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一歩一歩が大切です 3

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 お客様がなかなか来ないのでゆっくりと制作秘話とか達筆すぎて読めない書の物語を教えてもらいながら人生初だという個展を堪能させてもらった。
 そして丁度見終わる頃他のお客様が見えたので失礼させてもらい、代わりにポストカードをお土産に頂いてカフェの方へとお邪魔させてもらった。
 パネルヒーターで温かくしてくれていたけどやっぱり体は冷えていて、お昼近くになって少し混みだした店内で疲れた足に優しそうなソファのある席へと座らせてもらった。
 ちなみに大家さん達はすでにお帰りになられたという。個展が本日開催日で朝からの展示のお手伝いと激励に来たんだとか。
 個人で活動しているという割にはしっかりと独自の世界を持たれていて製作者の解説付きに堪能させてもらえばやっぱりかなり疲れていたようだった。
「お疲れ様。ずいぶんゆっくりと見ていたね」
 マスターの燈火さんがお冷とアツアツのおしぼりを出してくれた。
 心なしか大家さんと知り合いという事を知ってくれたからか今まで完璧な営業スマイルに少し人の温度の混ざる声をかけてくれるようになって常連度がアップした事に感動しながらも目下の大問題の凍えてしまった体におしぼりの熱で指先を温めながらホッとしてしまえば仕方がないなと言うように笑われてしまった。
「長沢さんご夫妻の作品も同時に見れて胸いっぱいでした。
 それに真さんも師範をお持ちだとか。お師匠様のお母様でしたね。意見を求めてたくさん練習されたと聞いただけあってなかなかの雰囲気が素敵でした」
 あれだけ書ければ楽しかろうと思うもそれでもまだまだというのだから奥が深いと唸っていれば
「まあね。ついこの間まで書けない!書が出来ない!間に合わない!って言って泣きながらうちのカウンターでコーヒーを飲んでた姿を思い出せばそういう事を言ってくれる人が居るからあいつもやりがいを覚えたんだろうな」
「大変ですねえ……」
 そんな修羅場があったのか。時期を逆算するとちょうど私たちが出あった頃じゃないかなと想像しながら
「まあ、なんかいい出会いがあって刺激を貰えたって言ってたから何とか形になったみたいだけどな」
 なぜかニヤニヤしながら私を顔を見るマスターの意地の悪そうな視線に私は話を終わらせる為にもメニューに視線を落として
「カフェモカとワッフルのセットで。カフェモカに生クリームお願いします」
 何となく嫌な予感にこれ以上この話を進めないようにとメニューをオーダーすれば
「ご注文ありがとうございます。
 カフェモカに生クリームを添えてのワッフルセットありがとございます」
 私のお気に入りの定番メニューを繰り返して確認を取ってからカウンターへと帰って行った燈火さんは次に入った注文にも追われてお昼の時間はそれなりに忙しいんだと思いながらもすぐにしっとりとした和風のお庭を眺めながら癒されるのだった。
 そしてワッフルが出来上がる頃

「「結奈―!」」

 朱華さんと真白さんがやって来た。
 視える人じゃないと視えないけど大胆だなあと少し感心しながら
「どうしたの?真さん心配しないの?」
 それなりにお客様で混んでいるので心の中から訴えれば
「あのねー、お客様の相手に忙しいからまだ結奈がお店にいるからご挨拶してくるって来たのー!」
「お店にご迷惑しないから安心してって言ってきたよー!」
 それはまた心配するしかないだろうなと言う言葉に苦笑いしながらも真白さんと朱華さんは私の隣に座り、日当たりのいい席からお庭を覗いたり、お水貰っても良い?とのおねだりに零さないように注意してねと朱華さんがのどを潤していた。真白さんの視線に私はグラスを膝の上に置いて飲みやすいように傾ければ美味しそうにぺろぺろと飲みだして、真さんがお客様のお相手で忙しくて手が回らないのではと心配してしまう。
 しかし、いや、さっき一緒にお茶したばかりだしと思った所で

