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朝のお仕事はお静かに

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 メリッサの朝は早く、太陽が顔を出す前から始まる。
 身支度を整え顔を洗い、寝ている家主を起こさない様に音を立てずにそっと屋敷を抜け出す。
 奥ではランプの明かりを消したルヴィ様がソファの上で気持ちよさそうに寝息を立てて眠っていた。起こすわけにはいかないと外の空気で室内が冷えないようにさっと扉を閉ざした。
 歩きやすくなった獣道を少しずつ広げるように草を刈る。
 掛け声で起こさない様に無詠唱でさっさっと何度も枯れて何度も新芽を育てた雑草を地面から数センチの所に揃えて刈り取る。
 無駄に広かったアーヴィン家の庭の芝を管理した時に会得したコツをここで使うもやはり芝以外の雑草のまちまちの太さに見た目はあまり美しくない。と言うか、芝が地下の生存競争に負けて絶滅しているのは侯爵家の庭としては致命的だ。何時かアーヴィン家の庭のように美しい芝生の広がる庭にしたいと思うも、もう手入れされる事のないアーヴィン家の庭が荒れて行くのを思うと少し悲しく思うのだった。
 とは言え新たな庭をこれからお世話しなくてはならない。雑草にまみれ栄養の足りない庭をこれから生き返らせなくてはならないのだ。
 たとえそれが人間のエゴだと言われても共存する以上心地よい空間は植物にとってもとてもよい事なのだ。
 ルヴィ様がだめだと言わない限りいろいろ試させてもらいたいという物。
 それから正面玄関に来た私は正面の門に向って歩きながら風の魔法で昨日刈ったままの雑草を左右に押しのけるのだった。
 右側と左側でちょうど往復すれば数年振りだろう通路がそこに現れた。通路も両縁の縁石も泥で薄汚れてしまっているけど……

「いっけーっ!!」

 気合を入れてかなりの水量と水圧で汚れを押し流して洗えば泥だらけの通路はピッカピカとは言わないがレンガが綺麗に見えるまでには見目が整っていた。
 チェックするように門まで歩き門の外まで泥水を押し流してお向かいの空き地に汚れた水を流すのだった。ちなみにご近所は勿論周囲は森で囲まれた何もないぽつんと一軒家だ。怒られる事はまずないだろう。

「ふぃー、頑張ったー!」
「頑張ったー、じゃないわよ!」

 ゴチンと脳天に鋭い痛みが襲って来たかと思えば

「メルちゃんあなた何やってるの?!
 いきなり強烈な魔法が発動したからおっさん慌てて飛び起きちゃったじゃないの!」
「え?ルヴィ様?もう起床の時間……には早いですよ」

 頭をさすりながら振り向けば夜お休みする前と同じ姿のままのルヴィ様がそこにいた。
 
「ねえ、一応聞くけど……今、何やっていたの?」

 まだ眠いのか半眼のルヴィ様に門から家の方を見るように立ってもらい

「昨日門まで草刈りをしました。一日置いて草の水分が抜けたので通路の両縁に風の魔法で「えいっ」て押しのけて、こびりついた土を水鉄砲で「いけーっ」って洗い流しました」
「なるほどね……
 とりあえずギルドカード見せなさい」

 人には見せるなと教えておいて当然のように要求されるも私の抵抗なんて全く意味わかんないんだけどーな人をゴミを見るような視線に負けて差し出すのだった。
 一緒に差し出した手で起動して渡しながら私の手も好きに使ってと言う様に差し出せば私の意志なんて関係ない様に手を掴んでひょいひょいと操作をしていく。
 さすが開発者。持ち主の私よりも詳しいと一応何が見れるのか見て覚えるようにはしていれば昨日と同じ画面になって

「うわ、今日の「えいっ」て魔法はワイドウインドなのね。で、問題の「いけーっ」は……ウォーターブロウ……ね。
 なかなかおっかない魔法を覚えてたのねぇ」
「いやぁ、最初は水撒きにってぴゅぴゅって感じで教えてもらって使ってたんだけどハッチーの巣の退治とかに勢いよくやるうちになんかできるようになって」
「くうっ!おっさんウォーターブロウ覚えるのにどれだけ時間がかかったと思うの?!
 それを蜂の巣退治でマスターするなんておかしいでしょ!」
「私だって何度もハッチーに刺されたりして痛くって熱が出て凄く腫れて大変な思いをしたんですよ!安全な場所でお勉強で学べるならそっちの方が良いに決まってるんだから文句言わないでください!」

 思わずと言う様に大声で言い返してしまう事に文句を言わないあたり随分と尊大なご主人様だが、その顔を歪めて

「所でハッチーってなに?
 昨日のネズミー的な何か?」
「アーヴィン家を魔物屋敷と一緒にしないでください。
 ハッチーはただの蜂です。
 蜂って意識すると怖いから可愛くハッチーて呼んでるだけです!」
「そう。なら安心したけど……
 蜂の巣を攻撃って随分大胆ねぇ」
「だってあいつら一匹一匹がカラスぐらいに大きいでしょ?
 そんな奴らがよく納屋に巣を作ろうとするから、巣が出来て大きくでもなったりしたら農機具を取り出せなくなるからその前にやっつけなきゃさすがに私だって怖いですよ!」
「……」
「しかもあいつら肉食だから私を見付けたら襲って来るし!
 腹いせに取った巣からハッチーの子供に衣を付けてから揚げにしてお父様に食べさせてやったわよ!命は大切に、ね!」
「おっさん、なんかちょっと恐怖を覚えたわぁ……」

 何が?と言う様にルヴィ様を見上げるも

「とりあえず今日はこれで終わり?」
「いえ、後は昨日見つけた鳥の巣の所に行って卵があるか見に行きます。
 あ、中庭の木にも鳥の巣があったのでそちらの鳥の巣の状態も見に行きたいですね。
 今日も卵が盗れると良いですね!」

 卵料理ってバリエーション豊富で楽しいんですよーと意気揚揚に案内するように先頭を歩くメリッサの背中を見ながら

「カラスぐらいのバカでかい蜂って、キラービーに決まってるじゃん。 
 刺されて生きてるのも不思議なのに何で普通の蜂なんかといっしょくたになるのかしら……」

 呆れたを通り越してもう心が死にかける内容に昨日食べた卵は一体何だったのかしらと寒くなる背筋に考える事が拒否をする。 
 通の間では食される食材を当り前のように調理する神経も良く判らないしキラービーの卵を食べれる事を知っているその知識に俺様今度は一体何を食べさせるんだろうとぶるりと身を震わせていた。








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