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大家のターン再び 8
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大家さんはそのまま来た道を戻るように廊下を歩かせながら最後尾でバールを人質ごと振り回しながら近寄らないようにする合間に壁を蹴って穴を開ける所が冗談に思えなくて笑えない。
いや、大家さん脚力凄いですね。
この為に靴を履いたまま家に上がったのですかなんて聞けないのは大家さんがさっきからずっとマジ切れしているからだろうか。絶対喧嘩を売ってはいけない人だと心に刻み付けておく。
そしてやって来たのは隠し地下室のある納戸。
あからさまに顔色を悪くする一同。
大家さんは表情も変えずにバールに服を絡めた男に視線を合わせただけで何かを察してか顔を真っ青にしていき
「この下に置いてある香炉を取ってこい」
涙を流しながらいやだいやだと首を横に振る男に大家さんは何の感情をこめずに
「置くことが出来たんだろ?だったら取ってこればいいだけじゃないか」
「む、無理だ!ここは!ここには!!!」
「行け」
「綾人、ダメだ!やめ……」
脅しではない事と何かを察した暁さんが止めようとする間もなくただ器用に服からバールを外して開けた入口に男を押し込むように背中を押せば勢いのまま明かりがない薄暗い階段を転がり落ちるように下りていき……
思わず耳をふさいだ。
断末魔、というのはこういう声か。
狂ったような正気を失う直前の声が、最後の理性を宿した絶望の声が悲鳴と助け、そして謝罪をただほんのわずかな段差の合間で繰り返し、やがて一番下で力なく腰を落とした時には男の瞳には明かりのない暗がりでも正気を失った視点の合わない視線が涙を流しながらぼんやりと壁を見て言葉にならない言葉をただ零していただけだった。
大家さんは眉間も動かすことなく階段の下で蹲る男を眺めていた。
間に合わなかった暁さんの伸ばした手は空を掴んでいて、力なくだらりと落ちた。
そしてじいさん達の連れも止めてくれとでも言うように伸ばされた手も力を失い、膝から崩れ落ちたその様子を見もせずにそれなりに長い付き合いがあっただろう男を思って涙を落としていた。
「柾……」
爺さんがつぶやいたその名前を聞いて思い出した。
親父たちの話しで何度か聞いたことのある名前で確か……
「俺達を嵌めようとしたトラップに息子がかかってようやく現実を見たか」
そう言いながら大家さんは今度こそ階段を下りて柾と呼ばれた男を押しのけて地下室へと入り、一つの香炉をもってみんなの見える所で鞄に大切にしまい、階段下で座り込んだままの男を担いで階段を上がってきた。
「俺達がド素人だと思って下手を打った手が全部逆手に出たな」
紫という名前を持つ爺さんはそれこそ目の前の出来事が理解できないという顔で目の前に差し出されたそれなりに歳を重ねた息子の正面に座り言葉を発することを忘れたかのようで口をパクパクとして言葉にならない声を落としていた。
「綾人!いくらなんでもこれはやり過ぎだ!お前だってわからないながらもこういう危険性位感じていただろう!」
暁さんの怒声に誰もがはっとしたかのように大家さんと暁さんを見上げるも
「だったら俺が素直にこうなればよかったのか?」
温度をともさない声に暁さんは違うと言うように首を振り
「これは解除ができる罠だった!」
「そして緑青のこの籠も緑青の心を殺せば解除ができる罠だ。
暁に問う。どうしてこんな事になった」
応えられるわけのない質問を暁さんに押し付けるように言いながら大家さんは爺さんと父さんを睨み付けた。
「これは縁があってうちで受け取り代々受け継いできた香炉だ。
付喪神になるのは予想もしていなかったし付喪神なんて物語の中の存在だと思っていた。
それが今何百㎞と離れたこんな所で、こんな見知らぬ家で、こんな小さな籠の中にどうして緑青は閉じ込められている!」
大家さんの悲鳴のような叫び声に暁さんは何も言えないまま立ち尽くすしかなかった。
「二度とうちにかかわるな!」
そんな決別の言葉。
だけど欲に目がくらむ人はそんな事では立ち止まらない。
「黙れ……」
しわがれた声に思わず振り向けば
「それは儂の付喪神だ!
