上 下
305 / 311

ひとり立ちの為のはまず一歩 3

しおりを挟む
 ちび達の悪戯はさらに加速する。
 だめだと言っているのに山に入って動物達に負けるのは日常。
 最近いなくなったと思ってた天然記念物達に目をつけられてターゲットに認定。
 更に

「主ー!
 玄さんがお池で遊んでたらお魚さんに食べられちゃったよー!」

 自ら捕食されにいる強者もいて頭が痛い。
「主ー、心配かけてごめんねー。
 でも玄さんお池で遊びたかったの」
「遊びたかったって、玄さんには冷たすぎるお池だっただろ?」
 なんて聞くも
「だけど玄さんお池で遊びたかったの」
 なんて一歩も引こうとしない頑固者。
 ったく誰に似たんだかと思いながらコンクリを混ぜる舟を倉庫から発掘してきてそこにお水とお湯を混ぜて
「これなら安心だから」
 3月だと言うのに軒下でプール大会。
 すぐに冷えてしまうのでロケットストーブで沸かしたお湯を加えながらの温度調整。
 いつのまにか岩さんと緑青も混ざっての大はしゃぎ。
「主ありがとうねー!」
 なんて満面の笑顔を見せられたら降参するしかないだろう。
 一通り満足するまで遊んだ後は三体ともお昼寝。
 静かになった、なんて思ったら勘違い。
「主、主、今度は真白の番だよ!」
 おもちゃの紐を咥えてやってきた真白の期待した瞳と尻尾。
 断るなんて……
 一度視線を反らしてもう一度見れば真白の期待した瞳と尻尾!
「できるわけがねえだろう!!!」
 そう言って雪の中に向かって紐を投げれば嬉しそうな顔で雪の中に飛び込んで紐を取りに行く真白。
 持ってこればもう一度と俺を見上げるはちきれんばかりの尻尾と瞳に
「勝てるわけがねえだろう!!!」
 満足するまで続けさせられて最後紐を渡してくれたところで自発的に緑青達が寝ている鍋に潜り込めばあっという間にお昼寝タイム。
 ああ、ここまでがほんと長かった。長かったよと俺もお昼寝したいなと思うもあのド派手な赤いひよこがいない。
 どこだ?
 なんて周囲を伺うも姿は見えず。
 ひょっとして……と離れの冷蔵庫へと向かえば
「やっぱりここか……」
「あ」
 冷蔵庫の中で凍らないようにと保存してある果物を齧っているひよこがいた。
「ひよさんやってくれたな」
「朱華はちょっと喉が渇いたから水分摂取のために探索しただけで……
 主と真白が楽しそうだったからお邪魔できないから自主的に、美味しいもの探してみました!」
「主もびっくりな開き直りだな」
 言いながら突かれた痕のあるリンゴにミカン、バナナにイチゴ……
「ひよこはどれが美味しかったかな?」
「全部!」
「なるほど。通りで全部齧ったわけか」
「どれも美味しそうで一つなんて選べません!」
 そんな朱華の主張。
 わからないでもないが
「こんな食べ方をしたら食べ物が長持ちしない。そしてひよこが手をつけた量は主を合わせても全部食べきれない量だ。食べ物は大切だから食べ切れる量を食べる。約束だ」
「だけど朱華は色々なお味を食べたいのです……」
 なんてシクシクと泣き出す始末。
 どうしたものかと思って取り敢えず朱華がつついた分を抱えて冷蔵庫から出る。
 冷蔵庫の外の方が寒いとはこれいかに。
 朱華を連れていそいそと母屋の台所に潜り込んで朱華が突いて痛む部分を取り除き……って、それ食べるのか?まあ良いかなんて皮を剥いて下処理をする。バナナは普通にラップに包んで冷凍庫に。
 リンゴは薄くスライスしてパイ生地の上に並べてトースターに放り込み、ミカンは皮を剥いてイチゴと合わせて
「今晩のデザートにするからひとりで先に食べたらダメだぞ」
「はーい!朱華はちゃんと待てのできる良い子です!」
 不安しかない。
 だけどそこは朱華を信じて
「だったらみんなの所でお昼寝をしておいで」
「はーい!主もつまみ食いしたらダメだからね!」
「しねーよ」
 なんて苦笑い。
 それでもチラチラと台所を気にする朱華に呆れながらも強制的にみんなが詰まった鍋に入れればつまみ食いをしてお腹もちょっと満足してるところに真白の暖かさが気持ちいいのだろう。すぐに目を閉じて眠ってしまった。
 こうやって寝るとかわいいよな。なんてしばらくその寝顔を堪能して自室に戻った。

