家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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それぞれの結末 6

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「お前の様な素人に龍の付喪神をいつまででも側においていいわけがなかろう!
 思い出せ!昨晩みせたあの神々しい姿を!
 なのに封印するなど言語道断!
 見よ!その小さく哀れな姿を!」
 帽子の中に隠れていたけど差し出されたお茶菓子欲しさに玄さんと岩さんと一緒に机の上に降りてきて葛饅頭を食べる緑青の姿に皆さんほっこりとしながら見守っているのを紫だけがエキサイトしながら演説していた。
 茶托によく冷えた麦茶を注げば玄さん達もみんな喉が渇いたというようにぺろぺろと飲む様子。爺さんなんて見る価値がどこにあるというように大家さんは汚れた口元を手拭きで拭ってやっていた。
 すぐに九条家の方が新しい手拭きと九条の前当主によって桃や葡萄のカットフルーツを用意してもらい、お茶も飲みやすいように我が家同様小さなお猪口に入れたものを用意してくれた。
 哀れな姿と言うより
「相変わらずお前にそっくりでマイペースな付喪神だな」
「小さくてもちゃんと聞くに値する言葉かどうかは自分で判断できるって事だ」
 言いながら
「主ー、あんこもっと食べたいー」
 玄さんのリクエストに暁さんの葛饅頭を大家さんが贈呈すれば嬉しそうに表面の葛を食べた所から頭を突っ込んで一言。
「あんこはやっぱり美園屋さんに限るね」
「美味しいけどちょっと甘いし」
「緑青はこしあんより粒あんの方が好き。表面の葛ももちってしてないし……」
 そんな酷評な食レポ。
 この場を用意しただろう暁さんのお父さんが少し恥ずかしそうにしているのが申し訳ない。
「頂き物に文句を言わない」
「えー?」
 大家さんの教育的指導に玄さんの不満そうな声。
 小さな子供を叱る親の姿みたいだと思えば
「俺だって美園屋さんより美味しい所にあまり出会った事がないんだから。
 これが世間一般的な標準のお味だ」
 大家さんも頂いておいてその言い方もどうかと思う。ちみっこ達より性質が悪いぞとちょっと隣に座っているのが居た堪れなくなった。
「そうかー、仕方がないねー」
「主ー、お家に帰ったら美園屋さんのあんこが食べたいー」
「緑青はマンゴーがいっぱい乗ったケーキがいいなー」
 どんな贅沢をさせているんだというような視線を頂きながら遠くで紫さんが今もわめいているのを一切無視して大家さんはちみっこ達に仕方がないなーとちみっこがおなか一杯になって食べ残したフルーツや葛饅頭を処分していた。
 満足そうにはち切れんばかりのお腹でへそ天してひっくり返ってる姿に皆さん一生懸命見てもこの子たちにおへそはありませんよと心の中で突っ込んでいれば
「ほら、おなか一杯になったら眠たくなっただろ?帽子の中に入ってろ」
「うん。帽子に行くー」
「主ー眠たくなったー」
「主ー、潰さないでねー」
「はいはい」
 その言葉を聞いて大家さんの帽子の中にちみっこ達を入れてあげれば帽子の中ではくるんと丸まってすぐにお昼寝モードに突入していた。
「さて、紫さんでしたね」
 突然丁寧な言い方をするからビビってしまうも

「柾さんのご容態はどうでしょう?急にあんな状態になって、さぞご心配でしょう」

 全然丁寧じゃなかった。
 そして皆さんその状態を知っていらっしゃるようで緑青達で和んでいた顔が一気に渋面となった。
「吉野の、お前さんが柾君をあんなふうにしたと聞いたが?」
「失礼な。ちょっと嫌な感じがしたから取りに行けってちょーっと強引にお願いしたら勝手にああなったんだよ。
 爺さんはまさか俺にああなればいいって思ったとか?」
 酷いなあ、なんていう大家さんだけど
「ちょっと嫌な感じとは?」
「そこの爺さんの家に行った時なんか目の前がぐらんぐらんとした酔っ払ったような風になって?
 その時の感覚を覚えたおかげで階段の下に降りたらいけないって気分になって?
 あの家にお招きされている方なら問題ないだろうって代わりに行ってもらったんだけど?
 暁だってたいして警戒してなかったから全然安全と思ったのにああなったなんて……」
 言いながら大家さんは紫さんに向かってぞっとするような視線をまっすぐ向ける。

「あんたたちが何をしたのかなんて俺にはわからないけど、取り返しのつかないような真似をしておいて人のせいにするって言うのはずいぶんと勝手じゃないのか?」
 
 怒りを含む声は次第に厳しくなり

「ましてやうちの子たちを攫っておいて怪我までさせてずいぶん怖い思いもさせてくれて」

 誰か大家さんを止めてくれと思うも暁さん達は誰も言葉を挟まない。

「そういやあんたもさびを使って一族のトップになりたいって言ってた口だったな」
 
 隣に座るお兄さんがじっとりと汗を落とす弟を冷ややかな目で見ていた。
 この程度の小物だったのかと今さらながらなんでこんな相手に大変な思いをしてきたのかと怒りがわいてくる。

「俺思うんだが紫さん」

 とても静かな声だと思った。

「物を盗み、子供を攫い、家に火を放ち、罠にはめる。
 そんな方が上に立つなんてありえない。
 ましてやそれがあなたの家柄によるものだったり、人より少し強くある力だったり、人よりたくさんの物がとらえる事の目ならば、あなたにはあってはいけない毒だと俺は思う」

 何故だか背筋がゾクゾクとして大家さんが怖くて目が離せない。
 動いたりしたらとてつもない恐怖が襲い掛かってくるのではというくらいの緊張の中、いつの間にか握りしめていた掌の中はぐっしょりと汗をかいていた。

「あなたにはそのよく見えすぎる目もよく聞こえすぎる耳も、そしてたくさんの理に触れる手は必要ない」
「吉野の!」

 暁さんのお爺さんの大声にまるで大家さんの声で金縛りにあっていた体がやっと自由を得たというように必死に呼吸を繰り返していれば暁さんが背中に手を添えてさすってくれた。
 緊張に眩暈をおびえてしまう中
「もう十分じゃろ」
 何が起きたか分からないというように紫の兄もどういう事かというように暁さんのお父さんに説明を求めていたが一切の無視をして口を閉ざしていた。






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