没落令嬢はお屋敷ダンジョンを攻略します!

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
42 / 67

中庭にはためく白い……以下省略

しおりを挟む
 アンディはメリッサの仕事を横目で見ながら手伝うのが主人からのお願いだと思っていた。
 中庭に洗濯紐を張り巡らし洗い終えた洗濯物を絞りながら干して行く。
 洗濯女ならばなかなかの手なれだと思う物の貴族の令嬢だった彼女が文字通り山となっているベルリオーズ様の下着を何の感情も浮かべないまませっせと干して行く様は手慣れた手つきを感心する前に凄いシュールな絵図らだと思っていた。と言うか山ほどの洗濯物の大半はほぼ下着で占められている。
 シャツではなく下履きの方、いわゆるパンツ。
 父親でもない、ましてやいつ履いていたかもわからない物をシワを伸ばしながら干して行く様は男性の視線からも背けたい光景だと言うのに彼女は文句言わない働き者だった。
 そして視界一面には風にそよそよと靡く下着を眺めながらふと疑問。
 四方が壁に囲まれている中庭で何故風が?と思う疑問はメリッサが何やら洗濯物を見上げながら

「もうちょっと風を回しておいた方がいいかしら?」

 などと言う、深く考えたらいけない呟きは気づかなかった事にしておこう。
 この中庭規模の広さを洗濯物が飛ばない程度の揺らめく微弱な風魔法を長々と当たり前のように使うコントロールは大きな魔法を扱うより難しく、ただ全力でぶっ放す魔法を使うより高度な技術が必要な事を少なくとも俺は知っている。

「じゃあアンディ様、次はメインキッチンの続きをしましょう!
 水回りは回復できたから火を使えるようにしたいわ!」
「そうなるとパンも焼けたりするから賛成するが、その前にゴミ捨て場を復活させよう」
「……焼却炉の事ですか?」
「ああ、あそこにはもうコッコはいない。空き家をそのままにしておくとまた何かが住み着く可能性がある。
 コッコみたいなやつならともかく、ヘビみたいな奴が住み付いたらさすがに嫌だろ?」
「ヘビは嫌いです」

 鳥肌が立つと言う様に震えて見せるもコッコ事コカトリスのしっぽはヘビだ。しっぽが切り落とされていた為にヘビの部分がなかったがそれは良いのかと全力で問いただしたいものの……

「もう二度と戻らないコッコの為にコッコの家は正しく焼却炉として復活させるのが家主の管理問題だ。
 その権限を預かっているのなら綺麗にしないとな」
「そうですね……」

 しょぼんと項垂れるのはペットロスの最中か、それともあわよくばまたコッコが住み着くようにとの期待だろうか。
 とりあえず王都内に魔物が産まれて住み着くのは在ってはならないので箒と塵取りを持って焼却炉へと向かう事になった。
 ただし何故かメリッサは他にも何点か手にしている物を見て俺は視界を疑っていた。

「所で聞きたいのだが、そのフライパンとフライ返しは一体何なのか聞いても?」
「もちろん何かあった時の為です!
 私のような戦いを知らないまま育ってきた貴族の娘が武器を手にするなんてありえない事でしたので。
 ですがルヴィ様のお屋敷に来てもう私は何時までも貴族の娘ではいられないのですから!
 武器を振るうだけの力はまだないけどフライパンぐらいなら上手にオムレツが作れるくらい腕を上げたので使い慣れた物で自分の事位は守れるように努力をしようかと!」

 ふんすーと拳を振り上げるメリッサに意識が遠くなりそうだけど

「ああ、あんた魔法特化だったもんな。
 魔道具も使わずにポンポン魔法を使える凄腕だもんな。
 戦闘能力は……どうなんだ?」

 自称武器は使えないと言うがもうその言葉を鵜呑みにできない勇者の末裔の一族に警戒に越したことはないとフライパン一つでどうこう出来るものでもないしと考えている間に焼却炉へとついてしまった。

