100 / 319
大家のターン再び 8
しおりを挟む
大家さんはそのまま来た道を戻るように廊下を歩かせながら最後尾でバールを人質ごと振り回しながら近寄らないようにする合間に壁を蹴って穴を開ける所が冗談に思えなくて笑えない。
いや、大家さん脚力凄いですね。
この為に靴を履いたまま家に上がったのですかなんて聞けないのは大家さんがさっきからずっとマジ切れしているからだろうか。絶対喧嘩を売ってはいけない人だと心に刻み付けておく。
そしてやって来たのは隠し地下室のある納戸。
あからさまに顔色を悪くする一同。
大家さんは表情も変えずにバールに服を絡めた男に視線を合わせただけで何かを察してか顔を真っ青にしていき
「この下に置いてある香炉を取ってこい」
涙を流しながらいやだいやだと首を横に振る男に大家さんは何の感情をこめずに
「置くことが出来たんだろ?だったら取ってこればいいだけじゃないか」
「む、無理だ!ここは!ここには!!!」
「行け」
「綾人、ダメだ!やめ……」
脅しではない事と何かを察した暁さんが止めようとする間もなくただ器用に服からバールを外して開けた入口に男を押し込むように背中を押せば勢いのまま明かりがない薄暗い階段を転がり落ちるように下りていき……
思わず耳をふさいだ。
断末魔、というのはこういう声か。
狂ったような正気を失う直前の声が、最後の理性を宿した絶望の声が悲鳴と助け、そして謝罪をただほんのわずかな段差の合間で繰り返し、やがて一番下で力なく腰を落とした時には男の瞳には明かりのない暗がりでも正気を失った視点の合わない視線が涙を流しながらぼんやりと壁を見て言葉にならない言葉をただ零していただけだった。
大家さんは眉間も動かすことなく階段の下で蹲る男を眺めていた。
間に合わなかった暁さんの伸ばした手は空を掴んでいて、力なくだらりと落ちた。
そしてじいさん達の連れも止めてくれとでも言うように伸ばされた手も力を失い、膝から崩れ落ちたその様子を見もせずにそれなりに長い付き合いがあっただろう男を思って涙を落としていた。
「柾……」
爺さんがつぶやいたその名前を聞いて思い出した。
親父たちの話しで何度か聞いたことのある名前で確か……
「俺達を嵌めようとしたトラップに息子がかかってようやく現実を見たか」
そう言いながら大家さんは今度こそ階段を下りて柾と呼ばれた男を押しのけて地下室へと入り、一つの香炉をもってみんなの見える所で鞄に大切にしまい、階段下で座り込んだままの男を担いで階段を上がってきた。
「俺達がド素人だと思って下手を打った手が全部逆手に出たな」
紫という名前を持つ爺さんはそれこそ目の前の出来事が理解できないという顔で目の前に差し出されたそれなりに歳を重ねた息子の正面に座り言葉を発することを忘れたかのようで口をパクパクとして言葉にならない声を落としていた。
「綾人!いくらなんでもこれはやり過ぎだ!お前だってわからないながらもこういう危険性位感じていただろう!」
暁さんの怒声に誰もがはっとしたかのように大家さんと暁さんを見上げるも
「だったら俺が素直にこうなればよかったのか?」
温度をともさない声に暁さんは違うと言うように首を振り
「これは解除ができる罠だった!」
「そして緑青のこの籠も緑青の心を殺せば解除ができる罠だ。
暁に問う。どうしてこんな事になった」
応えられるわけのない質問を暁さんに押し付けるように言いながら大家さんは爺さんと父さんを睨み付けた。
「これは縁があってうちで受け取り代々受け継いできた香炉だ。
付喪神になるのは予想もしていなかったし付喪神なんて物語の中の存在だと思っていた。
それが今何百㎞と離れたこんな所で、こんな見知らぬ家で、こんな小さな籠の中にどうして緑青は閉じ込められている!」
大家さんの悲鳴のような叫び声に暁さんは何も言えないまま立ち尽くすしかなかった。
「二度とうちにかかわるな!」
そんな決別の言葉。
だけど欲に目がくらむ人はそんな事では立ち止まらない。
「黙れ……」
しわがれた声に思わず振り向けば
「それは儂の付喪神だ!