「お待たせしました。
 カフェモカに生クリームを添えて、本日のワッフルにはバターと柚子ジャムになります」

「キャー!柚子ジャム朱華大好き!」
「な、生クリーム!真白は生クリーム大好きです!」

 あ……

 初めて出会って初めてお招きした日。
 真さんがあたふたしたりほっとしたりとなかなか忙しい顔をしていた意味を理解した。
 皆さんちゃんとお出かけ用の顔をして私のうちに来てくれたのかと喜びつつも、視線はほかほかのワッフル一直線……
 私の楽しみ……
 なんて心で涙を流しつつも升目状のワッフルをその目に沿って切り取って窪みにコーヒーの上の生クリームと柚子ジャムを乗せて手のひらの上に置いて
「他のお客様と燈火さんにばれないように食べてね?」
朱華さんと真白さんに差し出せば
「結奈大好き!」
「結奈ありがとう!」
 ひょいと一口で幸せそうな顔で食べるのを見て『まあ、いいか』なんて思いながらも本当に美味しそうに食べるので私も一口食べてからまた朱華さんと真白さんように切り分ければちゃんとお椅子にいい子に座って目をきらきらとさせてお替わりを貰えると信じて待っている様子に苦笑してしまう。
「仕方ないなー」
 保護者様の許可を貰わずにおやつを上げるのは今の時代タブーになりつつあるけど、この顔を見て渡さないという選択は出来ない。
「真さんがお昼ご飯用意してくれてるだろうからこれで終わりだよ」
 もちろんそれも覚えていたというように
「「はーい!」」
 なんて良いお返事をしてくれた。可愛い!
 だけど逆にもうすぐお昼の時間が近い事を知ってか
「今日は真がおにぎりをいっぱい作ってくれたんだよ」
「みんな大好きなマカロニとリンゴの入ったサラダもいっぱい作ってくれたんだ!」
「ソーセージもタコさんにしてくれたんだよ!」
「カニさんも作ってくれたんだよ!」
「「楽しみだねー!」」
 まるでピクニックかの様な様子に本当に良い関係を作ってるんだと真さんへの信頼が厚い様子を少し羨ましく思ってしまう。
 
 我が家にいた付喪神は古い下駄の付喪神で……
 子供の頃塾の帰り道をカラコロと鳴らして追いかけて驚かせてきたり、夜中にトイレに行こうとしてカラコロと音を鳴らして驚かせてきたり本当にいたずらばかりで怖い思いをした。
 親に言わせればお迎えに行っただけだとか、トイレにちゃんと行けたか見てくれただけだと言って私の言葉を信じなかったけど、その度に何度も転ばされたり躓かされたりと言ったいたずらにいつの間にか私の中では我が家の付喪神は恐怖の対象になっていた。
 それでもおばあちゃんの側にいるとおばあちゃんには一目置いているのか何もしてこないので気が付けば私はすっかりおばあちゃん子になっていたのは当然の結果だと思う。
 ひょっとしたら真さんみたいに名前を呼んであげれたら少しはこうやって仲良くなれたのかと思うも、名前自体想像できなかったので仲良くなるのは難しいなと今も思っている。

 二切れ目のワッフルを幸せそうに食べた朱華さんと真白さんは
「じゃあ、真が心配してるといけないから真の所に帰るね!」
「ご馳走様でした!」

 隣の席に座った時よりも幸せそうな顔になってごちそうさまの挨拶をして去って行く二体の付喪神にこんなにも嬉しそうな顔をされたらダメだなんて言えないよとニヤニヤしながら、忙しい真さんにご迷惑をおかけしないようにスマホで朱華さんと真白さんにワッフルを勝手に与えてしまったお詫びの文を送った。
 やっぱり忙しいようでワッフルを食べ終えてもお返事が来なかったので帰りにご挨拶してから帰ろうと思えばレジの横でヴィーガンワッフルを見つけた。
 いろいろ食が難しいという付喪神のみんな揃ってのおやつになりますようにと購入して帰り道に真さんに個展の開催のお祝いにプレゼントさせてもらうのだった。



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