没落令嬢はお屋敷ダンジョンを攻略します!

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
32 / 67

弟子希望は判りましたが、この屋敷を見て本当に弟子になりたいですか?と全力で問いたいです

しおりを挟む
 コッコをこんがりと焼いて穴に埋める間にアンディ様が朝食を用意してくれた。
 手伝う頃には朝食の準備が終わっていて、昨日買った物より素晴らしい食材の内容にどうした物かと思えば時折マダムが遊びに来て一緒に食事をするのでこうやって来る時は食材は常に持ってくるようにしていると教えてくれた。

「今回使わなかった分は置いて行くから使ってくれると嬉しいわ~」

 ドアの外からマダムが仰ってくれたのでありがたく食器棚に茶葉を片付けたり調味料を詰めていく。

「正直君がいてくれたのは助かった。
 マダムもこの屋敷に安心して腰を下ろせる部屋がもうこの部屋しかない事を知ってらっしゃるから何とか死守するように命じられていたのだが、それ以上に散らかすのが早い方なので昨日この炊事場の整ってる様子を見て自分の目を疑ったぐらいだからな」

 夢じゃないかとマダムにも見てもらったと笑うアンディ様は急に真面目な顔になり

「私は本当はベルリオーズ様の弟子になりたかったんだ」

 ぽつり心の内に在った言葉を吐きだした。
 
「だけどベルリオーズ様は弟子は取らないとおっしゃって代わりにマダムの所に私を預けてくれたんだ」

 パンにバターを塗って野菜とハムとチーズを重ねてサンドイッチを作る。

「マダムの所にはベルリオーズ様に弟子入りを志願した人たちが他にもいっぱいいてね、あの人は誰も弟子を取らないと初めて知ったんだ」

 パンの縁を切り落として一口大にかっとする。

「もちろんマダムも尊敬するほどの使い手だが、私はそれでもベルリオーズ様に師事したかった。
 だから侍女とは言え君を雇った事が正直憎たらしかった……」
「ええと、ギルドの依頼状からですが……」
「君の他にもギルドから何人も来たさ。
 だけどベルリオーズ様はその方達もみんな断っている。彼ら彼女らの職歴に傷つかないように自分に非があるようにして辞めて行ってもらっていたんだ」

 みんな気付かずに辞めていったけどねと笑った後私をじっと見て

「君が勇者の末裔と言う事を知って納得いった。
 ベルリオーズ様の期待に応えれるのは君ぐらいだろ。
 先ほどの魔法を見て私も納得せざるを得なかった。
 魔法学校でこれでも主席を取っていたが、君の魔法を見てすっかり自信を無くしてしまった。
 今まで何を学んできたのだろう、この程度でベルリオーズ様から何を学べるのだろう。
 痛感したよ……」

 少し寂しげな顔でほほ笑んでタマゴサンドを作って行く。
 それからは私もなにも言えないまま黙々とサンドイッチを作って芸術的な断面図の並ぶサンドイッチに感動するのだった。

 一切れを三口で食べれる上品なサンドイッチを四人で囲みながら舌鼓を打った後は……

「さすがクイン。いい仕事するわー。
 あれよ、孫にも衣装ってやつねー」

 出資者のルヴィ様の評価に私は反論できずに立ち尽くしていた。
 紺色のドレスは華やかさこそない。
 だけど一級品の布地はただそれだけで華を持ち、嫌というほどの貴族らしさを醸し出す蜂蜜を垂らしたかのような金の髪が控え目な紺の髪飾りによって黄金のティアラのように輝かせていた。
 いえ、これはアンディ様によるお手入れの結果ですが、それでも僅か十分も掛けずに毛先を整え、オイルで艶を出し、丁寧に櫛を通したあと編み込みを始めてアップでまとめてくれたのだった。
 マダムの髪のお手入れで慣れているとは言っていたけど

「ルヴィ様、鏡なのに別人が写ってます!なんて言う魔法ですか!」
「二人ともまずはアンディの技術を褒めなさい!
 別人を作り上げるなんてお手の物なんだから!」
「いえ、普通に褒めていただければ幸いです。
 と言うか褒められてないですよね?」

 アンディの詐欺メイクで仕上がった私はもはや赤の他人レベルの変貌を遂げるのだった。
 そしてこれがお城に行く時の標準スタイルにしましょう!とのマダムの一言で決定する事になった。
 その日はアンディ様が朝から来てくれる事になると言うおまけ付き。

 何でこんな事になった?!

 そんな疑問を抱えながらマダムは私たちを馬車で城へと送ってくれるのだった……



しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

処理中です...