私の騎士との日常は

雪那 由多

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私だけの護衛騎士

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 護衛騎士のオリバーとの出会いは従兄弟殿が招待してくれたと剣術の御前試合。父と母を失ったばかりで元気のない私を励まそうと連れ立ってくれたのだった。
 次々に繰り広げられる戦いの中で一人の騎士に目が止まった。荒々しさが目立つ剣と剣の戦いの中で少ない攻撃で圧勝し、トーナメント戦を軽々と勝ち抜いていく自分には無い力強さを見せる少し年上だろう若い騎士に心を惹かれたのは一瞬だった。
 会場に響く気合いと覇気。
 長身に合わせて誂えた大剣を片手で軽々と振り回し、鍛え上げられた肉体は重さを感じることのないくらいの素早い身のこなしと全身がバネのように柔軟で、戦士としてはこれ以上とないくらいの傑物だった。
 案の定、彼は優勝を手に入れ国王陛下から祝いの言葉と貴族の子息であれど後継者でもない彼に男爵の爵位を与えられた。
 従兄弟殿が言うには彼はランド伯爵家の三男で伯爵夫妻の持つ爵位は長男と次男に受け継がられ、三男の彼、オリバーは幼少の頃から勉学に励み、一人身を立てるために体を鍛えたと言う貴族の子息の見本のような男だと言った。
 その努力が実り、まだ爵位だけだが更なる上の貴族の地位を得て、その実力があればいずれ領地を手に入れ、国王の覚えめでたき彼に見合いの話は舞い込み、やがて誰もが羨むような美しい妻を迎えるのだろうと明るい未来と栄光が約束されたような自分にはない逞しさを持つ男を眩しく眺めるのだった。
 
 それからしばらく過ぎた頃。
 ファイナスは貴族の証でもある魔術を用いた御前試合に出場していた。
 魔力があってこその貴族。
 誰もが持つ力とはいえ、それを活用できなければ貴族としては認められないのがこの国の掟だ。
 魔力が無ければ平民になるし、また魔力を操ることができなければ平民となる。
 魔力の量が貴族の尊いとされる存在価値。
 魔力を国のために操ることができて初めて貴族と認められる。
 それは主に血統に現れるが、ファイナスはその血を濃く受け継ぐ王家の親戚なので後はいかに上手く操れるかがファイナスの価値になる。
 だが天はファイナスを愛し、数百年に一人と言わんばかりの大魔導師の素質を与えたのだった。
 物心つく頃には魔力を操り、精霊や聖獣を従え、成人を迎える頃には賢者の称号を戴く天才となったていた。
 その頃には公爵家と言う生まれの良さといい、少し線が細いものの乙女達が思わずうっとりと溜息をこぼしてしまう美しい顔と光り輝く黄金の髪。
 それに早くに両親を失った悲しみの影は美しさに脆さを醸し出し、男女問わず手を差し伸べたい儚さを纏うようになっていた。

 だけど天才はどんな時でも天才だった。

 悲しみに彩られた瞳を隠すこともできないまま、二年に一度の貴族の認定試験という名目の含まれた御前試合で呆気なく優勝してしまったファイナスは国王より望みの褒賞はないかと問われた。
 地位も金も名誉もその年で全て手に入れてしまったファイナスの願いは死んだ父と母を蘇らせてほしい。
 勿論そんな願いなど無理な事をファイナスが誰よりも知っている。だけど国王より褒賞をいただくまでがこの御前試合。
 何にすべきかと悩んだ所で不意に彼を見つけてしまい

「我が望みはそこな騎士、我が護衛騎士に迎えたく存じます」

 近衛として国王の側の侍ることの許される、騎士として目指す地位の末端に並ぶ男を指名して、オリバーを手に入れたのだった。

 その日を境にファイナスの日々に彩りが取り戻された。我が家の騎士団とも他の使用人達とも仲良く過ごすオリバーに少しもっと主人のそばにいろと嫉妬してしまうが
「オリバーっていつ見てもかっこいいよな」
「さようで」
 傍で紅茶を入れる執事と正面に立つ家令との仕事の合間に見たオリバー達の訓練風景を見て
「ああ、いつ見てもかっこいいな。
 今すぐオリバーに抱かれたい」
「今は仕事のお時間です」
「そもそもいつ告白ができたのでしょう?」
 執事と家令のコンビは俺の恋心を妨害してくる。
「いいんだよ。ヘタレと笑えばいい」
 そうじゃない。
 そろって頭を横に振る二人の胸の内を知る事もなく暫くの間オリバーの訓練風景を眺めるのだった。

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