流星物語

雪那 由多

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星屑物語 58

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 変な事に巻き込まれたくないと言うのが嫌でも理解できて、それは公爵家に対する不敬だろうと思うもオブラートに包んだ祝福は不敬と言う言葉を弾きだしていて、上手すぎる言葉遣いに手助けをしてやりたくても出来ない立場にぐっと拳を握りしめていた。
 だけど風に乗ってきたルードの返答は

「ではお言葉に甘えまして……」

 優先させてもらえて悪いなぁ、と悪意が理解できないのか人の良さそうな顔で取り出した暁のような剣を魔法の杖のように刀身を利き手ではない方に乗せて周囲にも聞こえるように呪文を唱え始めた。
 
『我求るは業火の炎……』

 風が届けてくれた呪文は炎の初級魔法だった。
 炎の三大初級魔法のファイアーボール、ファイアーウォール、そしてこの魔法。
 いくらなんでも公爵家の騎士がそんな初級魔法を使うなんて格を疑われると悲鳴を上げて止めに行こうとするのを職場放棄と見なされると言う様に副隊長が全力で押しとどめてくれた。
 ルードに悪意ある祝福を囁いた男は一瞬俺をちらりと見て笑うのを見て嵌められたと怒りに震えるも

「あ、これダメな奴だ」
「誰だよ、ルードに呪文の使用許可をしたのは……」
「まぁ、一発位は大目に見ないといけないか?
 乱発するようなら逃げるぞ。随分とご立腹のようだからたぶん誰も止められないだろうな……」

 何やら耳を疑うような親子の会話が後ろから聞こえた。
 あまりにも不穏な言葉と人の良さそうな顔にしか見えないのにご立腹とか訳が分からなくルードをじっと見ていれば彼の周囲に異様なまでの魔素が急速に集まって、少しの間を置いてその力を練り上げてから解き放つ言葉を放った。
 
『我阻む敵を焼き尽くせ
 フレアランス!』
 
 ランスを放り投げるように刀身に乗せた魔力を振り払うごとく迫りくる魔物の群れを目指して魔法を解き放った瞬間この近辺を熱風が支配した。
 目を開ける事の出来ない熱と耳をつんざくような空気の悲鳴、突然の魔法の効果に周囲からも悲鳴が上がり、先ほどまでルードの側にいた者達は我先にと逃げ出していたし件の男の様に腰を抜かして逃げられない者もいる。
 ただしヒューリーだけが変わらず後ろに侍っていて、憧れを向ける視線でヴォーグを見つめていた。
 憧れちゃダメだ!
 目の前の景色はそんな眼差しを向けてはいけませんと言うような惨状が広がっていた。
 一面の枯草の草原は一瞬にして灰となり、土煙を上げてやってきた魔物の気配はどこにもなく、暫くして落ち着いた平原には虫の息の魔物が僅かながらもよれよれと逃げ出そうとしていた。
 なにより一瞬で焼き尽くした草原は土がむき出しとなり、赤くただれるように焼け溶けていた……

「フレアランスって、あんな魔法だっけ?」
「ルードがちゃんと呪文を唱えて使えばあんな物だろう。寧ろセーブしてる方じゃね?」
「こうなるとたまには呪文を使わせてどの程度に成長しているかちゃんと理解しないといけないなぁ」
「まったくですね!ちょっと顔を合わせないうちにまた一段と強くなって……
 伯父様もルードを甘やかさなくていいですよ!
 ちゃんと砂漠でストレス発散と言う様に砂漠の魔物を焼き尽くして遊んでるのでしょうからね!」

 いつの間にかアリーが後ろの会話に混ざっていた。
 思わず合わさった視線にアリーは笑う。

「エル様、うちのルードは凄いでしょう?
 普段はもっとふざけた魔法を使ってるけど今日は行儀よく程度を抑えてくれてるわ。変な魔法も一杯知ってるから今度見せてもらうととても勉強になりますよ」

 にこにことまるでこれが普通だと言わんばかりの説明に隣に立つアルバーナ殿下とミシェル殿下を見れば力ない視線を俺に向けて

「まあ、東育ちだとあれが基準になるな」
「張り合おうとする方が間違ってるからその点は嫉妬するのが正解だぞ」

 両殿下に説明されるも

「フレアランスがこのような魔法だとは知りませんでした……」
「エル、ボケるのはほどほどにして置け。
 これはルードだからで幾らなんでもクレヴィングの連中はあんなふうにはならん。普通の良く知るフレアランスだから、あいつが全部だと思うな」
「それにしてもルードはまた成長したのではありませんか?」
「まだまだ成長期だと聞いてるからな。将来が楽しみじゃないか」

 うふふ、はははと笑う背後の夫婦の会話も随分とおかしい。
 反対側にいるサンクール殿も何やら灰になってるが相変わらずこの人は変なのでここは割愛。
 そしていつの間にかグレゴール家の服を纏う二人しかいない目の前の景色もおかしいが、陽炎が立ち上る中を揃ってこちらに来るのが妙に恐ろしく見えて視線をそちらに向けれない俺もおかしい。
 これでは俺は彼に対して怯えてると言ってる物じゃないかと魔導騎士団隊長としてありえないと強張る顔を何とかしてあげようとする間に彼はここに辿り着いて膝を折り頭を下げて

「火力を見誤り大変申し訳ない事に総て殲滅してしまいました」

 よく見れば先程まで虫の息だった魔物もいつの間にか逃げようとする姿がなく倒れていて、そして彼は見当違いな謝罪をするのだった。
 
「一応多少は残しておく気はあったのだな?」
「その為のフレアランスでしたが……お詫びに魔物を呼び寄せましょう。
 そちらは私は参加しないので通年通り楽しんでいただければと思います」
「あなたね!さっきの魔物を集めるのに何日かけたか分かってるの?!」

 どこか壊れたサンクール殿が慌てて詰め寄るもルードはニコリと笑い

「残念ながら得意なのですよ」

 袖を捲っておもむろに手にしていた剣で笑顔のまま自分の腕を切りつけた。


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