を歩く冒険者や路地裏でひもじそうに残飯を漁っている子供もいる。
 子供の頃から見慣れた光景は今も変わらなくて、俺が騎士団の一隊長まで上り詰めても何一つ変わらない景色が広がっていた。
 俺は軽く飲んだエールの程よい酔いに足取り軽く手にしたメモを片手に大通りから裏路地へと入る。
 すでに店の並ぶ場所ではない為家から零れ落ちる明かりが照らすだけの人通りのない道を歩いて一軒のアパートを見付けた。
 部屋の幅こそ一部屋がギリギリだが入口は部屋ごとに着いているので建物の一階と二階の部分合わせて一軒なのだろう。
 鎧戸の隙間から零れ落ちる明かり灯る家の前に立ってノックをする。
 暫くするととたたたた……と軽快な足音がして鍵が開く音がした。
 不用心だなと思いながらドアを開けた顔が驚きに見開いて行く瞳に向かって俺は笑いながら挨拶する。

「よお、相手を確認しないでドアを開けるのは不用心だぞ」
「え?隊長?こんな時間に何で?」

 素で驚いていたヴォーグだがこんな所ではなんなのでどうぞと約束もしていない相手なのに親切にも家の中へと通してくれた。



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