もっとも高貴な龍の神だ!!!」
言いながら懐から紙の束を取り出して俺達に投げつけてきた。
薄っぺらい紙なのに意志を持ち刃でも仕込んであるかのように俺達に襲い掛かるも
「ふん!」
暁がどこからか取り出した念珠でそれをふりはらってくれた。
一部は力ない紙になって床に落ちたものの紙はまるで生きているかのように立っていた。
「すげーファンタジー」
さっきまでの怒りはどうしたというように大家さんは驚きの声をあげて居た。
「のんきな事を言ってるな。また攻撃をしてくるぞ」
そう言うように俺達は暁さんが落とし損ねた紙で薄くだが皮膚を切っているし、大家さんが恨みを買って狙われているので被害が一番大きいく服も一部切られていた。
これ以上大家さんにけがを負わせるわけにはいかず、そしてこれ以上大家さんを怒らせないように立てば
「主ー、鞄穴が開いちゃったよー?」
「主ー、緑青はまだ会えないのー?」
岩さんが言ったように鞄に空いた穴から二体がひょこっと顔を出した。
いや、大家さん脚力凄いですね。
この為に靴を履いたまま家に上がったのですかなんて聞けないのは大家さんがさっきからずっとマジ切れしているからだろうか。絶対喧嘩を売ってはいけない人だと心に刻み付けておく。
そしてやって来たのは隠し地下室のある納戸。
あからさまに顔色を悪くする一同。
大家さんは表情も変えずにバールに服を絡めた男に視線を合わせただけで何かを察してか顔を真っ青にしていき
「この下に置いてある香炉を取ってこい」
涙を流しながらいやだいやだと首を横に振る男に大家さんは何の感情をこめずに
「置くことが出来たんだろ?だったら取ってこればいいだけじゃないか」
「む、無理だ!ここは!ここには!!!」
「行け」
「綾人、ダメだ!やめ……」
脅しではない事と何かを察した暁さんが止めようとする間もなくただ器用に服からバールを外して開けた入口に男を押し込むように背中を押せば勢いのまま明かりがない薄暗い階段を転がり落ちるように下りていき……
思わず耳をふさいだ。
断末魔、というのはこういう声か。
狂ったような正気を失う直前の声が、最後の理性を宿した絶望の声が悲鳴と助け、そして謝罪をただほんのわずかな段差の合間で繰り返し、やがて一番下で力なく腰を落とした時には男の瞳には明かりのない暗がりでも正気を失った視点の合わない視線が涙を流しながらぼんやりと壁を見て言葉にならない言葉をただ零していただけだった。
大家さんは眉間も動かすことなく階段の下で蹲る男を眺めていた。
間に合わなかった暁さんの伸ばした手は空を掴んでいて、力なくだらりと落ちた。
そしてじいさん達の連れも止めてくれとでも言うように伸ばされた手も力を失い、膝から崩れ落ちたその様子を見もせずにそれなりに長い付き合いがあっただろう男を思って涙を落としていた。
「柾……」
爺さんがつぶやいたその名前を聞いて思い出した。
親父たちの話しで何度か聞いたことのある名前で確か……
「俺達を嵌めようとしたトラップに息子がかかってようやく現実を見たか」
そう言いながら大家さんは今度こそ階段を下りて柾と呼ばれた男を押しのけて地下室へと入り、一つの香炉をもってみんなの見える所で鞄に大切にしまい、階段下で座り込んだままの男を担いで階段を上がってきた。
「俺達がド素人だと思って下手を打った手が全部逆手に出たな」
紫という名前を持つ爺さんはそれこそ目の前の出来事が理解できないという顔で目の前に差し出されたそれなりに歳を重ねた息子の正面に座り言葉を発することを忘れたかのようで口をパクパクとして言葉にならない声を落としていた。
「綾人!いくらなんでもこれはやり過ぎだ!お前だってわからないながらもこういう危険性位感じていただろう!」
暁さんの怒声に誰もがはっとしたかのように大家さんと暁さんを見上げるも
「だったら俺が素直にこうなればよかったのか?」
温度をともさない声に暁さんは違うと言うように首を振り
「これは解除ができる罠だった!」
「そして緑青のこの籠も緑青の心を殺せば解除ができる罠だ。
暁に問う。どうしてこんな事になった」
応えられるわけのない質問を暁さんに押し付けるように言いながら大家さんは爺さんと父さんを睨み付けた。
「これは縁があってうちで受け取り代々受け継いできた香炉だ。
付喪神になるのは予想もしていなかったし付喪神なんて物語の中の存在だと思っていた。
それが今何百㎞と離れたこんな所で、こんな見知らぬ家で、こんな小さな籠の中にどうして緑青は閉じ込められている!」
大家さんの悲鳴のような叫び声に暁さんは何も言えないまま立ち尽くすしかなかった。
「二度とうちにかかわるな!」
そんな決別の言葉。
だけど欲に目がくらむ人はそんな事では立ち止まらない。
「黙れ……」
しわがれた声に思わず振り向けば
「それは儂の付喪神だ!
もっとも高貴な龍の神だ!!!」
言いながら懐から紙の束を取り出して俺達に投げつけてきた。
薄っぺらい紙なのに意志を持ち刃でも仕込んであるかのように俺達に襲い掛かるも
「ふん!」
暁がどこからか取り出した念珠でそれをふりはらってくれた。
一部は力ない紙になって床に落ちたものの紙はまるで生きているかのように立っていた。
「すげーファンタジー」
さっきまでの怒りはどうしたというように大家さんは驚きの声をあげて居た。
「のんきな事を言ってるな。また攻撃をしてくるぞ」
そう言うように俺達は暁さんが落とし損ねた紙で薄くだが皮膚を切っているし、大家さんが恨みを買って狙われているので被害が一番大きいく服も一部切られていた。
これ以上大家さんにけがを負わせるわけにはいかず、そしてこれ以上大家さんを怒らせないように立てば
「主ー、鞄穴が開いちゃったよー?」
「主ー、緑青はまだ会えないのー?」
岩さんが言ったように鞄に空いた穴から二体がひょこっと顔を出した。
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