もっとも高貴な龍の神だ!!!」
言いながら懐から紙の束を取り出して俺達に投げつけてきた。
薄っぺらい紙なのに意志を持ち刃でも仕込んであるかのように俺達に襲い掛かるも
「ふん!」
暁がどこからか取り出した念珠でそれをふりはらってくれた。
一部は力ない紙になって床に落ちたものの紙はまるで生きているかのように立っていた。
「すげーファンタジー」
さっきまでの怒りはどうしたというように大家さんは驚きの声をあげて居た。
「のんきな事を言ってるな。また攻撃をしてくるぞ」
そう言うように俺達は暁さんが落とし損ねた紙で薄くだが皮膚を切っているし、大家さんが恨みを買って狙われているので被害が一番大きいく服も一部切られていた。
これ以上大家さんにけがを負わせるわけにはいかず、そしてこれ以上大家さんを怒らせないように立てば
「主ー、鞄穴が開いちゃったよー?」
「主ー、緑青はまだ会えないのー?」
岩さんが言ったように鞄に空いた穴から二体がひょこっと顔を出した。
いや、大家さん脚力凄いですね。
この為に靴を履いたまま家に上がったのですかなんて聞けないのは大家さんがさっきからずっとマジ切れしているからだろうか。絶対喧嘩を売ってはいけない人だと心に刻み付けておく。
そしてやって来たのは隠し地下室のある納戸。
あからさまに顔色を悪くする一同。
大家さんは表情も変えずにバールに服を絡めた男に視線を合わせただけで何かを察してか顔を真っ青にしていき
「この下に置いてある香炉を取ってこい」
涙を流しながらいやだいやだと首を横に振る男に大家さんは何の感情をこめずに
「置くことが出来たんだろ?だったら取ってこればいいだけじゃないか」
「む、無理だ!ここは!ここには!!!」
「行け」
「綾人、ダメだ!やめ……」
脅しではない事と何かを察した暁さんが止めようとする間もなくただ器用に服からバールを外して開けた入口に男を押し込むように背中を押せば勢いのまま明かりがない薄暗い階段を転がり落ちるように下りていき……
思わず耳をふさいだ。
断末魔、というのはこういう声か。
狂ったような正気を失う直前の声が、最後の理性を宿した絶望の声が悲鳴と助け、そして謝罪をただほんのわずかな段差の合間で繰り返し、やがて一番下で力なく腰を落とした時には男の瞳には明かりのない暗がりでも正気を失った視点の合わない視線が涙を流しながらぼんやりと壁を見て言葉にならない言葉をただ零していただけだった。
大家さんは眉間も動かすことなく階段の下で蹲る男を眺めていた。
間に合わなかった暁さんの伸ばした手は空を掴んでいて、力なくだらりと落ちた。
そしてじいさん達の連れも止めてくれとでも言うように伸ばされた手も力を失い、膝から崩れ落ちたその様子を見もせずにそれなりに長い付き合いがあっただろう男を思って涙を落としていた。
「柾……」
爺さんがつぶやいたその名前を聞いて思い出した。
親父たちの話しで何度か聞いたことのある名前で確か……
「俺達を嵌めようとしたトラップに息子がかかってようやく現実を見たか」
そう言いながら大家さんは今度こそ階段を下りて柾と呼ばれた男を押しのけて地下室へと入り、一つの香炉をもってみんなの見える所で鞄に大切にしまい、階段下で座り込んだままの男を担いで階段を上がってきた。
「俺達がド素人だと思って下手を打った手が全部逆手に出たな」
紫という名前を持つ爺さんはそれこそ目の前の出来事が理解できないという顔で目の前に差し出されたそれなりに歳を重ねた息子の正面に座り言葉を発することを忘れたかのようで口をパクパクとして言葉にならない声を落としていた。
「綾人!いくらなんでもこれはやり過ぎだ!お前だってわからないながらもこういう危険性位感じていただろう!」
暁さんの怒声に誰もがはっとしたかのように大家さんと暁さんを見上げるも
「だったら俺が素直にこうなればよかったのか?」
温度をともさない声に暁さんは違うと言うように首を振り
「これは解除ができる罠だった!」
「そして緑青のこの籠も緑青の心を殺せば解除ができる罠だ。
暁に問う。どうしてこんな事になった」
応えられるわけのない質問を暁さんに押し付けるように言いながら大家さんは爺さんと父さんを睨み付けた。
「これは縁があってうちで受け取り代々受け継いできた香炉だ。
付喪神になるのは予想もしていなかったし付喪神なんて物語の中の存在だと思っていた。
それが今何百㎞と離れたこんな所で、こんな見知らぬ家で、こんな小さな籠の中にどうして緑青は閉じ込められている!」
大家さんの悲鳴のような叫び声に暁さんは何も言えないまま立ち尽くすしかなかった。
「二度とうちにかかわるな!」
そんな決別の言葉。
だけど欲に目がくらむ人はそんな事では立ち止まらない。
「黙れ……」
しわがれた声に思わず振り向けば
「それは儂の付喪神だ!
もっとも高貴な龍の神だ!!!」
言いながら懐から紙の束を取り出して俺達に投げつけてきた。
薄っぺらい紙なのに意志を持ち刃でも仕込んであるかのように俺達に襲い掛かるも
「ふん!」
暁がどこからか取り出した念珠でそれをふりはらってくれた。
一部は力ない紙になって床に落ちたものの紙はまるで生きているかのように立っていた。
「すげーファンタジー」
さっきまでの怒りはどうしたというように大家さんは驚きの声をあげて居た。
「のんきな事を言ってるな。また攻撃をしてくるぞ」
そう言うように俺達は暁さんが落とし損ねた紙で薄くだが皮膚を切っているし、大家さんが恨みを買って狙われているので被害が一番大きいく服も一部切られていた。
これ以上大家さんにけがを負わせるわけにはいかず、そしてこれ以上大家さんを怒らせないように立てば
「主ー、鞄穴が開いちゃったよー?」
「主ー、緑青はまだ会えないのー?」
岩さんが言ったように鞄に空いた穴から二体がひょこっと顔を出した。
90
お気に入りに追加
1,034
あなたにおすすめの小説
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺わかば
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる