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付喪神が運んできたご縁が心地いい物だと気付くのは何年先か 4

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 そんな出会いの挨拶を終えれば

「綾っち、片足じゃ道路の草刈りとか枝打ち難しいから代わりにしてくるから」
「綾っち、しゃがんだりするの難しそうだから俺達は畑の方行ってくるねー」
「綾っち、もう少ししたら圭斗さんが陸斗達連れて来るって言うから来たら陸斗にご飯の準備頼んでいるから怪我が酷くならない為にもおとなしくしてろ、だって」
「綾っち言うな。ったく人がけが人だと思って好き勝手しやがって…… あ、いつもの事か」
 なんて言う割には嬉しそうな顔をしていたが
「綾っちがみんなを鍛え上げた結果がこれだけの自主性を持っただけですよね」
 一樹さんの容赦ない言葉に俺も笑いながら
「大家さんはやっぱり人でなしだ」
 なんて本人を目の前に言えるようになったのだから俺もたくましくなったと思う。だけどそこは大家さん。平然とした顔で
「いいんだよ。あいつらのメシ代俺が支払ってるんだからその分働くのはこの家のルールだ」
 そうなのですと言いながらも一樹さんも立ち上がって
「じゃあ俺も畑の方手伝ってきます」
 そう言った所で何かから逃げるように席を外す理由を微笑ましく見送れば一樹の頭にいた緑青はスーッと移動してきて俺の肩に止まり
「真、いい人で良かったよね!」
「だね。にしてもずっと黙っていたなんて大変だっただろうね」
 特に精神面で。
 なんて考えていれば
「んなの一切見ないふりしておけばそれでOKじゃね?」
「全員が全員そこまで逞しくいられませんよ」
 特に大家さんは無敵だしと思えば

「おー、ずいぶん賑やかになったな」

 現れたのは暁さん。
「「「「「つっきー!」」」」」
 なんてちみっこは知っている顔というか認識してくれる人に嬉しそうな顔で飛びつけば暁さんも大家さんの隣に座ってちみっこ達を指先でこしょぐりながら構い倒して満足げにハアハア言わせるくらいの指技なんて暁さんすごいなーなんて是非そのテクニックを教えてもらいたいと思うのは育児係としてのプライドだろうか。
 遊んでもらって満足げな顔をしたちみっこ達に
「ご飯まで時間があるから先にお昼寝しておいで」
「「「「「ご飯になったら起こしてねー」」」」」
 遊び疲れたというか人の多さにテンションが上がってかすでにぐったりな様子は大家さんの家に行くと聞いた瞬間からテンション爆上がりしていたのが原因だろう。
 この家で休む場所は決まっているというように仏間の奥の方へとふらふらと歩いて行く様子を不思議そうに見ていれば
「ああ、綾人の部屋があるからそこに向かってるんだよ。 
 一番人も入らない所だし、生活に慣れた場だからな」
「俺のベッドが奪われた」
「気にしないくせに」
 そんな笑いあう二人に大家さんがこれだけ逞しいのだったらちみっこも逞しくなるわなと納得する真だった。
「だけど暁さんがなんでこちらに?」
 いるのだろうと思いながら聞けば
「まあ、あの事件の捜査の継続って言うか、向こうの家の当主がやっぱりあんなクソでもかわいい弟と甥っ子らしくてあれからずっとこっちにいるみたいで何が起きても大丈夫なようにお邪魔してるんだよ」
 こんなクソ忙しい時に単身赴任だなんてやれやれだという暁さんだが
「そう言えばあれから警察の方はどう言ってるんですか?」
 ボコられて入院して警察と少しお話して以来情報はさっぱりなのでついでと言うように聞いて見れば
「まあ、一応物取りって言う線になって、金目な物を物色した所で住人に見つかりボコった所意識を失って倒れた俺達にビビって山に逃げたって事になったみたい」
「よくある奴ですね」
「まあ、ここが街中と違って山の中って言うのが普通の事件とは違うって事だな」
 何が違うんだかと思えば
「腹をすかせた獣たちの縄張りに紛れ込んだ山の素人さんが無事下山出来るわけもないって事だ。
 しかも山道すらない方に逃げて行って、間違ってちょっとは歩きやすいと錯覚して獣道に踏み入れたら美味しいごはんが歩いてるって思う奴らもいるだろうからな。熊とか」
「そう言う表向きな話ならこの地域の人なら納得するけど、向こうの当主は諦めきれなくってまだ残ってるってわけだ」
「まあ、仏さんでも回収出来たら納得はするだろうけどなあ」
 なんて大家さんはぼやくが
「そして真実だ。
 帰ってくる見込みはあるのか?」
 真剣な色合いの瞳の暁さんに大家さんは肩をすくめて
「あんな怖い所喜んでいく馬鹿がいるのなら送り出すけど俺は御免だね」
 なんて取り合うつもりもない大家さんの代わりに声を出さずに扉の向こう側の様子はどうだったかと俺へと目を向けられるが
「正直に言えば全くここと何の変わりのない様子でした。
 寒さとか暑さとかは一切分からなかったし、アレがいる時の独特な空気もなかったし。
 むしろあんな時だったのに綺麗に手入れをされていたお庭だって思ってましたぐらいです」
「気を付けろよ。あの黒いやつ見ただろ?
 あそこから一歩足を踏み込めばもう向こう側だからな」
 暁さんの真剣な目に思わず息を飲み込んでしまうが
「向こう側を知っているのですか?」
 聞けば暁さんは俺からは話さないというように大家さんに視線を向ければ
「知ってどうする」
 なんて言ったけどため息を一つ吐いて

「あれは帰り道のない一方通行の入り口の目印だ。迷い込まないための境界線だ。
 たまに帰ってこれる時もあるがあの先は人の住む世界じゃない」

 人の住む世界じゃないって……

「緑青達が本来いるべき世界だ」

 その言葉にドキッとする。
 大家さんがその話をする先を、別に考えた事はないわけでもないが……

「今ではないがいつかあちらにちび共を帰そうとは思っている」

 キンと耳の奥がこれ以上聞きたくないと拒絶をするが

「俺達は限りある時間しか持たないからな。
 誰もいなくなった時、花に頼む事になる。
 だけど花だって今では向こう側の住人だ。
 こっちにいる理由はないからな」
 
 なんて言いながらちらりと暁さんを見て

「ましてや暁たちに預ける理由もない。
 山で生まれたのだから山に帰す。たまたまうちで生まれたとはいえそれが自然だと思う」

 暁さんと向き合って話をするようすはまるで暁さん達が引き取ろうかというような話があったのではと邪推してしまう。
 少しの間緊張が張り巡らされた空間が広がるも大家さんは松葉杖を手にして器用に立ち上がり

「まあ、順調にいけば四十年、五十年先の話しだ。その前にチビ共が成長して独り立ちする可能性だってある。
 その時は成長を喜んで見送ればいいだけだ」
 
 そんなひな鳥が飛び立つのを夢見るように語る大家さんはそれから思いっきり松葉づえに体を預けながらもとたんに項垂れて
「朱華がまた丸くなった気がするんだが……」
「飯田さんのご飯の効果が抜群すぎて」
 飛べない鳥・赤いひよこ。
 成長して大きくなっても飛べないかもと一同不安になるのだった。

  
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