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ケルちゃん参上!
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そのすきにメリッサはトコトコと歩きながら洞窟に嵌められた扉を緊張感もない「よいしょ」という掛け声とともにあけ広げるのだった。
「おじいちゃんのセカンドライフのキャンプベースです」
じゃーんと言う効果音があれば銅鑼を打ち鳴らしてお披露目をするように両開きの扉を大きくあけ広げてくれたと同時にスコットは口元に手を置いて腹の底からひっくり返りそうな衝動を耐える事が出来なかった。
ルヴィは勿論ホークも冷や汗をだらだらと瞬間的に流し始め、クインはこの血肉が腐ったような腐臭の匂いから守るべく浄化の魔法を唱え出した。
「メリッサ……」
ルヴィはそれでもプロポーズしたばかりの可愛い婚約者の様子が気になり近寄りたくない扉の側に立つメリッサの傍らに進まぬ足を何とか向けるも
「おじーちゃんいるー?」
鼻を指先で摘まんで洞窟の奥へと声をかけていた。
これは鼻を摘まんで対抗できるどうこうの腐臭ではない。
嫌悪感と拒絶と言う人としての生存本能に訴える暗く昏い空気をどうしてそこまで無視できると言う様に洞窟から離した所で俺を見てメリッサは少しだけ申し訳なさそうな顔をして
「ルヴィ様はこの匂いに馴染がないので辛いですね」
言いながらも小さな鼻をちょんと摘まんだまま俺の手を振りほどいてまたとことこと洞窟に向かって歩いて行くのを絶望の眼差しでその背中を見守れば
「えいっ!」
腕を振りながら小気味良い気合いだけが俺達の耳に届いた。
それから俺達にも向かって腕を振って
「えいっ!」
明るく爽やかな気合の声が俺達を通り過ぎて行った。
ただし爽やかな気合いと共に何やら悲鳴も聞こえたような気がした。
これだけ深い森なのだから獣の叫び声だと思いたい。
苦渋に満ちた地獄の底からの怨念のような叫び声に何なのよと怯えるも
「相変わらず無茶苦茶だ……」
だけど一瞬にしてさっきの吐き気が消えた。
扉を開ける前と何も変わらない深い森の濃厚な緑の空気にホッとして膝が崩れ落ちて地面にぺたんと座ってしまった。
「大丈夫ですか?」
心配そうに顔を覗くメリッサが可愛いなあとにやけてしまうも
「メルちゃんこそだいじょーぶ?おっさん心配しちゃったよ」
心配させないでと手を伸ばして覗きこむ顔に触れてしまえば盛大に背後から咳払いをされてしまった……少し位癒されても良いじゃんと思いつつも
「それにしてもメルちゃん今の凄かったわぁ!
マダムもびっくりの浄化ねぇ」
びっくりと言うよりも呆れたと言わんばかりの顔にメルはコトンと首を傾けて
「いえ、これは消臭魔法です。家庭魔法でもよくある魔法ですよ?」
「それは違う」
ルヴィとメリッサを覗く全員が否定。
「ですがクイン様、ルヴィ様のお屋敷でも効果は抜群でした」
「それは納得」
一番ルヴィの屋敷に出入りしていたヴァレリーは全力で首を縦に振っていた。周囲の草や木の葉にふらふらと言うかふわふわと誘われるままに足を向けて話さえ聞いているのか疑問だったもののどうやらちゃんと話は聞いていたみたい。真面目な顔で頷かれる辺り随分とあの匂いにやられたと思う同士だ。
妙な共通点を覚えていれば洞窟の奥から何やら足音が響いてきた。
こつこつ、まるで大理石の廊下を歩くような靴音とせわしない小幅の世話しない足音。魔物の足音だと剣を構える前に
「ケルちゃん久しぶり!元気してたー?!」
漆黒の影が襲い掛かるように走ってきたけど急ブレーキをかけて方向転換しようとする影をメリッサがいきなりフライパンをフルスイング。
カーン……
