上 下
26 / 67

マダム襲来

しおりを挟む
「メリッサちゃん!
 おーそーいー!
 声をかけても返事はないし、ドアは鍵がかかってないし、勝手に入って待たせてもらっちゃったわよ」

 マダム・クインが食卓のテーブルに着いて何故か執事の人を連れて来ていた挙句に勝手にお菓子を並べてお茶を淹れて飲んでいた。

「え、あの、すみません。
 お掃除に夢中ですっかり忘れてました……」
「あら、働き者なのね。って言うか、どういうファッションなの……」

 目を点にするマダム・クインの視線から逃げるように顔を背ける。お母様の何年も昔のドレスのお下がりで作り上げたペチコートすらないワンピースにベルリオーズ家の使用人のエプロン。ちぐはぐなのはわかっているけど汚れるのが判っているならこれで十分だろうと言う残念ファッション。お店のきらびやかなドレスを見た後では酷い物だというのがよくわかった。
 むしろ逆に斬新すぎて……お母様が私にドレスを作り続けさせた理由が分かった気がした。

「ええと、汚れ仕事をするのにちょうどいいかと思いまして……
 あ、着替えてきますのでもう少しお待ちください」

 そう言って炊事場の奥に在る私の部屋へ向かうのを不思議そうな目で見送られ、それからしばらくしないうちにマダムの前に立てば物凄い不審な物を見る目で見られる事になった。

「ねえメリッサ。あなた今どこで寝起きしてるの?」
「炊事場の奥に火の番の方のお部屋があるのでそこをお借りしております」

 カップに紅茶を注いでいた執事が驚いてソーサーの上に紅茶を零していた。
 すぐに気付いて慌てて拭うも動揺からかカチャカチャと食器の当る音が響いている。
 気を付けないと欠けちゃうぞと心配するも

「そのワンピースも今日店に着てきた奴じゃないの」
「ええと、あまり服を持っていないので……」
「なのに三着?」
「ルヴィ様の指示でして」

 なんとなくマダムが見れなくて、執事からの視線を避けるように俯いてしまう。

「まぁ、こんな事だろうとは思ったけどね……」

 カップを傾けながら私に正面の席に座るように促して執事から紅茶を頂いた。

「今朝お買い上げいただいたドレスを持って来たわ」

 そう言って三点のドレスを並べてくれた。
 黒色、紺、濃緑とシックな色合いはまだ私のような年齢が普段に着るドレスではないものの、訪問着とすれば当然の色合いなだけに色については文句は言えない。
 それどころかこんな上等なドレスを用意して頂けるだけで私は幸せ者だ。
 大切に着なくちゃと煌煌と輝くシャンデリアの下に並べられたドレスをうっとりと眺めていれば

「あとこっちは髪飾りと靴ね。サイズは合わせてあるから安心して。
 それとストッキングと、下着よ。
 ちゃんとドレスに合わせてリボンの色をそろえてあるからちゃんとドレスに合わせて着るのよ」
「え?あの……え?」


 マダムとは言え男の人の目の前でぴらりと広げられた下着の可愛らしさに……
 執事の方はちゃんと背中を向けてくれた。
 よくできた人だ。
 その優しさが今は逆に辛い。


「メリッサちゃんの年齢でフォーマルだなんてルヴィちゃんも意地悪なんだから~。
 なら何時脱がされても良い様に、貞淑なのに脱がせたらメリッサちゃんたら超・だ・い・た・ん!!
 な、作戦でルヴィちゃんを驚かせちゃいましょうね~!!!」
「なっ!なっ!なっ!」

 あまりの布面積の小ささと言うか総レースとか、スケスケとか、横がリボンだけとか……

「こっ!こっ!こっ!
 こんなのありえなーーーいっっっ!!!」

 力の限り叫べば扉がバンと開いた。
 そこには息を切らせたルヴィ様が扉にもたれるようにして立っていて私達を見て一言。

「クイン、メリッサで遊ぶな……」

 ぜーはーぜーはーと体中で息をしていたと思ったらそのまま床の上にパタンと倒れ込んでしまった…… 

 

 

しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

いつかの空を見る日まで

たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。 ------------ 復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。 悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。 中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。 どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。 (うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります) 他サイトでも掲載しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

旦那様、離婚してくださいませ!

ましろ
恋愛
ローズが結婚して3年目の結婚記念日、旦那様が事故に遭い5年間の記憶を失ってしまったらしい。 まぁ、大変ですわね。でも利き手が無事でよかったわ!こちらにサインを。 離婚届?なぜ?!大慌てする旦那様。 今更何をいっているのかしら。そうね、記憶がないんだったわ。 夫婦関係は冷めきっていた。3歳年上のキリアンは婚約時代から無口で冷たかったが、結婚したら変わるはずと期待した。しかし、初夜に言われたのは「お前を抱くのは無理だ」の一言。理由を聞いても黙って部屋を出ていってしまった。 それでもいつかは打ち解けられると期待し、様々な努力をし続けたがまったく実を結ばなかった。 お義母様には跡継ぎはまだか、石女かと嫌味を言われ、社交会でも旦那様に冷たくされる可哀想な妻と面白可笑しく噂され蔑まれる日々。なぜ私はこんな扱いを受けなくてはいけないの?耐えに耐えて3年。やっと白い結婚が成立して離婚できる!と喜んでいたのに…… なんでもいいから旦那様、離婚してくださいませ!

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...