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自分の成長より人の成長を喜べることこそ成長だと思います 3

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 緑青は他にも付喪神という存在がいるのを知っているのでどこの子だろう?一緒に遊べるのかな?と期待する瞳で大家さんを見上げるものの
「緑青喜べ。
 お前たちに弟が出来たぞ」
「弟?」
 まだ兄弟とかその概念があやふやなようだが
「大和さんと宮下のような関係だ。
 緑青達がお兄ちゃんだから木蘭って言うこの子を大切に面倒見るんだぞ」
 きょとんと小首を傾げて考える姿のかわいさに

「……きゅう!」

 暫く考えていたけどやっと理解できたというように
「緑青お兄ちゃん!木蘭、弟?」
「妹かもしれないけどな」
 大家さんも頭を傾げて言う。この癖を真似たのかと思えば大家さんがちょっとかわいく思えたりするが
「付喪神の性別の見分け方ってあります?」
「知らん。成体になったらそのうち分かるんじゃね?」
「京都のあれを見てわかりましたか?」
「余計わかんなかったな」
 なんて暁さんまで言う合間にも緑青は兄弟が増えた喜びにそこら中を飛び回って

「みんなに教えて来るね!」

 そう言ってぴゅーと壁も床も無視してまっすぐ飛んで行ってしまったけどすぐさま戻ってきた。

「主ー!大変!
 真ー!大事件!
 つっきー!みんなが、みんながおっきくなってるよー!」

 ぴゃー!なんて悲鳴を上げながらも大家さんはびっくりして飛び回ってる緑青を掴み、片足なのに器用にもバランスを取りながらもう片方の手にいる木蘭をフードの中へと放り込めば緑青を二階の本だらけの部屋にある小さな百均で売ってそうな鏡にを見せて

「緑青もちゃんと大きくなってるぞ?
 ちゃんとお兄ちゃんだな」

 そんな自分の変化を教えればお兄ちゃんという言葉か大きくなった事か、多分両方なのだろうが嬉しそうに頬に手を当ててきゅー!っとそのまま天井を通り抜けて飛び出してしまった。
「夜遊びするにはまだ早いぞー」
 なんて大家さんの主張だが気が付けば階段からちみっこ達が懸命にあの角度にもめげずに階段を上ってきていた。
 もちろん玄さんはいつの間に一階に回り込んでいたのか緑青に抱えてもらっているが、前みたいな不安定さは感じなくなっていた。
 これが成長かとしみじみと思いながら見守っていれば

「「「「主ー!子供作ったんだって?!」」」」
「ちがーう!!!
 緑青なんて説明したんだ?!」

 暁さんはこらえきれず大笑いしているけど大家さんはちょっと涙目で緑青に問いただすが
「緑青達に弟が出来たよって?」
「うん。間違いじゃないな」
「間違ってはないけど正しくもありませんね」
「きゅ?」
 なんて何を間違えたのかわからない小首を傾げるしぐさの緑青のかわいさは両手サイズになっても全く変わらない。

「とりあえずだ。
 みんなはなんかよくわからないが試練を乗り越えて無事成長をした。
 そしてお前たちが生まれた納戸に収められていた、多分これだな。
 木彫りの彫刻なんだが鹿か?」
「いや、多分麒麟だろ」
 暁さんがすかさず訂正。
 少し恥ずかしそうに大家さんは咳払いをして

「そんな感じでみんなの弟分が生まれたんだ。
 一刀彫のわりには即行で作ったような感じだからこの山の木でできた物だろう。正真正銘朱華と同じ深山の子だな。
 だからみんなで面倒を見てあげてくれ」
 言えばみんなはいつもの通りよじよじと大家さんをよじ登ってフードの中で眠る木蘭の匂いを嗅いだり、舐めて見たり、つついてみたりと情報収集に大忙しだ。いや。好奇心旺盛と言うか
「主ー、この子ちっちゃいねー?」
 玄さんは鼻先でつつきながら一生懸命匂いを嗅いでいる。
 大家さんは好奇心を押さえられないちみっこ達に苦笑しながら
「ほんのちょっとまで玄さん達もこれぐらいの大きさだったんだぞ?」
「玄も小さかったんだねー」
「玄さん大きくなったよ?」
「今なら朱華はウコ達に負けない気がする!」
「真白も!」
「いや、負けるからやめなさい」
 大家さんの冷静な突込みは暁さんも盛大に頷いていた。
「とりあえず今はお客様がいるから思いっきり遊ばしてあげれないけどお前たちも真もちゃんと木蘭の面倒を頼むな」
「「「「「はーい!」」」」」
 木蘭同様性別は不明のままだがお兄ちゃんとなったちみっこ達の気合は十分だ。自分達より小さな付喪神がいる事に空回りするくらいのテンションの高さに二階は運動場と化している。
 だが聞き捨てならない事を大家さんはさらりとおっしゃった。
「あの、俺もですか?」
「当たり前だろ。お前がちみっこ達の世話係なんだからな」
 ものすごく素敵なお顔でおっしゃってくれて、暁さんは不憫そうな目を俺へと向けるのだった。
 そんな目で見ないでくれと言いたかったけど家賃交渉をしてありえない金額でお借りしているのに嫌ですなんて言えないし
「かわいいから別に問題も何もないけどまだ生まれたてで大家さんの霊力を必要としていますよね?」
 さすがにちゅぱちゅぱはしてないけどお口がもごもごと動いているあたりすぐにご飯が必要になるのはなんとなく察する事はできたし、俺の隣で暁さんも多分と頷いている。
「緑青達の時もそうだったが数日は頻繁に欲しがるかもしれないがある程度落ち着けば思い出した程度に欲しがるぐらいになる。緑青が寝る前に指や髪をしゃぶってくるあれと同じだ」
「今はそれほどでもないけど真も霊力吸われてるから気を付けろよ。綾人と違って量が少ないから倒れないように注意しろよ」
「かわいくて癒されるけど確かにちょっと疲れたのはそれが原因でしたか……」
 そうなると本当に大家さんが規格外な事を改めて思いながら

「ここに居る間は頼って貰えばいいが、その後は頼むな真」
「はい……」

 なんて返事をして気が付いた。
 大家さん俺の事を九条とは呼ばず初めて名前を呼んでもらった事に……

「おいおい、どういう風の吹きまわしだ?」

 俺と同じく気づいた暁さんもニヤニヤと笑みを浮かべれば
 
「九条の名前が増えすぎて面倒になっただけだからだ」

 そう言ってくるりと振り向いて宮下さん特製、先ほど柄の部分に動物の絵をいっぱい掘られた松葉杖で器用にもトントンと降りて行ってしまい、俺も暁さんも苦笑しながらそれに続くのだった。





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