家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

文字の大きさ
212 / 321

春と共に駆ける 3

しおりを挟む
 カラカラとガラスの嵌った木製のドアの重い音が耳に心地よく響けば
「こんにちはー。姿が見えたのでご挨拶に来ました。
 実桜さんもこんにちは。
 先日の個展の時のお花ありがとうございました。
 ご来場いただいたお客様に大変好評でした」
「こんにちは。
 私が楽しんでやっただけだから気にしないで」
 そう。
 蔵の中に毎日日替わりでお花を活けてくれたのがこの実桜さん。
 お花も変えれば花器も変える。
 さらにすごいのはその花器が店内の物を合わせてオーナーの燈火さんの私物だというのだから趣味というのは本当に大変だ。
「綾人さんからも色味が足りないから綺麗に色を足してくれってお願いされていたし、お店じゃできない活け方が出来たから楽しかったわ」
 まるでまたそんな機会ないかしらと言うような顔をしながらもなぜか荷物を片付け始めてコートを着て……

「それじゃあそろそろ娘が学校から帰ってくる時間だから失礼しますね」

 にこにこと笑みを浮かべて帰ろうとする後姿にもうお別れの時間なのか。折角だからお昼を一緒に食べようと下準備を済ませていたのにと思うもお子さんの帰宅を出されたら何も言えない。
「じゃあ、また生け花教えてください」
 二回目はそれなりにできたので憧れのお花のある生活を手にするために言えばにこにことした顔の瞳がきらりと光った気がした。
「もちろん」
 そう満面の笑みで返事をした所で
「そう言えばまこちゃん」
 まこちゃん?
 何そのかわいいあだ名?!なんてなぜか少し恥ずかしそうな顔をする真さんに
「今話をしていて結奈ちゃんが書道をやってみたいって言ってるの。
 良かったら一度見てあげてくれない?
 まこちゃんの個展で触発されたのですって」
「それは嬉しい言葉ですね」
 なんて素直に嬉しそうに笑顔になる真さんとにやにやと笑う、なんて笑い方なんてせずさらっとした笑みで爆弾を落として下さった実桜さんは
「じゃあ結奈ちゃん、またLIMEで連絡するね!」
 そう言って華麗に去って行った後ろ姿を何とかとどめようとしたかったけど

「まことー。このお花食べても良―い?」
「真ー、このお花の蜜がとっても美味しそうな匂いをしてるのです!」

 お話をするタイミングをおとなしく待ってましたというもっくんと朱華さんに遮られれば真さんは申し訳なさそうな顔で
「すみません。少しお花を分けていただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい……」
 実桜さんカムバック!!と心の中で叫んだ所で朱華さんが今はそれよりこっちと言うように私の肩に止まってくれた。
 ふわっとした温かな毛とちょっと冷たい足が付喪神様達との初の接触。

 うわ!
 うわ!!
 うわ!!!
 
 予想以上に軽くてふわっとして暖かくて、その上なんとなく甘い匂いがしていて……

「あ、朱華。さっき食べたジャムが羽についてるよ?」
「だからさっきからいい匂いがしてたんだね!」

 近くを浮いている緑青さんの指摘にもっくんもそうだったんだとぴょんぴょん飛び跳ねている姿がかわいすぎてもういいやなんて笑みを浮かべてしまう。
「朱華、拭くからちょっとおいで」
「そう言って朱華をお風呂に入れる気でしょ!」
 そんな言い合いを真さんと始める。
「ここはお家じゃないからお風呂に入れないよ」
「そう言って主のお家のお風呂に投げ込まれたの朱華覚えてるもん!」
「それは大家さんがやったんだって……」
「緑青!タオルでふきふきしてください!」
 ピシッと男前にお断りする割には緑青さんにお願いするのかと心の中で突っ込むも近くにあったタオルをもって私の回りを飛び回る緑青さんが
「結奈ー、タオルかしてね?」
「え、どうぞ」
 これはなんて言う展開?なんて思ってる間にお茶碗をぬぐって少し濡れてるタオルでふきふきしてあげる緑青さんと
「あ、そこ。そこ気持ちいいからもうちょっと力強くお願いします」
「こんなかんじー?」
「そうそう、そこ最高です!」
 なんて言う朱華ちゃん達のやり取りのかわいさにはもうニヤニヤするしかなかった。

「すみません。本当に勝手に上がりこんじゃった挙句にタオルや炬燵までお借りしてしまって……」
「いえ、上がってくださいって言ったのは私ですので気にしないでください」
 そのうえこんなかわいいご褒美まで見れるのだ。
 何を断ると言うものだがふと視線がもっくんの姿を捉えれば、真さんも目を大きく瞠って
「あああ、もっくん。活けてあるお花まで食べちゃダメだよ!」
「活けてあるお花ってなーに?」
 言いながらもしゃもしゃと黄色いお花どころか水盤に飾ってあったお花まで食べていた。
「こうやってお花を飾ってあるものだよ。
 それに食べ過ぎるとお昼ごはん食べれなくなっちゃう……」
「あー!朱華のお花が!」
 緑青にフキフキされながらモミモミもさせていた朱華が途端に我に返ってお花を見ても既にロウバイはなく……
「もっくんと同じ黄色のお花美味しかったよ!」
 みんなに大切に、そして愛されて育ったのだろうもっくんに遠慮という文字はなかったようだ。
 屈託なく笑みを浮かべたその顔に朱華は普段の食いしん坊の様子からは想像がつかないというようにがっくりと項垂れて諦めていた。
「結奈さん、因みに先ほどのお花なんて言うか分かりますか?」
 とっくに花盛りは終わったお花だと思っていたけどこの地域だとまだ咲いているのねと春の先触れの様な黄色いお花は
「ロウバイ、蝋梅って書きます。梅の字を使うけど梅ではなくって、梅と同じころ咲くから梅の字が使われているって実桜さんから教えてもらいました」
「さすが実桜さん。知識も半端じゃないなー」
 唸りながら感心する横では蝋梅を食べ損ねて落ち込んでいた朱華さんがすでに復活してもっくんと一緒に残っていたお花を食べ始めたのを見てほっとしつつも炬燵からにゅっと顔を出している玄さんと岩さんの隣でいつの間にか真白さんと緑青さんが炬燵布団の上でひっくり返ってお昼寝を始めてしまった様子に
「あああ、まだ家じゃないのに」
 すっかり我が家で寛ぐ事を覚えた付喪神様はお散歩の途中の休憩からのお昼寝タイムに入ってしまい、どうやって連れて帰ろうかと考える真さんに

「せっかくでしたらお昼食べて行きませんか?
 実桜さんと食べようかと思って用意したもになりますが」
 誘う時にお昼もご一緒しましょうという事を伝え忘れた私の失敗だけど、せっかく下ごしらえをしたのだからと誘ってみれば
「ありがとうございます。
 ですが……」
 ちらりと付喪神様達に視線を向ける意味を理解すれば
「ご飯をしっかり炊いたのでおにぎりで良ければ作ります。
 ちなみに匂いで判ると思いますがドライカレーです」
「うん。すぐにわかったよ。気分的には今夜カレーにしようかなって思ったぐらいだから」
 なんて笑う真さんはまったりしている付喪神様から視線を反らして少しだけ考えるそぶりをし

「すみません。ごちそうになります」
「はい。準備をしますので少し炬燵で温まって待っていてください」

 真さんもしっかり炬燵の常連さんとなって慣れたように靴を脱いで土間から上がって玄さん達の邪魔にならないように足を潜り込ませるのだった。



しおりを挟む
感想 320

あなたにおすすめの小説

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...