家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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静かな庭を臨む部屋 6

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 もう威嚇してこないと言うのが分かったのか緑青も俺から少し離れて狛犬の様な犬のしっぽに玄さんと岩さんと一緒にじゃれついて遊んでいた。ちょっと口が半開きなおまぬけなお顔だけどじゃれつく三体を遊んであげるというように後ろを見ながら尻尾を振り振りとちみっこ達をかまいたおしていた。
「古いお宅で良いものをお持ちだからひょっとしてなんて思ったけどやっぱり付喪神でしたか」
「そうよ。私たちは妖怪ではないわ」
 失礼しちゃうと言いながらも耳を倒しながら俺の膝の上に乗って撫でれというのは白と黒のツートン兎のすずさんと言った。今はあまりお披露目される事はなくなったが鉄製の風鈴だそうだ。どおりで声が美しいと思いながら
「まさか客人とは思わなかった。そんな話は稔も薫もしてなかったからな」
 もう一体のきゅっとした口元の狛犬の様な方は安直な事にこまさんだった。そうなるとしいさんの方はシーサーからきてるのだろうと想像がついて誰がこんな名前を付けたのだろうかとちらりと後ろで横になってる方を見てしまったのは仕方がないだろう。まあ、この件は後回しにして……
 稔が誰かは分からないが薫が飯田さんなのできっと料理長のお名前だろうと飯田の名字が有名なので肝心の名前の方がおろそかになっていた。ちなみに失礼がないようにと女将さんの名前、紗凪さんと言うのも教えてもらっていた。
 事前情報大切だよと記憶しながらも鈴さんをなでなでとする。
「そうなるとご主人はこの家の料理長でしょうか?」
 聞けば四体ともそっと視線を逸らす。
 そして決して誰も大家さんの方を見ない。
「大家さんなのですね?」
「えー?!主は緑青たち以外もお名前つけていたの?!」
「えー?!主は教えてくれなかったよー?!」
「えー?!主はつまり責任取ってないっていう事なの?!」
「まて玄さん。その発想はよくありません」
 玄さん何をいきなり言い出すのかと思ったけど
「テレビでやってたよ。一度飼ったら最後まで責任を持ちなさいって」
 しばし考えながらなんとなく先日のニュースを思い出した。
 確か捨て猫問題だったと思ったが……
「多分大家さんは区別をするように名前を付けただけで使役とかそういった事は考えてないと思うんだけど」
 でなかったら飯田さんを言い含めてこの付喪神を本体ごと連れて帰ってきていただろう。
 それどころかこの大家さんを見ようとしないような距離感。
 そしてその前の一瞬。
 眠る大家さんの顔を見て嬉しそうに目を輝かせたのを見逃せなかった。
 こじらせてるなーと思うも肝心の大家さんはうんともすんともせずに静かに眠っている。
 さすがによそ様の家なのでやる事がないと思えば自然にあくびがこぼれ……
「あふっ……
 みんなごめん。ちょっとお昼寝していいかな?」
 言いながら畳んでおいた布団を敷き直して横になれば
「だったら緑青もお昼寝するー!
 緑青は主の横でお昼寝するのー!」
 早い者勝ちと言うように大家さんの首横でくるりと丸まれば
「玄も主のお側がいいー!」
「玄さん、岩が先に場所を取ってくるからね!」
「岩さんありがとう!玄も頑張るからね!」
 他にライバルもいないのに面白いなーなんて眺めていればひょこっと首を持ち上げた緑青が
「しいさん達もお昼寝しないの?主のお側まだいっぱい空いてるよ?」
 そんなお誘い。
 どうしたものかと思ったもののツンデレ猫の次郎さんがそろりそろりと足元でくるりと蹲れば少しだけ顔を見合ったしいさんとこまさんも隅っこの方で並んで蹲り、鈴さんもそのそばに落ち着くのだった。
 俺の布団の方には誰も来てくれなかったのがちょっぴり寂しかったけどなんだかそれはそれで幸せな景色で見ている方が笑みを浮かべたくなるような光景をしばらく眺めている間に静かになり、その静かさを妨げないように目を伏せていれば

「なんなんだこれは……」
 
 地の底から響くようなものすごく不機嫌な声が聞こえて目が覚めた。
「あー、大家さんおはようございます」
 枕元のスマホで時間をチェックすればもうすぐ正午と言う時間。
 大家さんは浴衣の胸元を少しだけはだけさせながらこの状況を理解しようとぼーっと眺めていた。
 まだ眠いのですねと張り切った昨晩の疲労はまだ回復してない様子。
「九条、説明」
 これは何なんだというのは大家さんを中心に付喪神の皆さんが大胆にもお昼寝をしているから。
 さすがにこまさん達は目が覚めて飛び上がるように起き上がったけど緑青や玄さん、岩さんはまだまだ寝たりないというように大家さんの枕にしがみ付いて眠っていた。
「先ほどお庭でお会いしまして玄さん達と遊んでくださいました」
「しいとこまに次郎に鈴か……」
 名前を呼べばみんな何かを期待するようにしっぽを振り回して耳を向けていた。
 そして気づいてないような大家さんに
「大家さんの使役なら最初に紹介してくださいよ」
 へらへらとした顔でやだなあ、もう!と軽く肩を叩けば理解不能と言う顔が俺を見ていた。
 それから枕元に置いてあったスマホを取り出し
「何も言わずちょっと来い」
 それだけを言って通話を切る大家さん。
 相手は想像の範囲なら暁さんだろう。
 俺が連絡をとるまでもなく呼び寄せるなんて大家さん面白いなあなんて事を顔を出さずに期待を込めた瞳がしだいに脅えて行く様子がなんだかかわいそうで……
「大家さん、いくら何でも酷いですよ」
 暁さんが来るまで俺が体を張る事にした。
 何がと言う視線に
「この付喪神達に名前をあげておいて放置してるなんて育児放棄と同じですよ」
「使役した覚えはない」
「いえ、名前を与えた事が一種の契約なのです。
 玄さんも言ってましたよ。責任を持ちなさいって」
 なんじゃそりゃと言う顔をしていたが
「あの、主様」
 こまさんに呼ばれて振り向く大家さんにほら、認めているようなものじゃんと視線で訴えれば
「こまたちは主様の言いつけを守ってこのお店を御守りしています。
 まだまだ未熟ですが悪い気を追い払い、お店に来ていただくお客様に快適に過ごしていただくために頑張ってきました」
 しょぼん、と項垂れるよな顔で寂しげな視線で会わなかった間、大家さんに命じられたことを遂行してきた事を一生懸命伝えていた。
 きっとそれはただ一言が欲しくて、会いにも来ない主をひたすら待っていたやっとのチャンスがまさかの認識してもいなかったというひどい話。
 自分より小さい子には優しいと誰かが言っていたがそれを信じろと俺は自分に言い聞かして返事を待てば、
「はー……」
 長い溜息だった。
 何か一瞬裏切られた、そんな気分が沸き上がったが
「悪かったな。そういう事を知らない時に勝手に主になっていて」
 どこかばつの悪そうな顔。
 俺様な所しか見た事がなかったからちゃんと反省できるんだと感心してしまえば
「だけどありがとう。
 俺の知らない所でちゃんと飯田さん達を守ってくれて、感謝する」
 言えば一番近くにいた鈴さんのおでこをコチョコチョとくすぐってみせれば次は自分にも!というように期待を込めた視線に大家さんはしょうがないなと言うように今度は誰も脅える事のない溜息を零してありがとうを伝えるように背中を撫でていった。




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