家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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掴んだ幸せの花の名は 9

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「父さん!いきなり何言ってるん・・・・・・」
「座れ健翔!」

 父親の隣を指させば奥様はさっと後ろに下がってその場を空けた。
 厳格な上下関係を持つ家だったんだなと自然に動く事の出来る奥様になんとなくありし日の実家の様子を思い浮かべてしまった。
 だけどそんな俺の感傷とは別に話はどんどん進んでいき

「このように一同会する場を乱してしまい深くお詫び申し上げます。
 先ほどのように父母には神社に関する事からすべて手を引かせ、この場には居ない次男の教育の為にこれから十年のお時間を頂きたいと思います。
 隣に座るこれに関しても神職から離れさせ、まったく違う仕事につかせて我々が手を貸さない事をこれまでの30年間を目安に人生の修行とさせる事でどうぞご納得いただければと思います」

 深く頭を下げた隣に座る息子は唖然としていたが、一度頭をあげたかと思えば息子の頭を掴んで畳にこすりつけるように再び頭を下げさせていた。
 そこまでするのかと思うも九条の方はその程度かというような冷めた目で見ていたが大家さんは肩を竦めながら立ち上がり
「まあ、自分達で決めたその処分なら約束を守ってもらえれば良いだけだから」
 そう言って立ち上がり、ふらりと足を進め

「どっかのクソジジイみたいにいきなり乗り込んできて派手に暴れたと思って逃げ出したら山で遭難して勝手に死なれたりしたら……
 正直お互い後味悪いからな。
 父親ならそこの部分もちゃんと監視しておいてよ」

 健翔の前でしゃがんでそっと二人に耳打ちをするように、だけど周囲にもちゃんと聞こえるような声で警告をする。
 ぶわり、そんな事実からの恐怖に健翔の全身に鳥肌が立ったのを見てしまった。
 ガタガタと震えだし熱くもないのに全身から汗を流してポタリと畳に染みを落としていく。

「お前程度を破滅させるのって案外簡単にできるんだぜ?」
 
 近くにあったお膳からおしぼりを掴んでその汗を拭ってあげていた。

「だけど俺がお前にそんな時間を使うなんて意味が分からないだろ? 
 二度と俺の前に、そして俺の住む地域に、そして俺の付喪神に手どころか姿を見せなければいい話だ。
 なに、難しくない話だろ?」

 言えば目も合わせてないのに震えたままの健翔は自ら畳に頭をこすりつけ、言葉を発することが出来ないというように何度も頷いていた。 
 さすがにこれはやり過ぎではないのではと思っていれば

「吉野の、そこまでだ」

 九条の長老がそこで許してやれと言ってくれた。
 だけど大家さんは物足りないというように不満げな顔をする。
 何処までと言うように助けを求めてちらりと廊下で待機していた飯田さんに目を向けるもちょっと困ったような顔をしていたけど止める気はないので黙って廊下で正座をして次に呼ばれるのを待っていてくれるだけだった。
 何とか大家さんの機嫌をよくしなければと俺が思った所で

「主ー!主、大変です!
 朱華は気づきました!
 このお家に飯田様がいらっしゃいます!!!」

 その美しい翼でバンバンと大家さんを叩きながら部屋と廊下を仕切る障子の影に隠れる飯田さんを見つけてしまった途端にハイテンションになる赤い鳥に大家さんの健翔を不愉快と見ていた顔がしまったというように引きつっていた。
 
「先ほどから気になっていたのですが緑青達からお話を聞いた覚えのあるもふもふの白い付喪神様がしいさんとこまさんなのですね!
 猫様の付喪神とか兎の付喪神もいると聞いてましたがお二方が次郎さんと鈴さんなのですね! 
 という事はここは飯田様がお住まいになりお仕事をされているご自宅なのですね!!!」

 あまりのハイテンションぶりの朱華は大家さんの腕に捕まって夢の世界に来てしまったと言わんばかりの大騒ぎに皆さんさっきまでの殺伐とした空気までお空にポイポイとしながらにこにこと大家さんの次の言葉を待っていた。
 そして急に空気が変わった様子に視えない人、視えなくなってしまった人は困惑をする中

「はっ!」

 志月さんの小さな掛け声にそちらに目を向ければその手は印を組んでいた。

「主!朱華は、朱華の家から遠く離れた飯田様のお宅に来てしまいましたよ!
 飯田様が住まわれる夢の城ですよ!
 ああ、奥から漂ってくる素敵な香り、なんて楽園なのでしょう!」

 その見た目からの威厳もない残念な語りには眩暈しかない。
「朱華、頼むから黙ってくれ……」
 大家さんはさっきまでの魔王と呼ばれるにふさわしい貫禄はかけらもないくらいに脱力をしていた。
「主、このような素敵な場所で黙れなんて、なんてひどい事を言うのです!
 ただでさえ主は感情をうまく表現しないと先生から何度もダメ出しを貰っているのに、こんなにも飯田様のお料理の匂いがする素敵な場所で喜びを表現しないなんて何て罰当たりな事をおっしゃるのです!」
 ぴしりと大家さんをしかりつける朱華の主張にちらりと俺は廊下で待機する飯田さんに視線を向ける。
 朱華の容赦ない褒め言葉に飯田さんはにこにことしながらも頬は少し引きつっているのを見た。
 褒め慣れている事は見てわかったけど、朱華の様な狂信者のリアルな言葉はきっと初めてなのだろう。
 逃げ出したいという用に腰が浮いていたけど、さっきまでのこの騒動を見守りに飯田さんのお父さんもお母さんもいらしていて、朱華の演説を聞いたようで目を白黒とさせていた。

「主、あちらに飯田様のお父様とお母様もお見えになります。
 飯田様のお父様は飯田様より格上の繊細な料理をおつくりになるお方。
 ご年齢からの老化何て意味をなさない神の舌を持つお方ですよ!
 飯田様のお母様も岩さんのお目にかなう美意識を持つお方!
 主はにぶちんでもお母様の美意識は学ぶに値するお方だと認めているのでしょう?!
 朱華は、朱華はそのような神の住まう方達の御持て成しを一度でもいいから受けたいと切に願っているだけでございます!」

 さすがの飯田さんのお父様もお母様のこの朱華の演説には様子も見に来たことを後悔して逃げ出したくなる様子だった。
 
「朱華は、朱華は飯田様のお作りなられる黒豆の一粒一粒さえ芸術だと自信を持っていう事が出来ます!」
「だったらさっさと食って黙れ!!!」
「はう、この絶妙な食感と甘さ。飯田様のお品にも近くて微妙に違うこの食感。飯田様のお父様の一品とお見受けしました……」
「そうですね……」

 なんて飯田さんの何処か悔しくもありながらもドン引きして悔しくないという声なんて関係ないというように大家さんが誰かが食べ残して残された手つかずの黒豆の小鉢に朱華の顔を押し付けても蕩けるような恍惚とした表情に誰も朱華は主を持つ付喪神だとは思いもしないだろう残念な姿だった。 

 

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