 なんて油断したのが大間違い。

 ご飯の時間まで少し俺も寝るかと思って横になかったら

「お前ら……」

 ご飯の準備をするかと思って冷蔵庫を開けたらみんな揃って冷蔵庫の中でデザートにするはずのミカンとイチゴを食べていた。

「玄さんと岩さんまで……」

「主お目覚めー?」
「主おはよー」
 
 
 イチゴを食べる玄さんとウズラの卵を食べる岩さん……

「玄さんも岩さんも寒くない?」

 聞けば

「寒いけどお外に比べたら冷蔵庫の中はそこまで寒くないしね」
「食べ物出せないからここでおやつにすることにしたんだ」

 岩さんが言えば頬袋を持つ赤いひよこがミカンをつつくスピードが上がった。

「さびまで……」
「主、緑青はリンゴ大好き! 今度ウサギさんにしてね!」
「まあ、ウサギぐらいいいけどね……」

 そうじゃないと軽く頭を振ればさらに朱華のつつくスピードが上がる。
 そう。
 果物には一切目をくれずに……

「主!真白はこのそーせーじ大好き!」
「ソーセージね……」
 
 生臭禁止じゃなかったのかよ暁と突っ込みたかったけど袋が破られてすでに5本入りのうち3本が見当たらない。
 
 思わずまた朱華を睨めばさらにスピードを上げてミカンをつつくその様子には頭痛しかなく、取り合えず全員を冷蔵庫から出して今夜のデザートと真白が離そうとしないソーセージも取り出して机の上に置く。
 とりあえずこんな状況でも悪い事をしたという自覚は生まれたのだろう。
 さすがの朱華も食べる事をやめて俺を見上げる頃には真白もソーセージを飲み込んでいた。
 しばらくの間果汁のついた顔のチビ達を眺め

「2度と冷蔵庫の中に入って食べるものをあさってはいけません」

「えー?!」
「「「「主ごめんなさい」」」」

 反省してないのが一人。
 なんとなく全員で朱華を見てしまえば
「う、う……
 朱華だって主のいう事ちゃんと聞けるもん」

 まったく共感できないけど溜息を吐きながら

「別に食べたければ食べていいぞ?」
 
 なんて言えばぱあ!っと目を輝かす朱華に

「フランス料理でフォアグラっていう料理があるんだ。
 鳥にいっぱい、いっぱいご飯を食べさせて丸々に太らせるんだ」
 
 ぎょっとするのは朱華を含めた全員。

「フォアグラって言うのは丸々に太らせた鳥の肝臓だけを取り出して食べる『珍味』なんだ。
 ひよさんは世にも珍しい鳥だからさぞかし美味しいだろうな?」

 なんて言いながら鳥の肝臓がある部分をつつけば

「しゅ、朱華は、朱華は食べても絶対美味しくないですよー!!!」
「いやいや、ひよさんはかわいいから絶対美味しいはずだ」
「朱華は、朱華は美味しくないんだからー!!!

 なんて逃げ去る姿にも溜息をこぼしてしまい、俺は果汁まみれのみんなを見てさらに溜息を吐けば料理をする気にもなれず

「今日は禁断のうどんにするか」

 麺類は朱華が謎の舞をする食卓に被害しか生み出さないメニューだけど簡単に済ませたい俺の気持ちにそれさえいいかという気分のまま野菜とたまごをぶち込んだだけのうどんを作り、みんなと分けて食べれば案の定緑青はうどんをもってふらふらするし、玄さんは野菜ばっかり食べるし、岩さんは卵の黄身が気に入ってそれだけしか食べないし、真白には冷凍のご飯を温めてうどんの汁をさらにお湯で割ったものをかけてやれば嬉しそうに食べるし、そして朱華はうどんを振り回しながら食べる謎の舞に俺は汁がかからないように遠いところから眺めるそんな疲れた食卓にこの夜は何もやる気が起きずさっさと寝るのだった。
















しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:68,618pt お気に入り:54,964

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:2,967

素材採取家の異世界旅行記

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,533pt お気に入り:32,979

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,059pt お気に入り:3,917

特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:666

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:433pt お気に入り:1,455

処理中です...