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付喪神が運んできたご縁が心地いい物だと気付くのは何年先か 5
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大家さんに断って母屋の片隅で仕事をさせてもらった。
温かな縁側に机を持って来てくれて大家さんのリクライニング座椅子に背中を預けて先輩の仕事とは別件の仕事をしながら陽だまりに伸ばした足の指先の心地よさに今が真夏だというのが忘れそうになるおかしな感覚だけどその温かさに癒されながら仕事をしていた。
大家さんは松葉杖を器用に駆使して五右衛門風呂から上がってきた先生と一緒に庭の散歩というように門を出て先輩達が草刈りをしている方へと向かっていった。
俺よりひどい怪我だったのにも拘らず思ったより元気そうでほっとしながらもちみっこ達が寝ている間に仕事を進めた。
気が付けば足の指先が少し冷えてきた。
そこで気が付いて顔をあげれば足を温めていた陽だまりはいつの間にか消え去っていて……
「うわ、体バッキバキ……」
座椅子から出ようにも上手く立ち上がれなくてごろりと転がってしまえば
「いい感じに草臥れてるな」
笑いながら大家さんがひょこひょこと松葉杖をついてやって来た。
「慣れない椅子と机だと首も腕も痛いですね」
「おまけに腰と足も痛くなるぞ」
なんて笑う先生はいつの間にか俺の近くに机を持って来ていてプリントの採点をしていた。
そう言えばこの人先生だっけ……
当たり前の事だと思っていたのに初めて教師をしている姿に感動していればテレビでは高校野球のブラスバンドの演奏が賑やかに響き渡っていた。
「それにしても集中力凄いねえ。これだけ賑やかなのにお仕事に夢中なんて、彼女に振られるわよ」
「安心してください。すでに振られた後なので」
きりっとした顔で言えば先生はあらそうなの?なんて一切の同情のない視線に大家さんは苦笑するだけ。
「さすが離婚経験者はお付き合い段階のお別れなんて風が吹く程度のイベントか……」
「別れがあるから出会いもあるのよ。
毎年卒業生を見送って新入生をお迎えする職種柄担任やっていた学生が卒業していくのを見送る以外涙なんてもったいないわよ」
「教師が涙の出し惜しみだなんて世も末だー」
「社会に旅立つ教師からの最後の餞別よ」
「要らねー」
なんて松葉杖をつきながらひょこひょこと歩く大家さんは自由に動けないのがストレスなのか、それとも松葉杖ライフになれようとトレーニングしているのか分からないけどじっとしている事はなく
「主ー、朱華は畑のパトロールをしたいと思います!」
「主ー、真白も畑に悪い奴がいないか見回りたいと思います!」
「主ー、下の畑に遊びに行っても良い?」
「主ー、水路の方にいるからウコ達を出さないでね?」
「主ー、岩も玄さんと一緒に水路の所に居るからウコをお外に出さないでね?」
なんと言うか……
「真、お仕事終わった?」
「真、一緒に下の畑までお散歩しよう?」
「真、主の畑に一緒に行こうよ」
「真、ウコが逃げ出してこないか見張っていて」
「真、ウコ以外の奴らが玄さんを襲わないか見守っていて?」
いつもの通りのはずなのに
「綾っちー、陸斗からもうすぐ着くってLIME きたよー」
「綾っちー、先お風呂入らせてもらっても良い?」
「綾っちー、とりあえず馬小屋の所に切った奴置いてきたから」
「綾っちー」
「綾っちー」
「綾っちー」
「綾っち言うなー!」
「これか!」
なんとなく気づいていた違和感と言うかデジャブ。
草刈りに参加していたのか沢山の何かの種を服につけながら笑う暁さんと鬱陶しそうに、でも少しだけ嬉しそうな顔をしている大家さんも複雑なのだろうと察しながらも
「九条、前にも言ったが綾っちって呼んだらその度に家賃あげて行くからな」
「ちみっこ達のおやつ代の為にも俺は言いませんよ」
なんて言えば思いっきり笑う暁さんとあばらの罅に触るのかいつの間にか縁側で寝転びながらもだえる様子の大家さんになんとも言えない気分になる物の
「真ー、下の畑行こうよ」
なんて真白のおねだりに
「じゃあ、みんなで一緒に下の畑を案内してもらおうかな?
