家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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ご近所さんと遭遇してみる? 4

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 久しぶりに朝は静かだった。
 ベッドの横の土鍋の中は空っぽで、どこに居るのかと思えばカーテンの隙間から外を眺める真白、朱華、緑青が並んでいた。
「おはよう、岩さんは?」
 聞けば振り向いた朱華がそっと床の間に飾られた玄武の置物へと視線を向けるだけ。
 一瞬目を離したすきに、そして子供の発想が想像がつかないと言うのも考えずに安易に家を出入りできるように心を配ったつもりが安全を全く考えていなかったこの無責任さがこの結果を作り出した。
 そしてまさかこんな事になるなんてと思ってなかっただろう通り過ぎに気にかけて作ってくれた遠藤さんにもとても申し訳なく……

 俺は味のしない朝食をとりあえずと言うように腹に詰めてちみっこ達のご飯も用意する。大家さんのミニトマトがなくなってしまったのでスーパーで買ってきたミニトマトとマスカット。そしてお猪口に麦茶を入れて五体分の朝食を用意する。
「玄さ探してくくるからごはんを食べていい子に待っててね」
 その言葉にうるうるとした三体分の希望に満ちた瞳に俺はそれ以上何も言えなくて逃げるように家を飛び出した。
 
 駆け足気味に、そして斜面が足を運ばせるように向かうのは玄さんが乗った車輪がついたおもちゃを入れるカゴがひっくり返った場所。時間にして一分にも満たない場所だった。
 だけど玄さんが飛ばされた方向は草しか生えてない大草原。
 笑えもしないこの光景の中、草むらに入って昨日探した場所辺りから続きと言うように草をかき分けていく。
 昨日の反省を込めてサンダルではなく靴を履き、半そでだったシャツを長袖に。首にはタオルを巻いて軍手をはめた手で進める足でうっかりなんて事故が起きないように根元からかきわける。
 山が近いからかくるくる変わる空模様に晴天とはあまり縁のない地域だけどこんな日に限って雲一つないご機嫌な空模様。
 頭のてっぺんから汗がしたたり落ちて首に巻いていたタオルはいつの間にか頭に巻き付けていた。それでも汗は垂れて、シャツもズボンもずっしりと汗を吸い込んでいく。もちろん軍手も草の汁か汗なのかわからないくらい湿っていて、四つん這いの姿勢は俺の体力をどんどん奪っていく。
 だけど一人この草むらの中に取り残された玄さんの心細さを思えば草をかき分けて探すぐらい無理でもない。
 
 そう思えば時間なんてどんどん過ぎていく。
 手のひらサイズの玄さんは「玄さん」と名前を呼べば「はーい」と少し間延びした返事を返してくれる律儀な子だ。
 もちろん名前はもう何十回、何百回と繰り返し呼び続けている。
 だけど返事がないのを俺は認めたくなくて探し続ける。
 何かあれば本体に戻ってくるだろうと言われてるし、実際緑青で経験もしている。
 だけど目の前で起きた出来事はあの烏骨鶏事件より俺にはショッキングだったらしい。
 ずいぶん精神的にやられた。
 よそ様から預かった付喪神を迷子にしてしまったのだ。
 いや、迷子だけで済んでいるのか?
 頭の中が真っ白で何も考えられないけど草をかき分けて地面を張っていれば

「九条だろ? この暑い中何を……」

 肩に手を置かれて振り向いて

「あ……」

 最近知り合ったばかりの顔があった。
 驚きに満ちた瞳が目いっぱい見開かれて口を大きく開けていたものの、俺は急激に回る世界にそのまま意識を手放した……








 とても静かだった。
 とても涼しく心地よかった。
 さらさらとした耳に心地よい音が俺をやさしく意識を取り戻してくれた。
 ゆっくりと目を開ければなんかよくわからない天井と

「俺、なんで簀の子の上で寝てるんだ?」

 なんか眩暈がするけどゆっくりと体を起こせばどこかの家の庭先のようだ。
 いや、公園か?
 茅葺屋根の四阿なんてさすが田舎町と言うしかないし、しみ出した山水が水路を伝って貯水槽に貯めためたものがあふれ出た水が俺の頭を冷やしてくれていたようだった。
 なんかシャツもズボンもずぶ濡れの状態だったが、少しだけ思い出した記憶で火照っていた体はすっきりとした心地よさを感じていた。
 もっとも多分熱中症だろう。
 いまだにくらくらとする頭で何が起きたか想像していれば視界の端にプラスチックのコップが置いてあった。
「この水飲めるのかな?」
 ちょうどベンチがあるからと簀の子の上ではなくベンチに座り直そうとすれば再び眩暈に襲われるけど、何とかしてベンチに座る事に成功した。
 ゆっくりと深呼吸を繰り返して眩暈が収まるのを待ってから手を伸ばしてプラスチックのコップに貯水槽に注ぐ水を汲もうと少しだけ体をのりだせば貯水槽の中で泳ぐ金魚の涼し気な景色に少しだけ笑みが浮かんだ。
 のどかだな……
 田舎の景色にふさわしいおおらかな環境だと思えばその金魚の後ろを追いかけるように何か見覚えのある姿が泳いでいた。

「ん?」

 手にしたプラスチックのコップはあっという間に水があふれ出しているのにこの目の前の景色を理解するためにしばらくの間固まっていれば、赤い金魚の尾びれを追いかけていたモノは俺の視線に気づいてか水面へと上がってきてくれた。

「真ー、やっとお目目覚めたんだね!」

 のんびりした声ののんびりした的外れな言葉。
 もうそれだけで俺の目は貯水槽に注ぐ山水よりも勢いよく涙があふれ出す。

「玄さん!こんな所に居たんだね!!!」
「真もいらっしゃい!」

 そう言ってどうやってかわからないけど貯水槽をすり抜けて泳いだ勢いのまま俺の手のひらの中に玄さんは勢いよく飛び込んできた。
 



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