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静かな庭を臨む部屋 4
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着替えを済ませてやっと人心地が付いた。
着慣れない浴衣はやっぱりどこか無防備さを覚えて……
これが個人旅行だったら全く問題はなかった。
だけどここはあの飯田さんが生まれ育ったお家。
年に一度のぜんざいを頂くのがせいぜいな俺としては浴衣でうろうろなんてとてもじゃないがハードルが高すぎた。
綺麗になった靴下までアイロンをかけてもらうなんてもうしわけなく思いながらも今は縁側ではち切れんばかりのお腹を抱えてひっくり返ってへそ天のちみっこ達の姿に笑いが止まらない。ちみっこ達にへそはないが。
弾けんばかりのぷりんとしたおなかに至福の笑顔。
飯田さんのご飯を初めて頂いた時に見せてくれた先輩達と同じ姿に付喪神も人も大して変わらないじゃないかと思ってしまう。
とりあえず今できる事は……
『はーい、真君からの連絡をとーっても待っていましたつっきーです!』
いきなり逆切れされてしまった。
「あ、おはようございます。昨日はお世話になりまし……」
『何一人で終わった気でいるんだよ。
こっちは昨日から徹夜で爺さんたちと楽しくないお話会を現在進行形で進んでいるんだぞ』
耳をすませば確かに何やら話が聞こえるが……
「徹夜のできる方を老人扱いしてはいけませんよ」
美味しいごはんで頭に十分栄養がまわったので皆さん楽しそうですねと笑っておいた。
『確かに老人じゃなくって妖怪だけどって笑えねーよ!』
再び秒でブチ切られた。
『ところでやっぱり綾人は寝てるのか?』
「ええと、起こしましょうか?」
なんで今も寝ているのを知っているのだろうかと思うも
『ちびーずを本来の状態から小さくさせる時かなり霊力を使うからな。
俺らだって難しいのを三体同時にやるなんて自殺行為、なんで死なねーんだろ……』
ちょっとそんな本音止めてよと思いながらも
「心配してるのですか?それとも嫉妬してるのですか?」
『言うだろ?人間は複雑なんだよ』
「残念な事に俺の回りにはそんなタイプはいなかったので」
「少しは本ぐらい読め」
中々手痛い切り返しが来たけど挨拶はそこで終わったようだ。
『前に五体に名前を与えて封印したから三日間爆睡した話したよな?
少し前に二体小型化した時は倒れなかったって話を聞いたんだが、今回は三体だったからな。とりあえず昼まで寝かせて様子を見てくれ。
強制的に起こせる問題でもないから。霊力がある程度回復しないと起きる事が出来ないから放っておけばいい』
なんて言うけど
「ですが水分とかそう言うの……」
命の問題じゃないかなんて思うも
『だから飯田さんの家だろ。
あの人前回爆睡していて目が覚めないあいつに飯を食わせていたからな。餌付け効果って言うのか、あいつ本能的に好物を食べやがったんだ。あり得るか?』
ついでに水も飲ませておきましただなんて餌付けされすぎだろとぼやきながら非常識も甚だしいだろなんてわめくも
『やっぱり吉野のは目を覚まさんか』
急に声が変わった。
「ええと……
九条真です。よろしくお願いします」
訳が分からなかったのでとりあえず挨拶はしておいた。
ふんとそんなこと聞いちゃいないと鼻息であしらわれたがそこはくじけずに
「大家さんは昨日のあれからずっと寝ています」
背後で爺ちゃん勝手にスマホ取るなと喚く暁さんの声が聞こえる。さすがの暁さんもお爺さんには勝てないのかとなんだかほっこりしてしまう叫び声に笑みが浮かんでしまった。
『悪いが目が覚めたら連絡をくれないか。暁に迎えに行かせるからその付喪神達を連れてこちらに来てほしい』
どこか疲れたような声に