その後畑を探検して水路に行こうか」
そんなお散歩コースを決めればちみっこは見んな嬉しそうな顔をして
「じゃあ、真白が下の畑にご案内するね!」
とたたたたたー…… と足取り軽くかけて行く真白の後姿に
「じゃあ、少し行ってきます」
「おう。足元に気を付けて行ってこい」
なんてお見送りに俺は玄さんと岩さんに朱華を肩に乗せて真白を追いかける。
緑青は先に駆けて行った真白を追いかけてじゃれあいながら下の畑と言う所に案内してくれて、一面に広がるハーブ園にここが遠藤さんが言っていた憧れのハーブ園だという事に気が付いた。
温かな縁側に机を持って来てくれて大家さんのリクライニング座椅子に背中を預けて先輩の仕事とは別件の仕事をしながら陽だまりに伸ばした足の指先の心地よさに今が真夏だというのが忘れそうになるおかしな感覚だけどその温かさに癒されながら仕事をしていた。
大家さんは松葉杖を器用に駆使して五右衛門風呂から上がってきた先生と一緒に庭の散歩というように門を出て先輩達が草刈りをしている方へと向かっていった。
俺よりひどい怪我だったのにも拘らず思ったより元気そうでほっとしながらもちみっこ達が寝ている間に仕事を進めた。
気が付けば足の指先が少し冷えてきた。
そこで気が付いて顔をあげれば足を温めていた陽だまりはいつの間にか消え去っていて……
「うわ、体バッキバキ……」
座椅子から出ようにも上手く立ち上がれなくてごろりと転がってしまえば
「いい感じに草臥れてるな」
笑いながら大家さんがひょこひょこと松葉杖をついてやって来た。
「慣れない椅子と机だと首も腕も痛いですね」
「おまけに腰と足も痛くなるぞ」
なんて笑う先生はいつの間にか俺の近くに机を持って来ていてプリントの採点をしていた。
そう言えばこの人先生だっけ……
当たり前の事だと思っていたのに初めて教師をしている姿に感動していればテレビでは高校野球のブラスバンドの演奏が賑やかに響き渡っていた。
「それにしても集中力凄いねえ。これだけ賑やかなのにお仕事に夢中なんて、彼女に振られるわよ」
「安心してください。すでに振られた後なので」
きりっとした顔で言えば先生はあらそうなの?なんて一切の同情のない視線に大家さんは苦笑するだけ。
「さすが離婚経験者はお付き合い段階のお別れなんて風が吹く程度のイベントか……」
「別れがあるから出会いもあるのよ。
毎年卒業生を見送って新入生をお迎えする職種柄担任やっていた学生が卒業していくのを見送る以外涙なんてもったいないわよ」
「教師が涙の出し惜しみだなんて世も末だー」
「社会に旅立つ教師からの最後の餞別よ」
「要らねー」
なんて松葉杖をつきながらひょこひょこと歩く大家さんは自由に動けないのがストレスなのか、それとも松葉杖ライフになれようとトレーニングしているのか分からないけどじっとしている事はなく
「主ー、朱華は畑のパトロールをしたいと思います!」
「主ー、真白も畑に悪い奴がいないか見回りたいと思います!」
「主ー、下の畑に遊びに行っても良い?」
「主ー、水路の方にいるからウコ達を出さないでね?」
「主ー、岩も玄さんと一緒に水路の所に居るからウコをお外に出さないでね?」
なんと言うか……
「真、お仕事終わった?」
「真、一緒に下の畑までお散歩しよう?」
「真、主の畑に一緒に行こうよ」
「真、ウコが逃げ出してこないか見張っていて」
「真、ウコ以外の奴らが玄さんを襲わないか見守っていて?」
いつもの通りのはずなのに
「綾っちー、陸斗からもうすぐ着くってLIME きたよー」
「綾っちー、先お風呂入らせてもらっても良い?」
「綾っちー、とりあえず馬小屋の所に切った奴置いてきたから」
「綾っちー」
「綾っちー」
「綾っちー」
「綾っち言うなー!」
「これか!」
なんとなく気づいていた違和感と言うかデジャブ。
草刈りに参加していたのか沢山の何かの種を服につけながら笑う暁さんと鬱陶しそうに、でも少しだけ嬉しそうな顔をしている大家さんも複雑なのだろうと察しながらも
「九条、前にも言ったが綾っちって呼んだらその度に家賃あげて行くからな」
「ちみっこ達のおやつ代の為にも俺は言いませんよ」
なんて言えば思いっきり笑う暁さんとあばらの罅に触るのかいつの間にか縁側で寝転びながらもだえる様子の大家さんになんとも言えない気分になる物の
「真ー、下の畑行こうよ」
なんて真白のおねだりに
「じゃあ、みんなで一緒に下の畑を案内してもらおうかな?
その後畑を探検して水路に行こうか」
そんなお散歩コースを決めればちみっこは見んな嬉しそうな顔をして
「じゃあ、真白が下の畑にご案内するね!」
とたたたたたー…… と足取り軽くかけて行く真白の後姿に
「じゃあ、少し行ってきます」
「おう。足元に気を付けて行ってこい」
なんてお見送りに俺は玄さんと岩さんに朱華を肩に乗せて真白を追いかける。
緑青は先に駆けて行った真白を追いかけてじゃれあいながら下の畑と言う所に案内してくれて、一面に広がるハーブ園にここが遠藤さんが言っていた憧れのハーブ園だという事に気が付いた。
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