家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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『付喪神にも格がある』

 思わぬ厳しい声に背筋が伸びた。
『付喪神になっての経歴もあるが、その姿も格を表す一つになる』
 ぞわぞわとする嫌な予感はもう頭の中ではわかっている。
 付喪神とは言えその姿は俺がまだ実家に住んでいた頃でも一度も見た事がないタイプだから。
『龍の形をした付喪神は早々見る事はない。生涯に一度見る事が出来れば幸運だと言われるぐらいだ。仮令モノに宿った命が形になっただけとは言っても龍の形はうちに居る付喪神の中に一体もいないし父も祖父も見た事がないと言う』
 どれだけ希少で、どれだけ希求される姿という事を嫌でも理解してしまう。
 もし何か、例えば象徴にするため、もしくは何かもっと力ある相手に力をぶつけるためのそんな使い方を考えれば恐ろしくて何も考えられなくなる。
 小さな木の実を抱いて喜んで空を飛び回る本当にまだ生まれたばかりだと言うのに何でそんな事になるのかよと考えれば……
『真、悪い。そこまで怖がらせるつもりじゃなかったんだが、すまない』
 なぜか謝られてしまった。
「いえ、こちらこそびっくりしてもう何が何だか……」
 ぽたりと床に何かが落ちた音が聞こえて下を向けばいつの間にか
『悪いと思ってる。
 だが泣いてる時間なんてない。今から送る写真を模写してさっきも言ったように部屋と言う部屋、敷地内の建物の中総てに貼ってほしい。貼る場所は指示を出すから』
 厳しい急げと言う声に本当に泣いている余裕なんてない事を理解すれば手の甲で目元をぬぐって
「はい。よろしくお願いします」
 預けられた付喪神とはいえ確かに預かったのだ。
 預かった以上守り抜く、それは池で無邪気に遊ぶまだ幼い付喪神達を守るための物。兄貴に連れられて駅のホームで二人で途方に暮れていた姿を思い出せば
「緑青にもうあんな寂しい思いはさせたくありませんので」
『いい誓いだ』
 それから送られてきたかなり難しい言葉で書かれた札を書いては写メで確認してもらうもそれでも力ある文字は何枚も書けるものではなく、でも少しずつ力ある札を作る事に成功して家の中に、なるべく人の目に触れないような場所に貼っていった。
  


「ねえねえ真。なにお勉強しているの?」
 
 札を書く練習をしている時に岩さんが手元を覗きにやって来た。
「これはね、お札を書く練習をしてるんだよ」
「お札?」
「あの、部屋の黒い奴がお家の中に入ってこないように紙に書いてお部屋に貼っておくとあいつらはお部屋の中に入ってこれないんだ」
「ふーん。真はお勉強に一生懸命なんだ」
「そうだね。このお札があればお家の中でも安心して居られるからね」 
「あの黒い奴美味しくないしねー!」
「食べないって約束だろ?」
「もう食べてないもん!」
「うん。岩さんは約束を守れるいい子だもんね」
「岩は約束守れるもん!」
「じゃあ、約束を守れる子にご褒美だ」

「ご褒美はアイスがよろしいかと思いますー!」

 低空飛行ながらもぴゅーんと飛んできたのは朱華。
「お前な・・・・・・」
 思わず岩さんと苦笑。
「朱華はね、みかん味が美味しいと思います!」
「朱華はアイスがすきなんだねー?岩も好きだよー?」
「「ねー!」」
 なんて二体してそんな事を言いながらきゅるんとしたおめめで見上げられれば
「仕方がないなあ。今日のおやつはアイスにしようか。
 朱華、みんなを呼んで来て集まったらおやつの時間にしよう」
「すぐに行ってきます!」
 そして低空飛行でも驚くほど早くお庭に出てお池に居る玄さんと緑青、そして縁側の下で猫のおばあちゃんとお昼寝をしていた真白を叩き起こして猫のおばあちゃんを驚かせてしまったのでお詫びがわりに岩さんに向かって
「猫のおばあちゃんにもおやつがあるから待ってもらってって言えるかな?」
 そんなお使い。
「猫のおばあちゃんに言えばいいんだね!」
 そう言ってするりと机の上から降りて行った。朱華といえば真白を起こそうとして朱華は一生懸命に追いかけ、真白は朱華のくちばし攻撃から逃げてくるようにやってきた二体を止める。
「朱華、真白が嫌がってるだろ?」
「真白が逃げるのがいけないんだもん!」
 なんといういじめっ子理論……
「嫌な事してはいけませんって大家さんにも言われてるだろ?」
「主はみんなと仲良くしなさいって言うもん」
「だったら仲良くしないとな?」
 とここまで言って朱華は黙り、真白に向かって
「ごめんなさい」
 ぺこりと頭を下げた。
「真白の毛をむしっちゃダメなんだからね!」
 禿げてないもののなんとなく部屋に真白の白い毛が飛び散っているような気がするし、振り向いた朱華も飛び散っているような真白の毛をみてもう一度
「ごめんなさい」
 今度こそ深々と頭を下げてくれた。
「もうやっちゃダメなんだからね」
 しっぽを抱きかかえてめそめそとする真白にもう大丈夫だよと言うように
「じゃあ、玄さん達が来るまでもうちょっと時間があるから先に猫のおばあちゃんにおやつを食べてもらおか」
「うん!」
 猫のおばあちゃんのおかげですぐににこにこの顔になる真白をつれて専用のお皿にチュールを一本分出して持っていく。
 一瞬逃げられそうになる物の、いつもご飯をあげるお皿を持っているので警戒されながらもちゃんと待っていてくれるので少し離れた所に置けば俺が離れた所でそろそろとした足取りでやってきて、すぐにぺろぺろと舐めるように食べ始めるのをみていつかは手ずからで食べてもらうんだから!と強く決心をしながらもいつの間にか肩に上っていた朱華が
「猫のおばあちゃんおやつ美味しそうだね。
 朱華も美味しいおやつ食べたいな~♪
 食べたいな~♪冷たくて美味しいみかんのアイス~♪」
 歌うように催促してくる芸を身に着けた食いしん坊ぶりにはもう勝てる気がしない。

「俺も甘いよなあ……」

 五体分のアイスを準備する頃玄さんの手を持ってふらふらと飛んでくる緑青が……
「あ、力尽きたよ?」
 縁側に置いてある座布団の上で二人して落下したのをみて
「玄さーん!」
 岩さんが悲鳴を上げるも緑青はいいのかと心の中で突っ込む。
 だけどそこは出来る子玄さん。
「岩さん見てくれたー?今ね、玄お空を飛んだんだよー!」
「岩は玄さんが落ちないか心配だよー!」
 小さい体ながらでも玄さんの体に巻き付く岩さん。少しは緑青の事を心配してねとひいひいと息をあげて居る緑青を見てやっぱりこの飛行能力は自分だけしかまだ運ぶ力はないんだとスマホの観察メモに加えておいた。

「じゃあ、おやつの時間にしようか」

 少し溶け始めてしまったみかんの果肉が入ったアイスを目のまえにして

「では、いただきます」
「「「「「いただきまーす!」」」」」

 きょうも元気な声がひびけばこの楽しい日々が続きますようにと願い、おやつを食べ終わった後またお札の練習に取り組む真だった。





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