「では目が覚めてもお昼までは連絡はせずという事でもよろしいでしょうか?」
『ん?』
さっき言った事が理解できないのかという圧のある声だが
「暁さんから徹夜だと聞いています。
そのような状態で大家さんと話し合っても実りのない会話になると思いまして」
『……だな』
ふーっと長い溜息を落として
『悪いがそうさせてもらおう。
だが……』
まだ条件があるのかよと思うも
『絶対逃がすなよ』
「なにを?」
素で返してしまった。
『吉野じゃよ!あいつは面倒な事は首を突っ込まないからさっさと山に帰る手段を考える!全力で阻止しろ!」
大家さん、あなた過去に一体何をしでかしてきたのでしょうかと思うも
「えー、大家さんきっと皆さんにも話があると思うので多分逃げませんよ。
むしろ乗り込む気満々ですので……」
昨晩の切れっぷりを思い出せばまだまだ暴れたりないと言う所だろう。
それを伝えれば向こうも黙ってしまい……
『真、なんか爺さんがおとなしくなったけど何を言ったんだ?』
「あ、暁さん?いきなり変わると驚きます!」
クレームはちゃんと伝えておく。
『悪いな。で、何を言ったらあの爺さんがおとなしくなった?』
「え、いや、昨日の大家さんの暴れっぷりを思い出したら大家さん目が覚めたら乗り込みに行くかもって言う話をして……」
『あー、だよな。あいつ俺達の攻撃とか防御とか一切無視した別方向から攻めてくる来るからな』
「……何かあったのですか?」
ほんの少しの好奇心で聞けば
『そんなの昨日の一件で判っただろ。
あいつの付喪神の魅力は何もあいつらだけじゃないって事だ』
なんとなく察した。
暁さん達も既にアレをやられたのかと思わず無言になってしまった。
『すごかったんだ。
現実的にお金や通信手段が使えない事がこんなに不便だなんて、ましてや電気のない生活がこんなにも困難になるなんて。
あの日は寒い真冬で丁度大雪が降った時で、暖房がないってほんとひもじい思いになって、いくら修行で慣れていてもそれとこれとは別次元だ。
さらに寺の入り口や窓を電磁キーに変えたばかりでそこがうんともすんともしなくなって、さらにスペアキーがあいつのなりすましで別所に移された後で本当に何もできなくって一晩放置されてな……』
なぜかしくしく泣きだしてしまった。
これ以上聞いてはいけない奴だと慌ててしまうも
「窓を割るとかは……」
『ちょうど防犯対策で窓を買えたばかりで簡単に割れない奴にしたばかりで……』
なんて魔の悪いというか
「とはいえ、妙に作為的なものを感じるのですが……」
と言った所で
『そうだよ!これ全部あいつにいくら古い寺だからと言っても最低限の防犯対策はしろって勧められた奴だったんだよ!』
まさかの言葉。
ひょっとしてこういう事があるかもしれない前提に仕組んだとか……
「でも大家さんならあり得ますね……」
新幹線の中で嬉々としてしていた様子を隣で見れば納得できる内容。
『ほんの出来心でつぶやいたんだよ。
お前の付喪神取り扱いに困ってたら俺の所で引き受けるぞ。親父たちも喜んで引き受けるって……
ほんのちょっと呟いてみただけなんだよ……』
「ひょっとして欲目丸出しで言ったとか?」
『……言った』
ぼそっと小さな声で白状した所今では自分でも悪かったことは認めているようだが言わずにはいられない。
「自業自得でしょ」
『だけどここまでされるとは思わなかったんだよ!』
「寧ろその程度で済んでよかったでしょう」
『呪術戦なら絶対勝てるのにサイバー戦だなんてほぼ俺対綾人じゃ勝てる見込みすらないだろ』
「俺でも勝てる見込みないですよー。
下手すると再び大家さん頑張っちゃうかもしれないですよー」
なんて適当なアドバイスをしていれば一分ほど何を思い出してかしくしくと泣き声を聞かされて
『俺、もう寝る』
「はい。寝てください」
そんな感じでお話は終わり、俺はなんだかどっと疲れが出てきた。
着慣れない浴衣はやっぱりどこか無防備さを覚えて……
これが個人旅行だったら全く問題はなかった。
だけどここはあの飯田さんが生まれ育ったお家。
年に一度のぜんざいを頂くのがせいぜいな俺としては浴衣でうろうろなんてとてもじゃないがハードルが高すぎた。
綺麗になった靴下までアイロンをかけてもらうなんてもうしわけなく思いながらも今は縁側ではち切れんばかりのお腹を抱えてひっくり返ってへそ天のちみっこ達の姿に笑いが止まらない。ちみっこ達にへそはないが。
弾けんばかりのぷりんとしたおなかに至福の笑顔。
飯田さんのご飯を初めて頂いた時に見せてくれた先輩達と同じ姿に付喪神も人も大して変わらないじゃないかと思ってしまう。
とりあえず今できる事は……
『はーい、真君からの連絡をとーっても待っていましたつっきーです!』
いきなり逆切れされてしまった。
「あ、おはようございます。昨日はお世話になりまし……」
『何一人で終わった気でいるんだよ。
こっちは昨日から徹夜で爺さんたちと楽しくないお話会を現在進行形で進んでいるんだぞ』
耳をすませば確かに何やら話が聞こえるが……
「徹夜のできる方を老人扱いしてはいけませんよ」
美味しいごはんで頭に十分栄養がまわったので皆さん楽しそうですねと笑っておいた。
『確かに老人じゃなくって妖怪だけどって笑えねーよ!』
再び秒でブチ切られた。
『ところでやっぱり綾人は寝てるのか?』
「ええと、起こしましょうか?」
なんで今も寝ているのを知っているのだろうかと思うも
『ちびーずを本来の状態から小さくさせる時かなり霊力を使うからな。
俺らだって難しいのを三体同時にやるなんて自殺行為、なんで死なねーんだろ……』
ちょっとそんな本音止めてよと思いながらも
「心配してるのですか?それとも嫉妬してるのですか?」
『言うだろ?人間は複雑なんだよ』
「残念な事に俺の回りにはそんなタイプはいなかったので」
「少しは本ぐらい読め」
中々手痛い切り返しが来たけど挨拶はそこで終わったようだ。
『前に五体に名前を与えて封印したから三日間爆睡した話したよな?
少し前に二体小型化した時は倒れなかったって話を聞いたんだが、今回は三体だったからな。とりあえず昼まで寝かせて様子を見てくれ。
強制的に起こせる問題でもないから。霊力がある程度回復しないと起きる事が出来ないから放っておけばいい』
なんて言うけど
「ですが水分とかそう言うの……」
命の問題じゃないかなんて思うも
『だから飯田さんの家だろ。
あの人前回爆睡していて目が覚めないあいつに飯を食わせていたからな。餌付け効果って言うのか、あいつ本能的に好物を食べやがったんだ。あり得るか?』
ついでに水も飲ませておきましただなんて餌付けされすぎだろとぼやきながら非常識も甚だしいだろなんてわめくも
『やっぱり吉野のは目を覚まさんか』
急に声が変わった。
「ええと……
九条真です。よろしくお願いします」
訳が分からなかったのでとりあえず挨拶はしておいた。
ふんとそんなこと聞いちゃいないと鼻息であしらわれたがそこはくじけずに
「大家さんは昨日のあれからずっと寝ています」
背後で爺ちゃん勝手にスマホ取るなと喚く暁さんの声が聞こえる。さすがの暁さんもお爺さんには勝てないのかとなんだかほっこりしてしまう叫び声に笑みが浮かんでしまった。
『悪いが目が覚めたら連絡をくれないか。暁に迎えに行かせるからその付喪神達を連れてこちらに来てほしい』
どこか疲れたような声に
「では目が覚めてもお昼までは連絡はせずという事でもよろしいでしょうか?」
『ん?』
さっき言った事が理解できないのかという圧のある声だが
「暁さんから徹夜だと聞いています。
そのような状態で大家さんと話し合っても実りのない会話になると思いまして」
『……だな』
ふーっと長い溜息を落として
『悪いがそうさせてもらおう。
だが……』
まだ条件があるのかよと思うも
『絶対逃がすなよ』
「なにを?」
素で返してしまった。
『吉野じゃよ!あいつは面倒な事は首を突っ込まないからさっさと山に帰る手段を考える!全力で阻止しろ!」
大家さん、あなた過去に一体何をしでかしてきたのでしょうかと思うも
「えー、大家さんきっと皆さんにも話があると思うので多分逃げませんよ。
むしろ乗り込む気満々ですので……」
昨晩の切れっぷりを思い出せばまだまだ暴れたりないと言う所だろう。
それを伝えれば向こうも黙ってしまい……
『真、なんか爺さんがおとなしくなったけど何を言ったんだ?』
「あ、暁さん?いきなり変わると驚きます!」
クレームはちゃんと伝えておく。
『悪いな。で、何を言ったらあの爺さんがおとなしくなった?』
「え、いや、昨日の大家さんの暴れっぷりを思い出したら大家さん目が覚めたら乗り込みに行くかもって言う話をして……」
『あー、だよな。あいつ俺達の攻撃とか防御とか一切無視した別方向から攻めてくる来るからな』
「……何かあったのですか?」
ほんの少しの好奇心で聞けば
『そんなの昨日の一件で判っただろ。
あいつの付喪神の魅力は何もあいつらだけじゃないって事だ』
なんとなく察した。
暁さん達も既にアレをやられたのかと思わず無言になってしまった。
『すごかったんだ。
現実的にお金や通信手段が使えない事がこんなに不便だなんて、ましてや電気のない生活がこんなにも困難になるなんて。
あの日は寒い真冬で丁度大雪が降った時で、暖房がないってほんとひもじい思いになって、いくら修行で慣れていてもそれとこれとは別次元だ。
さらに寺の入り口や窓を電磁キーに変えたばかりでそこがうんともすんともしなくなって、さらにスペアキーがあいつのなりすましで別所に移された後で本当に何もできなくって一晩放置されてな……』
なぜかしくしく泣きだしてしまった。
これ以上聞いてはいけない奴だと慌ててしまうも
「窓を割るとかは……」
『ちょうど防犯対策で窓を買えたばかりで簡単に割れない奴にしたばかりで……』
なんて魔の悪いというか
「とはいえ、妙に作為的なものを感じるのですが……」
と言った所で
『そうだよ!これ全部あいつにいくら古い寺だからと言っても最低限の防犯対策はしろって勧められた奴だったんだよ!』
まさかの言葉。
ひょっとしてこういう事があるかもしれない前提に仕組んだとか……
「でも大家さんならあり得ますね……」
新幹線の中で嬉々としてしていた様子を隣で見れば納得できる内容。
『ほんの出来心でつぶやいたんだよ。
お前の付喪神取り扱いに困ってたら俺の所で引き受けるぞ。親父たちも喜んで引き受けるって……
ほんのちょっと呟いてみただけなんだよ……』
「ひょっとして欲目丸出しで言ったとか?」
『……言った』
ぼそっと小さな声で白状した所今では自分でも悪かったことは認めているようだが言わずにはいられない。
「自業自得でしょ」
『だけどここまでされるとは思わなかったんだよ!』
「寧ろその程度で済んでよかったでしょう」
『呪術戦なら絶対勝てるのにサイバー戦だなんてほぼ俺対綾人じゃ勝てる見込みすらないだろ』
「俺でも勝てる見込みないですよー。
下手すると再び大家さん頑張っちゃうかもしれないですよー」
なんて適当なアドバイスをしていれば一分ほど何を思い出してかしくしくと泣き声を聞かされて
『俺、もう寝る』
「はい。寝てください」
そんな感じでお話は終わり、俺はなんだかどっと疲れが出てきた。
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