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自分の成長より人の成長を喜べることこそ成長だと思います 5

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 楽しい時間と言うのはあっという間に終わるもので、ここからは鬱陶しい時間へと変わるのだと大家さんは言う。

「やだー、夏休みが終わるなんて聞いてないよー!」
「植田。その気持ちは先生もよーくわかる。これだけの休みの期間があって昨日終わらせました。さっき終わらせましたと言う宿題を見なくちゃいけない先生だってずっとお前は夏休みでいろって思ってるんだから。
 しかし逆に言えば夏休みは終わりがあるから輝くものなんだぞ。お前だって覚えがあるだろ。前日まで綾人に蹴られながら宿題をしていた高校一年生の夏休みを」
 私学の学校に移って以来9月までガッツリと夏休みがあるという先生はどうでもよさそうに縁側に寝ころび野球を観戦しながら祐樹先輩達の高校生の話しをしてくれた。
「先輩、俺の尊敬する先輩を返してください……」
「九条、いい加減に気付け」
「そんなものただの幻想だ」
 先生と大家さんに言われて当の本人にも頷かれる始末。泣きたい……
 そんな俺をよそに大家さんの家に滞在中ずっと家の中の事を仕切ってくれた陸斗さんが
「綾人さん、今日は一度家に帰ってからお昼の電車に乗って帰りますのでお見送りはここで十分ですので早く良くなってください」
 お別れの言葉を切り出す。
 最後まで癒し系の人だと和んでしまえば
「悪いな。いつもみたいに駅まで送れたらいいんだけど」
「それよりも綾っちは早く足を直してよ」
「綾っち言うな園田よ」
「えー、いいじゃん。今度は冬休みまで言えないんだし」
 なんてみんなにこにこしながら「綾っち」「綾っち」と言うあたり確信犯なのだろう。
 社会人になってからもこんな関係だなんて羨ましいなと思うもちらちらと俺を見る視線になんとなく察してしまった
「大家さん。これに合わせて俺が言うと思ったら間違いですよ」
「ちっ、のらなかったか」
「綾っちー、うちのまこっちゃんは優秀だから俺達と一緒にしちゃダメっすよ」
「植田よ、それ何の自慢にならんぞ。そしてここぞと言わんばかりに綾っち言うな」
「俺の自慢なので問題ないっす!」
 なんて胸を張って言ってくれる祐樹先輩に感動してしまえば

「俺たち以外でこんなにも綾っちと仲良くなれる日本人ってそうそういないしw」
「確かに!」
「それな!」
 上島や川上も賛同する。
 と言った所で
「あー、じゃあ今年は海外はお預けですか?」
「まあな。飛行機乗る度に止められるんじゃめんどくさいからボルトが取れるまではおとなしくしてるよ」
「何言ってるんです。その後リハビリが待ってますよ」
「出たな自称外科医」
「ま?!」
 俺の友人にも優秀な人は多かったけどまさか動物のお医者さんの園田さんと人間のお医者さんの葉山さんまで居るとは思わなくて驚けば
「スポーツドクター目指していたはずなのにどこで道を間違えたのか外科医になりました」
 きりっとした顔で言ってくれたはいいけどどこをどうすればそうなるのか是非とも聞きたい。
「じゃあ、昨日来て今日帰るって言うのは……」
「みんなと一緒に帰る都合だけでも合わせられるようにしたらこうなっただけです」
 ハードすぎる……
「なにもここまで来なくても東京で休んでいればいいだろ」
 なんて先生にも言われるけど
「ここに来ると夏休みって感じになるので」
「たまには実家にも帰ってやれよ」
「実家だと帰った気にならないので」
 葉山さんがきりっとした顔で言い切ってくれるけど本当に大丈夫だろうかと思っていれば
「それな。もうここが実家じゃね?なんて思うし」(水野)
「家にいても退屈だからね」(上島)
「ご飯も美味しいし、圭ちゃんも毎日来てくれるから寂しくないし」(陸斗)
「五右衛門風呂は入っておきたいし」(山田)
「なんて言うの?お爺ちゃんの家に遊びに来たって夏休み感が半端ないじゃん!」(園田)
「「「「「「それー」」」」」
「お前らそこに並べ」
 大家さんが顎をしゃくって庭先に座れと言う仕草の様になる事にちみっこ達はかっこいいー!と大騒ぎをしていたけど真似してはいけませんと心の中から注意をしておくのを忘れない。
 だけどそこは十年以上の付き合いのある皆様方。
 大家さんの扱いも慣れたもので

「あ、そろそろ帰りまーす」
「また東京来た時は連絡入れて下さい。美味しい魚が食べれる店探しておきますね」
「あと美味い料理とお酒のお店もいくつか候補があるので楽しみにしていてください」
「仕方がないなあ。ちゃんと気を付けて帰れよ」
 そう言って大家さんは茶封筒をみんなに渡していた。
 って言うかそれ何ですかと思ったのに気がついてくれたのか水野さんが
「これは綾っちの家の手入れ代の報酬だよ」
 嬉しそうに封筒を見せてくれた。
「お爺ちゃんの家に帰って来たとか実家とか言ってませんでした?」
「そこは心の置き場の話しだよ」
 と上島さん。弟さんも強く頷く辺り居心地が良いのだろうなと思うもそんなギブアンドテイクで成り立っているとは想像外だった。
「まこっちゃん、ちゃんとこの中から食費と宿泊代は引かれてるから気にしたらダメだよ」
「だぞー。でなきゃこんな格安で住み込みで働いてくれる人材確保できないからな。この短期間でも随分山がすっきりしたし」
 大家さんは杖を突きながら当然という顔で車に荷物を運ぶみんなの側へと向かい
「また休みの時頼むな。気を付けて帰れよー」
「っす!」
「じゃあ、先生は綾人の代わりにお見送りに行ってくるからちゃんとおとなしくしとけよ。九条も頼むな」
 なんて軽い挨拶と共に嵐のように賑やかな面々が帰って行ってしまった。
 とっくに帰って行った顔ぶれもあったけど嵐の後の静けさと言うように静まり返った家の中で流れていたテレビがいつの間にかニュースに切り替わっていた。



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