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とにかくおとなしく座りなさい 7

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 陽が沈むにつれて土間を通過する何かの数は減っていった。
 暁が言うには陽が昇っている時間の間は道がはっきりしているとかいう話。
 個々の力次第で陽が昇る前、沈んだ後でも道がわかるらしいが、人間レベルでは分からないという。
花や杜だとわかるみたいだ。さすがこの山に住む狐。
 暁達はその道から外れないよう迷わないように、何かの中に紛れて暁達が足を運ぶことができる限界の場所へ参拝するという。

 それがあの祠。
 そこから先は帰ってこれない場所らしい。
 曰く川の向こう側と同じだとか。
 曰く御山様の庭だとか。

 何かの皆様は人の体ではお帰りできないその先に向かって御用があるらしい。道理で一方通行なわけだけど……
 やだ、何それ。聞いてないよ?
 って言うかジイちゃんそんな所にかわいい初孫を連れて行くなんて……
 やっぱり俺のジイちゃんかと納得してしまったけど。
 因みに暁達がそこに赴く理由は扉から先は圧倒的に霊力?とかが濃厚なまでに充満していて霊力を上げるにはもってこいの場所だとか。その挑戦は早ければ早いほど良いと言うらしい。さらに言えばこの家自体常日頃から扉を超えてでも漏れ溢れた霊力が充満して聖域化していて住んでいるだけでもレベルアップできるとか。
 ちょっとそれ、もっと早く聞きたかった情報なんだけど?
 まあ、そのおかげで参道の土間から家の中にもぐりこむような不埒な奴がいないとかいうよくわからん謎の安全機能付き。
 知ってたならもっと早く教えてよとあえて何も言わない九条家を恨みたかったが過ぎたことをとやかく言っても仕方がないのでそこは妥協する。
 ちなみにバアちゃんは最後まで何も見えなかった様子。個人差だと言い切った九条たちにむしろ感心すら覚えた。
 土間のパレードを突っ切ってる様子を何度も見ているから心配することはないと思っていたけど、浩志にはちょっと刺激が強い光景だったようだ。っていうかいい加減に慣れろと言いたいけどきっと浩志が普通の反応なんだよなと俺も一度ぐらいそんな初心者らしい気持ちになりたいと思うも

「あ、緑青たちと出会ったとき絶対初心者ぽかったよな」
「綾ちゃんいきなり何言ってるの?」

 浩志が土間台所でご飯を作りながらちゃんと突っ込んでくれた。
 因みに湯豆腐。
 豆腐に白菜に葱に法連草に椎茸。
 出汁は昆布だけ。
 見事に精進料理だ。いや精進料理か?ただの節約メニューのような気もしたが、そこはいろいろ苦労してきた浩志に突っ込んではいけない話題。むしろ肉なし料理に関しては飯田さんも真っ青な内容だろう。もうちょっと人間らしい食事をしましょうと……
 とりあえずこんなよそ様をお招きできない日にこき使……自ら促進して働いてくれる浩志の存在は本当にありがたい。たとえそれが現実逃避の為とは言っても何も言わずに俺のお世話をしてくれるなんていい奴だ。ぜひ次回も来てご飯ぐらい作ってもらいたいからあとでお小遣いでも渡しておこうなんて言う考えがいつまで通用するかわからないけど来てくれる間は交通費という名目で渡しておけば問題ない。地味に交通費高いからね田舎って。
 無駄遣いをしないやつなのでそこは安心しているけど、ちゃんと使うかどうかそっちの心配のほうが強い。
 そんな感じで湯豆腐をつつく。
 浩志は土間に背を向けるように、俺は土間を眺めるように。 
 食欲はわかない光景だけどまあいいかと豆腐の話をしただけで湯豆腐を出した気遣いに感謝しつつご飯を食べ終えれば
「じゃあ、明日帰るから早めに寝るね」
 現実逃避というより目の前の光景を拒絶するようにお休みなさい宣言をする。こんな状況なので一人でお風呂に入れないという告白も毎年恒例なのでさっさと寝ろというしかない。
「まあ、夜食食べたくなったら好きなだけ食べていいぞ」
「うん。匂いにつられて起きるから。きっと」
 そういって布団にもぐるのは単に目の前の光景の以下省略。
 寝ていれば見なくて済むしという単純な理由を素晴らしいと褒めながらも本当に寝れるのをすごいなと思いながら俺は風呂に入ってから囲炉裏の部屋でテレビを見ながら時間を過ごす。
 浩志じゃないけど時間の流れが遅いなとごろりとしている間に一瞬意識が飛べば途端に静かになっていた家の中。
 時計を見れば日付が変わっていた。というか浩志じゃないのに寝すぎだろと自分に突っ込みたかった。
 時計はもちろんスマホの時計も時間は過ぎているけど騙されているかもしれないと昔暁のじいさんに言われたことがある。
 確かめるには棚をどけてドアの向こう側に何か物を置くとそれがなぜか見えていても取れないという確認方法をとるといいと言われたことがある。
 空間がゆがんで距離という情報があやふやになるとか。そして向こうからこちらが見えていてもたどり着くことができないとかマジ怖い話も聞いた。
 夏至と冬至がいかに特別な日なのか理解できるミステリースポット。確かに門番をしていないと誰が迷い込むかわかったもんじゃないと神隠しの原因を見つければ物理的に妨害すればいいだけの話。そしてそれをコントロールするために黒い鳥居があるというとかなんとか。原理なんてわからないけどそこら辺を通路にされるよりましだと思えば俺がここに住める間ぐらい管理をすればいい。 
 とはいえいちいち棚をどけて扉の様子を試さなくても反対側の玄関から夜空を見上げれば、ありがたいことに満天の星空の位置で時間は十分にわかる。さすがにこの雄大な大空まではコントロールできないようだ。
 問題ない。
 何かあれば力業で撃退すればいい。
 うん。問題ない!
 冷蔵庫からこの時のために用意しておいた黒毛和牛食べ比べセットを出して囲炉裏の部屋に持っていく。もちろん牛タンステーキに骨付きカルビも忘れない。その他もろもろ欲望の限り並べ、北側の縁側に置いておいた室温でも十分に冷え切ったビールを開ければ五徳に金網を置いていざ真夜中の焼肉食べ放題!
 熱しられた金網の上にカルビを置いて数十秒。脂がじゅわっと滴り落ちればまずはというようにたっぷりとタレを付けてにんまりと笑みを浮かべながら大きな口を開けて一口で食べる。

「んま~! お肉最高っっっ!!!」

「綾ちゃん、真夜中に焼き肉って……
 ちゃんとご飯も食べようよ」

 思わずというように俺が叫べばいい感じのタイミングで目を覚ました浩志。
 欠伸をこぼしながらやってくるあたり本当に目が覚めたばかりなのだろう。
 寝起きの顔でこの時間に焼き肉とかありえないなんて無言で訴えてくるけど肉の匂いにつられて起きてきた浩志も同罪だと思う。

「とりあえず箸と取り皿とご飯は二人分持ってこい」
「うん。いただきます……」

 まだ寝ぼけているようだけど俺達は知っている。

「この食べ比べセット、すごくおいしいんだけど?!」
「だろ?食え食え!これを食べたくて我慢したと思えば精進サイコーじゃん!」
「お肉美味しい!!!」

 真夜中がなんだ!
 美味いもんは美味い! そう叫べる瞬間が一番幸せなことを。
 とりあえず年二回の二十四時間精進タイムは終了とビールを呷りながらお肉を堪能する俺たちはまだまだ若いなと心行くまで食べ続けるのだった。
 

 



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