私の騎士との日常は

雪那 由多

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湖の別荘で

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 湖の別荘地は王都の空気と比べて乾燥しておらず、涼しい風が抜けていくのをオリバーは心地よく受け止め、王都では見られないくらいのリラックスをしたファイナスの散歩に付き合うのだった。

「子供残り俺はよく体調を崩してね。
 夏になるとずっとこの別荘地で過ごしていたんだ」
「今は大丈夫ですか?」
 驚きに声をうわずってしまった俺にファイナス様は上品な笑みを浮かべ
「ああ、俺にはお守りがあるからな」
 そっと精霊様から頂いた耳飾りに手を添える。
 この耳飾りをつけて以来体調を崩す事なく人並みのことが難なくできるようになったのだ。勿論医者から止められていた運動は勿論馬に乗ることもできるようになり、耳飾りがない生活はすでにあり得なく、そして体の一部になっていたのだ。
「お守りは大切な方から頂いたのですか?」
 沢山の一流品に囲まれて居る俺にはオリバーからでなくても地味なものに見えるかもしれないが
「ああ、二度と手に入れる事の出来ない宝だ」

 小指にすら通す事の出来ない細く小さな指輪を取るにはまた耳たぶを切らなくてはいけない。譲り渡さなくてはいけなくなるとしたらその覚悟をしなくてはならなく、譲らなくてはいけない相手がいるわけでもないのでこの耳飾りを知るのはごく一部のあの旅に同行した者だけしか知らない話になっている。
 最も最初こそ俺を含めて眉唾ものな話だったが、精霊様の話では知り合いの人間に俺と同じ症状の者がいて、ひどくくるしみ、平民には高すぎる薬のせいで幼い兄弟から親を奪って随分寂しい思いをさせてしまったと言う、その後の彼らはどうなったかと問うても悲しそうな顔で微笑みだけなのでそれ以上は聞けなかったが、想像できる不幸はいくらでも思いつく。
 裕福な俺にこんなにも希少な物を与えてもいいのですかと聞けば
「苦しむ子供に裕福も貧困も関係ない。魔障という病気はどんな高価な薬を使っても一時的にしか苦痛を和らげるしかない。体が魔力に耐えれるまでの時間は生きて居るうちなんて約束はできない。
 命には限りがあるのだから。
 精一杯輝かせて悔いなく過ごすために俺は遠いこの地まできた君に一度だけ夢を見せてあげよう」
 そう言って耳飾りをつけてくれて
「俺と君は二度と会う事はないだろう。それは一つしか作ってないから大切にしなさい」
「ありがとうございます」
 耳たぶから溢れた血で汚した服を纏ったまま、でも耳飾りがつけられた瞬間から体が軽くなって、時々季節の変わり目に風邪を引くぐらいしか無くなった俺に耳飾りの恩恵は誰もが疑わなくなっていた。
 六年前だったかまだ両親も健在で、王子の話し相手として同行を許された俺が一番の収穫を得て帰って来たのだ。
 またもう一度精霊様に会えるように、遠い国まで会いに行く理由として立派になった姿を見てもらおうと頑張って魔導を学んできたが、あれから数年後に国王が変わった時の祝辞の訪問に宮廷魔導士の一人として同行させてもらった時には既に亡き人となっていた事に驚きは隠せれなく、だから二度と会う事はないと言ったのかと、父母亡くしたばかりの俺に悲しみでまた深く心に傷が作られるのを覚えるのだった。

「その、もし私が耳飾りを贈ったらそれの代わりに着けて頂けますか?」
 湖に石を投げながら遊ぶ俺にオリバーが何とも嬉しい事を言ってくれた。
 だけどこの耳飾りを外せばまたどうなるかわからなく、あの痛い思いなんてまっぴらなので
「これはかけがえのない物だから。
 だがお前から贈られる物なら何でも嬉しいのだろうな。
 何かくれるというのなら楽しみにして待ってるぞ」
 お前の趣味はどんなのか楽しみだと今からどきどきと胸が高鳴りすぎて死にそうになってしまう。いや、プレゼントをもらえるまでは死ねないと、石を拾い上げては湖面の水を切るように投げるのだった。
 だから俺はオリバーからプレゼントがもらえると舞い上がっていたために、声をかけてくれた時の仄暗いを表情を見落とすのだった。


 
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