 焼却炉は高い煙突と周囲に火の粉が飛んでも火事にならない様にとレンガの壁でぐるりと囲んであった。
 そして周囲にはネズミーらしき骨格の一部が転がっているものの気にせずに焼却炉の近くに箒で纏める。

「メリッサ、一応焼却炉の中のゴミを出してもらえるかな?」
「うん、今火搔き棒でゴミを出そうとしたんだけど、この中なんかいる……」

 火搔き棒を捨ててフライパンとフライ返しを手に警戒する姿にフライ返しより火搔き棒の方が攻撃力ありそうだろうと心の中で突っ込むもメリッサは俺が集めたネズミーの頭蓋骨を投げ込めば、焼却炉のゴミを入れる場所から何かが一瞬姿を現した。
 思わずメリッサの手を引っ張って焼却炉から距離を取り

「何かいたね」
「こ、コッコ……」
「じゃない。コッコはもう居ないんだ」
「ならいっその事火を入れちゃいましょう」

 コッコじゃないとわかればその潔よさに逆に感心してしまう合間にも魔法で火を放つあたり感心ない事には全く興味を持たないのだなと眺めていれば

ヒュゴーーーッッッ

 目を疑う様な火魔法は煙突からも炎が溢れ出す光景に目を疑いながらもあまりの熱さに近寄れないと黙って火が引いて行くのを待とうと思った瞬間

きゅいいいいいんっ!!!

 何だか悲痛な叫び声が聞こえたかと思えば焼却炉から炎の塊が飛び出してきた。


「あぶないっ!」

 火から守る様にメリッサの手を引こうとするもそれより早くフライパンを構えて

ガゴッッッ!!!

「はあっ?!」

 フルスイングで火の塊を焼却炉へと跳ね返していた。
 さすがに見間違いではないのかと思うも

「ふいー。
 時々火の粉がはぜるから焼却も油断ならないわー」
「そうじゃない」

 明らかに何か飛び出してきただろうと言うように焼却炉を指させばその先から何かフラフラした足取りの何かが出てきて……


「コッコ?」
「じゃない」

 なんでもコッコにするなと言いたかったがふらふらとした足取りで俺達の前にやってくるもついに力なくパタンと倒れた。
 と言うかあれだけの火力に焼かれても全く無傷なボディは煤で汚れて真っ黒になっている程度。せいぜいフライパンで叩かれた直後に焼却炉の壁にぶつかっての脳震盪と見たが

「ねえアンディ様。
 なんかこの子可愛くないですか?」

 なんか物騒な事をこのお嬢様はおっしゃった。

「この子一体何なんだろう?
 お顔は犬っぽい?わあ、凶悪そうな牙がまたアンバランスでかわいい!
 羽生えてるけどこれ飛べるのかしら?
 後ろの脚はぶっといけど前足はアンバランスなくらい小さいし。ふふっ、ぶっとい脚は大きくなれる証だぞー。大きくなれよー。
 鬣がふさふさしてて尻尾もかわいい!あ、鱗も生えてる。コッコを思い出すわあ!
 アンディ様もそう思わない?
 ルヴィ様にこの子飼ってもいいか聞かなくちゃ!焼却炉をこの子のお家にすればいいと思わない?」
「ちょっと待て!
 総合的に見たらそいつは多分ドラゴンだぞ!」

 見たこともないけど多分そうだと教科書の記述どおりの特徴に待ったをかけるもメリッサはキョトンとした顔をして

「もうやだなあー。
 いくら私に学が無くてもドラゴンがどう言ったものかぐらいか知ってますよー。
 自慢じゃないけど私の生家には昔ドラゴンの記述の本がいっぱいあったのです。その本によればどれもこれもドラゴンと言うものは人の何倍も大きい生き物だと書いてありました。
 よって、こんなおちびちゃんがドラゴンなわけ無いでしょう!」

 なんてドヤ顔で決めるメリッサにドラゴンも生まれた時からあんな巨体じゃ無いんだと許されるものなら全力で殴り倒してやりたかった。









しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...