金属音にしては鈍い音に思わず首を竦めてしまえばすぐに黒い影はすぐ側の崖に張り付いていた三つ首の魔物を見てあれがケルベロスのケルちゃんか、と感慨深げに目を回して身動き取れない巨犬を眺めるのだった。
「おじいちゃんのセカンドライフのキャンプベースです」
じゃーんと言う効果音があれば銅鑼を打ち鳴らしてお披露目をするように両開きの扉を大きくあけ広げてくれたと同時にスコットは口元に手を置いて腹の底からひっくり返りそうな衝動を耐える事が出来なかった。
ルヴィは勿論ホークも冷や汗をだらだらと瞬間的に流し始め、クインはこの血肉が腐ったような腐臭の匂いから守るべく浄化の魔法を唱え出した。
「メリッサ……」
ルヴィはそれでもプロポーズしたばかりの可愛い婚約者の様子が気になり近寄りたくない扉の側に立つメリッサの傍らに進まぬ足を何とか向けるも
「おじーちゃんいるー?」
鼻を指先で摘まんで洞窟の奥へと声をかけていた。
これは鼻を摘まんで対抗できるどうこうの腐臭ではない。
嫌悪感と拒絶と言う人としての生存本能に訴える暗く昏い空気をどうしてそこまで無視できると言う様に洞窟から離した所で俺を見てメリッサは少しだけ申し訳なさそうな顔をして
「ルヴィ様はこの匂いに馴染がないので辛いですね」
言いながらも小さな鼻をちょんと摘まんだまま俺の手を振りほどいてまたとことこと洞窟に向かって歩いて行くのを絶望の眼差しでその背中を見守れば
「えいっ!」
腕を振りながら小気味良い気合いだけが俺達の耳に届いた。
それから俺達にも向かって腕を振って
「えいっ!」
明るく爽やかな気合の声が俺達を通り過ぎて行った。
ただし爽やかな気合いと共に何やら悲鳴も聞こえたような気がした。
これだけ深い森なのだから獣の叫び声だと思いたい。
苦渋に満ちた地獄の底からの怨念のような叫び声に何なのよと怯えるも
「相変わらず無茶苦茶だ……」
だけど一瞬にしてさっきの吐き気が消えた。
扉を開ける前と何も変わらない深い森の濃厚な緑の空気にホッとして膝が崩れ落ちて地面にぺたんと座ってしまった。
「大丈夫ですか?」
心配そうに顔を覗くメリッサが可愛いなあとにやけてしまうも
「メルちゃんこそだいじょーぶ?おっさん心配しちゃったよ」
心配させないでと手を伸ばして覗きこむ顔に触れてしまえば盛大に背後から咳払いをされてしまった……少し位癒されても良いじゃんと思いつつも
「それにしてもメルちゃん今の凄かったわぁ!
マダムもびっくりの浄化ねぇ」
びっくりと言うよりも呆れたと言わんばかりの顔にメルはコトンと首を傾けて
「いえ、これは消臭魔法です。家庭魔法でもよくある魔法ですよ?」
「それは違う」
ルヴィとメリッサを覗く全員が否定。
「ですがクイン様、ルヴィ様のお屋敷でも効果は抜群でした」
「それは納得」
一番ルヴィの屋敷に出入りしていたヴァレリーは全力で首を縦に振っていた。周囲の草や木の葉にふらふらと言うかふわふわと誘われるままに足を向けて話さえ聞いているのか疑問だったもののどうやらちゃんと話は聞いていたみたい。真面目な顔で頷かれる辺り随分とあの匂いにやられたと思う同士だ。
妙な共通点を覚えていれば洞窟の奥から何やら足音が響いてきた。
こつこつ、まるで大理石の廊下を歩くような靴音とせわしない小幅の世話しない足音。魔物の足音だと剣を構える前に
「ケルちゃん久しぶり!元気してたー?!」
漆黒の影が襲い掛かるように走ってきたけど急ブレーキをかけて方向転換しようとする影をメリッサがいきなりフライパンをフルスイング。
カーン……
金属音にしては鈍い音に思わず首を竦めてしまえばすぐに黒い影はすぐ側の崖に張り付いていた三つ首の魔物を見てあれがケルベロスのケルちゃんか、と感慨深げに目を回して身動き取れない巨犬を眺めるのだった。
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