上 下
270 / 319

日々精進は誰がために 4

しおりを挟む
 山の天気は変わりやすい。
 12月に入れば当たり前のように雪は降るし、一晩で車が動かせなくなるくらい積ったりもする。
 ただありがたいのかわからないが綾人がここに住み始めてから温暖化の影響はちゃんと受けており……

「今日は山仕事に出かけれそうだな」
「さよか。だったら俺達は街まで下りてくる」

 珍しく晴れ渡った青空を見上げて暖かいと思うマイナス五度の世界。
 先日降った雪もある程度とけてアスファルトまで顔を出す絶好の天気。

 あれから暁は志月が寝ている間に自宅に連絡を入れて祖父から父に志月の家の状況を調べるように頼んだ。
 もちろんそれは暁の母親に頼む事となり……
 暁の父親と母親が喧嘩したそうだ。
 詳しい事は聞けなかったらしいが祖父曰く、自分の時にも気づいてほしかったという。となれば当然祖母の時代にもそういう事があったものの、当時は今よりもっと厳格だったためにそう言った事は当然のように受け入られていたのだった。
 とは言え厳格だった時代の人。
 今回はこれがポイントになった。
 暁が電話を入れて爺さんが翌日暁の祖母と母親に志月の事を話してから結婚時代の話を聞きだしてからのこの騒動。
 家を取りまとめた暁の婆さんはただ一言。

「一族すべて集めなさい」

 爺さんさえ口をはさめない修羅場となったとか。
 普段無口な祖母が淡々といかに志月が大切な存在か、そしていかに分家の分際が誰の許しを得て本家に口を出すのか、どの口が志月にものを言えるのか。
普段菩薩のような存在の祖母の無双は祖父でさえ何も言えない状態になってしまった。
 モラハラ時代を生き抜いた女傑は床の間の上座から集めた人間すべてに座布団すら出すことなく、たとえ小学生相手だろうが正座を崩した瞬間大きな声で叱咤すると言う恐怖支配を施し、よその家に出た分際が今後軽々しく敷居をまたぐことさえ禁じたと言う。

「何が怖かったかってその間婆さん一切口出しを許さなかったんだよ。
 文句を言おうなら茶碗の中身を掛けたり、それはもう鬼婆と言うにふさわしかったぞ」

 なんてどこか震えながらの声に本当に怖かったのだなと暁は後日談を父から聞いたものの

「だけど婆さんってさ、普段はお菓子くれたりするときは優しいけど修行中とか作法に関してはちょー怖かったじゃん。なんで今頃になって本性現したんだ?」

 暁の別段祖母の豹変ぶりに疑問を持たない態度に側で聞き耳を立てていた祖父も母親もやっと悟った。
 祖母にとって家を出て行った者達はもう他人だという事を。
 母親は祖母がそのようなお客様に対する、ではないが咎める真似を一切しなかったために耐え続けたと言うが……
 そうと分かればこんなにも耐える事はなかったのにと思うものの周囲に忠言するものを置かなかった夫の落ち度として暁が帰ってきたら旅行に行くと言う話で収まったそうだ。
 最後の話しはのろけか?
 親のそんな話は聞きたくないぞと思ったもののとりあえず今はこの家から離れた綾人付きだけど家族だけの生活を満喫しようじゃないかと晴朝と陽菜乃も連れて借りたレンタカーで街に遊びに行くと言う。
 晴朝もここに来て初めて山から下りる事にテンション高く緑青達にかまくらを作ってやると言う謎なはしゃぎっぷり。
 因みに山から下りて街で買い物をして、週が変わって追加された長沢さんの作品を見に古民家カフェに足を運んだあと帰り道にある小さなスキー場でスキーで遊ぶと言う冬山を満喫する様子に晴朝はもう大はしゃぎだ。

「あそこはスノボ禁止だから子供を遊ばせるにはちょうどいいぞ」

 ニュースでは雪がないと言われていてもこの山奥。しっかりと積もった雪は陽菜乃と晴朝がスキーを学ぶ程度あればいい。
 そのうえ今日は平日。

「下の駐車場から車で上がって上の駐車場で降ろせばリフト代も安上がりだ」
「まて、そうなると俺が滑れないだろう」
「子供達を楽しませるのが父親の役目だ」

 なんて助言をするも

「父さんもスキーできるの?」

 なんて晴朝の疑問。
 だけどそこはドヤ顔で

「もちろんできるさ。
 雪山を歩くときスキーを背負って山道を登り、下りはスキーを履いて駆け下りるんだ。
 お前たちがもうちょっと大きくなったら教えるつもりだったが、スキーを学ぶぐらいはいつ始めても良いからな」

「えー?!そんな楽しい修業があるの!
 俺もやりたい!」

 なんてぴょんぴょん飛び跳ねる様子に暁は笑いながら

「自分のスキーを運ぶぐらい力がつかないとな。
 それを含めての修行だからもうちょっと体が大きくなったらな」

 なんて指導。
 ただひたすら山を歩けなんて言う目標が判らない修行なんかより圧倒的にわかりやすい指針に朝から早く行こうよ!なんて大騒ぎだった。
  
 その一団がやっと出発してくれて途端に静かになった山奥にほっとしつつある綾人だったが

「主ー!今日は何して遊ぶ?」
「主ー!雪のお家いっぱい作って!」

 普段晴朝と陽菜乃が遊んでくれていた緑青と真白の世話と言う役目が戻って来ただけにこれはこれで大変だと自分のペースを乱されてばかりの子供の世話に身を捧げる世のお母様方を尊敬する綾人だった。
 
しおりを挟む
感想 311

あなたにおすすめの小説

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺わかば
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...