上 下
27 / 67

おばちゃん二人……

しおりを挟む
 慌ててコップに水を汲んでルヴィ様に差し出した。
 ヒーヒー言いながらも何とか体を起こしてコップの水を一気に飲み干し

「クイン、お前の店の前を通ったから灯りがついてないからまさかとは思ったが……」

 床の上に座ってマダムを睨みつけている。
 多分ピロンと掲げている下着をガン見しているとは思わないようにしている。

「ルヴィちゃんが気に入った子だもの。私だって仲良くしたいし、それにこの子かーなーりー素材としても良いじゃない。
 ファッションセンスは最悪を極めてたけどね」
「仕方ないわよメルちゃんのおうちの事情を考えれば……」
「メルちゃん?なにそれ可愛いい!!
 私もメルちゃんって呼んじゃお!」

 キャーって騒ぎながらもルヴィ様をテーブルまで連れてきて座らせる。
 というかだ。可愛いの基準って何だろうと思いながらも椅子を引き寄せられて頬をすり寄らされてしまう。辛うじて手で押し返す事に成功したけど

「お二人は仲がよろしいのですね?」
「そりゃもちろんよ。
 学生時代からの仲良しなのよ~。
 あとルノワールのホークと仲良し三人組なのよ~」
「へ、へえ……
 それはまた個性的な三人組で」

 っていうか知り合いなら一言教えて欲しかった。

「そおなの~!
 剣を扱わせれば学校一番のホークちゃんでしょ?そして魔法の天才ルヴィちゃん。そして究極の癒しのワタシ!
 究極の回復魔法の使い手として私が二人を支えてきたの~」
「……」

 懐かしいわあと思い出にふけるその隣のルヴィ様は全身鳥肌をたててそっぽを向いていた。
 まあ、言われなくても想像できるなと思う私達の前に執事の方が紅茶を出してくれた。

「ああ、アンディ悪いな」

 執事さんはアンディというらしい。
 若いいかにもマダムの好きそうな美青年はハシバミ色の髪が彩る頭を横に振り

「マダムのご要望ですので」
「クインも助かるわぁ。こうやって料理まで持ってきてくれて……」
「だってどう考えてもルヴィちゃんいつもまともにご飯食べないじゃない。
 私がこうやって食べさせてあげないとまともにパンも食べないじゃないの」
「城でちゃんとした食事が出る。一日一回まともに食事を食べていれば十分だ」
「それじゃ駄目よお!
 一日三食とは言わないから、せめて二食はちゃんと食べなさい。あとはおやつでごまかしてもいいんだから。
 もう若いころの無茶はできないのよ!」

 心配からの小言は優しさに満ちていて、アンディさんが次々に並べていく料理を疑問なく食べていたが、隣の炊事場を行き来する彼に私は目を点にしていた。
 ふつう勝手に人の家の施設を使うものなの?
 唖然としていればアンディさんは私を見てふんと鼻で笑った。
 ……なんだろう。私の城(?)に勝手に侵入して自分の居場所のようにふるまうその態度……
 せわしなく働く彼を見ていればやっとそれに気づいたマダムが私の手を引っ張って私の顔を強制的に見つめ合うように頬に手をそえて

「メルちゃんごめんね。その顔じゃあ気に障っちゃったね」

 許してねというように頬に添えていた手で私の手を両手でがっちりとホールドする。
 何気にごつい手と指先は切り傷が目立っていた。
 その手をじっと見ていてからか視線に気づいたマダムは

「この手が気になる?」
「ええと、回復魔法の使い手と聞いたので」

 いえばマダムは嬉しそうに目を細めて

「これはね染色で汚れた手をごしごし洗ったり水で荒れて痛めたものなの。
 魔法で治すのは簡単だけど、私はプライドを持って仕事をしているし、大事な染色の具合をほかの子に任せるなんてできないわ。
 だから私の手でもって染めて洗い流してを繰り返す事でできるこの手は私の武勲なの。勲章だから気に留めなくてもいいのよ」
「働き者の手ですね」
「そうなの!そう言ってくれると嬉しいわあ!」

 キャーっと悲鳴を上げて私の手に頬ずりする。
 ちょっとおひげがじょりっとするけどそれはまあ割愛だ。

「だけどルヴィも変わったわねぇ」

 何が?というようにサラダをフォークで口に運ぶ顔が不思議そうな顔をして

「掃除嫌いのあなたが門からちゃんと家の前まで馬車が通れるようにするなんて、やっぱりお家に女の子がいると変わるものねぇ」

 草むらをかき分けなくちゃって思ってたのにと感心するマダムにルヴィ様は真顔で顔を横に振り

「んなの俺様がするわけないだろ」

 ひどく真剣な顔で私を見た。


しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。 二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫
恋愛
婚約者が中々決まらなかったジゼルは父親らに地味な者同士ちょうどいいと言われ、同じ境遇のフィルマンと学園入学前に婚約した。 それから3年。成長期を経たフィルマンは背が伸びて好青年に育ち人気者になり、順調だと思えた二人の関係が変わってしまった。フィルマンに思う相手が出来たのだ。 その令嬢は三年前に伯爵家に引き取られた庶子で、物怖じしない可憐な姿は多くの令息を虜にした。その後令嬢は第二王子と恋仲になり、王子は婚約者に解消を願い出て、二人は真実の愛と持て囃される。 この二人の騒動は政略で婚約を結んだ者たちに大きな動揺を与えた。多感な時期もあって婚約を考え直したいと思う者が続出したのだ。 フィルマンもまた一人になって考えたいと言い出し、婚約の解消を望んでいるのだと思ったジゼルは白紙を提案。フィルマンはそれに二もなく同意して二人の関係は呆気なく終わりを告げた。 それから2年。ジゼルは結婚を諦め、第三王子妃付きの文官となっていた。そんな中、仕事で隣国に行っていたフィルマンが帰って来て、復縁を申し出るが…… ご都合主義の創作物ですので、広いお心でお読みください。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...