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賑やかを通り越す冬の生活 4

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雨降って地固まる。ではないが晴朝と緑青の仲は黒豆戦争によりぐっと良いものに変わった。

「緑青!烏骨鶏見に行こう!」
「見に行くー!」
「ろくしょーちゃんまってー!」

 そうやっていつの間にか緑青を連れまわして遊ぶ仲になってました。
 仲良き事美しきかな。なんて言ってる場合ではない。
「綾人すまない。まさかあいつらがあんなにも食べるなんて……」
「うう、俺のお豆さん……」
「ああ、好物なんだな。今度黒豆貰ってくるか……」
「飯田さんが炊いてくれた黒豆さん」
「判った。俺からお願いするから。だからいじけるのは止めろ……」
「飯田さんには付喪神とかそう言うのNGワードで説得してね」
「お前地味に俺に嫌がらせするのも止めろ」
 なんて言い返すも
「ですが普段食の細い陽菜乃まであんなにも食べるなんて驚きでした」
 言いながらもどこか疲れたような顔をしている志月さんの理由は
「私のご飯なんて見向きもせずお豆さんを食べるなんて……」
「ふ、普段食べなれない物に興味を持っただけだよ」
 こちらもこちらで母親のプライドがズタズタのようだ。
「暁さん気を使わないで。
 分かっているのです。私の黒豆さんいつもちょっと焦がしてしまって少し苦い事、分かっているのです」
ふふふと力なく笑う様子を綾人は背中を向けて見ないふりを決め込んだ。判っていたがこいつサイテーだ。
ともあれ俺はしっかりと寒くないような恰好をして

「とりあえず旧道の方を一度見てくる。
 下の道路に出てから戻ってくるだけだからそこまで時間はかからないと思う」
「まあ、気を付けてくれ。
 一応鉈持って行け。枝が折れているかもしれないから一本あると楽だぞ」
「だな。雪ばかりに気を取られたら怪我をするって事だろ」
 そんな遠回しの注意は他にも動物の奇襲もある、そう注意を促してくれる。
「ありがたい事にこの辺はちゃんと熊が冬眠してくれたからな。鹿が突っ込んでくるかもしれないから気を付けろよ」
 言いながら分厚い皮のケースに収められた鉈を渡してくれた。
「立派な鉈だな」
「何年か前に車に引かれた鹿を見つけた時に猟友会の人が作ってくれたんだ。それまで使っていた鉈のケースがぼろぼろだろうって」
「そんなあっさりと作ってもらえる物なのか?」
「さあ?ただ言えるのは事故った鹿とこのケースの鹿の模様が違うって事だ。気を遣わせたみたいで悪いことしたと思ったからめっちゃ気に入ったって言っていろいろ革製品作ってもらった」
「気を使わないお礼の仕方だなと感心はするが鹿の模様の違いって判るものかよ」
「ふふふ、鹿を発見して車を取りに行くから待っててくれって三十分ほどご一緒していれば嫌でも覚えるさ」
つまり犯人はお前か……
まあ、そこは気に留めず短い毛足の鹿のケースを撫でながらお前もこんなご主人様だと苦労するなと思えば……

カタン……

俺と暁と一緒に二階を見上げた。向ける視線はお同じ方向。仏壇の奥のその上あたり。
「おい、二階で何か動物を飼っているか?」
「んなのいるわけないだろ。うちでは庭と鳥小屋に居る烏骨鶏がせいぜいだ。
 クッソ……
 今度こそネズミであることを願うぞ」
 なんてぼやけば
「暁さん、綾人さんも一緒ですか?!
 二階に何かがいます」
 暁より繊細な力を持つと言う志月さんにまでそう言われればもうほとんど決まりだ。
「よくない物でしょうか?」
 不安げ、というか仕事モードに入った凛とした志月さんかっこいいーと思いつつも
「いや、多分場所からいって、あれだ」

 なにも気付かずに雪の積もる庭を駆け巡る二人の子供とその頭上でパタパタ飛びまわる緑青に目を向けて

「好意的だと良いな」

 つぶやきながら土間台所の竈の前から立ち上がって土間上がりから仏間の横の縁側から裏側へと回る俺が歩きなれた道だ。
 律儀にもついてくる暁と志月さんのなんだか真剣な気配に笑いたくなるものの階段を上がればまたコトリと物音がした。
 場所は想像通り二階の納戸。 
 別名バアちゃんのお宝部屋。
 その割には箱とかボロボロだったけど、何年か前にみんな綺麗に誂えてもらったので今も綺麗な木目がその日の事を思い出してくれる。
 因みにボロボロになった古い箱は一応取っておきなさいと言われたので別の場所に布に包んで紫外線が当たらないように片づけてある。
そんな晩年やんちゃな俺の面倒を見ていたバアちゃんが大切にしていた部屋で酷い事をしたらどうしてくれようかと思いながらも一番乗りをしようとしている暁を押しやって俺がそっとドアの隙間から覗く。
きっとこの場で一番誰よりも頼もしいのは志月さんだろうが、それでも外から聞こえてくる晴朝と陽菜乃の親だ。
 悲しい思いは知る必要がないと言うようにそっとのぞいた所で……

「だーれ?」

 子供っぽい口調の野太い声。
 俺も一瞬悲鳴を忘れる黒い瞳はどこか霞んでいる。
 わずか数センチ越しの扉のわずか数センチの隙間から少し白っぽい鼻と俺の鼻がチョンとご挨拶する。
片方の大きな目をのぞかせる相手に俺は扉を閉める、という選択はせずに思いっきり扉を開けて

「薄墨みたいなやつだな」

 なんとなく恐怖心、そう言うものはあったがその全体の姿を見て畏怖する感情かと訂正する。
雄大な渓谷の光と影の中を潜り抜ける、そんな獣。
 全身が筋肉、そんなしなやかな体躯にはまばゆいばかりの真っ白の毛皮に覆われて、見るも鮮やかな、ではなく幽玄。そんな色合いの模様が入っていた。

「白牙真君だな。
 白虎を統べるモノって感じだが、頭が残念そうだな」

 言いながらもうーんと悩む俺にそのどこか白を含む黒い鼻を押し付けてきながら

「白牙真君?だーれ?俺ー?君―?」

 なんて自分以外の相手を認証できるその言葉に腐っても付喪神かと一度だけ子供の頃にジイちゃんが見せてくれた掛け軸を知っていたから俺は恐れず手を伸ばしその大きな口元に手を伸ばしてゆっくりとさすり

「まだまだだな。白牙真君と言うより真白だな」
 
 アルビノ、ではないもののうっすらと浮かぶ模様と言いまだまだこれから知識で埋めるべくその記憶の辞書の様を皮肉って言えば

「白牙真君!真白!
 全部俺の名前―!!!」

 なんて喜びの悲鳴はいつしか小さくなっていたからだからきゃんともにゃんとも言えないような遠吠えを聞きながら俺はまたかと思いながら意識を手放すのだった。


 



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