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モブだって需要がなくても微笑んでみせる淑女です

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「さらにココ様。確かラスター家は一代限りの男爵家と聞いておりますが?」
 そうだと言うようにクレスト様は頷いてくれた。
「ご存じの通り男爵家令嬢が王家に嫁げるわけがありません。そのうえ成績は学年最下位を更新し続けた方が王妃なんて務まるわけがありません」
 言えば周囲から噴き出すような咽び声が響いていた。
 さすがにこの情報は知らなかったのかクレスト様の目が点になっていましたが、厄介者の調査をしないなんて公爵家の後取りとしてはいかがなものかと少しだけ睨んで訴えておく。
「面目ない」
「しっかりしてくださいまし」
 その程度の注意をした後シャンパンで唇を湿らせて
「わたくしが王太子妃候補に挙がって最終候補まで残った事はご存じだと思います」
「最終的にはマリアーネ嬢が候補に残ったのだよね」
「ご存じ出来レースとしては無難な結果でしょう」
 最終候補に高位貴族の歴史ある二人の令嬢が残り、そして彼女が王太子妃となった。
 まあ、誰もが知る話なので私は何の感情も乗せず目を伏せて
「その間やっぱり嫉妬を受けてかなり酷い目にあいました」
「おや?」
 それは気付かなかったと言う視線に私は肩をすくめて
「教科書を隠されたりペンを紛失したり。そういった細かな事は数数え切れません」
「まさか」
 本当なのかと言うクレスト様の視線に
「我が家の経済状況をご存じでしょう?
 紛失なんて隙のある生ぬるい生活を許してくれる家ではないのですよ?」
「すまない。そこは想像が追い付かなかった」
 そう言ってシャンパンのお替わりを足も長ければ指先まで長いどこか男らしい手で給仕から受け取ってくれて差し出してくれた。動作がいちいち様になるのが悔しいが学園で出会った時は歩調も合わすことが出来なかった男が気遣いが出来るようになってなによりです。
「まあ当時王太子妃候補の一人だった私はその力を使って調査をさせていただきましたが」
「さすがと言うべきか」
 苦笑まみれの声に私もふふふと笑い
「犯人はすぐにわかりました」
 ほう?
 そんな視線に私は向き合うことなく今も繰り広げている茶番劇に視線を向けて
「なのでそれなりに復讐をしようと試みましたのよ?」
 何故か周囲からちらほらと人が去っていくと言う現象がありましたがそこはガン無視をして
「ノートに落書きをされるのは構いません。鞄にインクを掛けられるのも構いません」
 そうか?
 そんなクレスト様の微妙な視線に微笑みながら

「兄からのプレゼントのペンを盗んだ相手、兄からの誕生日プレゼントのブローチを奪った相手をまずこの学園に居られなくなる程度に懲らしめなくてはと考えまして」

 へえ?
 顔が引きつっていても眉目秀麗なクレスト様に感心しながら
「ちょうどその方の領地はどうやっても我が家の領地を通らなくては王都に行く事は出来ません。
 ですのでそれらの証拠をもとに父にお願いして収拾がつかなくなくなるくらいに税率を引き上げていただきました。」
「それはそれは」
 穏やかではないのでは?と言う口ぶりだが
「さらにその領地の穀物の販売先が主に我が領地でしたが父に新たな購入ルートを確保したので断るようにお願いしました」
「おおっと……」
 まったく穏やかじゃないなと言いたい所だろう。
「あと、あまり知られてないのですが、我が家は王都の盾と言われる位置に領地を持つ家なのでそれなりに武力が高い家でして」
「そこはぜひとも兄上達に剣の手ほどきをして欲しいほどだからね」
「なら、今度その話を兄達にお伝えしましょう。
 それで、その件の領地と時々合同で野犬や害獣討伐をしていたのですが、それらを一切お断りしましたらあちらの領地になだれ込んだようで、作物がずいぶんと食い荒らされて盗賊も便乗して多発するようになりかなり財政状況を圧迫いたしましてね」
「そう言えばそんな報告を聞いた覚えがあるがまさか……」
「三日ほど前でしたかかの地の領主様は爵位と領地を献上するのでと言う条件で討伐の助力をいたしましょうと交渉がまとまりました。
 その件に関しては被害の大きさに陛下にもお願いいたしまして、もれなく借金もついてきましたがこれ以上民の為にも被害が広がる前にと王家のご助力も頂き当日のうちに決定いたしました」
 
 耳が痛いほどの静けさに誰もが声を発する事が出来ない中で私はふふふと笑う。

「男爵家のココ・ラスターと名乗っているそうですが、すでにラスター家はお取り潰しとなって苗字はなくなり平民となりました。
 先日確認しましたが、我がリステン王国学園は貴族の子女しか通学が許されないと認識しております」
 
 冷や汗を流しながらもクレスト様も震えるようにそうだと頷いてくれた。

「校長いわく、当然平民になったら卒業前とは言え退学処置はされたと確認しました。
 ええ、せっかく卒業前なのでもったいないかと思いますが栄えあるリステン王国学園に通えた、そして学んだと言う箔は卒業できなかっただけで剥がれるものではありません。十分にこの三年間の努力と言う見えない誇りを備えているので問題はないでしょう。
 たとえ三年間男漁りしかしていなかったおかげで最下位の成績とお金の力で留年を免れたとしてもです」
 
 ここまで来たらなぜか誰も返事をしてくれなくて少々不満ですが話を進めなければなりません。ここからが肝心な所なのですから。

「さてここで疑問が沸きました。
 男爵家のココ・ラスターと名乗る彼女、彼女はこの学園の卒業生でありましょうか?
そもそも貴族でありましょうか?
貴族を名乗る彼女は一体何なのでありましょうか?
そして……
王太子になる条件として莫大な資産を持つアガート公爵家令嬢マリアーネ様を娶ることが出来ない方はどうなるのか今改めて思い出してみましょう」

ふふふと花を愛でるように微笑んで語る私をまるで周囲は化け物でも見るような視線を向けていたが、モブな私はそんな視線なんて一切気にしなかった。



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